大晦日位ゆっくりさせてほしいんだが①
大晦日。借金男有栖川は1人で過ごしていると、、
12月31日
俺は結局実家には帰らず東京にいる。
どうせ帰ったところで両親から心配されながら、嫌味を言われるといういたたまらない気分になると思ったからだ。
親には現在の状況を詳細に説明はしておらず借金があってフリーターだと思っている。
ただ、胡桃沢とあって以降の詳細は伝えていない。
歳下の初対面の女の子に300万借りたと言う事実は、
とうとう息子が詐欺師になってしまったと焦るだろう。
何なら親に警察に通報される可能性もある。
なので、軌道に乗るまでは帰省を見送る事にした。
となると一生帰れない可能性もあるが、まあ一旦目標だ。
初めて大晦日を東京で過ごすが、東京の大晦日は意外と静かなのだと知った。
東京は沢山の人がいるが大半地方民で形成されてる街なんだと改めて知る。
普段から俺は田舎もんだ…と変に気負いを感じる必要はなかったんだな。
みんな帰省している為、外を出歩いてる人も少ない。
街も静かだ。せいぜいスーパーが家族連れで賑わってる位で他は普段よりは閑散としている。
帰省をやめた俺だが、別に今日予定があるわけでもなく今は昼の渋谷をフラフラしている。
日払いバイトでもしようかと考えたが、流石に大晦日まで働くのは気乗りしなかった。借金があるとは言え、今日くらいは許して欲しい。
一時期に比べればマシとは言え、お金が潤沢な訳ではないので贅沢はできない。
一応、毎日飯も食えてるしライフラインが止まってはいない。俺にとっては快挙だ。
まあこれを快挙として自慢できるとすると、ホームレス相手くらいしかできんが。
俺はお金をかけずに渋谷を楽しむ術を知っている。
デパートの屋上の緑地公園、イケヤの50円のソフトクリーム、無料のコーヒーを出してくれる古着屋など。
追い込まれていた時はお世話になったものだ。今日も行こうかな。
ぶるる…
携帯が鳴動し、LINEのポップが画面に現れる。
今日俺に連絡してくるとは暇なやつである。
しかし、暇な時の友人からの連絡は正直かなり嬉しい。
ありがとう。
【2025年もありがとうございました!渾身家のラーメンを来年も宜しくお願いします!】
トッピング目的で登録したラーメン屋の年末感謝メッセージであった。
…うん、別に期待してないけど。
俺は孤独耐性を舐めるなよ。ショックは受けてないぞ?
ぶるる…
またLINEがきた。
【紳士服青山、新年セールは1月2日から開催となります。実施店舗はこちら〜】
割引クーポン目的で登録した紳士服屋の年始セールの通知であった。
うむ。さっきよりはダメージが少ないな。
ダメージって言っちゃったらもう辛いの認めてるようなもんだが。
人の交流が盛んな年末年始にきたLINEがラーメン屋と紳士服屋だけという事実に改めて俺の人生の薄さ実感していると、またまたLINEがきた。
次は何の広告だろうか?ゾゾタウンかな?
表示されている画面を覗きみる。
【美咲:この前はびっくりしたね。今日って静岡帰ってる?もし暇なら急だけどお茶しない?】
ゾゾタウンではなく、美咲からの連絡だった。
クリスマスの時、また連絡すると言っていたが、まさか大晦日にしてくるとは。
胡桃沢の件もあり、ほんの少し会う事に後ろめたさはあったものの、今日時間を持て余してるのも事実だ。ポチポチと返信する。
【有栖川:ああ、今年は東京にいる。今日は暇で今渋谷をフラついてる。】
送信後、早速返信がきた。
【美咲:うそ!私も今渋谷のスタバだよ。モディの4階】
まさかの俺の現在地から歩いて5分程度のところだった。
ちょっと心の準備したいところだったが、時間をわざわざずらすほどでもない。
【有栖川:めちゃ近いな。そっち行くわ。】
滞在していた本屋を出て、モディへ向かう。
人通りが少ないとは言え渋谷なので、スムーズに移動とはいかない。カップルや友人同士など横になって歩く集団の後ろで、追い越せず、もぞもぞと後ろをついて歩いて向かった。
募る話もあるから、こちらも構わないんだけど、
一度別れた恋人に連絡を取る目的は何なんだろうか?
