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五の話 呪術師は酒を呑む


「冗談ではありませんわ………!?まさか、まさかこんな馬鹿げたことがまかり通るだなんて………!」


 二束の金髪を振り乱しながら、少女はファージール城の廊下をヅンヅンと歩いていく。

 少女―――メルティーアはひどく不機嫌だった。

それもこれも全てはこの日の午前の謁見の間での事態に依るものだ。


(昨日までは巧くいってましたのに………!フィオレさんも不要な真似ばかりしてくれますわ!!)


 メルティーアは、神殿に所属する聖霊教の巫女だ。彼女の価値基準は、まず聖霊を第一としている。

彼女の家系が熱烈な信徒であり、その中でも名門であることから彼女は幼い頃から徹底された教育を施されてきた。


 また『聖人』と言われた祖先と同じように、彼女にもその素質があった。

『聖典』と呼ばれる聖書型聖具の使い手として選ばれるほどに、生まれながらの聖霊の加護の受け手だった。

それを知った彼女の両親はますます彼女に期待し、神殿の者達は「聖なる若き姫巫女」として彼女を可愛がった。


 それこそメルティーアが、自分は『特別な人間』だと勘違いしてしまうほどに。

そういった経緯から、彼女の16年の人生は概ね順風満帆だった。

それは、今回の『勇者召還の一連』に関しても言えることだった。

発端は、現在の神殿長である彼女の祖父が発した神託だった。


『魔王の暴虐を阻止するために、聖霊様が遣わせし光の勇者が降臨するだろう。その者かつての勇者と同じく、聖霊様の加護を以て、世界の憂いを断ち切る聖剣となるだろう』


と、メルティーアの祖父は触れを出した。

それを受けた神殿はすぐさま行動に移り、聖霊教の総本山であるロプロス聖王国の大神殿に打診、許可を取得。

大神殿からファージールへの要請も通った。

同時にファージール内部の反神殿勢力に隠匿したまま、敬虔な聖霊教信徒である宮廷筆頭魔導師ガインス卿に内密に協力を要請する。


 これらの根回しが功を奏し、総本山からの要請ともなれば形式上は聖霊教の信徒であるファージール王は『勇者召還』を受諾するしかなかった。


 以前より神殿が政務に口を挟むのを疎んじていた王は初めは難色を示したが、実際に魔王の脅威は存在し『勇者召還』が有効なこともまた事実。

それ以外にも『勇者』を自国に得ることの利益も鑑みられた。

そう言った打算も絡み合い王以下大臣達も了承することと相成ったのだが、そう言った駆け引きはメルティーアの預かり知らぬところであった。


何にせよ勇者召還は成功し、勇者はこの世界に降りたった。


 成功を聞いた時神殿に居たメルティーアは早速とばかりに翌日、勇者を訪ね―――そこで彼女は『運命』を確信する。


 勇者である少年は彼女から見ても整った顔立ちであり、容姿は申し分ない。

聖霊の加護も多大に受けているようで、聖具である『聖剣』すらも難なく抜く、所謂「アタリ」だった。


