エピローグ
ある天才が開発した陣は、まさに魔法とでも呼ぶべき代物だった。
それは、まず、起動時に蓄積されたマナを利用して自身の上空にある雲を散らした。次に、地中にある特定の鉱石を集積すると同時にそれらを用いて自身を中心とした観測塔を構築した。そして、それが十分に育つと共に天体の観測を始め、その星の並びと合致した機能を次から次へと発揮していった。
最初の数年間はただ世界を整えるために――。
地中に連絡路を伸ばして干渉域を広げ。
世界中に子塔を建てて端末を増やし。
無数に枝分かれした支腕から地中の水や大気を吸い。
中心柱に集める過程で毒素を抽出し。
凝縮されたそれらを解析・分解し。
別の支腕から無毒化したそれらを放出した。
それからの数十年間は人々を守るために――。
夜は微かに発光して闇を薄め。
昼は小傘を広げて陰を作り。
春は雨を呼んで様々な植物を育み。
夏は過剰な熱を奪って気温を下げ。
秋は栄養素を吐き出して実りを増やし。
冬は地熱を伝えて温もりを与えた。
それからの数百年間は生命を増やすために――。
時には大規模な嵐を呼び、乾いた大地に潤いを与え。
時には雷を打ち鳴らして森を焼き、新たな種の芽生えを待ち。
時には海を荒らして掻き乱し、未知の者たちを交わらせ。
時には大地を揺らして地を作り、全く異なった場を用意した。
そして、人類が畏れを忘れて傲らないようにと。
時には僅かな脅威を与えた。
小規模単器体命自併用型創造破壊維持属性分解収束吸収留保生成放出系統救界級四次魔法陣『地珠』。
それによって創られた半透明の無機質な巨大樹は、狂ってしまった世界の運行を整え、永劫あらゆる生物を見守ったという。
[おわり]




