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刀と双銃の交奏曲  作者: 赤城宗一
第一章   
1/25

異世界 1

初投稿作品です。学生ゆえに、投稿が不定期になるかもしれませんが、せめて「1週間に1話」のペースは維持できるようにしたいと思っています。

どうぞ、よろしくお願いします。

 どこまでも澄みきった青い空に、白っぽく光る太陽が一つ。

 マケスター・エス・セシリアは、揺れる輿から眩しそうに、その青い空を見上げた。

 波打つブロンドの髪に整った顔立ち。女性という視点で見ても小柄な体が、彼女の体がまだ成熟しきったものではないことを示している。

 セシリアの瞳は、見上げた空をそのまま映したような蒼い。しかしその瞳は、空の色ほど澄んではいなかった。

 淀んでいる、と形容してもおかしくないほどに深みを湛えている一対の蒼の底に浮かぶのは悲しみとあきらめ。そしてそれを大きく上回るほどの恐怖。

 セシリアはゆっくりと俯いた。目に入るのは、そろえた膝の上で硬く握られた自分の拳。

 よく見ると、彼女の体は小刻みに震えていた。

 気候のせい、ではない。今は火の月。年間を通して最も空が晴れ渡り、最も気温が高くなる季節だ。

 それでなくても、この辺りはマケス大陸内でも有数の暖かさで有名な地域だ。体を震わせるほどの寒さなど、あるはずがない。

 彼女を震わせているのは恐怖。すべての生物を魂の根源から震わせる、最古にして最大の恐怖。それを抑えきるには、彼女の生きてきた一七年間はあまりにちっぽけなものだった。


「セシリア」


 声と同時に、握った拳がやわらかく声の主の手に包まれて、セシリアはゆっくり顔を上げた。

 目に入ったのは輿によりそうに馬を進める人のシルエット。セシリアはその人物の顔を見て、目を見開いた。


「フィア!?なんでここに!?」


 肩のあたりで切りそろえられたブラウンの髪。その下にのぞく快活な笑顔。

 騎士団仕様の防具を纏い、腰に細身の剣を指している姿は凛々しいが、正真正銘セシリアと同じ一七歳の女の子だ。

 彼女の名前は、マクミリアン・フィアーゼ。ミリシア皇国が大陸中に誇る十二騎士団(トュエル・キャバル)のひとつ、紅蓮隊隊長を務めるマクミリアン・オードの一人娘であり、セシリアとは幼いころからの自他ともに認める親友だ。

 セシリアの記憶に間違いがなければ、この輿を中心に展開して進んでいる集団にいるのは、ミリシア皇国から選びに選び抜かれた武芸者たちのはずだ。

選定基準が非常に厳しいものであったために、人数は三〇人程度と少なめ。しかしその基準を突破しただけあり、全員がそれなりに名の知れた屈強な男たちばかりだ。

フィアーゼも父親のオードに幼いころから武術を習っていて、それなりの力はある。しかし、この集団の面子と肩を並べて戦えるほどの力はない。

実力の足りない者はこの「遠征」のメンバーには入れないはずだ。だとしたらフィアーゼはどのような手段でこの集団に入り込んだのだろう?

セシリアは唖然とした様子で、フィアーゼの顔を見上げた。

フィアーゼはセシリアの疑問に照れたように俯き、


「父上が推薦してくださったんだ」


 と明かした。


「オード卿が?」

「後方にいるセシリアの護衛役、だそうだ。適役はお前しかいないって頼まれたら、断れないじゃないか。父上の強引さにも困ったものだな」


 「断りたかった」と言わんばかりの口調。しかし言葉とは裏腹に瞳から、表情からフィアーゼが護衛役に推薦されるために、オードに対してどれほどの説得を行ったかがセシリアには伝わってきた。

