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焦燥の中

炎嘉は立って巻物をまとめて宙に浮かべ、眉間に皺を寄せて目を閉じ、手を翳した。炎嘉から出た光は巻物を包み、しばらくして炎嘉は目を開けた。巻物から光が消え、どさりと床に落ちる。

「…ああ~まったくもう!何度読み取ればいいのだ、これも違う!」

炎嘉は手を振って巻物を脇へ吹き飛ばすと、次の山を指し、また目の前に宙へ浮かべて持って来た。箔炎は同じように横で、こちらは座って巻物をまとめて読んでいた。

「こら、炎嘉!乱雑に扱うでない。あの中には使えるものもあるであろうし、後々のために残しておかねば。」

炎嘉は自分のこめかみを指でとんとんと突いた。

「もう全部ここへ入っておるわ。あんなものもうどうでも良い。それより、維月を助ける術が見つからぬ。」

また巻物が光りに包まれた。そしてしばらくして、またその巻物は光を失った。炎嘉は鼻を鳴らした。

「次!」

箔炎がため息をついて自分のほうの巻物に集中していると、定が入って来て頭を下げた。

「王、龍の宮の動きをご報告いたしまする。」

「申せ。」

箔炎は巻物から注意を離さず言った。定は頷いて頭を上げた。

「月はついに全力を掛けて二人をつなぎ止めようとし始めました。地の碧黎と陽蘭が月の様子を見て、手の打ちようがないと判断、このままでは月から切り離すのも時間の問題とのこと。」

箔炎は片目を開けた。

「…維心はどうしておる?」

「は、龍王は炎託ら五人の記憶を取り、それを一気に読んで居る所。義心殿は軍神達と虎の宮跡西の砦墓所へ飛び、墓を暴いておりまする。」

炎嘉は眉を寄せた。

「なんで墓など。」

箔炎が答えた。

「律と真の持ち物を確かめるつもりであろうよ。確かにあやつらの持っておった短剣が、炎託らが持っておった短剣と同じであれば、持っておる可能性はあるの。急がねば、地が月と維月を月から切り離してしまうぞ。悠長なことをしておる暇はないわ。」

鷹の宮の天井が振動した。一同は一斉に天井を見た。

「…確かに、時間はないの。急がねば!」

炎嘉はさらに次の巻物集団を持ち上げて光りを当てた。


龍の軍神達は、激しく渦巻く気の中、虎の墓所を開けていた。

律と真は彼らが埋葬したので、どこに埋めたかは覚えている。墓所の扉を抜けて歩き、義心は床にある戸を示した。

「奥から二番目と三番目の戸を開けよ。」

軍神達は戸に両側より手を掛け、観音開きにまず一つ開いた。そこには、甲冑を身に着けた、律であった亡骸が横たわっていた。義心はその懐に手を掛け、巻物を探した。他の軍神達は隣の戸も同じように開き、真の体も探している。義心は一通り見たが、律が何も持っていないのを確認して落胆した。

「…眠りの邪魔をし申したの、律殿。」

義心はそう言って、また戸を閉じた。隣りで、別の軍神が叫んだ。

「義心様!これを!」

義心は、その軍神の手にある巻物を見た。これは術の巻物では…!義心はそれを受け取りながら、指示した。

「他にも何か持っておらぬか調べよ。」

軍神は頭を下げて、真の甲冑の中を調べている。義心は巻物の紐を解いた。…確かに、これだ。軍神が言った。

「他には何もございませぬ、義心様。」

義心は頷いて、戸を閉めるように合図した。

「真、感謝するぞ。」

戸は閉められ、義心は軍神達と、低空を急いで飛んで龍の宮を目指した。


龍の宮では、維心が、記憶を読み取り終わった所であった。義心は膝を付いて維心に巻物を渡した。

「王、これが真の懐より、出て参りましてございます。」

維心はすぐにそれを受け取って、目を閉じて巻物に念を飛ばした。一気に中を読み取るには、これが一番早いのだ。

「…確かに短剣を作り出す方法だ」維心は中身を確認しながら言った。「…だが、解き方は記しておらぬ。これは解けぬと書いてある…どうしても解く場合は、全ての術に対する方法その三を使えと書いてある。」と眉をひそめた。「その三だと?それはどの巻物に記されておるのだ!」

義心はうなだれた。これも駄目か。では、その記された巻物を探すよりない。やはり、炎嘉殿や箔炎殿に望みを託すよりないのか。

維心は歯ぎしりした。

「…とにかく、あやつらの策謀の全容はわかった。確かに術の解き方は知らぬ。別働隊が何をしておったのかもわかった…箔炎も踊らされておったわ。あれらの対応は、術を解いてからでも良い。我も巻物を読みに参る…一刻も早く探し出さねば、これらが切り離される。」

維心は二人を見た。顔色は変わらないが、やはり十六夜から維月に向かって気が流れ込んでいるのは変わりない。しかし、その十六夜の気も、少しずつ減って来ていた。時間がない。維心は維月の指に、自分の小指から結婚指輪を抜き取って差した。

