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弐の話 聖剣ゲットだぜ

可笑しいな


話が纏まらないぞ?


主人公が出てくる気配がない


ガチャリと。

闇に鍵音が響く。


数年、十数年ぶりの異音。『彼』は何事かと、眼前に現れた人物を見て嘲笑をこぼす。


「―――あ?あぁ?おいおい人間殿。なんだ、テメェ何しに来たんだ、こんな奈落の底までよ」


「………君に、聞きたいことがあるんだ」


「んだよ、尋問はとっくの昔に終わったろうよ?」


「違う。違う。これは、その………個人的な『質問』だ」


返す声は若々しく理知的な、しかしそれでいてどこか苦渋を含んだようなものだった。


「質問だと………テメェが?俺に?テメェみたいな『お偉いさん』が、『この俺』みたいな存在に?…………クッ、ハハハハッ!!」


「クソッ、笑うな!!私だって恥を忍んできているんだ!!」


「クククヒハハ、ハッ、ハァ………あー、笑った。いや、いいぜぇ、答えてやるよ。何でも言ってみなぁ」


「………なんだ、やけに素直じゃないか」


「あぁ、俺はいい奴だからな。すげーいい奴な俺は、テメェの下らん疑問にも隅々までお答えしようってんだよ」


「世紀の悪党がどの口で言う気だ………くっ、こんな奴を生かしておくしかできないなんて………ッ!」


「俺をこんな場所に縛り付けやがった張本人様がどの口で抜かしやがる。まぁ、気にすんなって。暇で暇で仕方ねーんだ。こんなことでもよ、暇潰しにゃあもってこいってぐらいにはな」


「……まぁ、いいさ。では、聞きたい。教えてくれ■■■。呪術とは――――」


そこで、若い声と『彼』の声は、霞がかったように歪んでいった。

聞き取れるのは語り合う両者のみ。

闇に潜むように、闇に溶け込むように、音は散り散りとなっていった。


「―――――――――――――――――」


「――――?」


「―――――!!――――――――」


「……………――――」


若い声の主が、踵を返す。足早に立ち去ろうとする彼に、『彼』はニヤリと言葉を投げつける。


「満足したかぁ、■■■殿?」


「―――君を、信じたくはない。が、君を信じるしか今の私には道がない…………だから」


振り返ることもなく漏らされたその声音には、怒りと、無情さと、焦燥と―――


「『信用』するぞ、■■■」


希望が、含まれていた。


そして、彼は闇を出た。

ガチャンと響く施錠音。

本来ならばこんなに軽い音ではないはずだ。

しかし術者たる若い声の主が、そんな手抜かりをするわけもなく。


闇は、今までと同じように、閉ざされていた。


残された『彼』は一人、誰にともなく、虚空に向かって語りかける。


「―――あぁ、あぁ、『信頼』してくれ。俺はそっちに関しちゃあ、無敵だぜ?なんたって俺は―――■■■だからな」


『彼』らしい力の籠もらぬその言葉は、若い声の主には届きはしない。

しかし、彼は関係ないとばかりに、独り言を吐き続ける。


「俺ぁ暇なんだ。暇で暇で、暇すぎて。寝るか、『練る』かするしかねぇ」


そして『彼』は『願い』か、『呪い』か。

はたまた純粋な要望なのか。

闇に向かって呟いた。


「だから来やがれ、アルディレイタ。当面はテメェで満足してやるよ」


それは当然。答える声は、そこには無く―――





sideコウヤ


「勇者様!貴男が勇者様ですのね!?ああ、お会いしとうございました!わたくし、ずっと待っておりました!待ちわびておりました!」


「えっ、あ、あの、君は?」


なんだなんだなんだ!?

ドアがぶち破られたと思ったら、なんかまた別の女の子が!?


そして凄いことを言いイながら飛びついて来たーーー!?