 うれしい、とセシリアは素直に思う。

 自分のことをこれほど心配して、気にかけてくれる友人がいることは嬉しいことだ。

 しかし、フィアーゼがセシリアのことを考えてくれているのと同じように、セシリアもフィアーゼのことを大切な友人として守りたい、と思っているのだ。

 だから――


「フィアーゼ、今すぐ帰りなさい」

「……えっ?」


 できる限り硬質な声で、セシリアは拒絶する。大切な友人だからこそ、これから向かおうとしている死地へとは誘いたくなかった。


「マクミリアン・フィアーゼ。これはミリシア皇国第一皇女マケスター・エス・セシリアとしての正式な命令です。今すぐ城に戻り、本来の騎士としての務めに戻りなさい」


 だからセシリアは生まれて初めて「皇女としての正式な命令」を使う。

 皇国の皇帝の娘として生まれたセシリアは、子に恵まれなかった両親から異常なまでの愛情を注がれた影響か、素直で優しい気質に育った。

 そんな優しい彼女は、本人の意思を無視した「従わなければならない命令」を嫌悪し、自分は使わないと心に誓っていた。

 しかし誓いがどうしたというのだ。何よりも大切な友人の命を救うために使える今なら、この権限を持っていたことをむしろ良かったとさえ思える。


「……セシリア第三皇女殿下」


 しばらく黙ってセシリアを見つめていたフィアーゼは、やがて神妙な声でそう言うと馬から降りた。ゆっくりと片方の膝を折り、頭を深く垂れる。

 服従の姿勢と呼ばれる姿勢だ。騎士が王族と相対するときの、正式な姿勢。

 当然、輿は止まることなく進む。その場でひざまずいたフィアーゼは、輿において行かれる形となっていた。


「このマクミリアン・フィアーゼ。皇女殿下の御命令、謹んで――」


 とおざかっていくフィアーゼを見ながら、セシリアは下唇を噛んだ。

 絶対に使わない、と誓っていた「皇女の命令」。それを初めて使ったのが、最も大切な友人だというのは何とも皮肉な話だ。

その友人の命のためとはいえ、皇女という地にある自分と対等のように接してくれる唯一の友人のあのような姿を見ると、やはり後悔する。

もっと他に方法はなかっただろうか。

しかし、それでも「最悪の事態は回避できた」とセシリアは思った。フィアーゼがこの道の先にある蒼峰山(せいほうざん)に行く必要はない。

いや、フィアーゼだけではない。ここにいる選ばれた武芸者たちも来る必要はないのだ。これはセシリアに与えられた運命なのだから。


(始まりは――)


 セシリアはあの運命の日に思いをはせる。

 すべてが始まった日。すべてが終わった日。

 始まりはそう、白銀の矢。

 ミリシア皇国の皇族が住むラムダール城に落ちた、一本の美しい白銀の矢だった。




 水の月が終わり、よく晴れた日だった。

 その日はセシリアの7歳の誕生日で、セシリアは父と母と一緒に中庭で母の手作りサンドウィッチを食べていた。

 それは唐突だった。

 天が突然真っ暗になった。

 巨大な生き物が王宮の上を通り過ぎ、その結果として中庭にさんさんと降り注ぐ太陽光を遮った、と今のセシリアならわかる。しかし、まだ幼かったセシリアは「もう夜?」などという質問を両親に投げかけていた記憶がある。

