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私が決めたこと!

前の第2話の後半の辺りです

(この文章は2015年07月27日には削除します)

 こっちに来てどのくらいの時間がたっただろうか? 太陽は来た時に確認した位置よりもわずかに下に進んでいた。

 残念ながら俺には太陽の位置で時間を測るなんてことはできない。せいぜい朝になったら昇って、正午に真上、夜になったら沈む、このくらいしかわからない。

「あの・・・景虎さん」

「景虎でいいわよ、さっき散々呼び捨てにしてたくせに」

 あ、そういえばそうだった・・・て事は殺す理由をたんまりと・・・。

「そんなに心配しなくていいわよ、本当に殺したりはしないわ。あと言葉遣いが気持ち悪かったから、公の場でなければ砕けた話し方で構わないわ」

 言葉遣いは気にしなくていいらしい。でも気持ち悪かったって・・・。

「それは助かる」

 遠慮なく砕けた喋り方をさせてもらう。

 砕けた話し方を許してくれたということは、多少は俺の評価が上がったということだろう。それに見た感じ機嫌もよさそうだ、ついでに聞きたかったことを聞かせてもらおう。

「そういえば、どうして俺は景虎の草履とりなんかになっているんだ?」

 ちょっと遅くなってしまったが、やはりこれは聞いておかないといけないだろう。

 城下の町の中を歩きながら俺は景虎に問いかける。

「何言ってるのよ、ちゃんと取引したじゃない」

「そりゃ確かに城で働くとなれば衣食住は何とかなるけど、それだったら別に草履とりにする必要はないだろう」

「そうね、あんたの頼みを聞くだけなら草履とりにする必要はないわね」

「だったら・・・」

「でもね、貴久、これは取引なのよ。

 あなたは私が頼みを聞く代わりに何をくれるって言った」

「俺の用意できるもの」

 俺がそう答えると景虎は俺を指差して言い放った。

「そう、だから私はあなたの頼みを聞いた見返りとしてあなたをもらうことにしたの、下僕ならずっと私の傍に置いておけるから都合がいいのよ」

 俺は少しの間呆然としたが理解が追いついたところで慌てて反論した。

「何で俺自身なんだよ! もっと他に何かあるだろ!」

「何かって何よ、こっちに来たばかりで春日山の中で遭難していたあなたに何か用意できるものがあるの」

 言い返せない。

 そうなのだ、俺が召喚された場所はなんと春日山城が建っている春日山の中だった。

 ちょっと開けた場所に出れば春日山城が見えたような場所だ。

「ねえ、他って何よ、何が用意できるのよ。

 私が満足できるものを用意できるなら言ってみなさいよ」

 確かに何も無いけど・・・。

「どうせ何を用意したって満足する気なんてないんだろ」

 何も無いとは言いたくなかったのでとりあえず言い返しておいた。

「なんだ、わかってるじゃない」

 本の景虎の性格から予想しただけだったのに本当にそうだったのかよ。

「まあそこは何言っても無駄だってことは分かっているからいいんだが、何で俺が欲しいんだ?」

 当たってしまったからとりあえず会話を続けていく。

 俺自身は景虎のもとで働くことに不満はないが、疑問はある。

 俺が欲しくて草履取りにすることは分かった。で、そのもとの俺が欲しい理由って何だ?

 俺の言葉を聞いて、景虎は一瞬怒ったような顔をしたが、やっぱり笑みを浮かべて行動を開始した。

 景虎はそのまま近くの茶屋に入っていく。

 俺もとりあえず景虎の後についていく。

「おばちゃん、団子2本ちょうだい」

「あいよ」

 普通に団子を2本注文した。

 俺の質問の回答はどうしたのだろうか、笑顔だったからどうせ俺が困るような回答をしてくるのだろうが。

 そんな俺の考えなどお構いなしに、景虎はたまたまなのかどうかは知らないが俺たち以外に1人も客がいない茶屋の真ん中の席に座ると俺に隣に座れと言ってくる。

 いったい何をさせる気なのか、不安だ。


「はい、団子2本ね」

 団子が来た。

 景虎は一言礼を言って団子を受け取り、さっそく1つの串に3つ刺さっている団子の内の1つを口に入れる。

 そして、回答が提示された。

「はい」

 団子が、景虎が1つ食べた後の串が俺に差し出される。

 あれだ、あ~んってやるやつ。

 いや確かに可愛い女の子にあ~んをやってもらえるのは嬉しいのだが、今まで異性と手をつないだこともない俺にはハードルが高すぎる。

 そんなことを考えながら固まっていると、景虎が聞いてくる。

「最近はこういうことするんじゃないの?」

「誰が」

「好きあってる・・・男と女が」

「どこの情報だ、それに、これは俺の質問とどう関係するんだ?」

 今度は景虎が固まる。

 顔もだんだん赤くなってきた

 好きあってる男と女とか言ったのが今更ながらに恥ずかしくなってきたのだろうか。

 だが冗談じゃない、恥ずかしいのはこっちだ。

 俺を近くに置いておく理由を聞いたら好きあってる男と女がすることをやろうとか言ってきたんだぞ!

