大晦日位ゆっくりさせてほしいんだが③
美咲との話の後、胡桃沢の家に大掃除は向かう。
二人が迎える年越しは…
美咲との復縁話が一旦円満に終わって良かった。
ただ少し重い話もあったのでそのままどこか出かけるという流れにならずお開きになった。
まだ19時過ぎである。
人通りはあるがいつもの渋谷のごった返すようなごみごみした喧騒はもう無い。シャッターを下ろしている店も見受けられ、いよいよ年の瀬という様相だ。
しかし、一人でフラフラしてる奴はマジでいないな。
どうやら俺が異常者らしい。適当に酒でも買って家でゆっくりしようと思ってたらLINEがきた。
【胡桃沢:有栖川さん、本当に私の部屋掃除したくありませんか?】
胡桃沢からである。掃除はやはり進まなかったようだ。
この時間から俺に掃除させる気なのか?
…まあ時間もあるし行ってやるか。
今日やるか年明けに手伝うかの違いだしな。
【有栖川:早めに用事終わった。まだ家なら今から行くが】
【胡桃沢:お待ちしております!】
いつもの胡桃沢の部屋の状態だったら今日中に
終わり気がしない。どんな年越だよ。
◾︎
胡桃沢の家に到着して、オートロックのインターホンを鳴らして、インターホン越しに会話を続ける。
「おいきたぞ」
「上がってください」
エントランスの自動ドアが開き、
202号室へ向かい再度インターホンを押す。
がちゃと、開き胡桃沢がでてくる。
「すみません、きてもらって。上がってください」
もふもふの薄手のクリーム色のフリースで胡桃沢が現れた。中に入れてもらう。
「覚悟していくぞ…あれ…?」
何やら様子がおかしい。
「どうですか!?見てください?」
なんとピカピカで散乱したものなどがなく整理されている。ゴミもなく、ピカピカの状態だ。
「すみません。別の部屋と間違えたみたいです。失礼しました。人違いでした」
「合ってますよ!胡桃沢です!」
「じゃあなんでこんな綺麗なんだ?あなたは誰ですか?」
「胡桃沢ですよ。何で素直に私がしたって信じられないんですか?」
「いや、びっくりした」
「私が本気を出せばこんなもんです」
えっへんというドヤ顔でこちらを覗き込む。
「お前…やればできるじゃないか…」
「えへへ…もっと褒めて下さい」
素直に褒められて喜んでる。
「…ちょっと待て。それなら、俺が来る必要なくないか?なんで呼び出したんだよ」
「はい、お部屋ピカピカにできたので、折角だから見てもらおうと思って、呼んだだけですから」
「どんな理由だよ。。でも、手伝うはずだった掃除手伝わなくていいから俺も得してるのか?」
「良かったですね!有栖川さん」
よくはない。せめて、交通費は請求したいとこだ。
「そういえば、有栖川さん今日何の用事だったんですか?口座売買ですか?投資詐欺?警察呼びますね?」
「何も言ってないのに呼ぶな。俺は金はないが犯罪はしない」
美咲って詐欺で捕まっても無罪にしてくれるのかな?
危ないか?いや、そういう問題じゃないか。
危ない、一瞬一線越えかけた。
長引きそうなので空きスペースの床に座って話を続ける。
「美咲から連絡きて会ってた」
言うか迷ったが、隠すのも後ろめたかった。
「え、美咲さん本当に連絡してきたんですか?もしかして、復縁話とか?」
「よく分かったな。当たりだ」
「え…?有栖川さんなんて言ったんですか?」
「胡桃沢に300万完済するまではできないって言ったら、じゃあ美咲が300万私が代わりに貸すとか言い始めて。そしたら胡桃沢と縁切れるでしょって」
「…え、それってOKしたんですか?そしたら…私の会社にいる理由なくなりますよね…?有栖川さん…?」
不安そうに見つめる胡桃沢。
「しなかったよ。そしたら胡桃沢との会社も離脱させられそうな感じがしたし。このタイミングで抜けるのは無責任すぎる」
緊迫した面持ちから、一気安堵する胡桃沢。
大きな瞳をくしゃっと潰してこちらを見てくる。
「私の方が大事って事ですね?」」
「…別に、このまま投げ出すのは無いだろ。俺の責任感が強くて良かったな」
「ふふ、責任感ですか。まあそういう事にしておいてあげます」
徐に立ち上がり、鼻歌を歌いながら冷蔵庫を何やらもぞもぞしている。
「年越しそば食べませんか?」
「え」
「流石にきてもらって何もないのも悪いし、ご馳走します」
「…お、そりゃ嬉しいな飯代浮くし」
「年越しそばをしっかり飯として捉えないで下さいよ…」
慣れた手つきでちゃかちゃかと蕎麦を茹でて、
2人分拵えてくれた。
「できました、どうぞ」
「いただきます…お、うまいな」
「もっと褒めて下さい。頑張れば掃除も料理もできちゃうんです」
「毎日、この位冴えてるといいんだけどな」
「食べなくていいですよ?そこの塩でも食べててください」
「調味料だけ!?嘘です、美味しいです年越せます」
