約束なんてもの久々にしたんだが
話し合いをする為に胡桃沢の家にお邪魔した有栖川。今後の方針を決める為に自己紹介する事に。有栖川は過去を話した上で、改めて融資を受けてもいいか問いかける。胡桃沢の答えは…
胡桃沢の部屋の片付けは結局1時間程かかった。
1LDKとそれなりに広い部屋だった事もあり、流石に俺だけでは手が足りず結局俺が分別をして、胡桃沢が収納とゴミ捨てをするフローに落ち着いた。
胡桃沢は少し働いてはソファでビールを飲んでを繰り返していた。
一通り片付きなんとさ、一応部屋という体裁を主張できるくらいにはなった。意外とこう言う仕事向いてるのかもしれない。
リビングのローテーブルにお菓子とビールを置いており、その前には2人がけのソファがある。胡桃沢はソファに座っており、俺はカーペットに直接座り込み一息ついている。
「いやあ片付きました」
「この部屋泥棒にでも入られてたのか?」
「そうですね、慢性的に入られてます。だから部屋がこんなに散らかってるんですよ。私のせいじゃないんです。よく分かりましたね」
「防犯対策した方がいいぞ」
「凄腕の泥棒なので、何をしても入られて荒らされちゃうんです。入られたらまた有栖川さん呼ぶので大丈夫です」
「俺はハウスキーパーなのか?」
「暇なくせに」
くすくすと笑っている。何も言い返せない。
「まあ今日はこのビールと明らかにおやつとは言い難いサンドイッチがバイト代という事で」
サンドイッチはやはりおやつ認定されなかった。こいつの母はアメリカ人ではなかったらしい。
気にせず俺はタマゴのサンドイッチをもぐもぐと食す。
「じゃあ部屋も片付いたし本題に入るぞ」
「本題?あれ有栖川さんなんで私の部屋にいるんでしたっけ?かなり凄腕のストーカー?」
「会社作るんだろ!あと300万も貸してくれるって」
「300万…そんなこと言いましたっけ?」
冗談でも心臓に悪い。ただ催促もきがひける。なるべく平穏を装って聞いた。
「さっき約束したじゃん、酒飲みすぎじゃないか?」
「えー本当に覚えてません」
「ちょちょ、それはないだろ、300万貸してくれるって言ったじゃん」
すると、胡桃沢がニコッと笑って
「有栖川さん焦りすぎ」
こ、こいつ舐めてるな…一応5歳年上なんだが。一瞬イラっときたが、まだ300万円を借りきってない事を思い出し冷静になる。
「有栖川さん今イラッとしたけどお金まだ借りられてないから一旦冷静になろうとしたでしょ?」
年下に見透かされとる。
「わかりやすいんだよ、有栖川さん」
「そ、それよりもだな。」
くすくす見ている。どうせ話逸らしたなとでも思っているのだろう。気にせずここは進める。
「そんな用事なんかないのに、せかせか進めなくても良くない?」
「用事ないのを決めつけるなよ」
まあないんだが。
「家帰ってネットで成功者の悪口いっぱいかかなくちゃいけないもんね」
「そんな歪んだ人間に見えてるのか俺は…。まあいいよ…このノートとペン借りていいか?」
「え、あ、はい。どうぞ。」
ローテーブルの上のノートとペンを使って
俺は紙にまず話し合う議題を書き出した。
①自己紹介
②融資内容
・借入条件
③会社の内容
・事業内容
・設立までの必要作業とスケジュール感
・仕事分担
胡桃沢が紙を見ながら言う。
「自己紹介必要ですか?」
「会社作るんだろ?運命共同体なんだから、互いのことはある程度知っといた方がいい。」
「ああ、なるほどですね」
「胡桃沢の経歴を知らないが、会社運営で武器になる事もあるかもしれないしな」
「そうですねぇ、有栖川さんに身元明かすの悪用されそうでとてもこわいのですが」
「俺別に借金あるけど闇組織ではないからね」
「私をどこかに売り飛ばさないで下さいね」
「小銭稼いでもしょうがないからな」
…本当はこいつの容姿ならそこそこな値売れそうだけど。
「ひどいです!安売りする気ですか!」
「部屋の片付けまでさせておいてどっちがひどいのか。まあじゃあ俺から改めて自己紹介する。」
「はい、じゃあ改めてよろしくお願いします。」
「有栖川宗、歳は27、兄弟はいない。一人暮らし住んでるのは下北だ。」
「へぇお住まい下北だったんですか、近いですね」
「出身は静岡。大学はこっち、初めて勤めたのは不動産会社だった。マンションの仲介と管理の会社だった。手取りは良かったんだが、いかんせんブラックだったんだよ。」
「ブラック?どんな感じだったんですか?」
「朝6時から22時。時々日を跨ぐ。休みは週一」
「えぇ…やばいですね。入る前に分からなかったんですか?」
「分からなかったな。規定上はホワイトなんだが、ノルマが厳しすぎてな。年次があがるたびに売り上げのノルマが上がるんだが、その数値が普通の働き方だとまず到達できないから、結果的に残業するしかない。」
「ノルマに到達しなかったらどうなるんですか?」
こころなしか目をキラキラさせてる気がする。
「パンパンよ」
「なにが!?」
「そりゃいろいろ」
「うわー体罰ってまだ、あったんですね。そんな会社すぐ辞めればよかったのに」
「給料は良かったのと辞めるのにも体力使うだろ。辞める体力すら捻出できず、結局5年くらい続けてしまった」