 時間にして三秒足らずで空が明けた。太陽は相変わらず輝いているし、中庭の草花は綺麗に咲いて風に揺れている。

 変わったことは二つだけ。

 父と母が、恐怖と驚愕に染まった顔で青い空を見上げていたこと。

 そして、中庭に一本の矢が落ちていたこと。



 白銀の矢は合図と催促。

 古の時代に刻まれた「条約」の発動を知らせるもの。


『昔々、恐ろしい魔王から攻められたミリシア皇国の皇帝は、自分の娘を差し出すことを条件に、蒼峰山に住む竜王ベルセリオンに助けを求めました。

王冠を外し、平身低頭して頼み込む皇帝を見下ろして、ベルセリオンは言いました。

「それだけでは足りぬ。末代まで、我が欲した時には王族の娘を差し出せ」

皇帝は悩みました。でも、その間にも魔王と魔族たちはどんどん攻めてきました。

たくさんの人々が死んでしまいました。

これ以上多くの人々が悲しむことを悲しんだ皇帝はある決意をしました。そしてベルセリオンの言うとおりの条件で「条約」を結ぶと、自分は部屋に閉じこもってしまいました。

ベルセリオンと魔王の戦いは、大地を変動させ天を割るほどに熾烈なものでした。

知性を意味する翠を瞳に宿したベルセリオンと、深淵の象徴である闇を瞳に宿した魔王。

両者は何度も引き分け、何度も何度もぶつかり合いました。

そして5年にわたる戦いの末、遂にベルセリオンは魔王を倒しました。そして、戦いの傷を癒すために蒼峰山にある洞窟に入り、深い眠りにつきました。

その時、城にこもっていたはずの皇帝が現れました。皇帝はベルセリオン眠るこの時を待っていたのです。

皇帝は自らの命と引き換えに、皇帝家に伝わる最大にして最強の結界「サンクチュアリ」を使って、ベルセリオンの眠っている洞窟を封じました。

これでベルセリオンは皇族の娘を食べることができなくなりました。魔王もいなくなったので、人々が魔族の襲撃に怯える心配もなくなりました。

人々は国を救った皇帝にとても感謝しました』


これはミリシア皇国に伝わるおとぎ話。

どんな身分の子供でも、他のおとぎ話と同じようにベッドの中で聞かされる。

そうして子供たちは、恐ろしい魔王の姿やベルセリオンと魔王の激しい戦いを夢で見て、うなされたり胸を躍らせたりするのだ。

しかし、ただ一つ、このおとぎ話は他のおとぎ話と違う点があった。

物語は暗示。迫りくる未来への示唆。

皇族の人間は、この話を事実として教わる。

魔王がいたのも事実。第5代皇帝の時代にその魔王が大量の魔族を引き連れ、ミリシア皇国に攻めてきたのも事実。第5代皇帝が、苦慮の末にベルセリオンと「条約」を結んだのも、また事実だ。

