会社設立なんてした事ないんだが
胡桃沢から借りた300万で消費者金融返済を終える有栖川。
そして会社設立に向けて打ち合わせのため、ミスドへ。
さてと…一通り終わったな。
爆睡した翌日、俺は300万を用いて返済を行なった。朝9時から各消費者金融、管理会社、ライフライン会社にひたすら電話をかけて滞納や残高の確認。
一通り確認を終えたら、ネットバンキングで振込実施した。
滞納マスターの俺は自動音声案内のアナウンスを聞く前にボタンを押してオペレーターに繋ぎ、完済残高と振込先口座の説明中に画面を操作し、ネットバンキングで振り込み終わるおいう早業も披露した。
「では、最後にもう一度振込先口座復唱しますね」
「いや、大丈夫です。だってもう終わりましたから」
これがトレーダーならかっこいいんだが、借金を必要以上にせっかちに返してるだけなのでマジでカッコ良くはない。
オペレーターも驚きよりもドン引きが勝ってた。
あと宿敵ニコニコファイナンスも滞納どころか残額一括返済できますと伝えたら、それはそれでええぇ…なんでですか?と不機嫌になった。
利息が稼げないからだろう。さよなら…
最後までニコニコ対応はなく会社名を変えた方が良いと思った。
全部終わった時には11時を過ぎていた。
結果として支払額は293万で、手元には7万も残った。7万手元にあるだけで心持ちが全然違う。
胡桃沢との約束は14時にミスドだったな。
色々案を考えていこうかとも思ったが、既に疲れたので一旦昼寝をしてから向かう事した。
すると再度電話が鳴った。
画面にはニコニコファイナンスの文字。
なんだなんだ…
「はい。有栖川です。どうかしましたか?」
「あ、有栖川さん、振込ありがとうございまた。でも1万多いです。完済嬉しすぎて浮かれてましたか笑?返金先の口座は以前の融資した際の口座でいいですか?」
初めてニコニコファイナンスを笑わせた。
計算通り…と言う事にしておこう。
◼️
俺は昨日歩いた茶沢通りをもう一度歩いて三茶のミスドへ向かった。昨日は夜なので比較的涼しかったが、今日はかなり暑い。溶けますね。
ドーナツよりアイスが食べたい気分だ。
20分歩き続けてミスドに到着した。
結果的に5分前に到着したのだが、少し急ぎ目で歩いたせいで尚更汗をかいてしまった。
ミスドの前で待っていると、横断歩道の先に白いキャミソールにシースルー仕様のライトブルーシャツ、ジーンズというラフな格好の胡桃沢が見えた。
こちらに気づいたのか、軽く手を挙げて、そのまま急ぐわけでもなくてくてくと近づいてきた。
不審気に俺のことを眺めて言う。
「えと…川に落ちたんですか?」
「落ちてない」
「川に落ちてないんですかこれで?!!濡れすぎですよ?」
川に落ちてない事に、驚愕されたのは初めてだ。どんだけびしょびしょなんだろうな俺。恥ずい。
「あのこれ…あんまり意味ないかもですが使ってください」
小さなポーチからミニタオルを出してした胡桃沢。
「いやいいよ悪いし」
女子のタオルとはなんとなく気が引けるし。
「こんな汗だくtシャツ短パン男と一緒にいたくないです!」
別に生理現象なので俺が悪いとは思わんのだが、流石にこんなやつと一緒は嫌だろう。
ここは素直に使わせてもらう事にした。
「すまん借りる」
ミニタオルだがなかなか吸収率がよくみるみる汗を吸い込んだ。
「でも歩かせちゃいましたね。ごめんなさい」
「今度から中間地点にしてくれるか?」
「うーん、夏と冬以外ならいいですよ」
「俺が不利すぎる」
「あと雨も」
「雪はいいってことだな」
「雨も雪の一種です。とりあえず中入りましょ?暑いです外」
店内は冷房ガンガンで本当は少し寒いくらいなんだろうが今の俺に丁度よかった。この感じなら汗もすぐ引きそうだ。
胡桃沢早速トレイ持ってトングを持ちカチカチしている。
「私は何食べるか決めてきましたよ」
「ほー何にするんだ」
「まず、ポンデリングでしょ?」
「お前昨日、にわかって言ってなかったか」
「そういえば未読無視されました。悲しいです。」
「お前が煽ってくるからだ」
「メンタル弱すぎですよあんなんで苛立ってちゃ」
「なぜに俺が怒られるのだ」
「エビグラタンパイでしょ」
俺との会話は流し気味にドーナツを選び続ける。
「それは美味そうだな。熱そうけど」
