詰んでると分かったとこでどうしようもないんだが
27歳、借金300万、フリーターの有栖川宗。
ガスが止まれば電気ケトルで沸かしたお湯で身体を洗ったり、督促電話をモーニングコール扱いする人生詰みっぷりであった。しかし強運の持ち主、胡桃沢雛のおかげで、再起のチャンスを得る。目指せ完済!
ぷるるるる…携帯が薄暗い部屋に鳴り響く。
…もうこんな時間か…目をこすりながら携帯を見ると、画面には着信、ニコニコファイナンスの文字。毎日決まった時間に督促の電話をくれる。まさか俺のモーニングコール代わりにされてるとは思いもしないだろうな。毎朝九時にこの電話と共に目を覚ましている。最初はびひっていたが、人間は順応性は高く、微動だにしない。これが成長である。退化かもしれんが。
いつもはあまり電話には出ないが、今月分の支払いがまだできておらずお金を用意する必要がありまだ伝えていない事を思い出したので、一応折り返しする事にした。
「お電話すみません。お世話になります。現在延滞中の有栖川です、お支払いできておらず大変申し訳ありません。」
「あの電話毎回出ていただけますか?こちらも待ってる身ですし飛ばれたりしないよう毎日出てくださいと言ってますよね?」
「すみません。仕事で忙しくて」
「まあいいてすが、今月分はあと45000円の不足ですね。いつまでに払えそうですか?」
どうしよう。あてもないが…とりあえず時間を稼ぐしかない。あまり先だとキレるのでとりあえずで伝える。
「来週の月曜までには支払いします。」
「…わかりました。次遅れるなら訴訟も視野に入れてますので、それでは何卒宜しくお願いいたします。」
ッー…電話ガチャ切りされた。
ニコニコファイナンスというが、電話中一度もニコニコがなかったな。やれやれ。
ー
とりあえずあてもないので、近くのマクロナルドでコーヒーでも飲みながら現状を整理する事にした。
一応よそいきのtシャツに着替えて速攻で歯を磨いて一通り身支度を完了。適当な支度ではあるが、社会との接点が薄くなると周りからどう思われるか関心がなくなるのだ。
歯磨きしながら見ていた天気予報では今日は35度を超えると言っていた。電気代勿体無いしやはり涼しいマクロが最適解だな。財布には全財産の3万円が入っている。とりあえずいつも通り日雇いでも探すかな…。働くしかないからな、うん。頑張るか。独り言を呟きながら、外に出た。
ーーー
「一着は3番アクロパンサーズ!二着はソードエンペラー、三着にアリゾナシティが入っているように見えます!」
いやいや、これはおかしいぞ。絶対このレースは固いと思ってたのに!1番人気のアクロパンサーズは体重+15キロどう考えても太すぎる。どう考えてもおかしい。
財布を見ると120円しかない。盗まれたのかな?
だが右手のハズレ馬券から俺がやったらしい。
ふぅ…ママ…?