俺の頭はあまりの唐突な事態にフリーズしちまったよ。


「メルティーア様………」


展開に取り残された仲間のフィオレが、ぽつりと呟いた。


メルティーアって言うのか、この子。


メルティーアとやらはフィオレの存在に今気づいたと言わんばかりに視線をそっちに向けると、その端正な眉をしかめた。


「あらフィオレさん。いらしたんですの?」


「はい、ずっと」


「相変わらず可愛げのないお方ですこと」


いやいやいや、フィオレは可愛いよメルティーアさん。


いや、そうじゃない。

そうじゃないだろ俺。


まずはちゃんと名前を聞かないとな。


「えっと、メルティーア、さん、でいいのかな?」


「はい!!!」


おぅ、すげー食いつきだな。

するとメルティーアさんは飛びついた際に乱れた服の裾を正し、俺から少し離れた。


ああ、びっくりした。

まぁ、名乗るにしてもこっちからが礼儀かな?


「俺はコウヤ・ツワブキ。一応勇者ってことになってるみたいだけど………コウヤって呼んでくれると嬉しいよ」


「はい!!コウヤ様!!」


メルティーアはキラキラと目を輝かせてそう返してきた。

……何というか、すごい目が輝いてるよ。何で?


「申し遅れましたわ。わたくし、『神殿』より参りました。聖霊巫女のメルティーア・マイラ・リナ・ブルームと申しますの」


優雅にお辞儀をした彼女は、聖霊巫女だと名乗った。


確かに、着てる服は真っ白な所謂法衣って奴みたいだ。

薄いブロンドの髪を肩口までのツインテールにした彼女は、緑の瞳も相まって聖職者と言うよりは、どこかのお嬢様みたいだ。


ていうかこっちに来てから見た女性のレベル高すぎるだろ。

何ここ、ここが楽園なのか?


「親しい者にはメル、と。そう呼ばれておりますの。あの、宜しければ、コウヤ様もそう呼んでいただければ………」


「いいの?」


「はいっ!勿論ですわ!」


「うん、じゃあそうするよ。宜しくな、メル」


「っ!!」


顔を赤らめたかと思いきやもじもじとするメルティーアだったが、愛称を呼んだ次の瞬間には花が咲いたような笑顔を見せた。


にぎやかな子だな。


「メルティーア様。もうよろしいですか?」


「………あらフィオレさん。貴女はやっぱり空気を読めないんですのね」


「すいません。性分なんです」


「フンッ」


先ほどまでの乙女ぶりが一瞬で霧散したよ、メル。

フィオレに対しては冷たいなぁ、嫌ってるのか?