「そして…エンゼルクリーム、この3つにします」
「俺はポンデリングだけでいいや」
胡桃沢はドーナツに加えてアイスティーを頼んでいた。俺は水で我慢。というか水が1番飲みたい。ドーナツも正直そんな食えない。
今日は8月の平日という事もあって夏休みの学生もチラチラいるが、満席というわけではなくすんなり座ることができた。
トレイをテーブルの上に置いて胡桃沢はミニバッグを床下のカゴに入れた。
「じゃあ頂きます。まずはエンゼルクリームからにしようっと」
手が汚れぬよう紙ナプキンで覆うような形でエンゼルクリームを掴んでモグモグと食べ始めた。
「ん〜、やっぱクリームたっぷりで美味しいです」
「胡桃沢って甘いものが好きなのか?」
「好きです。でもしょっぱいのも辛いのも好きです」
「全部好きじゃないか」
「はい。嫌いな食べ物は特にないですね。有栖川さんは嫌いな食べ物とかありますか?」
改めて問われると難しいな
「パクチーとか苦手だな」
「あー癖ありますよね。最初は苦手でした。でも女子大学生はタイ料理をインスタにあげる時期があるので付き添いで何回も食べてたら慣れました」
「なんだその仄かな女子大生の習慣批判は。女子大学生のインスタってどいつも似たり寄ったりだが、何かマニュアルがあるのか?」
「さぁ、どうでしょうね。私はやってないからわかりませんが」
「胡桃沢って陽キャにカモフラしてるって言ったが、インスタはやってないんだな」
「ええ、だってインスタなんて始めたら引きこもりなのバレちゃいますし…顔出すのは嫌なんで、毎日壁映すだけですよ」
「床も映したらどうだ?」
「床は散らかってるんで映せませんね」
「昨日の見たら、何も言えんな。
でも友達からはやれ言われそうなもんだが」
「高校の時はやってたんだけどDMで変な男に絡まれて以来やめてるの」
「って嘘ついてるのか」
「はい」
「そんなやりたくないのか」
「だってさ、ありのままを投稿したら例えば今だって有栖川さんの写真を載せるわけでしょ?警察に捕まっちゃいますよ」
「載せただけで?画像投稿しただけだけで、警察動くとかどんだけ危ない存在なんだよ」
「ミスド食べてるせいで、ミスドから訴えられますよ?」
「犯罪しちゃった芸能人みたいにイメージダウンはしないだろ。そもそも俺のこと誰も知らないし」
くすくすと胡桃沢。喋りながら食べていたからか
エンゼルクリームが口についてる。
「おい、口にクリームついてるぞ。」
ジェスチャーでついてる箇所を示した後、紙ナプキンをとって渡す。
「ありゃ失礼。ありがとうございます」
ちょっと恥ずかしそうにクリームを拭く胡桃沢。
「これクリームつけないで食べるの無理じゃないですか?」
「そうだね。胡桃沢は悪くないよ。」
「別にそう言う意味で言ったわけじゃないですかねらね」
そういって、ゆっくり慎重に食べるようになった。そんなの気にしなくていいのにな。
「じゃあそろそろ話に入るか。今日は会社設立の話だよな。議題は大きく2つ。1つ目が業務内容、2つ目が設立に必要な事務手続の確認」
「2つ目はさっぱりですね」
「これはネットと状況に応じて専門家に相談だな」
「ガンバッテクダサイネ」
「なんだその唐突な機械音声。他人事みたいに言うなよ」
「だってその面倒な手続きとかの為に雇ったんですから」
「んん…まあそうだな…」
「ありがとうございます。何かあれば手伝いますからね。ビール一緒に飲んで励ましてあげます」
「まあともかく一つ目の事業内容を決めようか。」
皿の上にあるポンデリングを齧ってから一気に水を飲み干す。
その様子をじっと見つめて言う。
「…水取ってきましょうか?暑いのにたくさん歩かせてごめんなさい」
あまりに水を美味しそうに飲むから罪悪感を覚えたのかもしれない。そんなつもりは一切無かったのだが。
「別にこの暑さの中電車使わず歩いたのは俺選択だし、胡桃沢が気にする事じゃないって」
「そんな飲まれっぷり見せられたら申し訳なくなってきました。水取ってきますね」
胡桃沢は、水を淹れたコップを3つ持ってきた。
「そんないらないぞ」
「どうせ何回も行くなら面倒なんで取ってきちゃいました。いっぱい飲んでいいですよ」
無料の水で奢るみたいに言うなよ
そう思いながら、俺はさっきよりもゆっくり水を飲みこんだ。




