表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/10

四の話 呪術師は衆目に姿を晒す

今回は接触だけです


「魔王が侵攻してきてる、ね………成る程、成る程。外じゃあそんな面白い状況になってやがったのか」


「面白くなんてありません。私達にとっては、死活問題なんです。だから、使えるならば貴方の『力』すらも使うことが決定されたんです」


「はっきり言うねぇ。利用するってんなら、もうちと誤魔化そうとするもんじゃねぇのか?」


「私、無駄な嘘は吐かない主義ですから」


「ック、クハハハヒ!ますますそっくりじゃねぇか!!」


「何がですか?」


「あぁ、こっちの話さ。気にすんな、嬢ちゃん」


「だから私の名前は…………」



時は午前九時頃。


フィオレとルクリューは、城の地下、密閉された石造りの一室に居た。

内装は革張りのソファーをはじめ高価な調度品に彩られていたが、その部屋の本質は『牢』と変わりはない。

つまり、監視がしやすい上に、逃げ出しにくいのだ。


部屋の外では王が遣わした衛兵達が番をしており、室内には少女と男しか居なかった。


そこで交わされる会話は、片方が悪名高い『呪術師』だとは信じられないほど、雑談じみたものだった。


フィオレは相手のペースに巻き込まれつつあるのを自覚していたが、昨日までの無駄に肩肘を張った心境ではなくなっていた。

実物を目にして、想像していた虚像とのあまりの違いに、毒気を抜かれたこともある。


だが何よりも、この呪術師を名乗る黒尽くめの男に対しての恐怖心と言うものが薄まってきていた。


別に、彼が優しいとかそんなロマンティズム溢れた理由ではない。


フィオレには理由など解らなかったが、ルクリューが彼女に接する感情に『郷愁』のようなものが感じられたからだ。


彼女は呪術師との接点など生まれてこの方勿論無かったが、彼の方は何が琴線に触れたのか、カラカラと愉快そうに嗤いながら、からかうようにフィオレに接していた。


―――まあそれ自体はルクリューの性格でもあるのだが。


結局の所、フィオレには『ルクリュー・ベルデ・アルトリィ』という人物がよく解らなかった。


対面してから四時間ほどしか経っていないが、言動に軸がなく、ただただ愉快そうにニヤツいている、そんな風にしか見えなかった。


フィオレは思う。

こんな男がどうして魔王の親友となれたのかと。


ハァ、とため息をつくフィオレに、ルクリューはソファーに深くもたれたまま語りかける。

千年振りの柔らかさを堪能しながら、実にご機嫌な声色で。


「おいおい、若いのにため息なんて吐いてんじゃねぇぜ?人生楽しまなきゃな、これ先達からの助言だ。覚えときな」


「もう………」


―――誰のせいだと思っているんだ。

そう言いたいフィオレだったが、それも無駄だと察した。

何故なら、ルクリューの顔には解っていて言っているのだと書いてある。


「ハァ………」


若き賢者は、この数時間でどっと疲れていた。



「さて、嬢ちゃん。何時までここでダベってりゃいいんだ?」


「………そうですね。時間になれば、召集がかかるはずですから」


何故二人はこんな所にいたのか。

それは持て余した時間を潰していただけだ。


その余白を利用して、フィオレは現在人間の置かれている状況、今代の魔王の脅威、『呪術師』を外に出すと決まった経緯などをルクリューに教えていたのだ。

千年現世から隔たれていたルクリューは、世情に疎いだろうと慮かってのことらしい。


結果、説明三割、無駄話七割となってしまったが。


ルクリューは退屈から解放された直後に行ったのが、変わり映えせぬ暇つぶしというなんとも皮肉な状況に内心では笑わずには居られなかった。


それでも彼からすれば、フィオレという格好の話し相手が居るのだから、牢の中にいた時の暇とは天と地ほどの差があると言えたのだが。


「じきに声が掛かるはずですが………」


フィオレがそう言うと、タイミングを見計らったかのように扉を叩く乾いた音が聞こえる。


