アリバイデートなんて意味わからないんだが①
色々な男にクリスマスにデートに誘われた胡桃沢。
アリバイ工作のために有栖川とデートする事に。
とはいえ、いつも通りの2人?
時刻は16時。集合時間だが胡桃沢の姿は見えない。
クリスマスイブの渋谷というの予想通りの人の多さで、改札から集合場所へ移動するだけでも気力を削られるものだった。
俺は集合場所のハチ公近くの宝くじ屋の前で体の芯から体温を奪う寒さの中、胡桃沢を待っていた。それにしてもあいつ遅刻多いな。なんで遅刻するだろう。この前少し気になって朝のパン屋のバイトは遅刻しないのかと聞いたら一度もした事はないと言ってた。
つまりあれか?俺が舐められてるという事か。
怒らせたり、傷つけたくない相手なら遅刻はしないだろう。せめて、バイトも遅刻しっぱなしなんですぅと言ったら、ダメ人間で納得感があるが、俺の時だけ遅刻を連発するとなると舐めてる以外の結論に辿り着けない。
一つ問題があって、舐められてなにか言えるような立派な人間ではないので、特段遅刻されても強くいえないという事だな。この寒さも仕方ない事なのです。頭の中で舐められてた事が確定したところで、人混みをひょいひょいとかけ分けて胡桃沢がこちらにきた。
「すっごい人、これは遅刻扱いにはならないですよ」
「人混みは遅刻の考慮すべき材料になると。でも俺は時間通りついてるんだが」
「じゃあ有栖川さんが凄い人で、私が普通の人でいいですか?」
「俺が普通の人でお前がだらしない人じゃないのか?」
「えっと、デートで遅刻してきた女の子にそこまで正論で詰めて恥ずかしくないんですか?」
「論点をずらすな」
「おお…有栖川さんやばい!ぶれなくてかっこいいです」
「褒めてくれたから許す」
「良かったあ。じゃあ行きましょうか」
優しいなぁ俺。
今日は約束通りアリバイ工作の為に胡桃沢とデートする事になった。胡桃沢の事前の希望通りケーキ屋行ってイルミネーションを段取りだ。
内容的にガチでデートなんだが、相手がこいつだから俺もそういうはやる気持ちにはならないけども。
雑踏をかき分けてケーキ屋に向かう。
道中は人混みすぎて特段会話もなく淡々と歩いて向かった。これ正式に気合い入れてデートしにきた人はたまったもんじゃないな。冷やかしで来て人口密度上げて不快指数上げてごめんねデートガチ勢のみんな。
店内は混み合っていたが胡桃沢が奇跡的に昨日キャンセルで開いた時間に予約を入れてくれたのですんなり入ることができた。
「いやぁまさか予約が前日で取れるなんて。この店なら本気度が出てアリバイ工作度高いな」
「たまたま知ってただけで張り切って探したとかでは無いですからね」
俺とのデートの為に店をわざわざ調べた訳では無いと言いたいらしい。はいはい。
「予約ないすだ、胡桃沢。お前の強運は本物だよ」
「クリスマスイブに人気者の私とデートできてる有栖川さんも運がいいですね」
「…そういえばお前、さらっと昨日話してたがやっぱモテるんだな」
「まあそれなりに…顔もいいですからね」
「まるで顔以外もいいみたいにいうな」
「ん。なぜ疑義がありそうなんですか」
「だらしないからな」
「それは有栖川さんしか知りませんから!普段はもうちょっとちゃんとしてるんですよ私」
「ふーん。ちゃんとねぇ確かに前も学校だと陽キャだと言ってたな」
「あの、質問ですけどちゃんとしてる私とだらしない私どっちがいいですか?」
「なんだその質問は…どういう話だ」
急に考え込む胡桃沢。なんとなく気まずくメニューを取り注文するケーキを考える。といっても最初から決めていたのであくまで空気を変えるための所作だった。
「俺はショートケーキだけど、胡桃沢は?」
「私もそれが良いです」
「了解。すみませーん。あの…ショートケーキ二つで。あとコーヒーも。胡桃沢は紅茶?」
「あ、はい。紅茶で」
こいつはコーヒーより紅茶派だ。
胡桃沢は話を戻して続ける。
「…私やっぱちゃんしてる風装ってるからなんか、ちゃんと良い感じの男の子から狙われがちなんですよね。根本は違うから失望されるだろうしあんまりきてほしくないんですけど…」
どうやらちゃんとした自分を振る舞ってるせいで、勘違いした男からモテてしまうと言う相談らしい?
「何が困るんだよ、スペック高い男からモテて」
「やっぱり嬉しいより申し訳ないが勝つんですよね」
「ほうほう。なぜだ」
「だって本当の私じゃないんだもん。ちゃんとした人はだらしない私見て幻滅しますよ。幻想に恋させて申し訳ないです」
「だらしない自分を出してみればいいじゃないか」
「うーんでも、だらしない自分でちゃんとした人に接するのって、失礼というか申し訳ない気持ちになるんですよ。相手はちゃんと接してくれてるのに、私がその気持ちを蔑ろにしてる気がして」
「…真面目だなぁ胡桃沢」
頼んでいたケーキが届く。ショートケーキは生クリームたっぷりで、どこか光沢がありキラキラしているように見えた。めちゃめちゃうまそうだ。
「胡桃沢は他人に完璧を求めてるのか?」
少し話を変えて、胡桃沢に聞いてみた。
本当の自分を出すのがこわいというこいつなりの悩み。
「いえ、前も言いましたが自分にも甘く他人にも甘くがモットーです」
「そうだよな。胡桃沢も他人に完璧なんて求めてない。同じように周りも胡桃沢に完璧なんか求めてないと思うぞ。みんな弱点位あるんだからさ。自分が完璧じゃないのに、他人には完璧なんて求めないよ普通は。勿論ちゃんとした胡桃沢が好きって男もいるかもしれんが別にお前、良い男捕まえたいわけじゃないんだろう?」
「…はい、そうですね」
「ずっとそうやって気を張って生きてたら疲れちゃうだろ」
「確かにそうかもしれません。学校のみんなといるのは楽しいけど疲れます」
「決めるのは自分だけどさ。胡桃沢がそうやって気疲れしてたり辛そうなのは、少し気になる。無理に気を張らないで生きてみたらどうだ」
「…お節介だなぁ有栖川さんは」
「それに、俺は少なくとも」
「少なくとも…?なんですか?」
「まあなんだ。だらしないお前といるのは気が楽でいい」
「…なんですかそれ!告白ですか?」
そんな妙な笑顔で笑われたら、こっちも恥ずかしかなってきた。
「違う、ただ、だらしない胡桃沢を良いと思ってくれる人はいるよって話だ。俺は一例だよ」
「有栖川さんが私の事好きなのは面白いけどちょっとキモいなぁ…あ、このデートももしかしてアリバイ工作装って私の事狙ってますか!」
「はいはい!分かった分かった!ケーキ食べるぞケーキ!」
「あー!嘘みたいな誤魔化し方!照れ隠し下手すぎますって!」
きゃははと喜んでバカにしてくる胡桃沢。
ええい、やっぱり人を励ましたりするなんて慣れない事はするもんじゃないな
「…でも、振る舞いは少し考えてみます。私だって少しでも楽にいきたい。人生まだまだ長いですからね」
すぐにでも忘れようとしたけど、食べ始めたケーキが忘れるには勿体無い美味しさだ。
発言だけ忘れケーキの味だけ覚えておく、
器用な記憶術は俺には無かった。




