着々と準備は進んでるんだが②
「出身は唐木田ってところです。わかりますか?」
「唐木田って小田急で終点だよな。なんとなく分かるぞ」
唐木田は多摩の一部で山を切り開かれた少し前に新興住宅が流行った場所だ。多摩ニュータウンの一部だが、商業利便性は多摩センターには劣る。
合ってるかな?これで、間違ってたとしたら思い込み激しすぎるので痴呆症が始まってるかもしれん。
「のどかなところです。東京なのに家と山しかないです。三茶の家は、お父さんが若い時に1LDK買ってて。そのまま住ませてもらってます」
三軒茶屋という土地、1LDKという間取り、当時はどちらも今ほど流行ってなかっただろうが胡桃沢のお父さんの先見の明はなかなかなもんだ。
「お前って…やっぱり運いいよな」
実家東京なのに、セカンドハウス持ち?
チート認定。大会だったら失格判定だろう。
「本当の強運はビットコイン買えた人です」
「…あと古いポケモンカード何故か綺麗に保管してた人だな」
ああいうのみるとつくづく何が起こるかわからない世の中だなと思う。ビットコインでたての頃、ぼくの考えたお金を買いませんか?ちな、実体はないです。でも将来飛躍的に資産価値が上がる可能性があります!言われても、買ってる奴は気が狂ってるか他人を信じる能力がカンストしてるからどっちかだろう。
「で、話戻しますけど年末年始ですが実家には帰りますけどまあ正月三が日くらいかな。有栖川さんは?」
「あー帰るけど俺も元日くらいかな。すぐこっち戻るよ」
「えー折角ならゆっくりすればよいのに」
不思議そうな様子で、アイスティーに入った溶けかけの氷をかき回す。
「この無職借金持ちの俺には実家は肩身が狭いんだよ。言わせないでくれ」
いつ再就職するの?借金はなくなった?などと聞かれる。再就職してないのだから、借金がなくなるわけないのだが。俺の両親はいい意味でも悪い意味でも、俺に無関心なので下手に干渉はしてこない。がそんな身分でおせちをバクバク食い、正月ダラダラしていると流石に実の両親といえどもこれ、俺の子?みたいな目で見られるのでしない。
「なんかごめんなさい」
「謝らんで良い。余計に辛いんだが」
「本当にごめんなさい」
やめてよ…雛ちゃん…!
「…話戻すけど、オープンに向けてビラ配りぐらいやろうか?」
「ビラ配りですか?」
「ああ、警察に許可取って。俺が自分でやるから費用もかからん。近場の人の認知度を上げるなら原始的だがいいだろう」
ビラ配りは時間帯と声出し、目を通してもらえるようなチラシを作成できれば思いのほか効果はある。不動産でも時々やった。
「いいですね。原価0円なら是非」
「あ、一応許可証代はかかるがまあ数千円だ」
「チラシはどうするんですか?」
「あー叩きはできてるんだが、どうだろうか?」
持ってきていたPCを広げパワポをカチカチと見せる。暇な時間を使い叩きを作っておいた、
◾︎AWーcompany◾︎と会社名をでかでかと書き
住まい、いろいろなんでも相談!と一通り概要を敷き詰めただけだ。正直情報量が多すぎてなんだがよくわからない。
「なんだかうるさいですね。目がチカチカします。
視力下がりました。有栖川さん訴えていいですか?」
アメリカ人もびっくりの訴訟検討だ。
「裁判は勝てるからかかってこい。でもレイアウトがチカチカしてうるさいのは自分で作っておいてあれだが同意だな」
「これデータいじっていいですか?」
そういうと胡桃沢が手際良くデザインレイアウトを修正し始めた。スライドの設定やグラデーション等巧みに使いつつレイアウトを変えている。
「これでどうでしょうか?」
文字量がかなり減ったものの住まい仲介、なんでも対応の2軸は明記されてあり、イラストも挿入された。条件も分かりやすく率直によい。
「お前以外とこういうセンスあるのな」