「賢者殿、王がお呼びです。謁見の間へ参ぜよと」


「―――はい。了承しました、これより参ります」


衛兵の声に是と返すと、フィオレはルクリューに向き直る。

そこには今し方までの疲れた少女ではなく、毅然として賢者が居た。


「では、行きましょう」


「おう、了解だぁ――さぁて、今代の洟垂れの面ァ、拝ませて貰うかね」


ニヤニヤとした笑みはそのままに、呪術師は立ち上がる。


部屋を出てすぐに、緊張した面持ちの兵士達がルクリューを囲む。

四方を衛兵に囲まれながら歩くその姿は、罪人の護送という言葉がぴったりであったが、彼の余裕は欠片も揺るがない。


彼の意識を占めているのは、噂の勇者様がどの程度の人間なのかという、それに対する興味だけだった。





sideコウヤ


俺は今、謁見の間にいた。


何でも王様直々に発表することがあるらしく、城にいた者の殆ど―――騎士とか、大臣の重鎮とか、魔術師の人達とか―――が集められているらしい。


お、騎士さん達の中にヴァロンさんも居た。

隊長っぽい人の隣にたってるな。

装備も強そうだし、やっぱり副長ってのは偉いんだな。


それにしても、何をするのか全く聞いてないんだけど、何なんだろうなぁ?


今は王様が来るのを待っている状態で、他の人たちも、理由を知らない人はざわざわしてるみたいだ。


待つこともう何分だろう?ちょっと遅くないか?


「しかし何するんだろうな?」


「解りませんわ。しかし、わたくし達神殿の神官までお集めなのですから、小さなことであったら陛下と言えども苦言を呈させていただきますわ!」


「いや、相手は国で一番偉い人なんだからさ」


隣にいるメルは待たされていることにえらくご立腹みたいだ。


だけどそのぐらいで王様に苦情って………姫様の幼なじみでもあるし、メルって意外と身分の高いお嬢様なのかな?


英雄の家系とか言ってたし、あり得ない訳じゃなさそうだな。


「―――皆の者、待たせたな」


っと、王様が来たみたいだ。

やっと始まるらしい。


王様は玉座に座ると、俺の方に視線を向けていた。


なんだ?


「では今より、勇者コウヤ・ツワブキの供となりし者を発表する!」


ざわり


その言葉に、あたりはざわめきたった。


勇者の供ってことは………一緒に魔王と戦う仲間を選ぶのか!


どんな人が選ばれるのかな、かなり気になるな。


王様は、俺の名を呼び、前に出るよう促した。

みんなの目線が俺に集まるのを感じる。


な、なんか緊張するな。


「勇者よ、前へ!」


「はいっ!」


「これよりそちの仲間となる旅の供を選出する!先代になぞらえ、そちを含む五人でもって、此度の魔王を威見事討ち果たして貰いたい!」


「は、はい!」


五人、伝説の勇者とその仲間達と同じ人数。

確か先代は大賢者と騎士、剣士と巫女の四人が仲間だったんだよな。


俺の仲間は、どんな人たちなのか………


俺の期待をよそに、王様はその一人目となる仲間の名を宣言する。


「一人目は、聖霊巫女、メルティーア・マイラ・リナ・ブルームよ。前へ!」


「はい!」


おおっ、と、あちらこちらから声が挙がる。


メルの名が呼ばれ、彼女は揚々とこちらへと歩きだし俺の隣へ並んだ。


その顔は当然だと言わんばかりに澄ましていたが、俺と目が合うと花が咲いたようににこやかに笑った。


「名門ブルーム家の子弟であり、聖霊の加護をより強くその身に受けていると聞いておる。また、聖具である『聖典』の使い手であるともな。そちには聖霊の巫女として、勇者や仲間達をその加護を以て祝福してもらいたい」


「勿論ですわ!聖霊様の御力の下、勇者様のお力となります!」


王様の言葉に自信満々に返すメル。


「やはりメルティーア様こそが選ばれたな」


「うむ、当然じゃろう。我らが神殿きっての姫巫女なのじゃからな」


後ろを伺えば、メルと同じ格好をした神官の人達も、満足げにうなずいていた。それに対して、他の大臣さんとかは微妙な顔してるな。

何でだろう?


