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アリバイでデートなんて意味わからないんだが②

アリバイでクリスマスデートの最中

有栖川の知り合いの女性が声をかけてきて。


ケーキ屋から出ると辺りはすっかり暗くなっていた。寒さもより一段と鋭くなり、吐く息も白くなっている。


「ご馳走様、助かるわ」


「いえ、付き合ってもらってるこっちですから。私はお金もありますし」


「本当は男なんだから出させろとかやるんだろうが、胡桃沢にはそういうの無いから本当に楽だ。ありがとう」


「私会社の初期投資金差し引いても、全然競馬であてたお金使ってないんです。私だらだらはしたいですが、贅沢には興味ないみたいです」


「そうか、いざとなったら貰ってあげるからな」


「有栖川さんにあげるならヤギさんにあげます」


「ヤギでも印刷紙は毒になるぞ」


「え、そうなんですか。胃の強いヤギさん探します」


「ヤギの餌なら俺にくれよ…」


「あはは。自分で頑張って下さい。あ、私はお手洗い行ってもいいですか?」


指で道すがらのデパートを指し示す。

イルミネーションの会場は公園、屋外だ。確かに事前に行っといた方がいいかな。

「あ、俺もいきたい」


デパートに入店すると、案外空いており快適にすいすいと移動できる。お手洗いは女性は少し混んでおり、俺さっさと終えて近くの書店で胡桃沢待っていた。俺は胡桃沢に待たされる事多いな。


