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迷ったら月に聞け 6~追憶  作者:
愛するとは
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幸せ

維心との立ち合いは、やはり簡単にあしらわれて勝つことは出来なかった。

そのスピードは他の軍神達の比ではなく、目で追うことが出来たものは少ない。それでも、維心は何度も取れた一本を見逃し、維月を泳がせた末の一本で、観客はその龍王の能力に、今更ながらに感嘆した。維月はむきになって一生懸命予想も出来ないような動きを考えたが、どんな突きも維心には入らなかった。維心が言うにはひやっとしたこともあったとは言うが、いったいどこがそれなのか見当もつかなかった。

観客達は滅多に見ることが出来ない立ち合いに満足し、それぞれの宮へと帰途に着き、蒼も帰る前に維心に挨拶に来た。

「それでは、またしばらく瑞姫をお願い致します。」と、寂しそうな顔をした。「娘が嫁に行くような歳になったのかと思うと、寂しいものですが。」

維月が維心の隣で笑った。

「まあ、蒼ったら…人だったらとっくに孫もいるような歳よ?娘の幸せが一番でしょう。これで良いのよ。」

維心はその言葉に頷いた。

「そうよのう。炎託はよう成長しておる。相手には良いであろうよ。蒼、諦めよ。主とて正妃を迎えねばのう。華鈴は正妃に出来ぬのだから、そろそろ考えよ。」

蒼は慌てて立ち上がった。まさか矛先が自分に向けられるとは思ってもみなかったのだ。

「とにかく、オレは帰ります。あとはよろしくお願いします。」

維心は頷いた。

「任せておくがよい。ではの、蒼。」

蒼は出て行った。


瑞姫は炎託と仲睦まじく過ごしており、とても幸せそうだった。それを見る維月もとても嬉しそうで、維心もホッとしていた。やはり、幸せそうにしているのは、見て居ても良いものだ。

その日の月も昇り、やっと落ち着いた宮の居間で、維心と維月は月を見上げた。離れても、共に居るような感覚で居た、数週間。今共に居ると、やはりこの方が安らぐのだが、それでも離れても心は離れることはないのだと、実感することが出来た出来事だった。維心は言った。

「我らが共に居ると、このように幸せであるのよ…であるのに、我はあの瞬間、主を失のうたかと思うたわ。ほんに冷や冷やさせるのう…。」

維月は笑った。

「もう、維心様ったら。でも、私も今回のことで懲りました。宮でおとなしくしておるほうが、やはりよろしいですわ。それに、あのように何かを賭けて立ち合うなど、二度とごめんです。冷や汗が出ましたもの…こうして維心様に守られて、宮に居るのがどれほど楽なことか。私も歳をとりましたのかしら。」

維心も笑った。

「おお維月、だとしたら我はやっと安心できるの。だが、主はすぐに忘れてふらふらするのよ。これを肝に銘じて、これからはおとなしくしておれ。我の傍に居れば、何も心配は要らぬからの。」

維心は維月に頬を摺り寄せた。ふと思い出して、維月は言った。

「そう言えば維心様、もしかして維心様は、私を誰にも手を付けさせないために、毎日奥の間へお連れになるんですの?」

維心は急に話題が変わったので、驚いて維月を見た。

「なぜにそのようなことを?」

維月は思い出すように目を宙に向けて言った。

「志心様が、おっしゃっていましたの。あの、夜に私がここへ飛んで帰って来てしまった日に、龍王の気が我を食らうので、手出しは出来ぬ、と。」

維心は合点がいったような顔をした。

「おお、あれか。そうよ、我が主に中に残っておる限り、我の力以下の神は誰も主に手出しできぬ。ゆえ、結果誰も主には手出しできぬ。その意味もあるの。」と維月を抱き締めた。「しかし、それだけではないぞ。単に我が我慢出来ぬだけよ。我から離れてはならぬ…のう、維月。」

維心が維月に口づけようとした時、維月は窓の外を見て、あ!と叫んだ。維心は何事かと邪魔をされたことに不機嫌になりながらも、そちらを見た。

炎託と瑞姫が、遠く夜の庭を寄り添ってゆっくり歩いているのが見える。二人はふと立ち止まって、そっと口づけた。そしてじっと月明かりの中、抱き合って佇んでいる。

維月は、なんだか恥ずかしくなった。見ては悪かったかしら…でも、見えたんだもの。

維心がそっと手を上げると、居間の照明が落ち、外からこちらが見えなくなった。維月は維心を見上げた。

「…邪魔をしては悪いしの。」と維心は心持ち声を落として言った。「あれらは始まったばかりであるから。これから、何度こうして二人で過ごすのかの。」

維月は微笑んで、庭の二人に視線を戻した。二人はまた、口づけている。先程よりずっと長い口づけだった。維心が維月の耳元で言った。

「…覗いて居ては悪いのでないか?それに、我も他の者の幸せを見ているだけでは物足りぬ。」

維月は微笑んで、維心に唇を寄せた。維心はそれを受けてから、維月を抱き上げた。

「さあ、我らは我らの幸せを噛みしめようぞ、維月。やっと元へ戻ったのであるから。世話を掛ける奴よ…存分に我をねぎろうてもらわねばならぬわ。」

維心は奥の間へと歩いた。維月はその背後に上る月が、炎託と瑞姫を祝福しているように見えた。十六夜の気配は月にないのに…。

しかし、維心の腕に居ると、その暖かさにそんなことは忘れてしまった。


そして、月の宮と龍の宮は、またいつものように、ゆっくりと、それでも忙しく、時を刻み出したのだった。

ありがとうございました。次の7からはいよいよ大きな変化に向け動き始めます。7の最終章まで、またお付き合いいただけたらと思います。迷ったら月に聞け7~異世界の神http://ncode.syosetu.com/n6507bn/それから、同じく迷ったら月に聞け・外伝~陰の月http://ncode.syosetu.com/n4006bp/が同時に連載開始致します。こちらは6が終わってすぐの時間軸で起こった出来事です。将維がたくさん出て来ます。そちらもよろしくお願いします。

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