俺としても、仲がいいメルが旅の仲間って言うのは、正直ありがたいんだけどな。


「これからもよろしくな、メル!」


「はいっ、コウヤ様!」


仲間として、改めて握手をと手を差し出せば、頬を染めて握り返してくるメル。


それを見て一つ頷いて、王様はさらに次の発表へと移る。


「次に、騎士。近衛騎士隊副長、ヴァロン・ライナーよ。前へ!」


「はっ!」


またしてもあちこちでざわめきが起こる。


呼ばれた声に答えると、ヴァロンさんは厳かに歩を進め、メルと同じように俺の隣へと来た。


その振る舞いは騎士としても無駄がなく、やっぱり格好いい。


「そちが騎士隊長にも迫る剣の技を有しているのは知っておる。そちには勇者を護る盾として、騎士隊きっての精鋭たる腕に期待しておるぞ」


「はっ!拝命いたします!!」


ひざまづき臣下の礼をとったヴァロンさんは、静かに、力強く返答した。


「流石は副長だ!勇者様の供に選ばれるなんて!」


「彼ならば文句はない腕前だろう」


騎士隊や他の人たちからも賞賛の声が聞こえる。

やっぱりヴァロンさんは強いんだなと思う。

彼らの声にはそんな信頼が籠もっていたから。


顔を上げたヴァロンさんが、俺に声を掛ける。


「本来ならば隊長が行くべきなのだろうが、国を空けるわけにはいかないのでな、私と言うことになった。コウヤ殿、不肖の身ながら、助力させていただく」


「そんな、こちらこそ、宜しくお願いします、ヴァロンさん!一緒に頑張っていきましょう!」


「ああ、この剣に誓おう」


同じ様に握手すると、力強く笑みを返してくれる。


知り合ってまだ一日とは言え、こっちも知っている人でよかった。

剣を交えたことでこの人が頼れる人だってのも解ってるし、心強いな。


次は誰なのだろう、と王様を見れば、誰かの名を呼ぶ気配はなかった。


あれ、三人だけ?


同じく疑問に思ったのか、メルが王様に問いかけた。


「陛下、後の二人はどちらの方達ですの?」


「ふむ、そうだな。先ほど呼びつけたところだ。入って参れ!」


メルの疑問への答えは返さず、王様は扉へと声を掛けた。


その二人は外にいるのかな?


ギギギと音を立てながら扉が衛兵の手で開かれる。


―――ふと、耳にジャラリという鎖の音が聞こえた。


鎖?


