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迷ったら月に聞け 6~追憶  作者:
愛するとは
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将維は驚いた。

月の宮へ行く時に、義心ばかりか炎託や自分まで一緒に来るようにと、連絡があったからだ。月の宮と言うと、維月を愛した場所…。これには将維も眉を寄せた。よく父が許したものよ。我もあの場所へ行って、正気で居られるか自信はないのだが…。

しかし、炎託が隣で言った。

「将維、月の宮だって?我も華鈴に会いたいし、願ってもないことよ。主の母は気の利いておることよ。のう、洪よ。」

洪は頷いた。

「はい、炎託様。しかし、この度は大勢で参ることになりそうでございまするな。将維様と炎託様、義心に、我でございまする。」

将維は目を丸くした。

「主もか、洪。」

洪は頷いた。

「はい。なんでも、王が三日後には参られるとのことですので…我はあちらにて待機でございまする。パソコンが楽しみでありますな。」

洪が嬉しそうなので、炎託は驚いた。

「主、あのような人の世のものが使えるのか。」

洪は頷いた。

「もちろんでございます。得意中の得意でございまして。」と将維を見て、「もちろん将維様も、維月様も使えまする。月の宮のものは皆できまするゆえ…元人や半神が多いですのでね。」

炎託は唸った。

「我も教えてもらうか。将維に出来て我に出来ぬなど、悔しいではないか。」

将維は笑った。

「いくらでも教えてやるがな、はまるでないぞ。」

炎託はフンと横を向いた。

「そのような、人が作ったようなもの。」


…そして、迎えに来た十六夜はあまりにたくさんの連れに驚きながら、維月を抱き上げて言った。

「じゃあ、連れてくからよ。」と回りを見て、「…オレが来なくても、誰かが維月を連れてくりゃよかったんじゃないのか?」

洪が輿に乗せられながら大きく手を振った。

「王妃様を他の龍に抱かせるなど出来ませぬ!どうぞ、十六夜様がお連れくださいますように。」

十六夜は眉を寄せながら、納得できないように頷いて飛び上がった。

「じゃ、行くぞ。」

十六夜に続いて、将維、炎託、義心、洪の輿とそれを運ぶ軍神、と、いつもとはまったく違った月の宮への旅立ちになった。それを見送りながら維心は、既に心配でため息を付いたのだった。

十六夜が先頭を飛びながら、声を潜めて言った。

「…また維心は、大量に連れて行かせたな。まあ人数が多けりゃ心配ないってことか。」

維月は首を振った。

「違うのよ。私が頼んだの。私、きちんと将維の話を聞いてあげていなかったわ…もう何も思ってないのだと勝手に思い込んで。やっぱり定期的に聞いてあげないと…友達の炎託のことも知りたいし。初めての友達なんだもの。」

十六夜は頷いた。

「そうだなあ、オレもそう思う。あいつだって生きてるんだし、仕事ばっかりじゃ気の毒だ。素直でいいやつなのによ。オレも将維は嫌いじゃねぇからな。わかった、今夜は譲ってやるよ。」

維月は慌てて手を振った。

「ちょっと十六夜、そういう意味じゃないわよ。ほんとに話を聞くだけ。私いくらなんでも三人も夫は要らないわ。今もたいがい大変なのに。」

十六夜は笑った。

「なんだそういうことか。大変って、大変なのは維心だろうが。オレはごねたりしねぇよ。どうせ同じなんだから、おとなしい将維にすりゃあいいのに。」

維月は眉を寄せた。

「もう、同じじゃないわ。違うわよ。あの子は私が育てたんだから、やり易いのは当たり前てしょ?維心様も好きであんな境遇でいらしたのではないし、わかって差し上げないと。」