「そういえば、メルはどうしてここに?」


俺がそう聞けば、彼女はパンッと手をたたいてうなずいた。


「そうでした!わたくしはコウヤ様と共に聖剣の選定に向かいますの!お待たせして申し訳ありませんでしたわ!さぁ、早速宝物庫へ行きましょう!!」


「ああ、そう言えばそんなこと言ってたなぁ。よし、解った。行こうか」


俺の手を取るメルに承諾してやれば、彼女はやっぱり満面の笑みである。

すると、フィオレが切り出す。


「では、私はここで失礼します」


「え?フィオレは一緒に来ないのか?」


「はい、私には少し所用がありますから」


「いいではありませんか、コウヤ様。フィオレさんなんて放っておいても!」


「ハハ、そう言うなって………」


なんだ、フィオレは来ないのか。

すっかり一緒に来るもんだと思ってたからな。


まぁ、メルも何故か頬を膨らましてるし、あんまり食い下がらない方がいいよな。


「わかった。色々ありがとうな、フィオレ。また話聞かせてくれよ。いいかな?」


「はい、勿論です。コウヤ殿も選定、頑張って下さいね。では、失礼します」


ぺこりと頭を下げ、髪を揺らしながら、フィオレは部屋を出ていった。


「じゃ、俺たちも行こうか」


「はい!!」



この時、メルの襲来で俺はすっかり忘れていたんだ。


メルが来る直前、俺がフィオレに何を聞こうとしていたのかを………




「へぇ、メルんちって凄いんだなぁ」


「そうですの!何と言ったって、わたくしの直系の祖はかの大僧正、スロフア・ブルームですのよ!」


俺は宝物庫に向かう途中、メルからいろんな話を聞かせてもらっていた。


俺が聞いたら快く答えてくれる。

うん、フィオレには冷たい気がしたけど、やっぱりいい子じゃないか。


彼女から聞いたのは主に聖霊、神殿についての話。


ここでそれをちょっと纏めてみよう。



この世界、メイガルテンには宗教というのが一つだけらしい。

その名も『聖霊教』。


聖霊アスマットを主神として、数々の神霊がいる多神教。


主神が聖霊なのは大陸共通―――といっても大陸にある国は五カ国だけらしい――だが、副神となる信仰の対象が国によって異なるらしい。


例えばここ、ファージール王国では、賢智の女神・智霊フレイヤを信仰しているとか。


そうそう、神殿というのは聖霊教におけるある種の本部らしい。

五カ国に一つずつ、計五カ所あって、メルはファージールの神殿で巫女として聖霊に仕えているんだって。


キリスト教でいう五本山みたいなものかな?


宗教にはあまり詳しくないから解らないけど、メルの話しぶりでは、彼女の家系は相当な位の高い血筋らしい。


「その大僧正って人は、どんなことしたんだ?」


「ご先祖様は、千年前の先代勇者様の時代に神殿長を努めておられたのです。そして、先代勇者様に聖霊様のご加護を託されたという、世界の平和を守った英雄のお一人なのです!王家の血にも劣らない偉大な聖人でしたのよ!」


「聖霊のご加護………」


聖霊に加護を受けると、聖なる力により洗礼者は超人的な力を得るらしい。


聖剣が凄かっただけじゃなくて、本人も戦えたんだな、カイチロウさんとやらは。


そりゃあ、武器に頼ってばっかじゃ生きてけないのか………いや、聖剣にも聖霊の加護があるんだっけ?


やっぱ神様ってのは最強なんだな。


「聖人って?」


「人でありながら、聖霊様の御力をその身に宿した聖なる者のことです。加護を受けた者は、そう呼ばれますわ。先代勇者様一行は勿論、ご先祖様もそうだったと言われております」


聖人ってそういう意味か。キリスト教みたいに、教会に認められて列される云々じゃないんだな。


「確かにそういった本山からの認定も多いですわ。しかし、真の意味での聖人は、やはりご加護を受けている者を指すんですの」


あ、そう言う制度もあるにはあるのか。

しかし、神様が身近だと完全な実力主義になるんだな。


「つまり、メルは真の聖人、英雄の血を引いてるってことか。カッコいいなぁ、そういうの」


「そ、そうですか?あ、ありがとうございますわ!そう言っていただけると、ご先祖様もお喜びになるでしょう!!もちろん、わたくしも………!」


照れる仕草も可愛らしい。法衣をはためかせながら、女の子らしくもじもじとする姿は、イイな、うん。


っと、煩悩退散煩悩退散!


そこでふと気になった。

そう言えば、先代勇者は姫様と結婚したんだっけ?


「なぁ、メル。先代勇者が当時のこの国の姫様と結婚したんならさ、この国の王族は勇者の血を引いてるってことか?」


「……そうですわね。ファージール王家は、勇者の血の正統ですの。そうすることで神聖さの強調をはかったとも言われております」


話題が変わるとなんかメルの機嫌が傾いてきたな。

まぁ、ちゃんと聞いたことは教えてくれるからいいんだけど。


しかし、王家の話はなんか政略っぽくなってきた。 そういうのは苦手なんだよ。


すると、メルが真剣な顔でこちらを見てきた。

少し声を潜め、俺の耳元で小声に告げる。


「コウヤ様。もしかすると此度の勇者召還でも、王家はその血を王家に加えようと画策するかもしれません」


「えっ?それって……」


俺が、あの姫様と結婚させられるかもしれないってことか?


あの、美少女と………いいじゃないか


「って、無い無い。そんなことあり得ないって。だって俺、何の取り柄もないぜ?それに俺と姫様じゃあ釣り合わないし……」


俺が否定すれば、メルはどこか複雑そうな顔でため息をついた。


「……そう言われるならば、大丈夫ですわね。しかし、お気には留め置き下さいませ。決して、ご注意を怠らないで」


「ん、わかったよ」


心配してくれてるのかな。やっぱいい子だよホント。


「……あの女にコウヤ様は渡しませんわ………わたくしが、わたくしの勇者様ですもの………」


「ん?どうした?」


メルが何か呟いたが、聞き取れなかった。

俺が訪ねれば、彼女は慌てて手を振る。

「な、なんでもありませんわ!!」


「そう?」


「ふぁい!!」


何故かテンパって噛んじゃったメル。

恥ずかしいらしく顔が耳まで真っ赤だ。


もう、一々可愛いなぁ


「へっ!?あの、コウヤ様?」


っと、俺は無意識のうちにまたしてもやらかしちまったみたいだ。

気づいたらメルの頭を撫でていた!


