表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/14

他人の合格祈願なんて初めてしたんだが

会社の方向性を決め、設立まで各々のやる事をこなす日々。そして胡桃沢の宅建試験当日を迎えた。

残暑もすっかり薄れてきて朝はもう肌寒いくらいの気温である。

例年宅建試験は10月の中旬に行われる。

合格率15%ぐらいの試験であり、生半可な勉強だと落ちる為のが常で、ぶっちゃけ胡桃沢の実力で受かるのは厳しいかもしれない。

勝算があるとすれば…この試験は4択のマークシートであること。あいつ、運はいいからな。


◾︎

7月に胡桃沢と出会って、3ヶ月経ちもう10月、

今日は宅建の試験日だ。

ミスドで打ち合わせ以降は俺は下準備の為に定款などの準備や税関係の必要事項を調べたり、少しずつ会社経営などの本を図書館などで読むようにして会社設立への準備を進めていた。合間で日雇いのバイトで日銭は稼ぎなんとか生活を保ってるような状況だったが、督促に追われない分随分楽だったし久々に生きた心地がした。

胡桃沢とはあれ以降LINEや電話で時々やり取りはしているが、卒論、宅建勉強と忙しいらしく直接会うことはなかった。電話で勉強の事を聞かれたりしたが、話しながらネットで調べてあたかも知ってる風に答える技を使い何とか面目を保った。あいつには詐欺師ではないと言ったが詐欺師の可能性があるな。


しかし、案外胡桃沢は要領良く、地頭がいいのか試験直前の過去問では半々くらいで合格点を取れるまでになっていた。たまにしていた電話では、「もう無理です…」や「ビールを飲みます」や「これってマークシートだから所詮運ですよね?意味あるんですか?」等と試験形式に文句つけてつけるなどしていた。

まあ落ちたところで特に何かペナルティがあるわけではない。強いていうなら大学4年生の大切な時間を奪った事だが、元々就活とかから解放されたイレギュラーな状況だしな。取れればラッキーくらいだろう。


それにしても今朝は、まさに最高と表現しても差し支えない気候だ。ほんのり冷たいが朝寝ぼけた目を覚ますにはちょうど良く散歩したくなった。散歩は目的がないとな。少し考えて折角なので近くの神社まで、胡桃沢の合格を祈願することにした。


◾︎

20分ほど歩いて神社に到着した。246沿いにあり、長い長い階段の上にある神社に到着した。通常であればうんざりする階段であったが、なんなく突破。

待って!日本には四季がある…wとかドヤってる場合じゃなくて、全部18℃の秋でいいだろと思ってしまう。寿司に行ったら中トロ連発、焼肉行ってもカルビ連発、最適を選び続ける事が勝ち筋という持論を昔は持っていたが、大人になるにつれ、余裕のない考えなんだなぁと、恥ずかしく感じる事も増えた。やめたい。


鳥居の前でお辞儀をしてから、くぐり境内前でお詣りをする。二礼ニ拍手一礼、名前と住所を心で名乗って神に祈る。


胡桃沢の宅建、合格させてあげてください。

あ、あと金持ちにして、健康で、楽しくストレスなく毎日を過ごせるように。あと会社もうまくいきますように。

美人のお姉さんが全員俺のこと好きになりますように。


最後にもう一度礼をして立ち去った。

ごちゃごちゃうるさ!?と思われたかもしれんが神様なんだったらこれくらい余裕だろう。階段わざわざ登ったんだからこのくらいはむしろノルマだろう。


さて、帰りは別ルートから帰ろうかな。


◾︎

うう…緊張してきた。

別に人生かかってるわけでもないのにどうしてだろう。

私って緊張に弱めなんだよなぁ…。就活の面接もそうだったし。

試験開始は13時からだが、12時前に会場に着いてしまった。幸い会場は近くだったから、家にいてもソワソワしてしまうので早めに来た。でも逆に早くから緊張してしまう始末。


するとスマホが鳴った。誰だろう?有栖川さんだ。

画像付き…?


合格祈願のお守りと神社の画像であった。


今、神様に胡桃沢の味方するようにお願いしといたから。落ちたらまあ来年も勉強付き合ってやる。特別に特別に特別に特別に無料で。


有栖川さんって案外優しい。

結果的に意味あるか分からないけどお金ないのにお守りまで買って。お守りって1000円くらいしない?

あの人の3日分の食費では?

なんか受からないと申し訳ない気がしてきた…!

うっ…変なとこでプレッシャー感じてしまった。


…でも、確かに別に今年受からなくても来年もあるもんね。そう思ったらなんか大丈夫な気がしてきたぞ。ありがとう有栖川さん。


私は最終苦手分野のチェックノートを反復して試験に臨んだ。


◾︎


…ぷるるるるる

ん、胡桃沢?試験終わったのかな?