その音に気を取られて、入ってきた人物が誰か理解するのに一寸遅れが出た。


「フィオレ?」


そう、入ってきたのはフィオレだった。


「賢者、フィオレ・ヘインストールよ。前へ」


「はい」


割れた人垣の間を歩み、こちらに向かってくるフィオレ。


二日振りに見たその凛とした顔だったけど、まさか彼女も仲間として呼ばれるとは、思わなかった。


気付けば、いつの間にかざわめきは無くなり、場は静かになっていた。


その中を進み、俺たちの横まで来ると、フィオレは王様に礼を取る。


「ヘインストール家きっての才気を持ち主だと聞いておる。そちには『大賢者』の血筋として、その知識と魔法とを以て、勇者の支えとなることを期待しておる」


「はい。その命、我が家名に懸けまして必ずや果たして見せます」


謁見の間に、フィオレの澄んだ声が響く。


「やはりヘインストールの才媛か」


「妥当だろう。アレ以外に賢者と名乗れる者は居らんからな」


「噂では古代魔法の一部を蘇らせたとか」


「しかし何故遅れてきたのだ?」


口々に何か言う声も聞こえるが、俺は前の二人と同じように、フィオレに向けて手を差し出した。


「まさか君も一緒に行くなんてな。これから宜しくな、フィオレ!」


「はい、コウヤ殿」


表情は硬いが、手を握り返してはくれた。

うーん、優しい子だってのは解ってるけど、それ以外がどんな子なのかあまり解らないな。


まあいいや、旅の仲間になるんだ。

これから知っていけばいいよな。


と、王様がフィオレに確認するように訪ねた。


「して賢者よ、奴は?」


「外に居ります」


「うむ、そうか―――入るがよい『呪術師』よ!!」


開いていた扉に、王様がひときわ強く呼びかける。

―――ジャラリ


そして、扉からは仰々しく四人の衛兵と、一人の人影が姿を現した。


―――ジャラリ


衛兵達はその一人を囲うように立っている。


―――ジャラリ


気がつけば、場は静まりかえっていた。

まるで、その人影に怯えてしまったみたいに。


―――ジャラリ


鎖の音を響かせて、その男は歩いてくる。


―――ジャラリ


身の丈は185センチぐらいか、大きな体躯の男。

髪は黒く、無造作に伸ばされたそれは目を覆い隠していた。

身体や、両腕には枷のように銀の鎖が巻き付き、まるで囚人のようだ。


首――いや、その喉には鍵のように札が貼られており、見るからに何かを封じ込めているようで。


何より特徴的なのは、黒、黒、黒、黒―――頭の先から足下まで、黒一色で統一された、闇のような格好。


―――ジャラリ


ふと、俺は背中の聖剣が震えだしたのを感じた。


これは、昨晩にも感じた気がする。


そう、あの『牢獄』を前にしたときだ――――


―――ジャラリ


そして、その時、目がかち合った。

黒い髪の隙間から覗いた、血の様な、真っ赤な真っ赤な『紅い』眼と。


俺は、何故か解らないが、背筋に寒気が走った。


「これ、が、『呪術師』………!?」


この人には、この男には、『コレ』には、触れてはいけない気がする――――



「どういうことですのっ!!!」


隣から怒鳴り声が聞こえた。

声からメルのそれだと解ったが、そこには押さえきれないほどの憤怒が込められている。


メルを見やれば、その可憐な顔を怒りに真っ赤に染め、王様へと食ってかかっていた。

先ほどまでの、フィオレが呼ばれたときのつまらなさそうな顔は微塵も残っていない。


ヴァロンさんの方も、入ってきた男にかなり警戒しているようで、鋭い形相で睨みつけていた。


唯一フィオレだけは、変わらぬまま毅然とそこに立っていた。


「どういうことも何も、こやつが最後の勇者の供だ」


「供ですって!?よりにもよって『呪術師』!?正気の沙汰ではありませんわ!!」


「巫女殿!陛下に対して無礼であろう!!」


大臣の一人がメルを叱責するが、怒りに燃えるメルは止まらない。


「黙りなさい!!陛下!わたくしは裏切り者の大罪人である『呪術師』など、認めるわけには行きませんわ!!牢から出すだけでなく、あまつさえ勇者様の供だなんて、何を考えていらっしゃるのですか!!」