「維月…待っておれ。絶対に方法を見つけるゆえ。」

維心は鷹の宮へ行こうと立ち上がった。

そこへ、月の宮から念が飛んで来たのだった。


その少し前、月の宮では、蒼が月を見上げていた。

月の結界がなくなり、今宮は丸裸の状態だ。だが、この気の乱れで宮に何かしようという輩は現れていなかった。蒼は月の宮の結界内に住む全ての神、半神、人達を、コロシアムに集めた。一か所に居た方が、何かあった時に守りやすいからだ。軍神達はその回りを固め、何かあった時に備えている。蒼は領嘉に命じて、手にある巻物全てを宮へ持って来させていた。

「…違う。」蒼は言って、巻物を横へ置いた。「こんなことをしていても埒があかない。何か、それに繋がる章名とかないのか。」

領嘉は首を振った。

「そもそも章名自体が無いものもありまする。それにここにあるものは、虎や鳥の目に触れたことのないもの。この中に、短剣の術を解く方法がある可能性は低いでしょう。」

離していると心配なので、傍に置いている華鈴が娘を抱きながら、不安そうに蒼を見ている。そんな華鈴を、紫月が勇気づけるようにして肩を抱いていた。蒼はため息をついた。

「それでも我らに出来ることは、これぐらいしかない。とにかく全部確認できるように努めよう。」

領嘉は頷いて、また巻物に集中した。蒼はふと、手を止めた。

「これ…短剣の術には使えないか?それとも、あれは特殊な術なのか…。」

領嘉は蒼の見ている巻物を覗き込んだ。

「いや基本、術は全て似たようなものです。仙術はひとつのジャンルですから…一塊と思って下さったらいい。人の世で言うと、そうですね、神の力がブルーレイなら仙術はVHSビデオみたいな。ローカルなんですけど、神からは理解できないのです…ブルーレイプレーヤーでVHSは再生出来ないでしょう。何かに繋げば理解可能…その役割がこの巻物です。」

蒼は少しだけ理解した。

「とにかくこの方法って、どの仙術にも共通のこととして書いてあるんだよ。例えば一番多いのが、このその一の適用。術者が死ねば解けるっていうの。」

領嘉は首を振った。

「それは無いですね。短剣の一つの持ち主だった律と真は死んでいる。それでも、こうして術は発動しているのですから。」

「じゃあその二はどうだ?」と蒼は指した。「術に使った道具の浄化。」

領嘉はふむふむと頷いた。

「それはこの巻物の術を解くのに使えと書いてありますね。ええっと、『…この術を解く方法はない。どうしても解きたい時は、全ての術に対する解き方その二を使うこと。ただし、術者が死んでいる場合に限る。』」

蒼は感心した。

「じゃあこれは、全てに対するマニュアルみたいなもんじゃないか。結構重要な巻物だよ。維心様に知らせよう。」

領嘉は顔をしかめた。

「王、しかしあちらに短剣の巻物が無ければ、これはどれを使えば良いかわかりませぬ。良く見ると、その方法はその二十三まである…全部試している暇などありませんよ。」

蒼は立ち上がった。

「それでもだ。」と目を閉じた。とにかく念で知らせなければ。《維心様、参考になるかわかりませんが、全てに対する説明書のような巻物を見つけました。必要でしょうか?》


維心は出て行きかけた足を、ハタと止めた。蒼は月の力をかなり失っているので、念の声は雑音の混じったものになっていたが、聞き取れた。維心は月の宮へ向けて、念を飛ばした。

《…蒼、それには、全ての術に対する解き方という項目は無いか?》

蒼は驚いたように答えた。

《ございます。知っておられるんですか?》

維心は慌てた。

《蒼、その三を読んでくれ!早く!》

維心の念を聞き取った蒼は、慌てて巻物に目を落とした。そして、声に出して読んだ。

「その三、道具を焼き、完全に焼失させ、昇華させる。その際術者は既に死んでいなければならない。生きて居て、後で死しても術は解けない。」

維心は、それを龍の宮で聞いていた。十六夜はどっちの短剣で刺されたのだった…維月は?律と真は既にこの世にない。片方は焼失させれば済む。だがもう片方の術者は…。

「義心!」維心は叫んだ。「長明を探せ!今すぐに!あの短剣に術を掛けたのは奴よ…すぐに仕留めねばならぬ!我が気を全開にしようぞ。」

維心は大きく息を吸ったかと思うと、一気に四方へ広がる光の膜を広げた。それは広範囲に渡って探索の気を広げ、そして夜の地上を明るく照らした。

「行け!奴は北東ぞ…月の宮近くにおる!結界が消失しておるため、潜むつもりでおる…姿は、おそらく女ぞ!」

義心はすぐに飛び立った。念で呼び出した軍神達が義心に付いて北東へ飛んで行く。維心はそれを見守った。

《蒼、大儀ぞ!だが、残党がそちらの宮の傍近くに潜んでおる…心せよ!義心が討ち取りに参った!》

蒼の警戒した念が帰って来た。

《ありがとうございます!こちらも防御に努めます!》

維心は広がった自分の気を保つように努めた。明るければそれだけ見つけるのも早くなる。まして義心は長明と顔見知り…気の色も知っている。探し出すのはたやすいはず。

ますます力を込める月と、気を失いつつある十六夜、そして既に気を読みとりづらいほどに亡くして来ている維月…。枕元には、それを今すぐにでも切り離してしまいそうな碧黎と、ただその碧黎にすがって涙している陽蘭。

維心は、先程記憶を読み取って知ったばかりのこの出来事の全容を思い浮かべていた。


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