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壱の話 勇者異世界を知る

うちの勇者は無個性を目指してます。

見た目スペックは高いですが、内面は所謂普通。


モテすぎず、モテなさすぎず、

嫌われすぎず、好かれすぎず、

強すぎず、弱すぎず、

勝ちすぎず、負けすぎず、

チート過ぎず、主人公過ぎない、

まるでモテないギャルゲの主人公のような


そういう勇者を、私は書きたい


「やぁ、調子はどうだね」


「おぉ、アルか。そうさな、悪くないぜぇ………な訳ぁねーだろ。アレだ、時間が有り余ってんだ。もっと詰めて来いよお前」


それは何年前か。

いつの時代だったか、思い出せないほど昔。


暗闇に二人分の声が響いていた。


「そう言われてもね。私とて忙しい身だ。こうして来てるだけでも有り難く思ってくれ」


「あぁ?お前が最初に泣きついて来たんだろうが。感謝しろはこっちの台詞だエロガキめ」


「ふーむ、その呼び名も懐かしいね」


「ちっ、昔はムキになって突っかかってきたのによ。可愛げが無くなっちまいやがった」


「まったく、いつの話だ。私が幾つになったと思ってるんだ」


「さぁな、ここ暗すぎて体内時計とか関係ねーから。あと俺年とらねぇし」


「ああ、そうだったなぁ……いや、すっかり失念していたよ。ああ、時間とは凄まじく速いものだな」


声の一方が、懐古のような色を含んだものになる。

漂い出すしんみりとした空気。

しかし、もう一方はまったく気にも留めず、空気をぶち壊す。


「どうでもいいがよ、そろそろ出せよ」


「どうでも良くないよ。なんて淡泊な男か、君は」


「今更何言ってんのよお前。で、さっさと出せよ」


「そうだな。愚問だった。誰が出してやるものか」


「だろうな。言ってみただけだよ。あー、暇だ、退屈が人を殺すとはよく言ったもんだ」


「人を前にして何たる言いぐさ。なんて無体な男か、君は」


―――今更何言ってんのよ、とうとうボケたか?