メルがそう怒鳴れば、時が動き出しかのように、追従するように神官達からも口々に罵声があがる。


「そ、そうですぞ!斯様なこと我ら神殿は聞いておりませぬ!」


「然り!これは聖霊様に対する重大な冒涜ですぞ!!」


「ファージールは何を考えておいでか!?これは本山へ上申するべき、由々しき事態です!!」


それらに応じるように、騎士や大臣たちからも今までの比ではないざわめきが起こった。

騒いでない人たちはこのことを知っていたのだろうけど、知らない人たちには青天の霹靂だろう。

謁見の間は、騒然とする。


聞くに耐えない罵声の嵐の標的となった王様は、眉を寄せると深く息を吸い、吠えた。


「静まれぇぇぇい!!!」

他の人々は勿論、王様の怒鳴り声に、勢いを失った神官達は口をつぐむ。

メルも同様に、黙り込むしかなかったようだ。


王様は、フン、と鼻息荒く周囲を見渡すと吐き捨てるように言う。


「これは王である余の決定である。いかに神殿の者とは言え、そこに口は挟ません!!」


「なんだと!?我々を軽んじるか!」


「聖霊様をなんと思って居られる!?」


「黙らんか!!そちらこそこの場を何処と心得ておるのだ!」


またしても吠えたてる神官達にうんざりしたように反論し、王様がため息を吐くと一人の若い魔導師が前に出た。


「それは、私から説明いたしましょう。私は、宮廷魔導師のワレフと申します」


片眼鏡をかけた細身のその魔導師は優雅に一礼し、俺や神官達の方に目線を向け、語り出した。


「―――此度のことは、『大戒牢』の劣化が見つかったことに端を発します」


そう始まり、語りは続く。彼の話では、千年前の魔法で作られた牢は最近劣化が激しく、近い内に崩壊する可能性が出てきた。

そうなれば中にいる呪術師が解き放たれてしまい、大事となるので、そうなる前に枷をつけて制御下に置いてしまおうという話になったらしい。


そこで、魔導師として牢の監視に当たっていたワレフさんと、呪術師を封印した大賢者の子孫であり、呪術師を制御できる術式をもったフィオレ。

二人が協力して呪術師を外に出すとなったようだ。


「そ、そのような話!私は聞いて居らんぞ!?どういうことか!!」


確か筆頭魔導師だと言っていたガインスさんが狼狽えたような声を上げる。


しかしワレフさんはさらりとしたものだ。


「申し訳ない、筆頭殿。しかし陛下直々の命だったので、お伝えするわけには行かなかったのです」


「ぐ、ぬぅ………!」


悔しそうに顔をしかめたガインスさんを放って、ワレフさんはこちらを見る。

いや、正しくは俺の側にいるフィオレを。


「此処から先は、賢者殿にお任せいたしましょう」


「―――はい、では、私から説明させていただきます」


説明役を譲られたフィオレは、俺たちに背を向け、室内のみんなに聞こえるように話し出す。


「私の祖先、アルディレイタ・ヘインストールは、一つの魔法術式と、魔法具を作り出しました。それは呪術師へと施された封印具『禁制』というものです。これは、大賢者の血筋を持つ者にのみ行使できる術式であり、対象となる存在を使用者の制御下におく魔法具です」


フィオレの話では、ジャラジャラと音をあげていたあの銀の鎖が、その『禁制』という魔法具であるとか。


「まさか!」「おお、なんと………」という感嘆の声が場から挙がるが気にとめず、フィオレは説明を続ける。


「これは大賢者が遺したとされる文献に記されていた魔法であり、信憑性はあると断じられました。したがって、陛下の命にて私とワレフ卿により呪術師を牢外へと出したのです」


それで終わりなのか、ぺこりと頭を下げ、フィオレは一歩下がる。


「……だからといって!呪術師を解き放つなど危険ですわ!それに邪悪な呪術の力を許すなど、聖霊様のご意志に反します!!」


納得行かないのかメルが更に言い募ったが、王様はそれを一刀に切り捨てた。


「此度の魔王侵攻はつまり人間界の危機である!そんな時にまで聖霊のご意志を語り、滅びを甘受するなど、王としては到底認められん!余とて一人の聖霊教の信徒であり、聖霊の門弟ではある。しかし、使える力を選り好みして良いような甘えられる状況でもないのだ!一刻も早く、世に平和をもたらす必要がある!」


「し、しかし、それはコウヤ様だけで事足りると………」


「一刻でも早く魔王を討つことで悲痛に暮れる民もその数を減らすのだ!!ならばそちらは魔王の蛮行を甘んじて見ておればよいと申すのか!!」


「っ………!」


反論の余地がないのか押し黙るも、苦虫を噛み潰したように苦渋の表情を見せるメル。

そのままキッとした目線でもって、フィオレを睨みつけた。


「フィオレさん、貴女、わたくしに隠れてよくもこんな真似を………!!」


対するフィオレはその視線に応じることなく、凛と前を向いたままだ。


この場に、納得行かないがどうしようもない、といった雰囲気が流れ出す―――


「おい、俺ぁ何時まで無視されりゃあいいんだ?」


――空気を読まない、挑発するような声が響く。


発したのは勿論、争点となっている男、呪術師その人だった。


広間の皆の目線は、呪術師へと集中する。

それを察した王様が、咳払いを一つ。


「ごほん。うむ、では話を進めよう。皆が知るとおりだが、呪術師よ、そちは大罪人であり、牢へと投じられた囚人である。その投獄は命果てるまでの無期限である」


「ああ、そうだな」


不遜な物言いにヴァロンさんや騎士さん達は殺気立つが、王様は気にした様子もなく、会話は続く。


「―――だが、此度の魔王討伐にて、多大なる貢献を果たせば、その罪の減一等を認めよう」


その言葉に何度目か解らないざわめきが広がる。

伝説に近い世紀の大悪人の、その罪を減らすと言ったんだから無理はないかもしれない。


「静まれ!―――呪術師よ。減一等の暁には、大賢者が血筋の者による監視は付くが、光差す場を与えよう。しかし断るならば、そちは我がファージールの誇る宮廷魔導師達を以て滅することとなるが、如何する?」


