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宮を見て回って居間へ戻った維月は、やはり知っている所ばかりなのだとホッとしていた。どこを見ても記憶にあるような場所ばかりで、間違いなく初めて来る所ではない。そして維心も、とても優しかった。王として君臨しているので堂々としていて、それが記憶の中の何かのせいなのかは分からなかったが、とても慕わしかった。共に居ると、とても安心して、とても幸せな気分になる…。

知らないはずのこの神に、維月はそんな感情を持つのを不思議に思っていた。維月がじっと維心を見ていると、維心は困ったように笑った。

「…維月、そのようにじっと見たら、我はどうすれば良いのか分からぬ…どうした?」

居間のいつもの位置に腰掛けながら、維心は言った。維月は慌てて視線をそらした。

「も、申し訳ございません。」

きっと、あまりじっと見るのは失礼なのだわ。維月は困って、その場で心細げに佇んでいる。維心は手を差し出して、維月を呼んだ。

「咎めたのではない。こちらへ来るのだ。」

維月は素直に従って、維心の横に座った。それがとても収まりが良く慣れ親しんだ感じで、維月は落ち着いた。

「維月…我に遠慮は要らぬ。何でも申して良いのだぞ?忘れておるから分からぬだろうが、主は良く無理を申して我を困らせたものよ…しかし、それでも良い。思うたことを申してみよ。」

維月は頷いて、言った。

「私…宮も全て知っている場所のように思いました。維心様のことも…初めてお会いしたと思うのに、最初に見た時に、お会いしたかったと思って、涙が出ましたの。」と、維心の瞳を真っ直ぐに見た。「それに維心様は、こんなにご立派なかたなのに、どうして私などをお選びになられたのですか?珍しいから?」

維心は目を丸くした。確かに、これは維月だ。ハッキリとした物言い、真っ直ぐな性格。わからないから、わからないと問うておるのだろう。維心は答えた。

「維月、主は忘れておるかもしれぬが、我らにはいろいろなことがあった。我と主はの、心を繋いでお互いの過去も知り、生い立ちも知った。我は主を愛してしもうた…十六夜がおるにも関わらずの。その気も、性質も、全てを愛しておるぞ。」

維月は驚いたように目を丸くしたが、次の瞬間眉を寄せた。

「…でも、私はあまり褒められた生き方をして来なかったし。」

記憶のあった頃の維月と同じことを言った。維心は思わず吹き出した。

「すまぬ。主は変わらぬの。記憶がないだけで、やはり同じぞ。維月、心を繋いだと申したであろう?全て知っておるわ。」

維月は少し黙ったかと思うと、いきなり真っ赤になった。それって、記憶全部ってことよね。十六夜とも繋いだから知っている。私、このかたにあんな恥ずかしいいろいろを、知られているの?!

そう思うと恥ずかしくて、維月は下を向いて涙ぐんだ。維心はそんな維月を見て、驚いて肩を抱いた。

「維月?どうしたのだ。我は何か気に障ることを申したのか?」

維月は首を振った。維心様には知られたくなかったのに。もっと真っ当に生きてたら良かった。

「私…お恥ずかしいです…。」

維心は苦笑した。確かに最初に心を繋いだ時は、命の危機に晒されていたので、恥ずかしいだの考える暇はなかった。しかし今は、そんなことはないので全て知られるのは恥ずかしいのだろう。まして初対面の者に知られているとあっては…。

「維月よ、もう50年以上もそうして来たのだぞ?それでも我は主を愛しておるのだ。安心せよ。主の潔い生き方は良いと思っておるゆえ。我だって、良い生き方はしておらぬ。主はそれを知っておったが、我の傍に居てくれておったのだから。」

維月は顔を上げた。

「維心様も…?」

維心は頷いた。

「そうよ。我は1800年生きておる。主よりはるかに多く記憶はあったからの。こんな世に生きて来たのだから、褒められたものではないぞ。」と、少し緊張気味に、付け足した。「…今から、それを見てみるか?」

