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内見ってワクワクするんだが③


店を出て、すぐに胡桃沢に俺を叱りつけてきた。


「あの「俺、無職ですから?ドヤっ」みたいの、やめて下さい!小笠原さん死にかけてたじゃないですか!」


「すまん、軽い冗談のつもりだったんだが」

無意識に過呼吸に追い込むとかなかなかの能力である。


「自分が迷惑かけた相手からそんな自虐されたら反応困るに決まってるじゃないですか!」


「これはナニハラスメントに当たるんだろうな」

「キモハラスメントです!」


「ストレート過ぎる…小笠原さん訴えてこなきゃいいけども」


「まあ、そんな余裕はなさそうでしたね」


「ああ、小笠原さんポンコツちゃんだったな」


「私だって人のこと言えないけど…まあでも確かになかなかでしたね。でも有栖川さん優しいですね?あんな機会与えて。一応私達お客さんですよ?」


「俺だって契約とか金銭絡むことだったらもう少し強く言うけど、俺達の時間奪われたって大した被害はないしな。それに…」


「それに?」


「ポンコツだったけど、あんなに一生懸命やってるならいつか成長するよ。でも今辞めてしまったら、自信だけ失う結果になるから、少し可哀想じゃないか?」


「…有栖川さんがそこまで小笠原さんの事見る義務はないと思いますけどね」


頬が綻んで、優しい表情だ。

こいつも大概お節介なんだろうな。

例えば迷子の子供とかお構いなしに声かけたりするんだろう。


「折角だしご飯食べませんか?何もしてないですけどお腹空きました」

「さっきマック食べただろ…まあ行くけど」


時刻はまだ12時過ぎだ。

この後日高屋で一緒に飯食って今日は解散にした。


◾︎

家に戻りスマホをぽちぽちしていると小笠原さんからメールが入っていた。

本日の謝罪と、良い物件が見つかった事、内見予約した旨、明日の予約時間の確認であった。メールの時間は22時、夜遅くまで調べてくれていたのだろう。

明日も同じ時間でいいかな。胡桃沢に連絡しておこう。あと図面もチェックしとくか…

どれどれっと…おお、凄いなこいつは。


▪︎

今日は直接店舗に11時集合にした。俺は5分前は着き、店舗前で待とうとしていたところ丁度胡桃沢も到着したので、そのまま入店した。


おはようございます!店内のスタッフが一斉に挨拶をする。


小笠原さんが、カウンターから出てきて話しかけられそうになったが、その前に店長に話しかけられた。


「昨日は大変申し訳ありませんでした。連日お時間いただく事になり、また小笠原の対応が不行き届きの面があり、お詫び申し上げます」


店長さんは30代前半ぐらいの紳士的な高身長の男性だ。顔立ちがイケメンというより、西欧風で清潔感がある。バーテンっぽい。


「いえ!気にしてませんから」

店長さんが何回かお辞儀して後バックに下がり

後ろで待っていた、小笠原さんが話しかけてくる。


「改めてすみません。本日もよろしくお願いします。昨日は夜遅くにメール回答ありがとうございました。


「いえいえ」


「あ、これお茶です。お召し上がり下さい」


「ありがとうございます。」

今日はしっかりとお茶が出てきた。成長。


「それにしてもこの物件どうやって見つけたんですか?」


【概要】

敷金2ヶ月

礼金0ヶ月

賃料15万

保証委託料1ヶ月


初期費用合計60万

12坪/1階店舗

三茶駅1分/すずらん通り

築30年


大体この辺の相場は1坪、20000円前後だがこの物件は13000円程。しかも駅近、破格である。


「昨日あの後、物件持ってるオーナーさんに片っ端から連絡して、空き予定とか募集出してないけど隠し持ってる物件ないか確認しました。

この一階オーナー夫婦で、定食屋さんやってたんですけど、高齢なので、お店畳むそうです。」


「そっか!こことめ屋か今。私よく行きます。そうかなくなっちゃうですね…美味しいのに。」

とめ屋は古くからやってる定食屋で、俺も見たことがある。そうか潰れるのか。


「オーナーさんはお金に拘らない方なので、地域の手助けになりそうな面白いそうな業種と割安で提示いただけました」


「凄いじゃないか。1年目でそんなパイプ持ってるなんて」


「…実は私よくここでご飯食べてるんです。だからたまたま仲良いだけで、実力とかじゃないです」


「いや、そういう人脈から物件引っ張り出してくるのも立派な実力さ。因みにこれ、入居できるいつからなんだ?まだお店あったような気がするだけど」


「1月上旬ですね。年内で畳むとの事です。」


「とすると…備品搬入とか内装とかかなりタイトだなぁ。2月頭には稼働できるようにして、繁忙期稼ぎたい」


「腕の見せ所ですね!有栖川さん!」


「まあやるだけやってみるけど。今日内見…って言っても営業中だよね」

「いえ、オーナーさんが営業中でも良ければ見て大丈夫との事です」

「そうか、じゃあ見させてもらおうか」

「ここから1分くらいだしいいですね」

「じゃあ早速向かいましょうか」


今回は営業中なので内見の予約も不要だ。

小笠原さんには申し訳ないがすこーしだけ安心した。


早速3人で向かいとめ屋に入った。

お昼時という事もありお客さんがいっぱいいる。