そして、皇族のみに伝わる真実がある。

それは――皇帝ひとりの命程度で抑えきれるほど、ベルセリオンの力は甘くなかったということ……。



束の間に空を覆った影と、中庭にポツンと残されていた白銀の矢。

ベルセリオンの復活を知ったセシリアの両親は、さぞ運命というものを呪っただろう。

――なぜ今なのか。

――なぜ、自分たちの娘がこのような目に合わなければならないのか。

しかし、どれほど理不尽に思えても、人間の思いなどとは無関係に運命の歯車は回るものだ。セシリアに与えられた運命は、竜王の血となり肉となることだった。

皇帝はしかし、運命にあらがうことを選んだ。

自分の大切な、たった一人の娘を失うことが、彼にはベルセリオン以上の脅威に思えたのだろう。

結果として間違っていた、とセシリアは思っている。

皇帝は「十年計画」なるものを打ち立てた。

一〇年をかけて最強の武芸者集団を集め、育てることでベルセリオンに対抗しようという計画だった。

一〇年という月日は、久遠の時を生きるベルセリオンにとっては短い長さ。しかし、腹を空かせた獣を苛立たせるには十分な長さを持っていた。

一〇年の間に、蒼峰山を中心とした半径二〇㎞圏内の村や町が火の海と化した。

3つの都市と27の村が焦土となり、死傷者は数百万人に上るといわれている。

数多くの命を犠牲にしてまで、自分は生きる価値があるのだろうか。

何度も何度も、セシリアは自問した。優しい気質の彼女にとって、そのような形で生き続けることは耐えきれないものだった。

だから、一七歳になった彼女は、いよいよ蒼峰山突撃を命じようとする父に言ったのだ。


「私を、討伐隊に参加させてください」

「何を言い出すんだ、セシリア!?」


 当然、皇帝は拒否した。叱り、宥め、最終的には泣いて懇願した。

 思いつく限りの行為を尽くしてセシリアを止めようとした皇帝に対し、セシリアの覚悟もまた、並大抵のものではなかった。


「私はお父様が承諾してくれない限り、何も食しません!」


 と一方的に宣言すると、その日から本当に何も食べなかったのだ。


「セシリアは見た目と違って頑固だからなあ」


 とは、のちにフィアーゼが言ったセリフだ。

 頑としてセシリアの頼みを受け入れない皇帝と、日々やせ細っていくセシリア。両者の争いに白旗を上げたのは、セシリアの母だった。


「私はもう、あの子があんなに衰えていく姿を見るのは耐えられません」


 涙ながらの妻に泣きつかれた皇帝は「移動中は徒歩ではなく輿に乗ること」「ベルセリオンとの戦いは、絶対に隠れていること」を条件に、仕方なくセシリアの同行を認めた。




 これでよかったのだ、とセシリアは輿の中で思った。

 あの父のことだ。今回の遠征が失敗に終わってもまた次の、さらにまた次の遠征、と回数を重ねていくだろう。

 セシリアは今回の遠征でベルセリオンを倒せるとは、それこそ小指の先ほども考えてはいない。

 遠い昔に大陸を手中におさめかけた魔王と対等以上に渡り合った竜王(バケモノ)相手に、人間がいくら抗ってもかなうはずがない。

 それでも皇帝は、何度でも討伐隊を派遣するだろう。そしてその度に、ミリシア皇国にとって有益な人物が無駄に命を散らしていくだろう。

 それは死の連鎖。ミリシア皇国を滅亡に追いやる連鎖だ。

 ならば、その鎖を断つことこそが、皇族の娘たる自分の使命だ。

 ベルセリオンの望みが自分ならば――それで大切な人たちが救われるのならば、この命を懸ける価値は十分だ。

 無用な血なんか、一滴たりとも流させない。


「だから――」


 蚊の鳴くような声で、セシリアは言う。届かないであろう台詞を遠ざかっていくフィアーゼに向かって言う。


「――あなただけは、生きていてほしいのよ」

「――断る!」


 そんな声が、セシリアの耳に聞こえた。


「……は?」


 間の抜けた声を上げたセシリアの目線の先で、ひざまずいていたフィアーゼがひらりと馬に跨った。そして一気に輿の隣まで追いついてきた。


「いや……え?……は?」


 思考が目の前の光景についてこない。言葉にならない声を発しながら、セシリアは再び自分の真横に戻ってきた親友の顔を見上げた。

 困惑の極みにあるセシリアを見て、馬上のフィアーゼは明るく笑った。


「あはは、なんだセシリア。その鳩につままれたような顔は?」

「……とりあえず、ひとつ聞きたいことがあるんだけど?」

「ん?なんだ?」

「フィアが言いたかったのって、狐につままれた、じゃないの?」

「えっ?……ああ、そうだったそうだった。鳩はどこから出てきたのかなあ?」

「……たぶん、鳩が豆鉄砲を――って、そうじゃなくて!」


 目の前で快活に笑うフィアーゼと、そのフィアーゼに冷静にツッコミを入れていた自分に、セシリアは愕然とした。


「どうしたセシリア?そんな顔して」

「フィアのせいでしょ!?」


 思いの限り叫ぶと、すっと息を吸う。


「なんで戻ってきてるのよ!帰りなさいって命令したでしょ!?」

「ああ、言われたな」

「それで!?」

「まあまあ、そう怒らないで……で言ったじゃん。断るって」


 フィアーゼの言葉に、セシリアは呆然となった。

 確かに聞いたが、それで「はい、そうですか」となるのは非常に違う気がする。だいたい、セシリアが長い間頑なに使わなかった「皇女としての正式な命令」とは、そんなに軽々と断れるものだったのか。だとしたら、セシリアの覚悟はいったいなんだったのだろうか。