―――ふむ、愚問だった。


会話はそこまで続き、ピタリと止まった。

淡々とした掛け合いすらもなくし、闇の中には静寂が広がる。


一人の声の主が、身じろいだ。


「―――そろそろ時間だ。私は帰るとしよう」


「そうかい。さっさと帰りな」


「ああ、ではな」


あくまで淡々と、返される返事に熱はなく。

元より期待していなかった声の主は、くるりと、その身を闇の外へと向かわせた。


コツコツコツコツ。

足音だけが場に響く。


「アル」


と、背を向けた一人に、もう一方から声がかかる。


「珍しいね、君が引き留めるとは。これは変化と言えるのか?」


「知るかよ―――なぁアル。お前、そろそろ『終わる』だろ」


その言葉に、苦笑を隠せない『アル』。


「流石だな、流石は■■■。やはり君には隠せないようだ」


「当たり前だろ、年期が違うんだよクソガキめ。俺を誰だと思ってやがる」


「そんな熱い台詞は、実に君に似合わないな」


「自覚はある。言ってみただけだ」


引き留めてまで告げられた言葉には、『アル』にとって予想していたとはいえ驚かざるを得なかった。

ただ、それでも相変わらずの相手の返し。


もう一方は、再び静かになりかけた場に、声を投じる。


「お前も『終わる』か。ああ、暇が増えやがる。何とかしてから帰れよ」


「してやりたいのは山々だが、どうやらそれを考える時間も無いんだよ。我慢してくれ。つまり、此処に来るのも、最後だよ」


「そうかい、そうかい。まぁ、いいわ。ほれ、もう帰っていいぜ」


最後だと語るその口振りはただただ穏やかで、返す声すらも、ただただ『いつも通り』。


「君は本当に、最後まで淡泊な奴だったな」


コツコツコツコツ。

声の主は足を進めた。


ギシリと、闇の空間が軋めば、空間の一部が『外』へと繋がる。


声の主がそれに手を触れ、闇を後にしようとしたその刹那。


「あばよ、アルディレイタ―――あばよ、悪友」


別れの言葉が一つ、後ろから投げかけられた。


『外』に半分身を乗り出したまま後ろを見れば。

その言葉を投げかけた本人は体中を封じられた不自由な状態のまま、『彼』らしい笑みを―――常と変わらない悪辣な笑みを、その顔に張り付けていた。


『悪友』………成る程、『彼』と己を繋ぐに相応しい言葉だろう。

声の片割れ、『アル』―――アルディレイタはそう思った。


そんな『彼』が、そして己の関係が、やけに可笑しく、やけに奇妙で、やけに懐かしい――――


前に向き直り、アルディレイタは微笑んだ。

決して二度と、後ろは振り返らずに。


「ああ、さようなら、◆◆◆◆◆―――さようなら、親愛なる我が悪友」






sideコウヤ


「ん、ふぁ〜………」


朝起きたら何やら見慣れぬ豪勢な部屋だった。


「知らない天井だ………いや、昨日見たよ。ああ、俺寝ちまったのか……」


俺は体を起こして辺りを見回す。


そうだ、ここは異世界のどっかの国の城だった。


「なんでこうなったんだ………」


徐々にだが、頭がはっきりしてきた。


昨日聞いた話を整理しよう。


ここは異世界・メイガルテン。

その中にある国、ファージール王国。


そして俺は魔王を倒すために勇者として日本から呼び出された………


「マジかよ………」


なんてこった。

落ち着いて考えたら最悪じゃないか。

昨日はテンパりすぎて寝ちまったけど、頭がクリアになった今なら解る。


「帰れんのかな、俺」


そう、問題はこれだ。

数ある創作物なんかでは、魔王を倒したら帰れるとかいう話が多い。


ならば、俺もそうしないと帰れないのか?


俺に、戦えるのか?


「………あぁもう!考えるのは性に合わないっての!!」


頭をガシガシと掻きながら、俺は立ち上がる。


情報が少ない、考えても堂々巡りだ。


「うん、誰かに聞こう!」


思い立ったが吉日とばかりに、俺はドアへと向かって歩き出す。


―――が


コンコンコン。

ドアをノックする音と、


「勇者どの、お目覚めでしょうか」


という侍女さんのものと思われる声。


「ッッ!?は、はひ!どうぞ!」


いきなり止めてよ!?

ビックリするだろ!!


と、心中では叫ぶが、俺も男だ。

多少裏声だったが、冷静に返事を返した。


「失礼いたします」


すると、侍女さんが部屋の中へと入ってくる。

何か用だろうか?


「あの、何でしょう?」


「はい、朝食のお時間です。ご案内するように仰せつかっております」


「ああ、はいはい、朝飯ね………」


言われて思い出す。

俺昨日の晩何も食べてなかったな。


どうりで腹が減るわけだ。


………うん、丁度外に行こうとしてたし、タイムリーだ。

腹が減ってたら考えも纏まらないよな。


そう結論づけ、俺は侍女さんに付いていった。


考えるのは後だ!

まずは腹ごしらえが大事だ!



「ふぅ……ごちそうさま」


侍女さんに連れて行かれた先は、これまた豪奢な食堂。

なんと王様や王妃様、お姫様と同じ食卓だった。


マジで萎縮するから。


「どうした、未来を担う勇者殿だ!遠慮せず食べるがよい」


そう言って満面の笑みで促す王様。

プレッシャーがスゴいですって。


まぁそう言うなら、って結局はそこで食べたんだけどね。


常ににこやかだった王妃様と、お姫様――昨日ちらっと見た可愛い子だった――は日本でも見たことないぐらいの可愛さだったから、眼福だったけど。


アレ?そう言えば、勇者と姫のラブロマンスなんて、王道じゃね?


これは、俺にも春が来るんじゃねえの?