「はい、有栖川です」


「あ、有栖川さん?今終わりました〜疲れました〜」


「まずはお疲れ。どうだった?」


「うーんわかんないです…ところで今暇ですか?」


「んーまあ暇っちゃ暇だが、今図書館にいる」


「解答速報一緒に家で見てください」


「えー、あ、まあいいけど」


「会場どこ?」

「三茶の女子大です」

「なんだ近いな。それならすぐ合流する」

俺が今いる図書館から10分程度の場所であった。


「じゃあ人凄いんで一旦図書館の方に私がいきます」

「あいよ」


図書館の入り口で待っていると胡桃沢がやってきた。黒の変形ワンピースに切り替えのレザージャケットと中々決まっている。こいつ地味にオシャレだよな。 


「お疲れ、てか久々だな」

「はい、疲れました。3ヶ月勉強しんどかったです。助けてください」

 

2人で図書館を出て自宅へ向かう。


「で、どうだった?」


「まず謝って下さい」


「何にだよ」


「全然簡単じゃないじゃないですか!3ヶ月は無理ですよこれ!」


「いやでも過去問いけてたじゃん」


「本番とは違いますもん…分からない問題いっぱいありました」


「まあお前は運がいいからな。神様が助けてくれるよ」


「運は良くても無理なもんは無理ですよ!」


帰る途中でビール飲みたいというのでコンビニで買い込んで、そのまま自宅へ向かった。


「久々だな、おじゃまします」

玄関のドアを開けてリビングへ入る。

ありえないくらい散らかっている。


「野生の龍でも入ったか?」


「御名答。虎と龍が争いをここで」

「どこでバトってるんだよ」

「有栖川さんが掃除に来てくれないから」

「あれは会社始まってからの約束だろ。

それよりも解答速報見ようぜ」

「それよりもビール飲みましょうよ」

「そうだな、とりあえず飲もう」

コンビニの袋から缶ビールを2本取り出して乾杯した。

うめぇ。


「じゃあそれぞれ見ますか。解答出して」

「ぐっ…緊張します。神様…」

「一緒に見てくか、じゃあ1問目から行くぞ」


〇〇×○○×××〇×〇〇○×〇〇××〇〇××××


「ここまでで…前半12/25」

「うわ半分…でもここからなんとか…神様お願いします」


〇〇〇〇〇〇〇〇〇○〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇○


「えっ…嘘?凄くない?!」

「25/25だから、38/50…合計38点!」

「やったよ有栖川さん!てか、26問目から50問目まで連続正解ってやばくないですか!!」後半の宅建業法を追い込んだ、成果ありましたよ!」

「すごいな!しかも3ヶ月でこれかよ!おめでとう流石に受かったでしょ」


「合格予想は35点ですって、やった合格だ!」


…やっぱりこいつは強運だ。神様に愛されてるな。


「有栖川さんのおかげです。ありがとうございます!」


「いや俺は神社参拝しただけだぞ。神様のおかげだ。自分の強運に感謝だな。」

運も実力のうちって言うし。


「はい、運が良かったかも。あと、有栖川さんが直前にLINEくれたお陰で力をちゃんと出せました」


「なら良かったよ。長い段登った甲斐があった。

因みにお前さ、分からなかったのってどの辺だ?」


「前半結構分からなかったんですけどね。」


「じゃあ後半は自力で解けたのか?」


「はい、26問目以降は宅建業法で有栖川さんの指導もあってぼほ全部分かったんですよ?」


そうなのか。とすると…

ちょっと失礼な事言ったな。


「すまん運とか言って。この点数配分なら胡桃沢は全然運じゃなくて、実力で受かってるな」


「へ…?どういうこと?」


「お前前半分からず、後半わかったんだろ?もし分からないのが後半部分でそこが全問正解なら、確かに運で取れてることになる。でも、この点数配分は分からないところは間違えて、分かるところは正解している実力通りの得点分布だ。運なんかじゃない。」


「確かに…そうですね。よく見ると、分からないのに正解してる問題少ないです」


「だからお前の実力だ今回は。運じゃない。」


「確かにそれなら実力ですね…。でもやっぱり、私が強運である事に変わりはないと思います」


「えっ…なんでそうなるんだ?」


「だって、3ヶ月で宅建受かるなんて簡単じゃない。有栖川さんが申し込み期日ギリギリで受験を提案して、すぐに参考書選んでくれて、合間に指導もしてくれたから、全て重なってたまたま取れたんです。。今この環境に辿り着いてる事、それ自体強運だと思いませんか?」


…そうなのだろうか。それであればなんでも運が良かった、とこじつけられる事になる気がする。少なくとも胡桃沢は自分の意思で受験を受けると決めて、勉強を頑張った。努力を運が良かった、と一言で片付けるのはやはり失礼だと俺は思う。


「なんでも運のお蔭、じゃなくてたまには自分の力って事にしてもいいんじゃないか?俺はお前が頑張ったからこそ受かったんだと思うぞ」


「そうかな…?うん。そうだね。ありがとう有栖川さん、たまには私も頑張れるんだね」


でも、ここまで素直に面と向かってお礼を言ってくる胡桃沢はそうそう見られるもんじゃないな。


今日胡桃沢の運が良かったかは分からないけれど、

少なくとも今日の俺は運がいいなと、そう思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