『やはりこの方が聖霊様の遣わせし勇者様!聖霊様に愛されたわたくしに相応しいお方ですわ!』


 メルティーアの頭脳は、この邂逅こそは自らに与えられた『運命』であるのだと結論を弾き出す。

確かに勇者は見目もよく、聖霊の寵愛も申し分ない。メルティーアが『恋をする』対象にはもってこいだった。


 そこには打算が有ったかもしれないが、彼女にとってそれは間違いなく『恋』だったのだ。

少なくとも、勇者は彼女が『乞い』した存在ではあった。

そうして、その恋を成就すべく行動に移す。

初対面時から勇者を自分の物と出来るように、それらしい立ち回りをした。

見ず知らずの土地に放り出された勇者の『支え』となれるように。


 果たして、それは巧くいくこととなった。

『恋』する乙女は強しといったもので、まだ出会って二日ながらかなりの信頼を得たと言えるだろう。

勇者はメルティーアに好意的であり、こちらは彼女からすれば当然ではあるが、魔王討伐の一員にも選ばれた。

勇者も、魔王打破の英雄の座も、難なく手に入れることができる所まで手が届いたのだ―――


―――だが、ここに来て、不安要素が現れた。

それが不機嫌の最たる理由である『呪術師』の存在であった。

聖霊教の巫女として、遙か昔に聖霊様を裏切り魔族の技たる呪術道に身を堕とした大逆人。

それが神殿から見た『呪術師』であり、メルティーアもそう考えていた。


 そんな存在ならば即時滅するべきだという意見も多く挙がるのだが、歴史に名高き大賢者ですら封印と言う形にしか収められなかったという現実がある。

故に、地下深くへの封印という処置に妥協していたのだ。


(それを外に出す?あまつさえ自由にする?陛下がこんなに頭の悪い人間だとは知りませんでしたわ!!)


 一国の王に対して実に不遜な、下手をしなくても首を切られるような無礼なことを考えるメルティーア。これは、幼い頃から王を見てきた気安さから出る迂闊さ故だろう。

その迂闊が許されてしまうのも、事実ではあったが。


 神殿長の孫であり英雄の一門である彼女は幼い頃より城に出入りしていたし、年が王女殿下と同じであるという理由から、当然のごとく知り合い幼なじみと呼べる間柄となった。

しかしそこには緩い友情など存在せず、どちらかと言えば腹をさぐり合うような関係だった。


 現王の以前から神殿を疎外しようと画策していた王家側であるから、不仲なのは当然と言ってもいい。

表面上は平和なものだが、利権を懸けた権謀術数が繰り広げられてきたのだ。

次代を担う少女達の関係も、それと酷似している。

 先代の勇者は当時の姫という鎖によって王家に飼い慣らされたと言っても過言ではない。

魔王無き後の権力図は、勇者を手にした王家に傾いた。

此度も同じ手が使われないとは限らないからこそ、メルティーアはあの緩やかな顔をしながらも抜け目のない王女を警戒しているのだ。


―――そして彼女が不機嫌となるもう一つの理由は、もう一人の幼なじみによる。

そう、フィオレ・へインストールの所為だ。


(昔から昔からわたしくしの邪魔ばかり……)