文芸コーナーをフラフラとしていると背後から突然声をかけられた。


「宗?」


「ん…あ、あれ美咲…?びっくりした」


茶髪がかったロングの巻き髪にすらっとした出立ち、艶々とした唇に目元はキリッとしていて、一見モデルかと思う。


「…奇遇だね。クリスマスに1人で本屋?」


「いや、連れを待ってるだけだよ」


「へぇー彼女?」


「別にいいだろ誰でも。彼女では無い」


「そう。彼女じゃないんだ。そうかー付き合ってたのもう3年前だし、別に彼女でもいいんだけどさ」


「そんな経つか。大学4年からそうだな3年目くらいまで付き合ってたもんな」


「別れて以来だよね。元気そうだね」


「いや、あの後色々あったよ。まあ今は元気っちゃ元気だ」


「クリスマスにデートしてるくらいだもんね」


「…お前こそ1人でクリスマスに本屋か」


「悪い?」


「いや…」


立ち話をしていると胡桃沢がお手洗いから戻ってきてしまった。


「お待たせしました。トイレ混んでて。あれ…その方は…?」


「ごめんなさい。宗の知り合いです。たまたま今会って」


「あ、えっ、そうなんですね…」

どきまぎと返事をする胡桃沢。緊張しているように見える。なんとなくだが、あまり絡みが発生してほしく無い。さっさとこの場を終わらせよう。


「あー、じゃあそろそろ行くから」

「元気そうで良かった。また連絡するね。宗」

美咲は少し嬉しそうに、軽く手をひらひらさせて、

去っていった。


デパートから出て公園に向かう。程なくして

胡桃沢が勢いよく聞いてくる。


「…さっきの美人さん誰ですか!」

やっぱ聞かれるよな。そりゃ。


「ん…まあただの知り合いだよ」


「でも宗とか言われてませんでした?」


「…いや、まあ、元カノ」


「あの美人さんが有栖川さんの?」


「ああ」


「年下の大学生に見栄張るために嘘を…」


「本当だよ。3年ぐらい前に別れたけど」


「ふーん…何で出会った人なんですか?」


「大学の履修が一緒だったんだよ」


「へー…なんか別れたのに仲良さそうでしたね。

また飲みに行こうって言ってませんでした?てか、どっちから振ったんですか?まさか有栖川さん?」


「なーにも憶えてないなぁ…。少し前にコロナにかかったから記憶が無くなっちゃったんだろうな」


「記憶喪失にしては会話が成り立ちすぎてました」


「別に俺が過去にどんな恋愛しててもよくないか?AWカンパニーは恋愛履歴0が必須のアイドル事務所か?」


「いや、まあ、気になるじゃないですか」


「俺はアイドル枠採用だったのか…スキャンダルには気をつけよう」

「何バカなこと言ってるんですか…」

まあ気にはなるわな。歳下にはするに意地悪な返しだったかもしれない。


「俺から振ったなぁ確か」


「やっぱ憶えてるじゃないですか」


そうこうしているうちに、公園に到着した。凄い人である。入り口からでも青色のライトアップが至る木に綺麗に装飾されており、一面青く滲む光に包まれている。


「着いたな。初めてきたが綺麗だ。案外俺はロマンチストなんだよ」


「ロマンチスト自称するの恥ずかしいのでやめて下さい」


「この通りが一体イルミネーションなんだな」


「はい、綺麗ですね」


「…少し寒くないか?歩く前に自販機でなんか買おう」


「あ、はい。いいですね」


俺はまたコーヒーを、胡桃沢はココアを選択した。さっき奢ってもらったので今回は俺が奢ってやった。クリスマスのデートで120円奢ってドヤ顔は末期症状かもしれん。


プルタブを開け、湯気が噴き出る。

一口飲んでほっとした気持ちでイルミネーションのまさに青い洞窟を歩き出す。


「どうしてさっきの人振ったんですか?」


「まあその話か。あいつ美人だよな」


「はい。芸能人かと」


「しかもあいつ、弁護士なんだよ」


「え?バカハイスペじゃないですか?」


「そう、ハイスペ過ぎなんだよ。大学の頃は美人の子と仲良くなれて付き合えてラッキーぐらいの気持ちだったけど。社会人になってからはな…後ろめたさが出てきて」


「格差を感じたんですか?」


「美咲は優秀で凄く活躍してた。あの容姿だし言い寄られたりもしてたな。俺は一方暗黒企業で忙殺されてて、美咲の相手を殆どできなかった」


「それで仲悪くなっちゃったんですか?」


「いや、美咲は俺に特に要求はしてこなかったよ。仕事を変えろとも相手をしてとも言わなかった。逆に完璧過ぎて、申し訳なくて離れたくなっちゃったんだよ。不釣り合いで俺の為に時間を使わせて申し訳ないと。当時は仕事で追い込まれてたし元気もなかったから」


「じゃあ有栖川さんが一方的に一緒にいるのが辛いって振ったってことですか」


「いや、まあ美咲も実は同僚と浮気しかけてて、たまたまそれを俺が見ちゃってな。でも間違いなく原因は相手してあげられなかった俺のせいだ。怒りなんかなくて、申し訳ないと思ったな」


「結局別れちゃったんですね」


「ああ、美咲は謝ってきた。美咲は浮気の原因として、俺が不甲斐ないとは言わなかったし、責めてこなかった。自分が悪いと。でもやっぱこの状態で続いても難しいなと伝えて別れた。でも美咲も優しいからな。浮気してごめんと最後に、色々助けてあげられなくてごめん。何か困ったら気にせずまた連絡してねと」


「良い人ですね」


「ああ…でもさ、そんなこと言われたら、余計寂しいとか助けてとか言えないだろ」


「有栖川さんも寂しいとかあるんですね。ウケます」


「今、ギャグを言ったつもりはないぞ。まあセンチメンタルな時くらいある。その後は連絡も取りづらくなって関係解消って感じだ」


「でも、また連絡するって言ってましたね」


「ああ…言ってたな。話していてなんとなく思い出した」


「何をですか」



「もしかしたら、学校での胡桃沢って完璧過ぎて隙がなさすぎる。当時の美咲と今の学校の胡桃沢、近いのかもな」


「でも美咲さんはダメ人間の有栖川さんと学生から付き合ってるんだから、完璧すぎてダメ人間が近寄りがたいって理論は成立してない気がします」


「最初は思わなかったが、時間と共にそれ実感して離れたんだから同じだろう。あの時美咲も弱さを見せてくれたらもう少しそばに入れたかもしれん。まあ胡桃沢と違って、あいつは本当に弱さが見当たらなかったけど。完璧さが俺に毒だった。だらしないとかそういう隙が周りの人の居心地の良さに繋がる事もあるぞ」