「そうだったんですね。かわいそう有栖川さん。特別にじゃがりこ食べていいですよ」
俺の苦労はじゃがりこ程度らしい。
「手取りも良かったから、時々ストレス発散で競馬してたんだがハマりすぎてな。勤め時代も最後の方は借金してて」
「ブラックで借金まみれとか詰んでるじゃないですか」
そうだろう。藤井聡太でも詰み投了するレベル。
「返済のために辞めるわけにはいかなかったんだが結局心折れてな。半年前に辞めてからは仕事もなく金もなく、日雇いで食い繋いで競馬で逆転夢に見てたって感じ」
「いやぁ見事な転落人生ですね」
「辞めてから半年経つが人間ってのは一度ダメになると加速的堕ちてくんだよな。一度妥協すると、妥協に慣れてくんだよ。初めはよくないと思ってたし、借金なんかクズの行為だと思ってた。俺は取り返しがつかない状況まで追い込まれてようやく自分の置かれている状況の危うさに気づいた。もう手遅れだった。今も社会人としてやってく自信が戻ってない。あんな会社に当たってしまったらどうしようって」
「実家に帰られたりはしなかったんですね」
「もちろん最初は両親に助けを願ったが、むしろほぼ勘当のようなことを言われてしまったよ。両親は悪い人ではないが、厳しい人だから受け入れられなかった。状況が改善するまで連絡も取りにくい」
胡桃沢は少し間をおいて俺に言った。
「辛かったですね。未来が見えない状況、周りに頼れる人もいない。頑張ろうにも頑張れない。」
慰められてしまった。カッコ悪い大人である。
「…でもね有栖川さん、大丈夫ですよ」
「大丈夫?」
ふっと息を飲んでこちらを見つめる。
「だって、私があなたを助けるから」
先程までの抜けたようなふわふわした雰囲気ではないが、柔らかな表情でゆっくりとそう言った。
「この状況を知ってるのは親と、ごく一部の友人。助けてくれる人はいなかった。」
胡桃沢に投げかける。
「改めて聞くが、なんで俺なんかを助けてくれる気になったんだ?」
暫くうーんと考えた後、胡桃沢語り始めた。
「…私はめんどくさがり屋だし、自分に甘いです。困ってたら誰かに助けて欲しい。でもね有栖川さん。自分に甘くて、他人には厳しい、そんな人間はよくないと思ってます。私は自分の甘えが許される為には、他人を同じくらい甘やかす必要があるし、ひいては困ってる時には助けてあげるべきだって思ってます。勿論自己犠牲をするかは別ですが。ただ今回は就活の件も含めて私にもメリットがあったし、このお金はそもそも有栖川さんのお陰で手に入ったようなものです。あげるわけではないですよ?貸してあげるだけですからね。」
「絶対返すつもりだけどさ、自分で言うのもあれだが…こんな経済状況のやつが300万返せるかなんて怪しい事この上ないぞ」
「さっきから借りたいんですか?借りたくないんですか?どっちなんですか…?」
戸惑い気味に胡桃沢は続ける。
「あのね、もし会社が失敗しても、300万が返ってこなくても、最悪いいんです。情けは人の為ならずという言葉があります。私は自分を特別な人間とは思いません。どこにでもいる平凡な人間です。だから私の思考が平凡な大勢と同じだとすれば、いつか自分が困った時私が有栖川さんを助けたように、誰かがその時自分を助けてくれるって思える。そう思えるだけで心が楽になる。自分の為です。あと…単純にもし私が今の有栖川さんだったら、誰かに助けてほしいだろうから。他人にされて嫌なことはしない。他人にされたら嬉しいことはする。それだけです。だから…貸してあげます」
「なるほどな…話してくれてありがとう。」
…俺は胡桃沢の信条を聞いて、正直この世界はそんなに綺麗にできていない、と思った。ギブとテイクがイーブンな事の方が少ないし、搾取する側とされる側に別れている。俺がかつてブラック企業搾取されていたように。まあ、信条なんて人それぞれだから、ここで胡桃沢の考えを否定はしないことにした。
「その考えを俺は肯定も否定もしないけれど、さっきの話の中で一つ伝えておくと」
きょとんとした胡桃沢。リスのようだ。
「もし次、胡桃沢が困ることがあったら俺に言ってくれればいい。絶対に助けてやると約束する。誰かが助けてくれるなんて、曖昧希望ではなくて、俺が助けてやる。」
するとびっくりしたような表情を浮かべた後、すかさず胡桃沢は微笑みながら言った。
「…ありがとう、有栖川さん。でも自分すら助けられてないのに、絶対助けるって言われても全然説得力がないですよ」
「正論すぎる」
正論すぎるってばよ
「ただ…今のが虚勢でもなんだったとしても、そう言って貰えたから、それだけであなたを助けて良かったと思えました」
少し目を細めて、微笑みながら甘えるように言った。
「いつか困ったら絶対助けて下さいね。約束です。一生ですよ?」
こんな俺が誰かを助けるなんてバカバカしい。だけど、自分を信じてくれて、頼ってくれる、その感覚は久々であった。
さっき飲んだビールはアルコールが強かったんだろう。そうでないと説明がつかないくらい、俺は顔が熱く赤くなっているような気がした。
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