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迷ったら月に聞け 6~追憶  作者:
愛するとは
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強い女

将維は十六夜と蒼と少し話した後、維月に相談すべく急ぎ龍の宮へとって返した。維月は寝間着で維心と共に奥から出て来た…父が不機嫌な所を見ると、邪魔をしたらしい。将維はお構い無く頭を下げて椅子に座った。

「…まさかわざとではあるまいな。」

維心は維月に小さく呟く。維月はそれを咎めた。

「まあ、維心様、私が何時でもと申したのです。そのような事はございませぬわ。」

将維は話し始めた。

「やはり、我ではございませなんだ。瑞姫が想うておるのは、炎託でございます。」

二人は共に絶句した。

「炎託?!」

維心は考え込むように顎に触れた。

「…確かにあれは炎嘉の息子。だがそのような様子は欠片も見えぬのに。」

将維は首を振った。

「それが炎託は何もしておらぬのです。実は…」

将維は瑞姫から聞いた事を話した。維心は眉を寄せて聞いている。では…あの図書館で話した後のことだな。維心は思っていた。

「では、要は一目惚れに近い形で瑞姫の方から好きになったのね…。」

維月が言う。維心は頷いた。

「我はその前に、図書館で瑞姫に話し掛けられた。維月、主が我の気持ちは我に聞けと言うたからよ。答えた後、図書館を出て行った…その後だろう。」

「恋愛に憧れていたものね…困ったこと。でも、瑞姫は本当に炎託を想っているようね。やつれるほど悩むなんて…。」

将維は居心地悪かった。他人の恋愛は分からない。特にこんな普通の恋愛は…。維心が将維を見た。

「それで、炎託はどのような様子なのだ。瑞姫のことを聞いたりすることはあるのか。」

将維は首を振った。

「月の宮でのことを話す事はございますが、瑞姫のことは一向に。なので我も思い当たらなかったのです。」

維心は息を付いた。

「…おそらく炎託にとり、それは人助けでしかなかったのであろうな…。困ったことよ。」

維月も困ったように眉を寄せた。瑞姫は瑤姫にも似てとても美しい女性なのに。印象に残らなかったのかしら…やっぱり王族だから、美しい女性は見慣れてしまっているのね。

維月は将維に聞いた。

「ねぇ、炎託の話を聞いていて好みとか分からないかしら?何か言ってなかった?」

将維は突然のことに面食らったが、考えた。好みなどは言っておらなんだが…。

「あまり興味はないようであって」将維は考えながら言った。「…ただ母は大変に美しいかただったと申しておりましたね。華鈴にそっくりだが、もっと儚げだったと。炎嘉様が亡くなられた折、大変に悲しんで里へ帰ろうとしたが、その美しさゆえに炎翔に留められ、自害したと…。」

「まあ…!」

維月は口を押さえて維心に身を寄せた。維心はその肩を抱き、みるみる溢れる維月の涙を拭った。

「…ヤツもつらい思いをしたのだの。しかしその母の面影となると、瑞姫はどう見ても儚げではない…維月に似ておるしの。真逆であるな。」

将維は頷いた。

「我もそのように。ですが、必ずしも母が好みとは限らないと思うのですが…。」

維心はフッと笑った。

「主がそれを申すか。まあ、炎託にその気がないのなら致し方ないであろう。失恋もまた、成長に繋がるのではないか?どう思う、維月。」

維月はため息を付いた。

「確かにそうかもしれませんが、想いも告げないままに終わりだなんて納得の行くものではございませんわ。…と申しても、王族だから、ちょっと付き合ってダメだから別れるとか無理だし…困ったわね、本当に王族は面倒なこと…。」

維心は頷いた。

「そうであるのよ…共に行動するだけでも妃だなんだと言われる環境下で、好きだなんだと言う話になって共にいて、やはり気にくわぬなどという訳には行かぬのだ。なので、王族の男は警戒する…妃に迎えねばならなくなるのでな。炎託はもう自分の宮は滅んで無いが、その感覚は簡単には抜けぬ。間違いなくそのように、幼き頃から教えられて生きておろうぞ。我とてそうであったわ。と言って、瑞姫がここに来てさりげなくという訳にも行かぬしの。王族の女が表に出て来ることはない。不自然だ。」と不思議そうに自分を指す維月を見て言った。「主は特別だと申しておるだろうが、維月。本来なら宮の奥から出てはならんのだ。」