 メルティーア、イリーナ姫、フィオレの三人は皆同い年であり、それぞれ千年前の英雄の血を引いている。

最近はへインストール家は勢力図としては弱体化してきてはいるが、それでも名門には違いない。

王家であるイリーナはともかく、メルティーアとフィオレは昔から周りの大人達によく比較対象として扱われていた。


 同い年で幼なじみ、同じ英雄の子孫で二人とも見目麗しい美少女である。

噂好きな宮廷貴族達には話題にするには格好の的というわけだ。


 片や魔導の天才的な素質を持ち、失われし古代魔法を幾許かとは言え再現した『賢者』を名乗る才媛。

 片や主神である聖霊の強気加護を受け、神殿の宝物である聖典を使いこなす『姫巫女』。


 不遜な態度が目立つメルティーアとは真逆に、フィオレは堅物で真面目な性格だった。

イリーナ姫を間に挟んだ手前辛辣なまでに仲違いはしていなかったが、その関係は―――少なくともメルティーアはフィオレの事が好きではなかった。


 そりが合わず、メルティーアが嫌みを言っても冷静に受け流すすましたフィオレの態度は、メルティーアにとっては目障りでしかない。

何故この三人が幼なじみなのかと聞かれれば、産まれた年が同じだという不幸によるとしか答えられない。


 だからこそ、フィオレなぞに負けないようにメルティーアは巫女として名実ともに力を付け、この度勇者の仲間に選ばれたのだ。


 それがどうだ。

フィオレが旅の供に選ばれるのは想定内だ。

曲がりなりにも『賢者』であり、先代をなぞらえるならばパーティには入れられるだろうと考えはした。

そのためにこの二日は勇者に付きっきりで、フィオレが勇者に近づく機会など与えなかった。


 メルティーアが勇者に会う直前に少しばかり顔を会わせはしたようだが、その時見たフィオレはいつも通りの無愛想なクールぶった鉄面皮であった。

勇者に粉を掛けるような真似はしていないのも、何だかんだと付き合いの長いメルティーアには解る。


 あとはゆっくりと旅の中で勇者との仲を確固たる物にしていけばいい、そう考えていた。


 だが蓋を開けてみれば、殊更不快な事態となった。誰が好き好んで大敵たる呪術師と仲良く魔王討伐に向かわなければならないのか。

王の一喝の手前引き下がるしかなかったが、メルティーアは納得していない。


「見ていなさいフィオレさん、『呪術師』、そしてイリーナさん……貴方方の好きにはさせませんわよ………!」


 今はこの怒りを糧に、神殿に戻り早急に対処を考えるのが先決だ。


―――『概ね』順風満帆な彼女の人生、その中で唯一と言っていい『例外』………それこそがメルティーアの幼なじみ二人の存在。


メルティーアは二人の少女に敵対心を燃やしながら、ファージール王城を後にした。





―――その頃、件の幼なじみ二人、その片割れであるイリーナ姫はコウヤと供にいた。


 勇者に一言掛けるやいなや謁見の間を辞した怒りに燃えるメルティーアは、イリーナが勇者に近付くことに釘を刺すのを失念していた。

その機を逃すことなく、部屋に戻る直前のコウヤに声を掛け、少しサロンにて話をすることとなったのだ。


 姫にいきなりお茶に誘われたコウヤはというと、二人きりでお茶という状況に改めてドキドキしていた。侍女達により着々と用意されてゆく茶席の用意を傍目に、コウヤは相変わらずにこにこと笑みを湛えているイリーナを見やる。


「どうかなさいまして?」


「えっ!?いや、こういうのはあんまり慣れてないもので……なんか緊張しちゃってさ」


「フフフ、力を抜いていただいてもかまいませんよ?私は少しコウヤ様とお話がしたかっただけですもの」


 コウヤの視線に気づき可愛らしく首を傾げたイリーナだったが、コウヤの言葉にまた柔らかく微笑んで返した。

そう言われても、コウヤとしては簡単に緊張が抜けるわけでもない。


「俺のいた国ではさ、こういうのは殆ど廃れてたから……ほんの一部の人達が楽しんでたぐらいなんだよ」


 出された紅茶を恐る恐る口に含みつつ、コウヤは高価な調度品に彩られたサロンを見渡す。

貴族同士の交流に用いられるその部屋は華美という言葉が最もしっくりくるだろう。

そんな場の空気に飲まれながらも、コウヤはイリーナと会話を交わしつつ彼なりに茶会を楽しんでいた。


 見た目通りに終始たおやかな空気を纏うイリーナに、コウヤの緊張も解れ、次第に肩の力が抜けていく。それを見計らったが如く、イリーナは切り出した。


「ひとつ、コウヤ様にお願いしたいことがありますの」


「えっ?」


「コウヤ様、フィオレさんのことをどうか宜しくお願いします」


テーブル越しに、イリーナは頭を下げた。

コウヤの手が微動し、ティーカップがカチャリと音を立てる。

それは……と、コウヤがイリーナを見やれば、彼女は言葉を続けた。


「あの子は、昔からこれと決めたら何でも一人で抱え込んでしまって……今回のことでも、おそらく相当に気を張っているのだと思うのです」


(あー、確かに、真面目そうだよな)