その後は2人で紅白を見ながら蕎麦を啜った。
誰これ?この人こんな顔だったの?!フル初めて聴いたわなど、たわいもないことを言いながら。
「あ、そういえば美咲、顧問弁護士無料でやってくれるって」
「え…普通そういうのお金かかるんじゃないんですか?」
「なんかやりたいから、毎月面談もしてくれるって」
「…有栖川さん自分への好意利用して手伝う要求したんですか?私、そういうのやり方嫌いです」
むぅと睨みつけてくる。
「違う違う!勝手にあっちから言ってきたんだよ。毎月面談もしてくれるって」
「…それって、ただの口実で有栖川さんに毎月会いたいだけなんじゃないですか?」
「やっぱそう思う?」
「はい。そうだと思います。ありがたいですけど…」
ありがたがってる人の表情ではない。
少し時間をおいて胡桃沢が口にする。
「有栖川さん。やっぱり美咲さんとの関係において、私の事は気にしなくていいです。美咲さんにお金借りて復縁して私から離れても、大丈夫です。私の事は気にしなくて大丈夫ですからね?」
それがやっぱり不安らしい。
「…安心しろ。俺は胡桃沢以外からお金借りるつもりはない。俺の債権者は胡桃沢だけだ。」
それは即ち、完済までは一緒にいるということだ。
「よくそんな事、堂々とカッコつけて言えますね…流石ダメ人間です」
ホッとしたのと呆れてるのが、入り混じった顔をしている。
「でもまあ、胡桃沢への借金完済しても…お前の怠惰でズボラなところがマシになるまでは、暫くは一緒にいてやるよ」
胡桃沢は新卒で就職を見送ったのだから、社会人の基礎は、俺が教えてあげなければならない。
俺がいなくても、一人で自立して社会で働けるまでは育てる責任があるだろう。
「…それじゃあ…ずっと一緒にいなきゃいけないかもですね」
嬉しそうに微笑む胡桃沢。
「少しは直そうとせい」
もし借金を返し終わったら胡桃沢の会社で働く理由は薄くなる。俺はその後どうするんだろうか。
胡桃沢の会社を辞めて、美咲と復縁して普通の人生をあゆんで行くのだろうか。
「ご馳走様。そろそろ行くよ」
時刻22時。ぼちぼちいい時間だ。
「えっ…行くんですか?」
「なんで?」
「後少しだし、年越し一緒にしませんか」
「俺との年越しなんて縁起悪いぞ多分。2026年どうなっても知らんからな」
「私が強運なので、むしろ有栖川さんの2026年は良くなるかもしれません。これは勝負ですね」
「その勝負、俺に実質負けはないなぁ。勝っても俺の縁起悪さが証明できるし、負けたら胡桃沢のお陰でハッピーになれる」
「縁起悪さの証明なんてしてどうするんですか…少なくとも今年は有栖川さんの人生は好転してるし、私の勝ちでしたね」
「確かにそうだな」
言われてみたらこいつと会う前の俺はひどかった。45000円用意できず詰んでた位だからな。
「…だから、私と年越しした方がいいですよ?
来年はもっといい年にしてあげますからね?」
なんという根拠のない。
「まあ、そういうなら急いで帰る理由もないそこまではいようかな」
この後ほどなくして、胡桃沢はソファでうたた寝してしまい、年越しまで間も無くだが、起きそうにない。
「自分で一緒に年越しようって言ったのにマジかよこいつ」
やはりだらしないとこはだらしないやつだ。
胡桃沢が寝てる中居座るのも変なので帰る事にした。
「…風邪引きそうだな」
布団を持ってきて掛けてやった。スヤスヤとガチ寝している。すると、胡桃沢が反応してバッと起き上がった。
「えっ…ちょっと…有栖川さん…もしかして私の事襲おうとしてましたか?」
「違う!お前が寝てたから布団掛けようとしただけだ!」
ガチで誤解されたくない。結構強めに否定する。
胡桃沢へのセクハラは美咲も絶対弁護してくれないだろう。
「あれ、本当だ…布団が…」
「ほらな誤解だよ」
「なーんだ…意気地なしか有栖川さん。襲ったのかと思いました」
「…やめろよ。本気にしたらどうすんだ」
こいつ天然だったらかなり危なっかしいな。
「有栖川さんはそんなのに無責任じゃ無いですから絶対しません。わかってます」
「…勘弁してくれ」
絞り出すように冗談っぽく伝えた。
こいつとそういう関係にはなりたくない。
「…布団ありがとうございます」
つけていたテレビからカウントダウンが流れ出す。
「あれ丁度カウントダウン始まりましたよ.5.4.3.2.1…おめでとうございます!有栖川さん!」
「おう、おめでとう」
「2026年、いい年になると良いですね!」
少し寝たせいか元気いっぱいで語りかけてくる胡桃沢。
こいつの強運には、去年はあやからせて貰ってる。
でも、夏からだった。
今年はフルで恩恵を貰えるならどうなるんだろうな。
「会社、成功するといいですね!」
まあ、運なんかなくても俺が実力でなんとかするけどな。