維月はじっと維心を見上げている。維心は期待して待った。維月が我を、受け入れてくれるなら…。

「はい。」維月は頷いた。「私のことは知っていらっしゃるのですもの。私も知りとうございます。」

維心は満面の笑みを浮かべた。維月はそれを見て、胸が高鳴るのを感じた…なんてこのかたは魅力的なのかしら。それなのに、どうして私を愛してるとおっしゃるのかしら。それが本当なのか、知りたい。そして、本当ならなぜなのか知りたい…。

維月はためらいもなく、維心の頬を両手で挟むと、維心に口付けた。心を繋ぐって、こうするはず。

「ん!」

維心は突然だったので驚いた。この維月は、自分の知っている維月よりもっと行動的で無駄のない、真っ直ぐな維月なのだと、その時思った。まだ闇と、たった一人で戦っていた頃の維月なのだ。小さな子達を守るため、必要ならためらっている時間も無く行動した維月…。

維心はただ愛おしくて、心を繋ぐのも忘れて口付けた。しばらくして、維月が唇を離した。少し驚いたような顔をしている。

「まあ、維心様…私、なんだかずっとこうしていたような気が致しますわ。」

維心は微笑した。

「さもあろう。我らはしょっちゅうこうしておったからの。」

「結婚50年以上なのに?」維月はびっくりしたようだ。「そうよね、お子がまだ…。」

維心はさらに唇を寄せた。

「さあ、もっと思い出すかもしれぬゆえ。」

維月は頷いたが、ふと眉を寄せた。

「ですが心を繋ぐのは…。」

維心はフッと笑った。

「良い。それは我からするゆえの。」

唇が触れ、維月は黙った。維心はしばらくまた口付けた後、心を繋いで維月の記憶を探った。

その記憶は、やはり見た通りのものだった。だが、さらに短く、記憶の中の蒼はまだ小さいままで止まっていた。他の記憶は、とても深い所にバラバラになっていて、それを繋ぐのは維心にも無理だった。今の維月の心には、ここへ十六夜に連れて来られた時からの自分しか居なかったが、その維月が自分を好ましく思っているのを知って、維心は嬉しかった。ほのかな新しい愛情が生まれていて、それに酔いしれていると、急にその愛情が、大きく跳ね上がるのを感じて、維心は驚いて思わず身を退いた…どうしたのだろう。維月が我に、確固たる愛情を感じ始めた…。

唇を離して維月を見ると、維月は涙を流して維心を見上げていた。記憶は戻っていないはずなのに。

「維月…?どうしたのだ。」

維月は泣きながら言った。

「維心様…私は、早く思い出しとうございます。」

話し方が、少し前の維月に戻っている。維心は維月の顔をのぞき込んだ。

「何か思い出したのか?」

維月は首を振った。

「思い出せないのです。維心様があれほどに私を愛して来てくださったのに、忘れないとお約束しましたのに…。」と左手を見た。「私はここに、何を探したのか分かりました。」

維月は維心の左手の、小指に光る指輪に触れた。維月は、我の記憶を見て、どう過ごして来たのか知ったのに、思い出せないと憂いているのだ。維心はその指輪を抜いた。

「…良い。ゆっくり思い出せば良いのよ。」と、維月の左手を取った。「さあ、もう一度これを受けてくれるか?」

維月は頷いて、指輪が薬指に挿されるのを見守った。それはぴったりと指に馴染み、ずっとそうして居たのを感じる。維月はその指輪を抱き締めた。

「私はなぜ維心様を愛していたのか分かりましたわ。全てを見て、今記憶もないのに、私は維心様を愛し始めております…私、こんなに簡単に好きになったりしないのに。」

維心は嬉しそうに微笑んだ。

「我もそうであったからの。策謀の術に掛かった折り、我など、記憶もないのに主を一目で愛してしもうたわ。」と維月に身を寄せた。「運命であろうの。我らはいつなり、互いに惹かれ合うのだ。愛しておると申したこと、今は信じておるの?」

維月は笑って頷いた。

「はい。私も…愛しておりますわ…。」

維心は維月を抱き締めて口付けた。維月の愛情を感じる。それは新しいものだったが、忘れたなら、何度でもまた愛し直せばよいと、維心は思った…何度出逢い直しても、我らは惹かれ合うのだから。