これで俺は四万五千円を来週までに用意しなくてはならなくなってしまった。
落ち着け。一旦お茶でも飲むか。
無料のお茶を運動部終わりのスポドリのようにゴクゴクする。
「あの…」
右に座っていた女性が俺に話しかけている気がする。気のせいだろうか。
「あの…!」
「え、俺ですか?」
「はい、突然すみません。あの私WINSって初めてで、買い方わからなくて、教えてもらえませんか?」
突然びっくりした。やはり俺に話しかけていたのうである。スーツの感じから就活生の女子大生だろうか。ショートで色白、清潔感のある透き通った印象でウインズの空気から明らかに浮いていた。俺は気を紛らわすにはちょうど良いかと、教えてあげる事にした。
「いいですよ。じゃあまずマークシートに買いたい競馬場とレースナンバーを…」
一通り説明をしてあげた、その間女性はあぁ…、なるほど!などと言いながらうんうんしていた。
「ありがとうございます!よく分かりました。因みに次のレースでオススメのお馬さんいますか?4番は私の好きな数字、8番のお馬さんは可愛いから買いたいのですが、あと一頭悩んでまして」
「ここは2番かな!前走大敗で人気はないんだけど、距離が長かった。前半の行きっぷりはよくたレースの距離が短くなった今回は浮上すると思うよ!」やばい、競馬になるとついオタクなってしまう。でも彼女は特に気にする様子もなく
「それなら2ー4ー8で買ってみます。これ当たったらどのくらいなるんでしょうね。」
「もし当たったら…1000万だな」
「えーすごい、当たるといいなぁお兄さんは買わないんですか。」
「うん、この後勝負できるレースがあるからそこまで取っておくよ」本当は金がないだけだけどな。
何の見栄をなんだこれは。
「へぇ…じゃあこれ当たるように隣で祈ってて下さいね」
「当たらなくても責任取らないからな」
「じゃあ当たってもお兄さんには何もあげません」 そろそろ買ってきますね。」どうせ当たらないだろう。1000万だぞ?競馬はそんな甘くないぞ。
…
「お待たせしました。無事買えましたよ1000万馬券」
「気が早過ぎるだろ」
「気持ちで負けたら終わりですからね。」
「随分体育会系だな。…そういえば君就活生か?なんかウインズに似つかわしく格好だけど。」
「そうです。ってこの格好見ればわかりますよね。
「うん、お手本のようなリクルートスーツ」
「ありがとうございます」
「別に褒めてないぞ」
「なんかうまくいってなくて、実はさっきも面接あったんですけどね。ダメダメで近くにあったここにふらっときました。」
「なるほど、気分転換的な」
「まあそんなとこかなぁ。そもそも働くのめんどうなんで、面接も見透かされてるんでしょうね。全然通りません。あ、そうだ、お兄さんもしかしたら企業の採用担当だったりしませんか?雇ってくれませんか?」
「残念ながら採用担当ではないし今の話聞いたら、採用担当だとしても落とすな」
「そんなー。けちですね。」
「大丈夫。君なら受かる受かる」
「随分適当ですねぇ。年上の社会人とは思えません」
彼女がうーんという顔をしていると、場内にファンファーレの音が鳴った。
「始まります?」
「ああ、モニターで観れる。
レースがスタートした。食い入るようにモニターを見つめる。
う2も4も8もかなり後ろだな。ダメそうだ。
「これかなりみんな後ろじゃないですか?届くんですかこれ。」
「かなり厳しいじゃないかな」
「あーダメかぁ。やっぱそんな甘くないですねビギナーズラック失敗」
そうそう。競馬はそんな甘くないぞ。ん…?でも前がかなり早いな…後ろ刺せるんじゃないかこれ?
実況が館内に鳴り響く。
「飛ばしていた前が総崩れ、後ろにいた各馬がまとめて追い込んでくる!」
おいおいうそだろ?
「2.4.8が後ろからまとめて追い込んできた!そのままなだれこむようにゴールイン!」
ん…?2.4.8?はて?彼女もポカンとしている。
「あれ私、2.4.8買ってますよね?これ馬券ですけど」馬券には2ー4ー8の文字。
「あれ…1000万って。お兄さん言ってましたよね。本当ですよね?」
嘘だろ1000万だぞ。マジかよ?
えと…え、俺買ってないぞ?
「えええええ!ほんと?凄すぎます!うそー」
ええええええええええうそぉ?マジで当たるのかよ!こんな適当に買った馬券が!何で俺は100円あるのに買ってねえんだよおぉぉ、コーヒー代と思って120円残してる場合じゃなかったあぁぁぁ!