「あっ!ごめん!」


やっちまった!と手を引こうとすれば、その手をメルが引き止める。


何で?


「えと、あの……わたくしは、嫌ではありませんわ。わたくしの頭でよければ、どうぞ………」


節目がちにそう言うメル。フィオレとは凄まじい反応の違いだ。


何がよくて何が悪いのか、解らなくなってくるな。


あたりに甘酸っぱい空気が流れ出したあたりで(手はまだメルの頭の上だ)、メルが声を上げた。


「……あ!コウヤ様!そろそろ宝物庫ですわ!わたくしも聖霊巫女としてしっかりと立ち会わさせていただきます。ご安心なさって下さい!」


おお、着いたのか。

白の真ん中にある宝物庫は、やっぱり厳重そうな扉だった。


この中に、聖剣があるんだな………


「よっし!」


気合いを入れて、俺は宝物庫へと入っていった。




「これが、聖剣………」


俺は、宝物庫の最奥、一つ高くなった祭壇のような場所にいた。


目の前には、白刃から神々しい光を放つ、両刃の大剣。

豪奢な装飾でありながら、武器としての雄々しさが全く失われていない。


たしかに、これは聖剣と呼ぶ以外に呼び名が見つからないな。


「これが、先代勇者の振るいし『斬魔』の聖具、聖剣・ジールグラム」


先ほどまでと違い、巫女として溌剌として声で名を告げるメル。


うん、緊張してきたな。


メルは続けて、俺に語りかけてくる。


「では勇者コウヤ・ツワブキ様。聖剣をその手に」


「ああ」


一歩二歩、踏み出す。

台座に固定されたそれは、聖霊の力により選ばれた者以外には抜けないようになっているらしい。


剣から放出される迫力が、まるで質量を得たみたいに、俺の体を重くさせる。


俺に本当に抜けるのか………


不安を押し殺し、俺は聖剣の柄に手を掛け――――



ガコン。




「あれ?抜けた」


「おめでとうございます。聖剣は貴男を選びました。ここに、聖霊様の名の下に、貴男は勇者と認められました。

勇者コウヤ様に聖霊のご加護があらんことを―――――流石です!コウヤ様!わたくしは信じておりましたわ!!」


え?メルはものすごい喜んでくれてるけど………


え?こんなあっさり?

抜いただけだよ?

しかも一発かよ。


「なぁ、こんな簡単なもんなの?」


手に持った剣を見下ろせば、先ほどまでの迫力は何だったんだと言いたくなるぐらい、普通の剣だった。


いや、それでも普通よりかはすごい見た目なんだけど………


なんか、物足りないな。


「それだけコウヤ様が聖剣にふさわしいということですわ!まさしく、貴男様はわたくしの勇者様です!!」


「あ、ああ、ありがとうな……」


普通はさ、剣の聖霊と語らうとか、先代の遺志を屈服させるとか、イベントがあるんじゃないだろうか?



肩すかしを食らった俺は、なんか釈然としないまま聖剣の勇者となってしまったのだった………


マジで、いいのか?