そうやってお互いに過ごして、維月は宮にある露天風呂に浸かり、そこに毎日浸かっていたのをふと、思い出した。ここでこうして月を見上げて、十六夜を思い出したりもしたっけ。早く、この断片的な記憶が繋がって、全て元通りになれたら…。維月はそう思った。

維心は、とても不幸な生い立ちを背負って長い時を生きて来た神だった。記憶の中の維心は、維月を本当に心から愛して、そして、癒され、真実幸福だと思ってくれていた。時にとてもわがままな維月の言葉を、困りながらも叶えようと一生懸命で、どれほどに想ってくれていたのか身に染みてわかった…どうしても、思い出したい。維心様のためにも…。

維月は思って、露天風呂を後にした。

脱衣場から出ると、維心がそこで待っていた。維月をみとめると微笑んだ。

「維月…どうであった?主は風呂が好きであったの。」

維月も微笑み返した。

「はい、維心様。とても良かったですわ。」とふと思い出した。「…ここは私が申して維心様が作ってくださった場所でございますのね。それに常は共に…」

維月は言葉を切った。そうだった。他に用のない時は、一緒に入っていたっけ。いくつかの記憶のパーツが組み合わさって思い出され、維月は頬を染めた。私は、このかたと…。

維心は微笑した。

「そうよの。しかし主が驚いてはならぬと思うて、今日は別にしたのよ。」と、手を取った。「次からは、共に入ろうぞ。」

維月は頷きながら、恥ずかしくて下を向いた。それは維心様は慣れていらっしゃるだろうけど、私は、まだ体を合わせた記憶が戻っていないのに…。

そして、部屋が近付いて来るにつれて、維月は思い当たった。そういえば、今夜はどうするのだろう。何の心の備えもしていなかった…私達は、子を6人もなした夫婦なのだ。しかも結婚50年以上の…。

急に胸がドキドキとし始めて、維月は維心を見上げた。維心はそれに気付いて、問い掛けるような視線を向けて来る。居間の戸を開けて入り、維月は思いきって聞いた。

「あの…維心様、私達は、夜は、その、共に過ごしておりましたか…?」

維心はその意味を悟ってフッと笑った。

「我らはずっと共であったぞ。毎日共に過ごしておった。結婚以来、離れて過ごしたのは里帰りを除いて4日間のみよ。」

維月は驚いた。維心がそれを正確に覚えていたからだ。そして、逆に感心した…徹底して仲が良かったのだわ。覚えていないけど…。

でも、確かに愛情を感じるとはいえ、不安だった。自分は何か変わっているかもしれない。今の私から10年以上後に出逢って、愛し合ったのだもの…何か別の私だったならどうしよう。十六夜の時はそんなこと考えもしなかったのに。維心様相手だと、緊張してしまう。

維心は維月の表情を見て、苦笑して抱き寄せた。

「…良いのだ。気が進まぬなら、我は幾日でも待つゆえに。」と、維月の顔をのぞき込んだ。「だが、共に休むだけなら良いであろう?それも落ち着かぬか…?」

維月は、心配そうなその深い青い瞳に、吸い込まれそうだった。こんなに気遣わせて。王であられる、このかたに…。

維月は、維心に抱きついて目を閉じた。

「私は、大丈夫でございます。維心様…お連れくださいませ。」

維心は抱き上げて奥の間へ歩きながら、耳元に問うた。

「それは今夜…良いということか?」

維月は死ぬかと思うほどドキドキしながら頷いた。エネルギー体で心臓とか関係ないはずなのに。維心様には、とてもドキドキする…。

維心はパアッと明るく微笑むと、維月を寝台へ降ろして袿を脱いだ。

「維月…主にとっては初めてであるの。案ずることはない…我はわかっておるゆえ…。」

維月は緊張してかちこちに固まっていたが、維心に口付けられると、何かが記憶の底からわき上がって来て、それが当然のことのように馴染み、心の底から安心して維心に身を委ねたのだった。

自分は維心に恋をしている…。維月はそう感じた。

こちらの夜の様子は、ムーンライトに4/25午前0時アップします。ご興味のある方はどうぞ~(R-18です)

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