↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/142

草履とり

前の第2話の前半の辺りです

(この文章は2015年07月27日には削除します)

「私が決めたんだからいいの!」

景虎さんが言う。

「ですからお考え直し下さい!」

 家臣たちが言う。


「どうしてこうなった」

 俺の心の声が口をついて出る。

 待て待て焦るな、焦っていいのはおじゃる〇に出てくる川〇さんだけだ。

 落ち着くんだ、落ち着いてここまでの自分の行動を振り返ってみろ。

 異世界に来る(恐らく『戦国伝奇』の中)→女の子(長尾景虎)に会う→「何かあげるからどっか連れてって」と言う→春日山城に到着→評定開始!

 いや待て焦るな落ち着か落ち着き落ち着く落ち着く落ち着け落ち着け!

 焦った時は活用形を思い浮かべればいい。誰かが言っていた気がする。

 実にくだらない、だがくだらないことを考えたおかげで落ち着けた。


 俺は景虎さんに「衣食とできれば住も何とかなるところに連れてってくれないか」と頼んだ。

 今考えればこの時代のお金なんて持っていないのに何とかなるところなんてあるわけないが景虎さんはすんなりと俺の頼みを聞いてくれた。

 そして着いたのがここ、春日山城だ。

 まあいい、ここまではいい。

 ここなら景虎さんの力で何とでもできるだろう。

 馬小屋の掃除でも何でも俺の要望にはきちんと対応しているだろう。

 評定はどうだ?

 これは良い悪いは関係なく必要なことだろう。

 いくら殿の頼みといえども変な格好をした変な男をいきなり城に勤めさせるのはよろしくない。

 みんなで話し合うのに不思議はない。

「こ奴はどう見ても怪しいです!」

「うっさい! 私が決めたの! もう下僕にするって決めたの!」

「いくら御大将の言うことでもいきなり草履とりはやりすぎです!」

 そう、そこだよ!

 何でいきなり草履とりなんだよ!

 草履とりってあれだよ、秀吉がやってたやつ。

 でも実際は殿の草履を用意するわけだからどこの馬の骨とも知れない輩をいきなり草履とりにできるわけはない。

 敵の刺客とかを草履とりにしようものなら殿を殺してくださいって言ってるようなものだよ。

「何卒、お考え直しください」

 俺を除く下座にいる家臣たちが一斉に頭を下げる。

 景虎さんは家臣たちの必死の説得についに心動かされたのか腕を組んで考えはじめる。


 ほんの数秒して景虎さんは家臣たちの方を見ながら・・・口元に笑みを浮かべた。

 と、ちょうどその時、勢いよく襖を開けて誰かが中に入ってきた。

「お待ちください! 私はそこの御仁を草履とりにすることに賛成です!」

「何を言っているのですか、景綱殿!

 こんなわけわからずの輩を御大将の草履とりになど出来るわけがないでしょう!」

 家臣の一人が慌てて意見する

 それに対して景綱さんは冷静に返した。

「皆さんまた『お考え直しください』とか言ってしまったのでしょう?

 だから、御大将が考え直す前に草履とりにしてしまいましょう」

 景綱さんの物言いから察するに、どうやらこういった無茶な話は割と評定で取り上げられるようだ。


 それにしても景綱さんか、戦国伝奇と同じ姿だからおそらく直江景綱と言う名前だろう。

 直江景綱の甥は兜に愛の文字で有名な直江兼続だ。

 謙信の重心としてかなり活躍しているが、あんまり話題には上らないちょっと影が薄い人だ(俺の主観)。

 それよりもさっきの発言は良いのだろうか?

 あれは主君の目の前で言っていいような言葉ではない気がする。


「景綱、私は別に考え直してもいいのよ」

「いえ、結構です」

 即答した。

 景虎さんは不満そうな顔をしている。

 家臣の皆様の方はさっきの景綱さんの話を聞いてからとても苦い顔をしながらも黙っている。

 俺にもわかったが、あのまま景虎さんの考え直した発言を聞いたら、わざわざ考え直したからこれで決定、とか言って俺をもっと反対されるような役職につけて評定を即終了させるつもりだったのだろう。

 だから景綱さんはこれ以上変なことを言われる前にさっさと草履とりにしてしまおうとしたのだ。

「ま、いいわ。

 とにかく、これでこいつは今日から私の下僕よ、いいわね」


 そういい終わるなり景虎さんは一人評定の間を出ていった。

 そして家臣たちも納得はしていないが仕方ない、とでも言いたげな顔をしながら一番下座にいる俺を一睨みしてから評定の間を出ていく。


 えっと、俺はどうすれば?