考えながら歩いて、スタバに到着すると、またLINEが届いた。
【胡桃沢:今何してますか?静岡帰りましたか?】
む…次は胡桃沢か。急に人気者だな俺は。
ゾゾタウンでよかったのだが。
今、返信すると捕まりそうなので一旦未読無視して美咲を探す事にした。
美咲は容姿から目立つ為、入り口から遠い奥の方に座っていたがすぐに分かった。声をかける。
「奇遇だな、今日も渋谷にいるなんて」
黒のタートルニットに小さな宝石のネックレスをしており、シンプルだが煌びやかな装いだ。
やはりこいつは目立つな。
「私は暇な時大体この辺にいるからね」
「昔から渋谷好きだったもんな」
「覚えててくれてるんだ」
「まあ、よく一緒に行ってたからな」
「注文してきていいわよ。まだ入ったばっかりだしここでゆっくりしよ」
「はいよ」
俺は席を立ち、1万年と2千年振りにスタバを買う事に。スタバ高いし、おしゃれな空気が肌に合わず積極的に利用はしない。
店員にブラックコーヒーと伝えると、ショート?トール?ベンティ?などと聞かれたので、よくわからんが、1番安いやつで、と答えた。
答えた後気づいたが大きさを聞かれてたっぽいな。ショートとトールは何となくイメージつくがベンティってなに??愉快なアメリカ人みたいな名前だが。
程なくしてスモールサイズのコーヒーが出てきた。
金があればフラペチーノとやらを飲みたい。
ショートのコーヒーならわざわざスタバじゃなくてコンビニ行って下さい、この1階にありますよと言わんばかりのプレッシャーを勝手に感じる。
べ、別にお金がなくてフラペチーノとか頼めないわけじゃないんだからねと普通に嘘ほ、ツンデレを心の中で店員に訴えてから席に戻った。
「年末帰らなかったんだね」
たわいのない世間話からスタートされるが、この後の会話が色々と説明めんどうなので、まずこの話から切り出した。
「ああ。俺借金してて実家との関係微妙なんだよ」
「…え?借金?どうしたの?」
そこから俺はかくかくしかじか、社畜時代の後半ストレスからギャンブルで借金して、胡桃沢と出会い、立て替えてもらい、会社を一緒に作ることになった旨を簡潔に話した。
「え?作り話じゃないよね?」
「事実だ。すげえだろ」
「…凄いけど、何が凄いって初対面の宗に300万貸して人生も委ねてきた胡桃沢さんね」
「あいつは俺もよくわからん」
「あれ?この前いた子がそう?」
「ああそうだ」
「なるほどね…じゃあ彼女じゃなかったんだ」
「そう言ってただろ」
「ずいぶん可愛い子だったけど」
「そうか…?そういう美咲は俺と別れた後どうだったんだ?」
「私?ああ…あの男の人他にも女沢山いたみたいで、4股掛けられてたのよ」
「は?」
「結婚まで匂わせておいて…本当に最低だった」
「最悪すぎる。気づけなかったのか?」
「表面上は優しくて頼り甲斐ある男って感じだったんだけど…ただの女たらしだったわ。その気にさせてギリギリまで遊んでポイ。まあ今回はバレたけどね」
「お前弁護士だし訴えればよかったじゃないか」
「それも考えたけど、あっちも弁護士だからね…同業同士でガチガチでやり合うと業界でも有名になるし。それに、私も浮気して別れた原因つくった身だし。責められないわよそこまで」
「それは…なんというかすまん。」
「なんで宗が謝るの」
「いや当時は俺も悪かったよ。美咲のこと考えてあげられなくてごめん」
「いや、私が悪いよ。でね…まあその後はなんとなく男性不信になっちゃって。彼氏はつくってないの」
「そうなのか…モテるだろうに」
「そうね。上手な謙遜がなかなか見つからないくらいには。でもまた騙されるんじゃないかって。宗みたいに優しい人っていないもん」
さりげなく褒められたが、別に俺は自分を優しいとは思わない。褒める意図もわからん。
スルーして会話を続ける。
「そういば、美咲は大晦日なのに帰省してないんだな。確か藤沢だよな?」
「ええ、近いから明日は帰るわよ」
「ああ、なるほどな」
「ねぇ…宗が借金まみれでよく分からない状況にあるのは分かったんだけど」
「おう。俺もよく分からないからな」
「単刀直入に言うけど…もう一度付き合わない?」
…現況を話したらそんな事も言わないと思っていたが、何となくそうなる予感がしていた。
競馬以外は当たるんだよな俺の予感。
ぶるる…
画面をチラッと見るとまた胡桃沢からLINEが来ている。
【胡桃沢:今から私の家、大掃除したくありませんか?】
あいつも帰省してないのか。
なんか色々と面倒になってきたな。
やっぱり年の瀬くらいは、
家でだらだらと暇を堪能すればよかった。