………イカンイカン、思考が逸れたか。



と、そこで王様が口を開いた。


「勇者よ、これよりそちに魔王を討つための装備を与えよう。見事剣に選ばれ、そこで初めてそちは聖霊の遣わした英雄と認められるだろう」


で、何とかつつがなく朝食を終えた俺だったが、次は何やら勇者としての装備を調えるらしい。


聖霊やら剣に選ばれるやら、またもや聞き捨てならん単語が………


「これからですか?あの、少し解らないことが多いので、教えていただけると有り難いんですが……」


「そうか、そちはそういえばこの世界には明るくなかったな。よかろう、装備を調えた後に場を設けよう。その時に聞くがいい」


「あ、そうですか。ありがとうございます」


「―――陛下、少しお待ちを。数刻後には『神殿』より巫女殿が参られることになっております」


と、執事っぽい人が王様へ伝えていた。

王様は、すっかり忘れていたとばかりに「おお、そうであったな」と言えば、何故か渋い顔になる。


何だ?巫女さん嫌いなのか?


「聞いておったとおりだ、勇者よ。装備は後にしよう。巫女殿が立ち会いとなっての選定でないと『神殿』も満足せんだろうからな………」


「はぁ」


「うむ、そうだな。では先にそちの願いを叶えよう。巫女殿が来るまでに知識を蓄えるとよい。ハンク、勇者を案内してやれ。おお、丁度よい機会だ、賢者を呼ぶとよかろう」


「はっ、かしこまりました。では勇者殿、こちらへどうぞ」


そんなこんなで俺は執事さんに案内され、食堂を後にしたのだった。



しかし、今考えると随分よく喋る王様だったな。


普通は部下とか大臣とか、はたまた姫様の役割じゃないか?


「此方です、勇者殿。巫女殿、賢者殿両名はいずれ参られるでしょう。しばしお待ち下さい」


「あ、どうも」


執事さんに連れられ(何か連れられてばっかだな、俺。しょうがないよな、城の中なんて解らないんだもの)着いたところは、玉座の間より少し手狭な、しかし十分に広い客間に通された。


取り敢えずソファーに腰をかける。

うん、やっぱりフカフカだ。


「ふぃー、さぁて、何から聞こうかな……」


王様の話では俺に色々と教えてくれるのは賢者さんらしい。


執事さん曰く俺と年も近いらしいのに、賢者と呼ばれてるとかすごいな。

流石は異世界か。


コンコン。

「失礼します」


と、鈴を転がすような可愛らしい声が聞こえてきた。


誰だ?


「はいどうぞー」


入ってきたのは、身長160センチほどの小柄な人物。肩口で一纏めにされ、背中で弾む蒼い髪が綺麗な、美少女だった。

きりっとした顔立ちは、真面目そうな印象を受けるが、女性特有の丸さが険のない雰囲気を生み出している。

しばし停止した俺だったが、髪と同じ色をした瞳がまっすぐに俺を見ていることに気づいた。


「あ、えと、君は?」


何この子可愛すぎるだろ?思わず凝視しちゃったよ。


「お初にお目にかかります。私は、賢者の称号を名乗らせていただいております、フィオレ・ヘインストールと申します」


――って!!賢者女の子かよ!?


「勇者殿?」


「あ、ごめん。えっと、俺は石蕗昂矢、こっち風に言うなら、コウヤ・ツワブキかな?」


「ツワブキ殿ですか。私のことは好きにお呼び下さい」


賢者ちゃん―――フィオレは神妙にうなずき、そんなことをのたまう。


うーん、堅い子だな。


「ほら、もう少しくだけた感じでいいよ?俺もその方が楽だし」


「え?そう、ですか?」


「ああ、俺はフィオレって呼ぶから、君はコウヤって呼んでくれると嬉しいな」


「……ではコウヤ殿と」


うーん、まだ堅いけど、まぁ、こんなもんかな。


「うん、それでいいよ。じゃあ、早速だけど色々聞いていいかな?」


「あ、はい、どうぞ」


さぁ、ここからが本番だ。


「じゃあ、まずさ。俺は勇者ってことになってるじゃないか。で、魔王を倒すのが使命だと」


「はい、そうですね。コウヤ殿は二代目の勇者として呼ばれたのです。神殿の巫女殿の強い薦めで、宮廷魔術導師筆頭のガインス殿が召還の儀を行われました」


なるほど、此処まではいい。

しかし、また神殿と巫女殿ってのが出てきたな……


「まぁ、それについては後にして。率直に聞くよ。俺は、帰れるのか?」


俺がそう問えば、フィオレは少し考え込み、うつむく。

悪い予感しかしないな………


「私の知識が浅いだけかもしれませんが………私の知る限り、逆召還、送致の魔法は聞いたことがありません。先代の勇者殿も、当時の姫と結ばれこの世界で生き続けたはずです」