それは脅迫でしょ王様。

拒否権なんかないじゃないか。

まぁ、大犯罪者相手の取り引きなんだし、そうなるのは納得できるけど。


そんな理不尽な取り引きにも関わらず、呪術師は悠然と答えを返した。


「ああ、受けようその話。人の身ながら俺を討ち果たした大賢者。彼に敬意を表し、俺は彼の血筋に一度降ろう。然らば我が呪術、彼の者達のために振るってやろう」


それは、大賢者の血筋への服従を約束したに等しい言葉だった。


あまりの潔さに、俺や王様はおろか、言われた本人のフィオレでさえも唖然としている。


ずいぶんあっさりしてるけど、呪術師って極悪人じゃなかったのか?


メルやヴァロンさんはその態度こそ怪しいみたいに眼を尖らせてるけど、呪術師は気にする風もなく、飄々としていた。


相変わらず聖剣はざわついてるけど、さっきまで感じてた寒気はもう感じないな。


「よく言った呪術師よ。委細、解ったかな勇者よ」


「あ、はい、解りました」


「ではここに、勇者の供は定まった!」


王様がそう告げると、場が少し引き締まる。


「勇者よ、巫女よ、騎士よ、賢者よ、そして呪術師よ、そちらが一刻も早く、世に安寧をもたらすことを願って居る!」


解散!


そういう意図が込められた王様の言葉に、みんなは部屋を次々と後にする。

王様も、大臣達も、騎士さん達も居なくなってゆく。


室内に残ったのは王様の前に立っていた俺たち、そしてその3メートルぐらい後ろに居た呪術師だけだった。


あれ?衛兵達は下がっていいのかな?

呪術師一人残しとくのは、安全なのか?


「――さぁて、帰るか賢者殿よ」


「ええ」


呪術師の声に、ス、と歩み出すことでフィオレが答えた。


「お待ちなさい!呪術師、貴方がどれほどの危険な存在なのかわたくしは知っております!!今は神妙にしていようがわたくしの目は騙されませんわ!!」


「巫女殿に同感だ。伝え聞く貴様の悪行を鑑みて、いくら陛下の命とは言えど、易々と信ずるわけにはいかん……!」


敵対心露わに呪術師に身構える二人を、俺は手で制した。


「二人とも!ちょっと抑えよう!」


「しかし………」


「いくらコウヤ様と言えども、これはお譲りできません!」


「ってもなあ。王様もああ言ってたんだし、いきなり仲良くとは言わないけどさ。今は我慢するしかないって」


俺が宥めてもあまり効果はないみたいだけど。

ふと、呪術師の方を見ると何故か笑っていた。


メルがそれに気づき、またも声を荒げる。


「なにが可笑しいんですの!!」


「ハッハッ、いや、いや。別に可笑しい訳じゃない―――」


ニヤニヤと、なんかバカにしたような笑みを浮かべながら呪術師はこっちを、俺を見た。


「な、なんだよ?」


「―――成る程、成る程。今回もまた、洟垂れか」


なっ!?


洟垂れぇ!?


あまりの物言いに俺が固まっていると、呪術師はクハハハハ、と嗤い声を挙げながら去っていった。


「あ、あのコウヤ殿、私はお先に失礼します。ちょっと!待ってください!」


慌てたように一言残しその後を追うフィオレ。

去り際にフィオレが頭を下げていったが、その時の表情は、やけに疲れたものに見えた。


「な、何なんだ、一体………?」


あれが、先代魔王の親友?

最悪の犯罪者?


………なんだかなぁ





To Be Continued ………

次回は呪術師の思考です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