―――コウヤが剣を抜いたその日の夜。

場所はファージール王城の練兵場、騎士の詰め所。

篝火が焚かれるその場所に、二人の男が居た。


そのうちの一人、若い騎士が、上官へと異議を唱えていた。


「私は反対です!勇者殿は、明らかに戦いを知らない」


「そう言うな、私とて納得はいかん。しかし、これも王命だ。反駁は許されん」


彼らは、コウヤが召還されたまさにその時。

王座の間にて立ち並んでいた騎士達だった。


精鋭揃いの若き騎士達は、召還された勇者をその目で見ていたのだ。


彼らには、精鋭たる誇りと、実力があった。

だからこそその中の一人、彼は言わねばならなかった。


『勇者は勇者足り得るのか』と。


「……先代をなぞらえるつもりですか」


「どうやら、そのようだ。従って、先ほども言ったとおり勇者殿へ付ける騎士は一人のみとなる」


「くっ……副長殿はそれでよろしいのですか!?魔王と戦うことすら許されないなど!我らは何の為に剣を、槍を、この腕を磨き続けてきたのか!!」


「…………」


「副長!!」


押し黙る上官に、若い騎士はさらに詰め寄る。


しかし、副長と呼ばれた、こちらもまだ若き騎士は、手をかざし、部下を制した。


「―――私が、確かめよう」


「では………!」


「王に許可は取ってある。隊長にもな。私手ずから相手をし、勇者殿の腕前、確かめさせていただく………これでいいだろう?」


「はっ!!」


若き騎士は尊敬する上官の言葉に、背筋を正し敬礼する。

そこにあるのは、無上の信頼。

彼の上官は国内五指に入る実力者。

その強さは、部下である自身がよく知っていた。


彼が動くならば、己の懸念も晴れるだろう、と。


「さぁ、明日も早い。早く隊舎に帰るといい」


「はっ!失礼します!」


若い騎士は敬礼し、詰め所を後にした。


パチパチと篝火が爆ぜる以外の音が消えた空間にて、副長と呼ばれた騎士は、一人、佇む。


「―――明日は、その力見定めさせていただきます、勇者殿。このヴァロン・ライナーが剣に賭けて…………」


ファージール王国が最精鋭、近衛騎士隊副隊長。


ヴァロン・ライナーは、静かに、宣言した――――





―――そして、また所は変わる。

城内のとある執務室。


部屋の主である刑部大臣・モルガンは顎髭を一撫でし、デスクの脇に目をやる。


そこに立っていた痩身の青年――その格好は魔導師のそれ――は、その視線を受け、口を開いた。


「首尾は整っております。決行は明後日。『彼女』からも承諾を頂きました」


「そうか………筆頭魔導師殿には漏れておらんだろうな?」


モルガンの問いに、青年は口端を歪める。

しかし平坦な声音のままに。


「勿論。ガインス卿はおろか、この事を知るのは、魔導師では私以下数名のみ………奴らに漏れることはありません」


満足のいく答えに、モルガンは応用に頷いた。


「ご苦労。フフフ、口五月蠅い奴らのことだ。いかに陛下の命とは言え、事前に知られれば奴らが喧しく吠え立てるのは必定………」

「『神殿』は聖霊の遣わしたという勇者殿に夢中の様子。これほどの好機はございませんね」


「ああ、これで、『神殿』の小蠅どもも王宮で大口は叩けんようになる………精々勇者殿には眼くらましになってもらうとしよう―――だが、本当に巧く行くのだな?」


喜悦の笑みを浮かべていたモルガンは、青年に向き直るとその顔を引き締める。それに対する青年は、先と変わらぬ貼り付けたような無表情。


青年は念を押すように言った。


「『彼女』については、文献に示されていたとおりならばなんら問題はないかと。一つ問題を挙げるならば、彼女は少し堅物過ぎる嫌いがある」


彼らの話していることは、決して綺麗事ばかりではない。

話中に上がる『彼女』の性格は、モルガンもよく知っていた。

土壇場で手のひらを返されては、彼はおろか、ファージールとして厄介なことになる。


モルガンは思考を巡らせる。

神の権威を笠に着て、国政に口を挟むあの『神殿』の神官どもに付け入る隙を与えないためにも。


「ふむ。では、明日王への謁見を申し出よう。そこで王命を下せば、『彼女』とて覚悟を決めるだろう」


「そうですね、彼女は科された任は何があっても優先して遵守するでしょう。それは、信頼できます」


「……さて、こんなものか。明後日が待ち遠しいな。これで、我等の力はますます強まる………陛下もお喜びになるだろう。ご苦労だったワレフ卿。最後まで気を抜かんようにな」


「はい、それでは私はこれにて――――」



コウヤの預かり知らぬ所で、陰謀は加速する。


主人公が居なくとも、世界には闇と光が巡り続ける。


何故ならば、そこに生きる人々こそが、その世界の主人公なのだから―――




To Be Continued ………

次話、で、布石


次次話で、登場?


もうわからない

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