私腹を肥やした聖女
「聖女セーラ、君を聖女から解任する」
ここは、とある王宮。
よくある追放劇にありがちなきらびやかな舞踏会……ではなく、王宮の一室である。おまけに、王太子だけでなく、国王と女王も揃っている。みなスレンダーな身体つきをしており、美しい見目をしている。
「あら。どうしてですの?」
「どうして、も何もない。我が国は平穏で、平民でも食べるのには困らないくらいだ。だからといって、そのだらしのない身体は何だ!」
セーラの身体はふくよかだった。脂肪で本人の手足が埋まり、身動きが取れないくらい。
「いやですわ殿下。いくら私が豊満な身体をしているからって、年頃の令嬢の身体のことを言及なさるなんて」
「誰がそんなことを言った!? とにかく君のような人が聖女とは我慢ならない。陛下の許可も取っている。君は今日で解任だ!」
セーラはえっちらおっちら、数人がかりで担架で馬車に担がれて王宮を後にすることになった。
「わたくしは国外に放逐されるのかしら?」
「とんでもない。解任した聖女を送り込むなど、国際問題になります。寒村の修道院にて祈りを捧げよとのことです」
「そうなの。それなら意外と悪くはないかもしれないわ」
「身動きひとつとれない状態で放り出されるというのに、ずいぶんとのんきなことを言うんですね」
「これも神様の思し召しです」
三年の月日が経ったある日、王太子がセーラのもとを訪れた。
「そこのきみ、セーラを呼んでくれ。あの者の悪事はわかっている。今すぐ王宮に戻って呪いを解かせる」
振り返った修道女の顔を見て、王太子は赤面する。修道女は、美女を見慣れた王太子も驚くほどの絶世の美女だった。肌が露出しない黒を基調とした地味なよそおいをしているが、それがかえって美しさを引き立てている。
「あら。王太子殿下、お久しぶりです」
「君のような美しい人に会ったことはないはずだ」
「尋ねてきた人の顔をお忘れですの? わたくし、セーラです」
「なんだと!?」
まじまじと見れば、確かに金色の髪も、空色の瞳も、セーラの特徴と一致していた。国を欺いた罪人の名前を騙る理由などない。それに、もう一つ、王太子は、確信できる理由を持っていた。
「やはり君が呪いをかけていったんだな。王宮にかけた呪いを解いてもらう!」
スレンダーだった王太子は、衣服がはちきれんばかりの豊満ボディになっていた。
セーラは不思議そうに首をかしげる。
「王宮でもこの村でも同じように皆様が健やかに過ごせるように、祈りを捧げているだけですわ」
「嘘をつくな、君が出て行ってからというものの、王宮の誰もがゆっくり肥えていった! その代わりに君がそうなっているなら、自分の肉を分け与える呪いでも施していったのだろう!」
「王太子殿下。わたくしは、呪ってなどいません。祈らなくなっただけです。わたくしの加護は、【脂肪吸引】と【脂肪吸着】ですから」
「し、シボー? とはなんだ?」
「神様に教えて貰いましたの。人間は身体の【脂肪】が減りすぎると病気になってしまう。かといって、増えすぎても別の病気になってしまう。だから神様はわたくしにの加護を授けてくださりました」
言いながらセーラは、村の人々の顔を見渡す。決して豊かではない寒村だというのに、ずいぶんとみな穏やかで満たされた顔をしている。
「平民でも食べるものには困らないと仰っていましたけど、この寒村ではみな食べるものが少なくて、今にも儚くなりそうな方もいらっしゃいましたのよ。ですから、みなさまに【脂肪吸着】を致しました。王宮の皆様は、豪華なものを召し上がるから、健康を維持するために【脂肪吸引】を致しておりました。なんでも神様がおっしゃるには、そのままでいると【セーカツシューカン病】なるおそろしい病にかかるのだそうです。悪化するといきなり倒れたりするとんでもない病気だとか」
「バカな、そんなものから救ってくれていたというのか。自らの身を挺して?」
「それも神様の思し召しです」
涼し気な顔で笑うセーラ。王太子は、自らの醜さを恥じた。
見目の話ではない。自分よりも若い少女が身を挺して王宮の人間たちを救っていたのに、そうとは知らずに甘えてしまっていた。 そのうえ、一方的に悪事を働いたと思い込んで責め立てる。王太子が来た理由など、呪いを疑ったことは建前だ。婚約者に「殿下、少し最近ふくよかになられましたね」とちくりと指摘されただけのことである。なんと醜い──。
「でも、王宮に戻るのも悪くはありませんわね。この村のみんな【脂肪吸着】を受けたから、農業をするだけの体力が戻りましたの。おいしいご飯を食べられるようになって、わたくしの加護がなくても構わなくなったから、王宮に戻るのが神の思し召しかもしれません」
「いいや、君はこのままこの村で過ごしていてくれ。僕らは僕らでしっかりやっていく」
「まあ。それでしたら、神様の啓示をお伝えさせていただきますわ」
王太子は、セーラから受けた【誰でもできる簡単ダイエット料理】と【誰でもやせられる運動】の啓示を守り、国はそこそこに栄えたという。
聖女セーラ
神を心から信仰しており、運命に殉じている。
自分の能力を隠しているわけではないため尋ねられれば答える。
先王に招かれて王宮に来たものの、能力の詳細を伝える前に先王が突然死、信心の希薄な国王に引き継がれてしまった。