「さっきのケーキ屋での話、実例だったんですね」


「この話を今することになったのは本当にたまたまだけど、まあそういう事だ」


青の洞窟自体はそれ程長くない。

ゆっくりと歩いていたが、もう終わりの方まで来ている。

缶コーヒーもあと僅かだ。

胡桃沢も先程までココアの缶で暖を取っていたが冷めてしまったのか、もうその様子は見られない。


「今、美咲さんにもう一度やり直そうって言われたらどうするんですか?」

ほんの少し躊躇った後振り絞るように質問をする胡桃沢。


「わからんな…あいつも俺も当時からは変わってるだろうし。なんなら俺は終わってるしな。でもあいつからもう一度って言われたら絶対ないとは言えんかな」


「私がいるのにですか?」


「…お前何言ってるんだよ」


急なその発言に心臓がドキッとした。胡桃沢の顔は赤い。青白い光の中でもそれは充分にわかった。


「美咲さんは完璧で疲れちゃうけど、それでも美咲さんから告白されたら、美咲さんともう一度付き合うんですか?」


「いや…別に美咲と付き合うのに胡桃沢は、関係ない。だろ、多分…」


「そうでしょうか。会社を一緒に立ち上げるとはいえ、こんなに一緒にいられたら普通嫌じゃないでしょうか」


「別に俺と胡桃沢はそういう関係ではないし、あいつも大人だから分かってくれるだろ。だから付き合っても問題ないはず…だと思うけど」


「ふふふ…何本気で考えてるんですか」


ニコッと笑う胡桃沢。冗談のつもりだったらしい。

危ない。一瞬本気にしてしまった。

本気にしてたことを誤魔化す為に咄嗟に返す。


「残念だったな…胡桃沢が本気だったら考えてやったのに」


「私が本気を有栖川さんに出す訳ないじゃないですか。あんまり舐めないで下さい」


「はいはい。省エネでいいよ別に」


「言われなくてもそうします。でも…美咲さんとまた付き合ったとしても、省エネの私は何にもできないから。だからずっと私の側にはいて下さいね」


…もう一度心臓がドキッと、なんならさっきより強くした。それは、もう一種の告白なんじゃないだろうか。しかし仮に美咲と付き合ったとしたら、胡桃沢のそばにいるの難しいでだろう。


俺は、返事をしなかった。


青いトンネルはまるで幻想だったのかと思うほど抜けた先は暗い、ただの公園であった。


◾︎


「家まで送ってもらってすみません。」

胡桃沢のマンションの前まで送ってやった。


「ん、別に近いしな。夜も遅いし」


「じゃあ今日はありがとうございました。今年はもう会わないか。年明けからまた大変ですけどよろしくお願いします。良いお年」


「ああ、激動の一年だったよ。来年もよろしく」

先程のまでの気恥ずかしいやり取りを互いに流したいのかあっさりとしたやり取りで別れを告げる。


「あっ!」


「どうした大きい声出して」


「あの、アリバイ工作なのに…写真一枚も撮ってません!」


「…確かに!すまん?気づかなかった!」

バカすぎるぞ2人とも。


「私も普段写真撮らないから忘れてた!あーバカだぁ」


「今日一体なんの意味があったんだろな」


「…じゃあ今日はAWカンパニーの年末慰労会だったという事で!お疲れ様でした!」


「なんだよそれ。ま、じゃあそういう事で。またな。」


帰り道、早足で自宅に向かう。


省エネの人間が簡単にアリバイ作れるのに、あえてクリスマスデートをしたがるだろうか。

冷え切った頭でもそんな違和感には気づいた。


今日は疲れたな。

慰労会なんて、こじつけにも程あるだろ。


モヤモヤした気持ちは、澄んだ星空を見ても消える事はなかった。

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