憂い息を吐くイリーナの言葉に、コウヤは内心で納得していた。確かに件の少女は、生真面目そうな印象だったと思い出す。

昼間の謁見の間でもそうだったが、魔王討伐の一件ではかなり肩に力を入れていそうだ。


「あの子は私などよりずっと賢いのに、ずっと不器用だわ」


つまり、眼前の姫は幼馴染みである少女を心配し、旅先での身を案じているのだろう。なんとも麗しき友情である。

そういう思いに触れると、コウヤという男は俄然やる気を見せるのだ。


「ああ、分かった、任せてくれ。俺がどこまで役に立つかはわからないけど、出来るだけのことはするよ」


「ありがとう御座います」


爽やかに笑って見せたコウヤに、イリーナも相好を崩した。

そこで終わっていればこの朗らかな空気も維持できたのだろうが、フィオレのことを話題にしたせいか、コウヤはそこから派生する話題を連想してしまった。

言うまでもない。呪術師のことだった。



「あのさ、イリーナ。ちょっと教えてほしいんだけど、あの呪術師って人は、その、どういう奴なんだろう?」


自分で言っておきながら何とも曖昧な問い方だと、コウヤは思った。しかし、実際になんとも形容しがたい思いが、彼の中で燻っているのだ。

その出所は、『呪術を知らない』という無知から来る不安なのかもしれない。


呪術師の名を出したことにより、イリーナの笑顔が幾分か硬さを増した。


「……コウヤ様がお知りの通り、彼は前魔王の友であり、裏切りの罪人です。世間の認識としては、それが全てでしょう。しかし、彼の性質などについては、残された資料が乏しいためによく分かっていないのです」


「でも確か、フィオレのご先祖さまが残した魔導書のお陰で大人しくさせられるんだろ?」


「ええ。呪術師について記されているのは、『大賢者』が遺した魔導書と、彼の随筆書のみなのです。それ故に、彼の末裔たるフィオレに白羽の矢が立った、と」


そこで言葉を止め、イリーナは息をついた。幼馴染みの境遇を思えば憂いもあるのだろうと、コウヤは思った。


「大賢者の記した話に基づけば、『呪術師は人知を軽んずる異端。力は絶大。英雄をして匹敵せし魔人。殺し尽くすに能わざる人外』そして、『性質は悪辣にして享楽的。悪たるをすべてと成す』とも」


「そんな危なそうなのを連れていくのか……」


イリーナの憂鬱の原因もよく分かる。そのような危険人物が幼馴染みの側に居るなど、正気の沙汰では歓迎できまい。

それ以前に、いくら有用だからとそんな人物を起用した王に対して、コウヤは不満を抱いた。


(そんな人と旅とか、大丈夫なのかな……)


コウヤは、前向きになる努力はしてみたが、そんなものを嘲笑うかのような爆弾を抱えさせられた気分だった。

話を聞けば聞くほど、フィオレを宜しく頼まれたことが、かなりの大任に思われた。

コウヤの『出来る限り』なぞ、そんな弩級の爆弾の前では、無力ではないだろうか?