 これはつまりそういうことなのか! これは景虎が俺のことを好いてくれていると考えていいのか⁉

「えっと・・・貴久の方では・・・こういうの・・・しないの・・・」

 景虎の顔がますます赤くなっていく。

 自分では好きですと告白してしまって恥ずかしがっていたのに、相手はそれに気づかなくて自分が自爆しただけだと知ったら恥ずかしさは2倍どころではないだろう。

 俺だったら恥ずかしくて逃げ出しているんじゃなかろうか。

 景虎は赤かった顔をさらに赤くして体は小さく震えだしていた。


 そこで俺は自分の過ちに気がついた。

 俺は何変なことを考えているんだろうか、俺が恥ずかしいのなんて女の子に恥ずかしい思いをさせるのに比べたら些細なことじゃないか!

 それに俺は景虎のことが嫌いなのか?

 いや、逆だ、俺は景虎のことが好きだ!

 優しい国を作ろうと言った景虎が。ちょっと不器用だけど、こんな風に気持ちを伝えてくれた景虎が。楽しそうな笑みを浮かべた景虎も、恥ずかしそうに顔を赤く染めた景虎も、全部好きだ。

 なら良いではないか! 本当に好きでいてくれるならそれでよし、嘘でも遊びでも好きな女の子にあ~んをしてもらえるのだからいいに決まってる!

 いけ! 流れだ! 勢いだ!

 そう心の中で自分を鼓舞して俺は景虎が差し出したままの2つの団子を一気に食べた。


 なぜだろう、先の世の味に慣れている俺が、この時代の砂糖を使っていない団子を甘いと感じることなどないはずなのに・・・この団子はやたらと甘く感じた。


「・・・」

「・・・」

 しばらく二人で無言のまま見つめ合う。


 先に口を開いたのは俺だった。

「さっきのが、その・・・俺が欲しい理由なんだよな」

「そ、そうよ」

 顔が熱い、逃げ出したい。

「その、気持ちは嬉しいんだが・・・」

「ちょっと! もしかして断る気じゃないでしょうね!」

 俺が全部言い終わる前に景虎が言葉をかぶせてくる。

「断りたくなんてないさ! 可愛い女の子が気持ちを伝えてくれたんだから!」

「かっかわ!!」

「でも、俺たち出会ってまだ1日経ってないんだぞ、そんな短い時間じゃお互いのこと何もわからないだろ?

 それで本当に景虎のことが好きかどうかなんて俺にはまだわからないよ」

 本の中の景虎さんなら俺は胸を張って好きだといえるが、今目の前にいる長尾景虎と言う一人の人間は嫌いではないが好きかどうかはまだわからない。

 中途半端な気持ちで答えていいことではないし、答えたくはない。

「だから、今すぐには景虎の気持ちには答えられない。

 考えさせてくれないか」

 だが景虎はそんな俺の言葉を聞いて声を荒げて言い返してくる。

「そんなこと別にいいじゃない! 昔の公家なんて、噂しか聞いたことのない相手のことを好きになって泣いてるのよ! それに比べたら私たちは実際に会って話してるじゃない、それで十分じゃない!」

「でも、俺たちはやっぱり互いのことなんて全然わかってない!

 そもそも生きてきた時代が違う、だからこういう価値観の違いだって出てくる!

 それに500年も先の世から突然来たんだぞ! またいつ消えるかもわからない、そんな奴でもいいのかよ!」

「いいの!!」

「っ!」

 景虎は言い切った。ついさっきまで恥ずかしさで真っ赤だった顔は、今は怒りで真っ赤になっている。

「500年も先の世から来たからなによ! いつ消えるかもわからないからなによ! 人なんて突然生まれて突然死ぬものじゃない! 価値観が違うからなによ! あなたが元いた世界がどうだったかなんて知らない、でも、あなたは今ここにいるのよ! ならこっちの価値観で決めなさいよ!」

 景虎は目の端に涙をためながら訴えてくる。


 景虎の本気が伝わってくる。

 俺の反論はつぶされた。

「・・・」

 景虎は黙って俺が応えるのを待ってる。

 もう俺には反論できなかった、だから。

「俺も、好きだよ」

 素直な思いをぶつけた。

「まだ中途半端な気持ちだ、もしかしたら景虎のことを嫌いになるかもしれないし、他の女の子のことを好きになるかもしれない、でも、俺は景虎のことが好きだよ」

 嘘じゃない。

 確かに目の前にいる景虎は本の中の景虎さんとは違う。

 本の設定と違って嫌いな面もたくさん見えてくるだろう。

 それでも好きなものは好きだ。

 必死になって自分の気持ちを伝えてきた景虎が、俺は好きだ。

「じゃ、じゃあ!」

「ああ」

 まだ一生の愛は誓えないけど。

「これから、よろしくお願いします」

「よ、よろしく」

 互いに恥ずかしくて目を見て話せない。

 今はこの目のように合わないことも多い。

 でも、初めて会った時はだめだったけど、今はよろしくしてくれるらしい。

 こんな風にこの先少しづつ、2人で変わっていけたら幸せなのだろうか。

 

「・・・はい」

 唐突に景虎が残っていたもう1本の団子を差し出してくる。

 やはり少し恥ずかしかったが、今度はすぐに食べる。

 そうすると景虎は団子を一度皿に戻して皿を俺に渡してくる。

「今度はあんたがしなさいよ、これは好きあってる男と女がすることなんだから!」

「え! いや、これはやっぱり恥ずかしいからちょっと」

 俺が尻込みしていると。

「いいから! 早くやりなさいよ!」

 景虎はもはや聞きなれた言葉を言ってくる。

「私が決めたんだから!」

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