十六夜は口を尖らせた。

「ふ~ん、そんなもんかね。」

月の宮の結界を抜けた。久しぶりの宮が見えて、維月はホッとした。さあ、子達と孫達に会わなきゃ。ここは本当に私の里になってしまったわ…。

維月がそんなことを思っていると、十六夜は宮の出入り口に舞い降りた。他の龍達も次々と舞い降りて来る。蒼が、出入り口で華鈴と共に待っていた。

「母さん!お帰り、久しぶりじゃないか。」

維月は微笑んだ。

「ただいま。あなたも元気そうでよかったわ。」と華鈴を見た。「あなたも、こちらには馴染んでいるようね。」

華鈴は微笑んで頷いた。

「はい、龍王妃様。」

維月は後ろを振り返って炎託を見た。

「こちらへ。」

炎託はためらいながら歩み出た。それを見た華鈴が口を押えて叫んだ。

「お兄様!」

炎託は緊張気味に言った。

「華鈴…久しぶりだな。」

華鈴は涙をはらはらと流した。

「ああ、お兄様…もうお会い出来ぬものだと思っておりました。もう、本当に誰にも…。」

炎託は苦笑した。

「なぜだか我はこうして永らえておる。まだ、身の振り方は決めておらぬが。」

将維が進み出て、蒼に言った。

「偶然にも、この二人は同じ母から生まれておる兄弟であるのよ。ゆえに一緒に育っておってな。」と華鈴を見た。「なんでも華鈴殿は母にそっくりであるそうだ。」

蒼はまだ涙を流している華鈴の肩を抱いて言った。

「そうか…なら、主らの母は大変に美しいかただったのだな。そういえば炎嘉様が前世で、主らの母のことを龍に負けぬ美しい妃と言っておったな。今繋がったわ。」

華鈴は微笑んで蒼を見上げた。

「まあ蒼様…。」

蒼も華鈴と目を合わせて微笑んでいる。炎託は思った。この蒼という月の王は、穏やかで優しく、明るい気がする。この気はこの龍王妃と似ている…元人だと聞いていたが、それゆえか。こんな境遇で、いったいどんな扱いを受けているものかと案じていたが、どうやら華鈴は幸福にしているらしい。

蒼は、皆に向き直った。

「では、中へ。部屋は準備させてある。皆は客用の房を一つずつ空けてあるので、そちらを使うと良い。将維は維心様の対を分けてあるから、そこで。なんか三日後には来られると聞いたけど?」

洪が頷いた。

「はい。ですので政務が滞ると、我を先にこちらへ寄越されました。今回は将維様もこうして来られて、あちらの宮に代理をするものが居ないからでございまする。よろしくお願いいたします。」

蒼は頷いて、歩き出した。

「維心様にはこちらのほうがお世話になっているから。気兼ねなく寛いでくれ。そうそう、主の部屋にもパソコンを入れておいたからな、洪。一日中でも篭っていられるようにとの。」

洪は嬉しそうに笑った。

「これは蒼様、お気遣い頂きまして…。」

一同は侍女に連れられて、それぞれの部屋に入って行った。


月の宮の学校の、図書館にある一角にパソコンがたくさん並んでいて、そこは誰もが使ってもよいことになっていた。洪も何かを調べたい時は、普通ならここへ来て調べている…よく、維心から人の世のことを調べるように言われるのだが、ここで本を見たり、パソコンを使ったりして、洪は必要な情報を仕入れていた。

そこの一つに炎託は座り、将維が後ろに、洪が横について、パソコンを習っていた。やはり神なので習得は早く、もっと何かしたいとかであれば時間が掛かるかもしれないが、大概のことはもう出来ていた。

同じようにならんでパソコンを使っている、付いて来た龍の軍神達は、今日はもうすることもないので非番だった。なので、ゲームをやっている。炎託はそれを横目に言った。

「我もあれがやりたい。何やら楽しそうよ。小さい人の絵が動いて、地図の上を歩いて回って何かを見つけたり戦ったりしておるのよ。」

将維は呆れたように眉を寄せた。

「おいおい炎託、人の作ったようなものとか言っておらなんだか?」

「やはり、人は知恵があるよの。」炎託は言った。「少し戯れてみてもよいの。」

将維は月の宮ならどこにでもある時計を見た。

「…残念だが、母上とお会いするお約束の時間であるぞ。参らねば。」

炎託は洪を見た。そして、またパソコンに目を戻して言った。

「…あ~主、先に行っておいてくれぬか。我もこれが終わったら参る。何、急がずともここにはまだまだ滞在するのよ。我も主の母とは話したいが、これをひと段落せねば行けぬわ。」

洪が将維を見て言った。

「将維様、ここは我がお教えしておきまするので、どうぞお先に。王妃様はお優しいかたでございますので、炎託様がはしゃいでらっしゃることは許してくださいまするでしょう。」

将維はため息を付いた。

「…確かに母上は茶を飲む程度だとおっしゃっておったが…。」

炎託は振り向かない。将維は仕方なく足を戸へ向けた。

「では、次の機会には必ず来るのだぞ、炎託。」

炎託は頷いた。

「次と言わず、お会いしたら話すようにするわ。主は案ずるでない、将維。」

将維は一人、戸を出て行った。

将維の気配が去ると、炎託は心配そうにそちらを振り返った。あちら側に開いた窓から、将維が回廊を抜けて宮の奥へと歩いて行くのが見える。洪が炎託に話し掛けた。

「炎託様…?」

炎託はハッとして、パソコンに向き直った。

「おお、すまぬな。続きをやろうぞ、洪。」

洪は、炎託が将維の気持ちを知っているのではないかと思った。洪こそ、この機会にゆっくりとお二人でお話ししてほしいものと思っていたので、炎託のワガママは渡りに船だった。しかし、炎託も同じように将維のことを思っていたら…?