「有栖川さんにも言われても逆に不安になります」
「OK。他人を褒めるをやめるよ。おぢは黙ってるね」
こいつは服もそうだしデザイン系は割と良いのかもしれない。覚えておこう。
1月中事務手続き完了
1月中旬ビラ配り、ホームページ完成
1月下旬工事完了
2月1日オープン
「大体こんなスケジュールだな」
「はい。最後まで頑張りましょう」
「終わってからようやく始まりなんだが」
一通り確認も終わった。今日もこんなところか。
なんとなくお開きの空気を出すためにテーブルの上を片付けて荷物をまとめていると、
胡桃沢が手元にある割り箸の入っていた紙を所在なさげにいじいじしながら質問してくる。
「有栖川さんって明日なんか予定あるんですか?」
「なんだ突然何もないが…明日何かあるのか?」
「クリスマスイブですよ明日」
じとっとした目で呆れるように答える胡桃沢。
「ああ、なんか西欧の方ではあるらしいな。日本生まれの俺は生憎全く知らないが。」
「日本でも毎年やってますよ。どんな人生歩んできたら知らないでここまでこれるんですか。キリスト様の誕生を祝うんですよ」
「なぜ縁もゆかりもないキリストの誕生日を俺が祝わなきゃいけないんだ。自分の生活すら危ういのにそんなことしてる場合か?」
「そんな正論ぶちかまさないでください。でも誕生日会なんて人が多ければ多いほどいいじゃないですか」
「その理論だと、俺の今年の誕生日は1人きりだったけど最低値という事になるな」
「すみません…」
哀れみの目をじっと見つめてくる。
「そんな寂しがる事じゃないぞ。人間は所詮1人で生まれて最後は1人で死ぬんだから」
「なにスケール大きくしてるんですか…一緒に過ごす人いないだけなのに」
「1人には慣れてるから問題ない」
「まあ…予定はなさそうですね。じゃあ私と明日とデートしてくれませんか」
「おい、どの流れでそうなるんだ。俺がコミュ障すぎるのか?全くわからなかったぞ」
「まあまあ…実は何人か男の子から明日デート誘われてたんですけど、しつこかったんで、諦めてもらう為に別でデート行くからって全員断っちゃいました」
「ほう…それで?」
「実際は断り文句なんですけど、バレた時嘘つきみたいだし、逆ギレされても怖いじゃないですか?」
「俺とのデートの時点で、もう嘘つきじゃないか?」
「彼氏とは言ってないですから。あくまで男の人と出掛けてれば成立してます」
「つまりアリバイ工作でデートしてくれと」
「まあそんなとこです。ケーキ食べてイルミネーション撮って何かあった時に証拠として見せれるように」
「まあ趣旨は理解できたけど、実際にする必要はなくないか。適当に俺との写真何枚か撮ってそれで良いだろ」
「うーん…でもリアリティが…ないような気もするし…いいじゃないですか、少しくらい」
なんだか理論としては筋が通っているようで通っていないような気もする。アリバイならもっと簡単に成立させられそうな気もするが。まあ、本当に俺に予定はないのでそんな意固地になる話でもないか。
「いいだろう。折角だしキリストさんの誕生日心から祝福してやろうじゃないか」
「ありがとうございます。キリストも喜ぶでしょ。じゃあ、夕方渋谷のここのケーキ屋行って夜はこの青の洞窟に行って…」
「なんだかアリバイの割には準備がちゃんとしてるな」
ほんの少し赤くなり、誤魔化すように言う
「べ、別に、折角行くなら楽しんだ方がいいと思っただけですから」
目を逸らされたが、頬は緩んでいる。
少なくともめんどくさがっているいつもの顔とは少し違ったように見える。
こいつとクリスマスに出かけるなんて意味あるのか?
見いだせなかったけれど、別に断る理由も見たらなかった。
そういえば最近ケーキなんか食べてないし久々に食べたい気もする。そんな些細な動機でも充分な理由だと自分なりに結論づけた。