 取り敢えず草履とりになったみたいだが草履とりは普段何をしているのだろう。

 そもそも仕事の方も殿の草履を用意する以外に何をしたらいいのか分からない。

 そんな風に俺が途方にくれていると景綱さんが声をかけてきた。

「はじめまして、私は直江景綱です。

 あなたの名前は?」

「俺、じゃない、私の名前は加藤貴久と言います、よろしくお願いします」

「はい、こちらこそ」

 おお、よろしくしてくれるらしい。

 よく分からないが景綱さんは俺が草履とりになることに本当に賛成のようだ。

「あ、私は『俺』でも『私』でも気にしませんから、普段通り自分の言いやすい方で話してくださって構いませんよ」

 や、優しい! ちょっと感動だ。

「さて、どの様にして御大将に気に入られたのかはわかりませんし、やはり身元のはっきりしない方を御大将の草履とりにすることに抵抗はありますが、御大将が大丈夫だとお思いなら私も御大将を信じます」

 すごい、これが忠義の士と言うやつだろうか!

 と、俺が一人感動していると景綱さんが俺の手を握ってきた。

「ですから、裏切ったりしないでくださいね?

 あなたの評定での態度を見て確信しました、一緒に御大将の我儘に振り回されてくださいね」

 輝く程に眩しい笑顔、しかしなぜだろう、その笑顔には苦労とか疲労とかがにじみ出ていた。

 それにしても、誰のどんな態度を見て何を納得したって?

 不吉なことを言われたが聞かなかったことにしよう。

 それよりも景綱さんはやっぱり景虎さんの我儘に振り回されているのか。

 そこは本と同じて安心した、俺が来たことで誰かが消えていて、それが景綱さんだったりしたら俺がその代わりをしなきゃいけなかったかもしれない。


 そこまで考えて俺はふと大事なことを思い出した。

「景綱さん、今は何年ですか?」

 そう、ここは十中八九『戦国伝奇』の世界で間違いない。

 だが俺は今越後にいる、しかも草履とりとして景虎さんと一緒にいることが決まってしまった。

 なら本来、尾張に召喚されるはずだった主人公はどうしたのだろうか?

 主人公が召喚されたのは桶狭間の戦いの少し前だから今は西暦1560年、永禄3年頃だと予想できる。

 これでもし桶狭間の戦いから何年もたっていてすでに景虎さんが主人公とイチャラブした後だったら・・・いかん、ふつふつと殺意が。

「ん? 今は永禄元年ですが、それがどうかしましたか?」

「いや別に、ちょっと思い出せなくて気になっただけですよ」

 うっかりしていた、俺がこの時代の人じゃないことを知っているのは現時点では景虎さん一人だけなんだよな。

 普通の農民とかなら知っていなくてもおかしくないのかもしれないが、さすがに永禄元年、つまり天皇様がお亡くなりになってまだ1年たっていないということだ。

 さすがにそれを知らないのはおかしいだろう。

 まったく自分のうかつさには驚いた、だが今が永禄元年だというのも驚きだ。

 永禄元年ってことは桶狭間の戦いまであと2年もある。

 本では主人公が召喚された後「そして月日は流れ」とかいってすぐに桶狭間の戦いが始まってたけど、実は2年も準備していたのか。

 なんかずるい気がしてきた。


「ところで、ずっと気になっていたのですが、その服はいったい何でできているのですか?」

 来たよ、さっきのうっかりから気をつけなきゃと思っていたのに、まずいと思ったところにまずい質問が。

 この時代にジャージなんてあるわけがない。表面のポリエステルとかなんて反射で光って見えているんじゃないのか? こんな格好でここにいるのは不味すぎるんじゃないのか?

 景虎さん、先に浮かない服を用意してくださいよ。

 うー・・・南蛮渡来の品物とか言えば何とかなるだろうか。

「この服ですか? これはポリ・・・」

「ちょっと、何してるのよ草履とり! さっさと来なさい!」

 おお、救いの手が差し伸べられた!

「あ、すみません景綱さん。景虎さんが呼んでいるので」

「いえいえ、存分に振り回されてきてください。・・・私の分まで」

 あれ、救いの手じゃないっぽい?

「そ、それでは・・・」

 景綱さんは笑顔だった、ただひたすらに笑顔だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。