「そう、か………」


それを聞いた俺は、思わず目を覆って天井を仰いだ。


予測はしてた部分はある、けど。

まさか、 ホントに帰れないなんてな………

昨日から続く一連の事態。それらに流されるままにこの事実を突きつけられ、正直ちょっと参った。


「コウヤ殿、大丈夫ですか……?」


「ああ、大丈夫、大丈夫だ。ごめん、ありがとうな、フィオレ」


「いえ、私の見識が狭いばかりに………いきなり知らない土地に来られたんなら、当然不安ですよね。気遣いが足りないで、すいませんでした」


いきなり押し黙っちゃったからか、心配そうに声をかけてくれるフィオレ。


その上自分が悪いとまで言ってる。

見るからにしょんぼりした彼女は、小動物的な可愛さがあるな。


ああ、この子は責任感の強い優しい子なんだな。


そんな彼女の様子に少しいやされ、俺はフィオレを励ます―――立場が入れ替わってるけど、励ますために笑いかけてやる。


「いや、フィオレが悪いんじゃないよ。うん、もう大丈夫。続けよう」


「はい、もしかしたら、私が知らないだけで、そういう魔法が有るかもしれません。失われし魔法などには、そういった人知を越えたものがあったとも聞きます」


「失われし魔法?」


そういえばさっきから魔法と言ってたな。

魔導師が居るぐらいだし、不思議じゃないか。

お、なんか興味が出てきたぞ?


うん!前向きになろう!

フィオレに色々と教えてもらって、当面は勇者としてがんばろう!!


考え込み過ぎるのは俺に似合わない、さっき自分で言ったばかりじゃないか!!


「詳しく教えてくれないか?」


「はい、そもそも魔法とは――――」



そんなこんなで、フィオレからは色んなことを教えてもらった。


魔法のこと、国のこと、

魔物のこと、宗教のこと、軽くではあるが、様々なことを知ることができた。


確かに賢者と呼ばれるだけあり、彼女は博識だった。


「―――へぇ〜、なるほどな……そう言えば、魔王って言うからには、魔法使うんだよな?」


「いえ、魔王、ひいては魔族というのは、魔法は使わないんです」


おや?それは気になるな。魔族=魔法っていうイメージなんだが。


その疑問に対し、話している内にやや丸い話し方になったフィオレは、一つうなずいて答えた。


「そもそも、魔法というのは人間が聖霊の力を借り、自然に語りかけるわざを指します」


フィオレが言うには、魔法とは人の内に眠る『魔力』を以て聖霊―――この世界で言う神様みたいなもの。ここらへんはまた後で話すとしよう―――の力を一部借り受ける。

それを以て火や水、光や風みたいな属性のある、俺が居た世界で一般的な認識での『魔法』ってものを使えるようになるらしい。


RPGの魔法は大概がこれに入るみたいだな。


ファイヤーボールとか、アイスランスとか、そんな感じか。


「概ねその認識で合っていると思います。また勇者召還の儀は、失われし古代魔法の一部が残されたモノなんです。だから、恥ずかしながら私たちにもまだ解明されていないことが多いんです」


フィオレは説明を続ける。


「魔法というのは内の小力を用い外の大力を動かす、人の編み出した技術です。それに対して魔族や一部の魔物達が使うのは、呪術と呼ばれるモノです」


「呪術……文字通り呪い殺したり?」


「そうですね。そう言ったモノもありますが、最も特筆すべきなのは呪術は個の存在のみで行使されるモノなんです」


魔法は使用に際し魔力の消費がある。

上位魔導師はそれをうまく使うため、燃費がいいらしい。

逆に、燃費が悪ければ、小さな魔法だけで魔力がスッカラカンになってしまうとか。


そして、呪術。

これは、聞いた限りでは人間は使いこなせないらしい。

なんでも魔法と違って、発動に他者の力を借りない、つまり自分が持ちうるエネルギーのみを使うらしい。また魔力とは違い、『心力』といった、所謂精神的なエネルギーを使うという。だから、寿命が長く、人よりも強大な精神力を有する魔族なんかには持って来いな技術だとか。


特に制限はないのから人間でも習得はできるらしい。ただ、それには莫大な意志の力と地獄のような状況でも折れない精神力が必要とか。


それでもやっと、使えるのは初歩レベルの呪術程度だという。


だからこそ人は呪術ではなく、魔法を発展させてきたらしい。


まぁ、割に合わなすぎるよな。

なんだよ地獄のような状況でも折れない精神力って。そんな奴いるのか?