維月はう~んと唸った。せめてお互いにもっと知りあう仲になれば、瑞姫だってもしかして炎託は好みでなかったかもしれないし、炎託から見たら瑞姫は好みだったかもしれないし。でも、サークル活動とかないし、習い事とかもないし、男同士は立ち合いだなんだっていろいろあるのに、男女交流ってないのよねえ…。

維月が悩んで黙ったので、将維は苦笑して立ち上がった。

「今すぐには、いくら母上でも無理でありましょう。また、何かいい案が浮かびましたらお教えください。」

維心も立ち上がった。

「うむ。ご苦労であったな、将維。」

「ごめんなさいね、いろいろと」維月が言った。「早急に考えるようにするわ。」

将維は立ち上がって、自分の対の方へと帰って行った。

維月はまだ考えながら、維心に手を取られて促されるままに奥の間へと戻って行った。


対へたどり着くと、炎託が将維の居間で座っていた。

「おお、将維。」炎託は手を上げた。「待っておったのだ。主、急に立ち合いの途中で父に呼ばれたとか。いったい何事かと思うての。」

将維は苦笑しながら侍女に手伝われながら着替え始めた。

「十六夜と蒼が来ておっての。それで行かねばならなかった。それだけであるのよ。」

炎託はふーんと頷いた。

「月の宮まではるばる参ったのであろう?」

「あれはの、従妹が何やら困っておるようであったので、蒼達と共にの。」と新しい部屋着に着せ替えられて、自分の定位置の椅子へ向かった。「主はあのあと立ち合いはどうであったのだ。」

炎託は笑った。

「おお、義心に勝った。」と片目をつぶった。「あいつも真っ直ぐなのでな、ハッタリは健在であるぞ。だが、そのうちにそんなもの無くても勝って見せるわ。」

将維は笑いながら炎託を見た。一体、どうやって好みなど聞き出せば良いのか…そういう話にも出来ぬではないか。考えて黙っていると、炎託が庭の方を見て、フッと言った。

「…月の宮のように、ここでもあの家庭用ゲーム機とやら使えればよいのに。あのゲームが気になって仕方がないのよ。ハッピーエンドとやらに持って行きたいのだがな。」

将維はハッとした。そうだ、あの言っていたゲームならば我もしたことがある…。

「ここでは電気が無いから無理であるな。気で電気を流し続けながらしなければならなくて、また面倒なのだ。月の宮には発電機があるゆえ、大丈夫だがな。」と何気ない風で聞いた。「それにしてもいろいろな登場人物が出て来るであろう。主は誰が好みであった?」

炎託は目を輝かせた。乗って来たようだ。

「そうよの、妹ではあったが、リリアだ。」炎託はため息をついた。「病弱での、城から出たことも無く、我が持ち帰る花やら土産話やらと楽しげに聞いておったのに。最後はあれほどの勇気を見せて逝きおった。ゆえにの、あれが死ななかったエンディングを見たいのだ。心が重いままであろうが。」

将維はやっぱり、と思って頷いた。

「確かにの。我は強い方が良いゆえ…しかし、リリアも結局は強かったよの。あのように兄の盾になるなど、弱ければ出来ぬ。」

炎託は考え込むような顔をした。

「そうよの、我も驚いたのだが、リリアも良いが…共に戦ったアデリアの方が心に残っておるのよ、驚いたことに。」

将維は驚いた。正反対ではないか。あれはどちらかと言うと、母上だ。なので我はアデリアの方が好みだと言おうと思っていたのだが、まさか炎託からそんな言葉が出るとは。

「我もアデリアだと思っておった…しかしリリアとは正反対ではないか。」

炎託は肩を竦めた。

「そうなのよ。我は絶対に好みではないと最初思うておったのに、気が付けば気になって仕方がなかった…あやつは最後まで我と共に戦ったのよ。時には助けられて助けてな。リリアが絶対に好みのはずだったが、どうもそうではないのかも知れぬなあ。」

将維は心の中で思った。これはもしかしたらまだチャンスがあるかもしれないではないか。

「我は気が強くはっきりしたほうが良いの。でないと何を考えておるのかわからぬ…分かりやすい方がよい。」

炎託は声を立てて笑った。

「主の母はまさにそうよの。しかしなあ…女とは、よくわからぬわ。」

将維はさりげなく聞いてみた。

「…今までに、気になる女が居たことはないのか?」

炎託は真面目に答えた。

「それが無いのよ。」あくまで真剣だ。「そういう気持ちがどんなものか、知らぬのだ。なので、主のほうが男女のことは知っておるのかも知れぬなあ。その辺の女を相手にしたことはあるがな。それだけよ。別に妃ににするような身分でもない、ただの遊び女と遊んだことはあるが、真剣に愛したりなどはないの。」と月を見上げた。「どんなものであるかなあ…。もしかしたら父も、そんな気持ちであったのかもしれぬ。妃はたくさん居たが、愛することは最後までなかったのかもの。我はそんなことはないとは思いたいが。」