炎託はまた、画面を見て目を輝かせている。洪は何も言わずに、続きを教えた。


そんなことも知らず、将維は一人、維心の対の奥、いつも維心が休むのとは違う部屋のほうへ戻って行った。そこに、維月が来る事になっていたからだ。相変わらず月の宮は静かで、それが侍女が居らず、呼ばなければ来ないせいだとは知っていた。龍の宮も、そのほうがいいのでは、と最近は将維も思っていた。ずっと次の間に待機していると、息が詰まることもある。ここの方が落ち着くとは、龍でありながら困ったものだと将維は苦笑した。

気配がすると思ったら、戸が開いて侍女も先触れもなくいきなり維月が現れた。これも、月の宮特有のことで、将維は驚いて振り返った。

「母上。」

「将維。」と維月はきょろきょろと回りを見回した。「炎託は?」

将維はすまなさそうに言った。

「パソコンを初めて覚えまして…ゲームをしたいと、そこを離れてくれぬのです。終えたら来るかと思いまするが。」

維月は笑った。

「まあ、神も人のようね。蒼が人の頃、よく部屋に篭ってゲームをしていて、呼んでも来ないことがあったわ…いいのよ、滅多に出来ないことなんだし。いつでも話せるしね。」

将維は頷いて、傍の椅子を指した。維月は頷いて、その椅子に腰掛けた。将維もその前の椅子に腰掛けた。

しばらく、維月は何から話そうかと思案した。いきなり、つらいの?なんて聞けないし、炎託が居ないからそちらに話しを振る訳にも行かないし…。

悩んでいると、将維が小さくため息をついて、立ち上がった。維月は驚いて将維を見た。

「こちらへ。」

将維は立ったまま手を差し出した。維月はおそるおそる手を取った。すると将維は、維月を引き寄せて腕に抱いた。

「将維…。」

維月は俯いた。こんな前と同じ状況で、確かに将維がこうするのも分かるのだけど…でも、今これ以上となったら、本当にズルズルと何度も関係を持つことになってしまう。それは将維のためにもならないし、維心様も心を痛めるし、十六夜…は、多分気にしないだろうけど。でも、良くないと思うなあ…。

「思い出さぬか…あの夜のこと。我は…このまま帰すことなど出来ぬ。」

維月はため息を付いた。

「約したでしょう?これ以上は…あなたが不幸になるだけなのよ。もちろん私はあなたを大切に思っているわ。血は繋がらなくても、子だもの。」と将維を見上げた。「それとも、つらい…?やはりあの夜のことは、後悔しているのでしょう。」

将維は首を振った。

「後悔などしておらぬ。だが、想像以上につらいのは事実。目の前に居るのに、手を出す事も叶わぬ。それがいつまで続くのかも分からぬままに毎日を過ごすのは、本当につらいものよ…せめて、年に一度でもこうして会えるとわかっておったなら、きっと楽になろうものを。」

維月は目を丸くした。

「それは可能よ!だって、里帰りの時に付いてくれば良いのよ。ただ…こうして会うだけよ?これ以上になると、父上もきっと…。」

将維は片手で維月を抱き寄せたまま、片手で維月の顎を持ち上げた。

「そのような…」と唇を寄せた。「約束を違えてしまうかもしれぬ。我はこれ以上我慢出来ぬ…。」

維月は慌てて顔を伏せた。将維は維心様と同じ。火が付いたら消えない…だから唇だって今は触れてはいけない。

維月が身を翻すと、将維はその腕を掴んで引き寄せた。その力にビックリしていると、まるで維心のように軽々と維月を抱き上げた将維が、そのまま奥へと早足で歩いた。

「将維!」

こちらを見た将維の目がほんのり青く光っているのを見た維月は、息を飲んだ。ああ、遅かったか…。

将維に組み敷かれた維月は、諦めながらも、言った。

「将維…十六夜を呼ぶわよ?」

将維は眉を寄せたが、唇を近づけながら言った。

「好きにするがよい。」

維月は目を閉じた。声を上げて大騒ぎになれば、ことは公になってしまう。それに将維の気持ちはわかる。でも、維心様にはどう説明しよう…。

維月は口づけを受けながら、思っていた。

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