光姫と恵元
「光姫様!見てはいけません」
「いや、やめて、お願い」
「光姫様!」
目の前で従者であり、大切な人でもある恵元の首が落とされた。
その瞬間、光は正気を失い、願いそうになった。
『光姫様。何があっても龍を解き放ってはなりません。約束してください』
最後に彼と交わした言葉はそれだった。
光は彼との約束を守り、沈黙した。
龍護国は小国であり豊かな資源もなかった。
龍が宿る宝珠があると言っても、実際に龍を見た者はいない。
言い伝えとしか思われなかった。
けれども、言い伝えを信じ、龍が宿る宝珠の主の光姫の元には多くの縁談が持ち込まれた。
彼女の美貌も影響したかもしれない。
強国と結びつき、国を豊かにするため、父である王はよい嫁ぎ先を求めた。
しかし頑固な彼女は国を出ることを望まなかった。
恵元と共に生きることを願った。
そこで王は恵元の処分を決めた。彼がいなくなれば、彼女が心変わりすると思い込んだのだ。
ところが、それは彼女の生きる意志を奪った。
首を落とされた彼の姿を見ながら、光姫は自身を呪った。
そして恵元へ心の底から詫びた。
恵元は従者であり、小さい時から兄のように傍にいた。
けれども彼は決して彼女を「女」として見ることはなかったのだ。
己の邪な想いが恵元に死を与えた。
それは彼女に深い傷を負わせ、自身の存在を否定した。
ごめんなさい。恵元。
彼女の最後の言葉はそれだった。
☆
百年後、光姫が嫁ぐはずだったファイデリア王国で、宝珠が光を取り戻す。
「おお、これは龍が宿る宝珠の主が復活されたのだ」
ファイデリア王国では、龍が宿る宝珠の主の存在を探し始めた。
手がかりになるのは、光姫の肖像画だ。
龍護国の記録から宝珠の主は女性であった。
光姫の実家である龍護国は既に世界には存在していない。
光姫が自死を遂げたことで、ファイデリア王国が怒り、宝珠を奪うため戦を仕掛けた。
小国である龍護国はひとたまりもなかった。
龍護国の宝珠と王族を奪ったファイデリア王国は、光姫がいなくてもその力を使うことができると考えていた。
しかし、宝珠が光を取り戻すことはなかった。
龍護国の王族は殺され、宝珠はファイデリア王国の地下に保管された。
それから百年後、宝珠は再び光を取り戻したのだ。
龍護国の王族は滅んでいる。
けれども民衆に紛れて、子孫を残している者がいるかもしれない。
ファイデリア王国は光姫に連なるものを探した。
「エルヴェ。俺は絶対に宝珠の主を探し出すぞ。龍を操ることができるのだ。ファイデリア王国を世界最強の国にできるに違いない」
王太子で、エルヴェの異母兄であるモリスは二十五歳。
血気盛んな王太子であった。
対するエルヴェはまだ八歳。
現王妃の子であり、大人しく覇気のない子どもであった。
兄弟仲はよく、モリスはエルヴェを可愛がった。
八歳の彼は二十五歳のモリスの子であってもおかしくないくらいだった。
現に王妃はモリスより一つ年下の二十四歳である。
「龍なんて本当にいるのでしょうか?」
「いるだろう。伝承にも載ってるし、カフィンもそう言っている」
カフィンというのは、王太子モリスの契約する精霊だ。
精霊使いを呼ばれるものは精霊に名を与え、使役することができる。
精霊力が高いものであればあるほど、力のある精霊を契約することができる。
精霊がいれば、属性である力を使えるのだ。
ちなみにカフィンは風の精霊であるので、モリスは風の力が使える。
「そうですか」
「お前の精霊、たしかアルファはそんなこと言わないか?」
「聞いてみます」
「そうだな。聞いてみろ」
モリスは微笑むと弟のエルヴェの頭を撫でた。
『アルファ』
モリスがさった後、エルヴェは頭の中でアルファに呼びかける。
『お呼びですか?』
『ああ。引き続き兄上を見ていてくれ。もし宝珠の主のあたりを付けていたら、すぐに僕に知らせてくれ」
『承知いたしました』
アルファの声が返ってきて、エルヴァは胸を撫でおろす。
そのしぐさはとても八歳とは思えぬ、大人びたものだった。
ファイデリア王国の王子エルヴァ、彼の前世は恵元であり、宝珠が光を取り戻した後、記憶を取り戻した。
八歳の彼にはとても辛いもので、耐えがたき記憶だった。
けれども彼は耐えきり、今現在、宝珠の主である光姫の行方を捜す兄の邪魔をしようとしていた。
自身が生まれ変わっているのだから、光姫も生まれ変わっている。
彼はそう信じていた。
宝珠の主である彼女は苦しんでいた。
今度は宝珠とは関係のない幸せな人生を送ってほしいと彼は願っていた。
☆
「これは、なんてこと」
カルテシア家の三男であるノーランは、生まれた直後から精霊に恐れられていた。
嫌われていたと言っても過言ではなかった。
精霊を使ってノーランは運ばせたり、世話をさせようとするのだが、精霊はまったく言う事をきかなかった。
叱咤しても怯えたり、逆に怒るだけで、彼の世話を焼きたがらなかった。
精霊を使いなれた人々は自分の手を使うことは面倒だと嫌う。
したがって、ノーランの世話は使用人にまかせっきりになっていく。
精霊に怖がれ、嫌われ、彼たちが世話をしたがらない子ノーランは、そうして少しずつ家族に邪険にされていくことになった。