小笠原さんが店主兼オーナーのおばあちゃんとめさんに、に挨拶をしている。俺たちも一応したほうがよさそうだ。


「お忙しい時間にすみません。内見させて頂きます。有栖川と胡桃沢と申します。」

おばあちゃんはテキパキと料理の配膳をしながら返答する。

「ごめんねぇ。忙しくてあんまり相手できないけど。

好きに見てっていいからねぇ」


「ありがとうございます!」

店内にはいい香りが充満している。


まず柱、梁の確認、採光の状況、少し日当たりを気にしてたかこれなら問題ない、コンセントの位置、窓の換気量も十分だ。トイレも最近変えたのかかなり綺麗だ。

厨房の撤去だけは大変そうだが、床と壁だけ変えればあとは微調整ですみそうだ。


俺が各所確認している間、胡桃沢はメニューをずっと見ていた。仕事しろ仕事。


すずらん通りは目の前の通路が狭く、駅近だが視認性は低い。近くに案内看板や広告物で誘導したほうがいいかもしれない。


小笠原さんは確認を一生懸命に手伝ってくれていたが、胡桃沢は椅子に座って待っていた。

あらかた確認をおえて、とめさんに終了の報告をする。


「バタバタとありがとうございました。色々見させていただきましたが、かなり良いです。後ほど申込します」


「はいよー。待ってるからね。」

そういいながら、伝票の整理をしている。

畳むとは思えないくらいバリバリ働くおばあちゃんだ。


▪︎

店内に戻り、早速申込書や必要書類の提出を進める事にした。俺の拙い事業計画書での審査になるが、まあこの保証会社審査ゆるゆるだからいけるだろ。


俺が慣れた手つきで申込書や必要書類の提出を終えた。


「色々ありがとうございました。小笠原さんのおかげで、良い物件見つかりました」


「いえ、元はと言えば私が内見手配できてなかったのがいけないんです」


「でも安くていい物件になったし結果オーライだ。遅くまで物件探してくれて、採寸とか色々手伝ってくれてありがとうございました。そうだ、初期費用の請求書概算貰えますか?」


「あ、はい、請求書ですね。既に作ってます。どうぞこちらです」


…大体60万位。あれ?


「仲介手数料は20%になってるよ?50%でしょ?」


「あ、それ、店長からのサービスです」


「なんで?小笠原さんのミスの事なら別に気にして無いのに」


「いや…」

すっと店長が割って入ってくる。


「有栖川さん、小笠原のミスに寛容に対応頂いてありがとうございました。それもあるんですが…実は昔有栖川さんにうちの管理物件仲介頂いた事があったんです。」


「え…あ、ごめんなさい。取引してましたか?覚えてなくてすみません。なんか失礼なことしてました俺?」


「いえ、とんでもない。寧ろ物凄く苦戦してた物件を仲介して下さって、しかも丁寧な対応だったので、覚えてました。名前も珍しいですから。その時の御礼も込めて今回少しばかりですがサービスさせて貰いました」


「そうですか…昔の話なのに…いや、ありがとうございます。また一緒にお仕事できるの楽しみにしてます。小笠原さんもリカバリー良かったよ。ありがとう。」


「有栖川さんのおかげで、少しですが自分に自信持てました」


「また頼ってくれて大丈夫ですよ。まあ、無職だけど」


少しの沈黙。

「…あの…それ、反応に困ります」

その後、小笠原さんが初めて笑顔になった。

やっぱいけるじゃないか、無職ジョーク。

胡桃沢はお気に召さないようだが。

じとっとこちらを見ているような気がする。


「あの、良かったらこの後、みんなでとめ屋でご飯食べませんか?さっき店内いたら閉店前に食べたくなっちゃって」


「えっ…」

小笠原さんが店長の方を見るが

行っておいでというジェスチャー


「はい…じゃあご一緒させていただきます!」

もう表情に固さはない。


ミスしたら取り返しがつかない。当事者に勿論責任はあるけれど、それでもう終わりというのは、その間色々と存在していた思いを蔑ろにしていて、淋しい気がする。


今回小笠原さんだって俺らの時間を奪おうとして

内見手配をわざと間違えたわけでは当然ないだろう。

彼女は一貫して俺たちに対して、どうすれば満足してもらえるかは考えてくれた。

もし、ミスして、担当を変えてと言ったら、そんな前向きな気持ちも全て無になってしまうだろう。

気持ちが入っていれば間違える事なんてない、という考えも一理あるが、どんなに本気で向き合っても人間がそんな完璧でない事は俺は自分の人生含めて充分分かってる。


今回は、結果として小笠原さんの自信になったし、いい物件も紹介してもらえた。良かった。

誰かの為に働きかける事、

久々にしたが、こういう気持ちだったな。ああそうか。

思い出した。


「胡桃沢、この前マックの話。仕事してて、金より大事なもの。今、小笠原さんを見て思い出した」


とめ屋への道中で呟く。


「へぇ…なんですか?教えてくださいよ」


「若い女の子の笑顔」


「セクハラ、警察呼びます!

短い間でしたがお世話になりました!」


担当者として、お客さんの気持ちを

考えて全力で尽くす事。

俺が担当で良かったとそう言ってもらえる事。


そんな恥ずかしい事をこいつに言うわけも無かった。

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