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会社設立なんてした事ないんだが②

1つ目に事業内容、2つ目に事務手続きの話を詰める。


「まずは1つ目の事業内容なんだがあえて一つに絞らなくてもいいと思うんだ」


「といいますと」

結局、エンゼルクリームを口の周りにつけながらもぐもくと返事をする胡桃沢。


「俺は前職が賃貸の仲介と管理だからそれはやろうと思ってる。でもメインでやるにしては厳しい」


「なんで厳しいんですか?一本に絞った方が稼げそうですが」


「不動産仲介の会社なんて無数あるが実は大手でも中小でも提供できるサービスにさほど差はない。」


「そうなんです?」


「部屋案内にしても自ら建設したマンションを専任で紹介できる。とかなら優位性はあるが、その事例は少数派だ。例えばミニミニも街の小さな不動産屋も結局仲介手数料を貰って他人の物件を紹介するだけでやってる事は変わらない。ただ安心感という差で集客に差が生まれてくる。」


「なるほどですね」


「27歳の俺と新卒胡桃沢の、若い駆け出し不動産屋に大事な家探しを頼みたい奴がそんなにいるとは思えないだろ?」


「そりゃそうですね。私でも頼みません」


「仲介はお客さんがいない間は収益が生み出せないんだ。暇な時間がないくらい、お客さんがとれれば良いんだが、多分厳しい。だから不動産自体は知り合いとか、問い合わせくれたお客さんだけ丁寧に対応して残りの時間は別の仕事をする」


「なるほど、不動産に絞ってしまうと特に生産性のない時間が発生しちゃうから、暇な時間は別の仕事をすると言うことですね。」

こくこくと頷く胡桃沢。理解が早く助かる。


「いいと思います。私は経験が無いから見てるだけしかできなくて本当に本当に申し訳ないですが」


「だから胡桃沢、お前10月の宅建取れ」

 

「えっ?私に話しかけてますか?」


「俺に幽霊が見える能力はない。あったらそれで金稼いでる」


急に、不安そうな表情を浮かべる胡桃沢


「不動産の仲介では宅地建物取引士の資格、通称宅建だが、10月に試験があって今月ギリギリ申し込みできるから、勉強して取れ」


「10月…?あと3ヶ月しかないですよ?なんかそれなりに難しいって聞いたことありますけど」


「まあ予備校通っても2年くらいかかるやつはかかるし、取れるやつは3ヶ月でも取れる」


「いやー私勉強そんなできないですよ?それないと開業できないんですか?」


「いや5人に1人以上保有してればいいから、俺が持ってる以上、今のところ不要だ」


「なんだ、じゃあ取らなくてイイじゃないですか。

私の驚いた顔見たかったんですか?可愛かったですか?」

ホッとした顔の胡桃沢。


「いや取った方がいい。この会社で必要なわけじゃないんだ。もし会社が全然ダメだった時、胡桃沢の再就職の難易度が全然違う」


「え…?どういう事ですか?」

目をクリクリさせて質問される。


「不動産業界ってまだ昭和気質というか、根性やる気みたいなゴリゴリした感性を評価しがちだ。だから、もし俺との会社がダメだった時でも、宅建持ってる、起業して頑張ったけどやっぱ経験足りなかったから、勉強させてください。で多分不動産系の会社は再就職は苦労しない」


なにやら、提案の趣旨が掴みきれてなくおどおどして考え込む胡桃沢。


「ダメだった時の事もう考えてるんですか?


「というよりは…ダメだった時に胡桃沢の人生が苦労しないようにな、俺はまあどうなってもいいんだが。お前はピカピカの新卒ちゃんなんだ本来。青学だしルックス良いし本気出せば大手も余裕だぞ本当は。そんなチャンスを俺に託してきてるわけだから、それなりに責任も感じる」


「そんな事考えてくれてたんですね…でも私が就活嫌だから始めた話ですから責任なんて感じなくていいです。」


「まあ宅建取るって言っても、頑張るのお前なんだけどな」


「…有栖川さんのいう通りかもしれませんね。保険はあった方がいいです。正直会社なんてどうなるか分からないですもんね。試験、受ける事にします」


「ああ、まあ毎年受けられるし、今年何が何でもってわけじゃないからさ」


「…その代わり分からないところあったら教えてくださいね」


俺がとったの5年前だからな。

あまり教えられる自信がない。


「OK。色々聞いてくれ。そしたら俺もAIに色々聞くから」


「AIの仲介してるだけじゃないですか」

将来の社会構造も実際こうなりそうだが。


「じゃあ宅建は目指すということで。話を戻すが、

不動産以外で何かやれることってあるか?」


「なにか…うーん。」

エンゼルクリームを食べ終えエビグラタンパイに食べ始めた。パイ生地部分が食べにくそうだ。


「お金になるようなスキルとか人脈とか。まあなくて当たり前なんだが。例えばピアノが弾けて先生ができる、とかそういうの」


「ないですね…バイトもパン屋ですし学部は文学部なので特にお金儲けができるような知識は…」


「お前何学科なんだ?」


「一応英文ですがギリ読めるくらいですね。ほとんど喋れません。すみません。こうなるなら勉強しとけばよかったです」


就活でも英文学科で英語話せないはなかなかきつかっただろうが可哀想なので触れないでいてあげた。


「俺もお前もなんにもできないか…」

基本的に資本も技術もないからサービスとか提供する形態だろうな。何がいいんだろうか…


「何もできないなら、逆に何でも屋とかどうですか?」


パイを食べ終えた胡桃沢が言った。


「すまんどういう意味だ?」


「できる範囲のことを何でも受けるんです。何でも屋というか便利屋です。主軸は有栖川さんに不動産で頑張ってもらって、残りの時間は便利屋で困ってる人の手助けをするんですよ」


「便利屋か…薄利だし不安定だし経営的には難しいんじゃないか?」


「でも街の人の信頼を得ていけば今後もお願いされるかもしれませんし安定してくるかもしれません。しかも家探しとか管理も任されるかも」


「…突飛なアイデアだと思ったが悪くないかもしれない。街の人々の信頼を得て、不動産の仲介や管理を任せてもらう。」


「ね?いいでしょ。私たちスキルも無いんだしやれる事やるしか無いと思います。」


「うん、悪くない」


「それに…私ひとのためなら意外と頑張れるんです」


「…モチベーションの話か?」


「パン屋もそうだし、自堕落なのはそうなんだけどね。やっぱ人が喜んでるの見るの嬉しいし、こんな自分でも役に立つんだって思えるから」


そう語る胡桃沢は大人びて見えた。会って2日目だが、ヘラヘラした部分もあるがこうした優しい一面も垣間見える。


「胡桃沢頑張ろうな」

「なんですか急に気持ち悪いなぁ」


少なくとも、コイツのために頑張ってやろうかなと思うくらいには胡桃沢はお人好しだ。

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