「へぇ〜、しかし、呪術ってのはそこまでしないと使えないんだろ?強いの?」


「……正直言って、呪術というのは何でもありなんです」


「え?それって反則臭くないか?」


「意志の力を根元とし、他者や自己、世界に新たな事象を巻き起こす技ですから。明確なイメージと強靱無比な意志の力さえあれば、理論上は何でもできるらしいんです」


フィオレも思うところがあるのだろう、少し眉をしかめた顔でそう言った。

俺はその言葉に呆れるしかなかった。


「何だそりゃ……反則じゃないか」


「その上魔王と言うのは、魔族でも群を抜いた強者―――文字通り魔族の王です。彼は当代最強レベルの呪術使いと言っても過言ではないと思います」


なっ!?

当代最強!?

そんな力を持つ魔王と戦うのか?

俺が?


勝てるのかよ………すげー不安になってきた。

魔法なんかよりよっぽど魔法じゃないか。


話題が話題だけに場の空気が重くなり、辺りがシンとする。


そして、俺はふと思った。


「………そうだ、なぁフィオレ」


「はい?」


「先代ってのは、そんな魔王に勝ったんだよな」


「はい、そうですね」


俺と同じように召還され、勇者と呼ばれた先輩は、

そんな化け物に勝っちまったらしい。


凄いな。


そんな奴に一人で挑むなんて………


「先代勇者には、彼と共に魔王に立ち向かった四人の盟友が居たんです」


「えっ?」


フィオレは今なんと言った?

『共に戦った』………そうだ、盟友が居たと言った。


つまりは、仲間がいたんだ。


一人で戦った訳じゃないんだ―――


俺は、気づかない内に重圧が掛かっていたようで、堅く握り込んでいた拳をゆるめた。


「仲間が、居たんだな」


「はい、当時の魔王は強大だったといいます。召還された勇者だけに任せるわけにはいかないと、国一番の者達を従者として共に旅立たせたそうです」


なんかいっきに英雄譚みたいになってきた。


俺にも従者――仲間ができるんだろうか?


「これはおとぎ話のように民草にも広まっている語りなんですが、お聞きになりますか?」


フィオレが言うには、先代勇者の偉業を讃えた、まさしく英雄譚があるらしい。


「うん、是非聞かせてくれ」


「それでは―――」


フィオレは目を閉じ、その小さな手を膝の上に置いて佇まいを直し―――


―――詠うように語り出した。





―――かつて、世界は滅びに満ちていた。


五つの大国には悲劇があふれ、世界には魔王の魔の手が牙をむいた。


聖霊様は嘆き悲しみ、人々は泣き、叫び、絶望に晒された。



そんなとき、ファージールに一人の勇者が現れた。


彼の者の名をカイチロウ。


闇夜のような黒い髪眼に、朝日のような白き聖剣を携えて。


彼は魔王に立ち向かった。


従者ともには四人の英雄達。


竜をも斬り伏す大剣士。


全てを護りし聖騎士。


聖霊様に仕える姫巫女。


そして、勇者の背中を、最も深く支えしもう一人。


魔導を統べる大賢者。



彼ら五人は世界を渡り、


世界を巡り、


世界を護り、


やがて、魔王を討ち果たす。


聖霊様は微笑まれ、人々には笑顔が戻った。



ファージールに戻った勇者は、彼を待ち続けた姫君と結ばれ、生涯を姫と共に過ごした。


彼の偉業は世界を救い。


彼の名は世界に伝わる。


その勇者の名はカイチロウ。


『朝焼けの勇者』カイチロウ・アザラク――――




詠い終え、蒼い目を開いたフィオレを見ながら、俺は解ったことがある。


「カイチロウって………完全に日本人だろ」


「はい?どこか気になりましたか?」


「いや、別に……」


話自体はよくある英雄譚。珍しくも何ともない、が、実話なのだという。


いや、一番気になったのは、中に出てくる名前だよ。


『カイチロウ・アザラク』


漢字にするなら字楽 嘉一郎、かな?