「……よし、明日から訓練がんばるぞー!」


少なくとも、抵抗ぐらいは出来るようになろう。

悲壮な決心を固め、いつの間にか渇ききった喉を潤そうと、コウヤは無作法ながらも紅茶を煽った。


「──あ」


ティーカップは、既に空だった。





ヘインストールの屋敷は、王城より数区画離れた、都の西端にあった。

屋敷の表には煌々と篝火が焚かれ、十人単位の兵士が屯している。その物々しさは、今から討ち入りでも始まるのかのようだった。


反面、門の中は静まりかえっていた。屋敷の中はがらんとしており、名門の家とは思えないほど、質素な佇まいだった。最早、寒々しいとまで言えるほどだ。

屋敷の大きさにはそぐわない住人の少なさも、その一因だった。


そんな屋敷の裏の、さらに向こうにそれはあった。


「……勝手にうろつかないでください。居なくなっても、封印の効果であなたの居場所は瞬時に特定できます」


「逃げらんねぇってんだろ?耳タコだ、んなこたぁ」


呪術師、ルクリューは、少女に背を向けたまま、ぞんざいに答えた。彼の意識は背後の少女ではなく、眼前の墓標に向いている。


簡素な、それでいて年季を感じさせる石造りの小さな墓標だ。

とっぷりと浸かった夜の暗闇の中で、その白い石碑は淡く存在していた。

そこは崖の端だった。昼間ならば見晴らしが良いことだろうが、生憎と、今は闇しか見えていない。

そんな景色を背に、墓標はポツリと立っていた。


「こんなとこで寝たがるとは、相変わらず酔狂な奴だよなぁ、アルディレイタ」


どこから持ち出したのか、ルクリューの片手にはワインがあった。その銘柄に屋敷の保管庫で見覚えがあったフィオレは、人知れず小さく眉を寄せた。

彼女は酒を嗜まないので惜しくはない。「いつの間に」、という苦笑のようなものだった。


既にコルクが抜かれた瓶を、ルクリューは傾けた。

血のように赤い液体が、喉を通る。


「ふん、千年ぶりにしちゃあ、上出来だな。お前にくれてやるにゃあ勿体ねぇ」


お気に召したのだろう。心なしか声を弾ませ、呪術師は目を細める。

彼なりの、再会の手向けだ。

墓石には二つの名が刻まれていた。長年の風雨に晒され続けたそれは劣化していて読めたものではないが、ルクリューにはそれが誰の墓かは分かっていた。


暫く、静かな時間が続いた。

フィオレも、何かを察してか口を閉ざしたまま呪術師の背中を見つめていた。

ふと、思い立ったように、ルクリューが口を開いた。


「なぁ嬢ちゃん」


「何でしょうか」


「何でこんなとこに墓建ててんだ。こいつぁ、曲がりなりにも英雄サマだろうよ」


嫌われてたのか?、と、失礼なことを嘯くルクリューに、フィオレはまたも秀麗な眉目を歪めた。


「一族の霊廟は別にありますよ。これは、大賢者の私的な墓です。彼の遺言で、彼とその細君の名を刻み、建てられたと聞いています。『心は、この地で眠る』、と」


「……カッ、スかした台詞だな。しかしまぁ、奴らしい」


そこで、会話は再び途切れた。二度目の沈黙は重く、そこには侵しがたい神妙な空気があった。

千年の歴史の再認識。その含蓄がどれ程のものかは、二十年も生きていないフィオレには及びもつかなかった。

少なくとも、あれだけ人を食ったこの男を黙らせる程度には、思いのだろう。


そんなことを考えてしまったせいか、ルクリューはなんの前触れもなしにすくりと立ち上がる。

あまりの急挙動に、フィオレはビクリと肩を震わせた。


「い、いきなりなんですか?」


「どぅした嬢ちゃん、わざわざ付き合ってくれねェでも、先に帰ってくれていいんだぜ?」


振り向いたルクリューは、既にあの胡散臭いニヤリ笑いを張り付けていた。先ほどまでの神妙さは、既に死んだ。


「あ、貴方を見張ってるんです!また勝手に動かれては、困りますから」


「そうかい、まぁ、子供に夜更かしさせちゃあ悪いよなァ。いやぁ、悪い悪い。そんじゃあ帰るかよ」


悪びれた様子もなくしれっと言い捨てると、ルクリューはさっさと歩き出していた。

ジャラジャラと鎖を鳴らしながら、次第に遠ざかる黒ずくめの男の背中に向けて、フィオレは恨みがましい視線を送る。


「はぁ。あと、一週間も……」


魔王討伐の旅は、勇者の促成修行やその他準備期間なども鑑みて、一週間後に出立が決まっている。

王都で呪術師を一週間も野放しにするのは許されたことではなく、呪術師はヘインストールの屋敷で預かることとなっていた。

警備の兵をわざわざ十人も着け、決して逃げられないように。


使役者たるフィオレも、あれやこれやと理由をつけられ押し込められた。

体のいい軟禁であった。


旅が始まる前から気疲れが溜まりそうだと、フィオレはこの一週間の長さを予見しながら、ルクリューの背中を追い歩き始めた。



すべては、これからなのだ。




to be continued……

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