「は、はは……」


 虚ろに笑うセシリアを見て、フィアーゼが「笑顔が一番!」と笑う。本当にこれが笑顔に見えるなら、あなたはどうかしている、とセシリアは思った。


「昔っからさあ、苦労してきたよね、あたしたち」


 ひとしきり笑ったフィアーゼが、やがてぽつりと言った。


「だって皇族の一人娘と騎士団長の一人娘だもの。親の立場としては、どっちも男が生まれてきてほしかっただろうに、女が一人しか生まれてこなくてさ。セシリアは周りから女ってだけでどこか低く見られて、あたしは周りがむさ苦しい男ばっかりだったせいで、服選ぶより武器選ぶ方が性に合うような女になって。おかげでこんなに色気のない、ガサツな女に育っちゃってさ」


 自嘲気味に言うフィアーゼ。セシリアは「そんなことはない」と思った。確かに性格はおとなしいとは言えないが、フィアーゼは整った顔立ちをした美人だ。

 貴族院では「オトコ女」などとからかう男子もいたが、そのほとんどが好意の裏返しであったことをセシリアは知っていた。


「でもさあ、セシリア――」


 思っても、セシリアは口を挟まない。フィアーゼが今はセシリアの言葉を望んでいないことが、なんとなく分かっていたからだ。


「――でも、いつだって二人で越えてきた」


 フィアーゼの透き通るように蒼い瞳が、セシリアのそれをとらえる。


「あたしだけじゃ、くじけてた。セシリアがどうかは知らないけど、あたしはセシリアにすっごく助けられた。ひとりじゃ絶対に無理なことも、セシリアと一緒ならきっと乗り越えられるって、あたしは本気で信じられる。それくらい助けられた。だから勝手とは思うけど、今まであたしが助けられた分、今回で全部セシリアに返す。「ついてくるな」?無理。絶対に無理。だってセシリアを見てるとわかるもん。セシリア、死ぬ気だったでしょ?」


 セシリアの肩がビクッと動いた。フィアーゼが深くため息を吐く。


「バレてないとでも思ってたの?その自己犠牲的な思考回路は直した方がいいよ、ホント。言っとくけど、セシリア一人が犠牲になれば全部が丸く収まるとか思ってるなら、あなたはあたしより馬鹿だよ?」


 皇女に向かって、その皇女に仕える存在である騎士が言う台詞ではない。確実に不敬罪に問われ、死刑にされるほどの暴言だ。

 しかしフィアーゼは全く気にせず、大真面目な顔で言う。


「セシリアが死んだら、皇帝陛下は今まで以上に竜を殺そうと必死になるよ?それこそ国を傾かせようとも、ね。あたしもその気持ちはよく分かるし、実際そうなった皇帝陛下を心の底からとめようと思う人はいないと思う。もし止める人がいたとしても、皇帝陛下が素直にそれを聞くとは考えられない」


 フィアーゼは一気に言うと、そこで少し息を吸った。


「いい?セシリア。勝つの。勝って帰るの。それしかあなたには方法がない。もう一回いうよ、それしかない。勝てない、とか無理、とかは今は禁句。竜だろうが王だろうがなんだっていい。叩き潰してやるの。そうしてみんなで、高笑いして帰るのよ」


 二対の蒼い瞳が向かい合う。どちらも譲れないものを抱えて、強い意志を持って向かい合う。

 先にため息をついて折れたのは、セシリアの方だった。


「分かった分かった、分かりました。生きて帰りますよ、これでいい?」

「上出来だよ」


 やけくそ気味に言うセシリアに、フィアーゼはにやりと笑ってうなずく。


「……恨むからね、フィア」

「恨め恨め。こんな友人を持った運命ってやつをね」


 そんなことを言っていると、集団の前の方から「見えたぞ!」という声が聞こえてきた。

 視線を上げると、まだ遠いが山が見える。

 蒼峰山。数多くの草花や多様な生物が住む美しい山。そしてその山頂には、ベルセリオンがいる。

 セシリアの震えは止まらない。怖いものは怖いのだから、仕方がない。

 でも、今は隣にフィアーゼがいる。

 それだけで、本当になんだってできるような、そんな気がした。


「初」記念に、今日はもう一話ほど……

よければお付き合い下さい。

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