珍しいから逆に間違える余地がない。

モロに御同郷だ。


時間軸がどうなってるかはしらないけれど、今の物語の中に日本人の名前が紛れ込んでるのって、すげー違和感あるなぁ。


まあ、いい話が聞けた。


フィオレの甘く透き通った声がよかったのもあるな。


「フィオレ、話聞かせるの巧いな。教師に向いてるんじゃないか?」


「へ?え、いや、えと、そういっていただけると、嬉しいです」


照れくさそうに頬を赤く染めるフィオレ。


やっぱり、可愛いなぁ……


「あのっ!コウヤ殿!」


「……ん?何?」


おっと、じっと見過ぎたみたいだ。


自重しろ、俺。


「コウヤ殿にも、従者として四人、少なくとも三人は供が付けられるはずです。貴男は一人じゃありません」


………おぉ、何という。


このタイミングでその言葉は染み入るなぁ。


俺は再び、いや三度、フィオレの優しさを知った。


「うん、ありがとな………」


俺は思わず、フィオレの頭を撫でてしまった。

何となく、そうしたかったんだが………


「へぁあ!?」


パシン、と、払われてしまった。


………そうか、そうだよな。

いきなり頭なでるとか失礼すぎるだろ、俺。

ギャルゲじゃあるまいし、何考えてんだ。

死んじゃえよ、俺。


「あっ、あの、ごめんなさい……その、あまり、慣れてなくて………」


泣きそうな顔で謝罪してくるフィオレ。


ごめんな、罪悪感が倍プッシュだ。

悪いのは俺だ、全部俺だから………


「うん、ごめんな、いきなり。俺の方こそ悪かったよ」


「いえ、別に、大丈夫ですから………」


あまり気安く彼女には触れない方がいいな。

これ以上失望されるようなことしたら、流石に心が痛すぎる。


俺の行為のせいで、またしても変な空気になってしまった。

よし、話を変えよう。


「なあ、さっきの話なんだけどな」


「はい、何でしょう?」


フィオレもその方針に賛成らしく、気に留めないように話を返してくる。


うん、有り難い。


「聖剣って今もあるのかな?」


「はい、先代勇者が帰還した際に聖霊の加護と英雄の偉業を祀り、聖具として宝物庫に保管されているはずです」


「それは、使えるのかな?」


それが気になった。

魔王を倒した勇者が振るった聖剣だ。

こういうのは相場として強力だと決まっている。


使えるならば、是非使いたい。


そう思って聞けば、フィオレはこくりとうなずく。


「コウヤ殿であれば、勇者として剣に選ばれるでしょう。聖霊の加護が付与された聖具です。真の使い手と認められれば、心強い相棒となってくれると思いますよ」


なるほどな、王様が言っていたのはその剣のことか。うん、俺も男の子だ。

そういう話に食指が動かない訳がない。


俄然やる気がわいてきたぞ!


「聖剣はあらゆる『悪』を断つ斬魔の聖具。かの魔王の呪術すら、断ち切ったと聞きます。対魔王の武器として、これ以上の物は同じような聖具にも、そうそうないと思います」


「呪術を斬ったって…すげーなぁ」


「英雄譚にはありませんが、勇者達は魔王とその『親友』を相手に、魔王城で決戦を繰り広げたのです。そこに至るまで、聖剣は全ての敵を切り払ったと言われてますから」


半端じゃないな聖剣………ん?今何か、新しいことを聞いたような……


そうだ、魔王とその『親友』。

初めて聞いた言い回しだ。


「なぁフィオレ。魔王の親友って――――」


俺がフィオレに問いかけたその矢先―――



「勇者様はこちらにいらっしゃいますのーー!!?」

ドカーーーン、と。

扉が爆発したかのように開け放たれた―――




To Be Continued ………

主人公出すのは次のつもりでしたが、

無理っぽい


あとこんな感じの話が二話続きます


その後ぐらいに、たぶん出るかと

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