将維はその横顔に、炎嘉を見た気がした。父から少し聞いた炎嘉のこと…。母を愛した炎嘉が、すっかり女遊びをしなくなった理由…おそらく炎託の言った通り、本気で愛したことがなかったのかもしれない。

将維は次の日、必ず母にこのことを話しに行こうを思った。


次の日の朝、維月は十六夜に向かって呼びかけた。十六夜はすぐに答えて来た。

《なんだ維月?珍しいな、朝っぱらから。》

《瑞姫のことよ。私、昨日考えたのだけど。》と維月は言った。《炎託ってね、儚げなひとが好みらしいの。でも、私も瑞姫もまったく儚くないでしょう?》

十六夜は笑った。

《そりゃ、ひっくり返ってもお前は儚くねぇ。じゃあ、望みなしだな。そう言えばいいのか?》

維月は慌てて言った。

《違うわよ、かくなる上は、徹底的に強くなってはどうかしら。っていうか、一緒に何かするのって、大切だと思うのよ。》

十六夜は慎重に答えた。

《確かに人の世ではそう言うがな、何をするってんだよ。神世の娯楽なんか限られてるし、男女が完全に別じゃねぇか。》

《それが差別だって言うのよ。》維月は言った。《気が強かったら皆軍神でしょ?女は選べるけど、稀に軍神もいるって聞いたわ。だから、女でも立ち合いの練習してもいいじゃないのかしら。》

十六夜は仰天した。

《立ち合い~?!お前、瑞姫に立ち合いをしろってか!》

維月は拗ねたように答えた。

《あら、出来ないことはないわよ?だってその辺の男よりも気が強いでしょ?私もそうだから、ちょっとやってみようかと思って。一緒なら、瑞姫も恥ずかしくないでしょう。》

十六夜はさらにびっくりした。

《お前もだって?!おいおい、維心が許さねぇぞ!》

維月は見えないが、フンと横を向いた。

《私だって月なのよ。立ち合いだって見えるのよ。きっと出来るもん。やるもん。》

十六夜は困った。こうなると、維月は昔から絶対反対意見など聞かない。仕方なく、十六夜は言った。

《わかった。オレが行くから、それまで待ってろ。先に立ち合いなんかするんじゃねぇぞ。オレが相手してやるから。わかったな?》

《わかった。待ってるね。》

「勝手に何を決めておる」急に横から維心の声が聞こえた。寝ていたはずの維心が、こちらを向いて半身を起こしている。「王妃が立ち合いなど。なんと恐ろしいことを考えるのよ、主は。」

念で話してたのに、聞かれたか、と維月はばつが悪そうに維心を見た。目が覚めて維心が寝ていたので、そのまま横になって十六夜と念で話していたのだ。

「でも維心様、きっとこの方がよろしいの。瑞姫一人にさせる訳にも行きませぬし…女の軍神も居りますでしょう。」と付け足した。「私の母の陽蘭もそうでしょう。甲冑、着てました。」

維心は激しく首を振って維月の両肩を掴んだ。

「怪我でもしたらどうするのだ…いくらエネルギー体とは言うても」と維月の目を見た。「そもそも我が宮の訓練場で戦こうた女の軍神など居らぬわ。維月、思い直すのだ。十六夜も渋っておっただろうが。」

維月は頬を膨らませて維心に背を向けて上布団を頭から被った。

「もうよろしいです。それなら十六夜に迎えに来てもらって月の宮でやって来ますから。」

維心はその布団をはぎ取った。

「維月!我が許さぬと申しておるに!」

「もうよろしいです!維心様にお頼みしませぬ!」

維心は途方に暮れた。維月は言い出したら聞かぬ。だから、十六夜もキツく言わなかったのだろう…こうなるのがわかっていたからだ。

維心はため息を付いて維月をこちらへ向かせた。

「…仕方のない。わかった。一度やってみると良いわ。甲冑が間に合わぬので、どこかから持って来させる。甲冑も無しでは許さぬぞ。わかったな。」

維月はぱあっと表情を明るくさせた。

「まあ!わかりましたわ。甲冑は必ず身に着けまする。」

維月は維心に抱き付いた。維心はまたため息を付いた…なぜに我の妃だけ、このように元気が良いのよ。

維心は諦めて、維月に口付けた。


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