「ねぇ!これどうすればいいですか?!」
落ち着け俺、発狂しそうだが冷静を保つ
「と、とりあえず100万超えたら券売機で受け取らないから窓口いくぞ」
「ええ…1000万うそ、バイト辞められそうです!嬉しい〜!」
「最初の感想それなのか」
「お兄さん…買ってなかったですよね…せっかくいろいろ教えてくれたのに。なんかすみません。」
うん、2番を教えたのは俺だからな。少し分けるのが当然だよね?言いかけた。危ない。
「ああ…、君のお金で買ったんだから君のものだよ…」やばい舌噛みちぎりそう。とりあえずニコニコファイナンスの45000円くれますか?耐える。
窓口で馬券を見せると受付の女性が慌てた。「しょ少々お待ちください!」なんか社員っぽい人が後ろで高速で動き出した。しばらく待つと、スーツの男性が出てきた。奥にお越しください。そのまま応接間のようなところに案内された。女の子はずっと「ほえー」と言っている。
「おめでとうございます。封筒に入っているこちらが985万円です。お確かめください。」
どんと目の前に置かれた分厚さは辞書のようだった。
「凄い…現実なんですかねこれ」
「俺は買ってない現実を信じられない」
「やっぱり気にしてるじゃないですか」
「これみたらどんな人間でも後悔するだろ。」
「どんまいです。じ、じゃあ枚数のカウントをお願いできますか?」
「買い忘れて落ち込んでるんだが」
「うーん、じゃあなんかご褒美あげますから」
ご、ごほうび!女子大生のご褒美…!なんてものは興味なく、985万手にした人間からのご褒美。期待が募る!
「やります。期待してます。」
「あーやっぱお金で人って動くんですねぇ…」
遠い目をしていたが関係ない。そそくさと札束を取り数を数える。
「うん、こっちはピッタリ500万ある。そっちは?」
「はい、485万ピッタリです。」
「ご確認ありがとうございます。ではこちら985万お受け取り下さい。」封筒に詰め直されそのまま裏口まで見送りされた。
「え、と…とりあえずこのままお金持ってるの怖いので一緒に銀行まで着いてきてくれませんか?」
「うん、まあそりゃそうだな。」
「ありがとうございます」
「待てよ今日休日だから、銀行行ってもこの額は預金できないな。」
「ええじゃあどうすれば、とりあえず家まで持って帰ればいいですか?」
「そうだな。週明け銀行に預金しなよ」
「ううう、これ家に保管するの怖すぎますね」
「1000万当たったんだぞ、それくらい耐えろ」
「じゃあタクシー乗りましょう。家までそれほど遠くないです。よかったら一回家まできてくれますか?」
あれ、どうなんだこれ。女子大生の家に。
でもご褒美うやむやにされるわけにはいかないからな。
「ああ何が起こるかわからないしな。一応ついてくよ」
「ありがとうございます。当たった気持ちが落ち着かないのでしばらく一緒にいて下さい。」
大通り沿いということもあり、タクシーはすぐ捕まった。彼女の家はここから15分程度三軒茶屋周辺らしい。いいとこに住んでやがる。
タクシーの車内で会話を続ける。
「お兄さんご褒美、何がいいですか?1000万当たったのはお兄さんのおかげですから、ある程度は考えますよ?」
一瞬運転手がちらっとみたが、すぐに視線を戻した。
「うーん…」
ストレートにお金くださいは流石にない。エッチなこと?どうでもいい。金をくれ…。せめてお金貸してくれないかな?でも年下の学生に借金なんて…いやもうどうでもいいか?そもそも初対面だしはる見栄もないのでは?逡巡した表情が出ていたのか女性は尋ねてくる。
「一回言ってみて下さい。泡銭ですから遠慮せずです。」
悩んだがこのチャンスは千載一遇であろう。決心して話す事にした。
「…あのさ。実は俺借金まみれのフリーターなんだが、まとめて金貸してくれないか?返すからさ。」運転手が再度チラ見。
女性は魂を一瞬抜かれたような顔できょとんとしている。
「え、えと…。すみません。急なダメ人間宣言でびっくりしてるんですけど。」
「俺は300万借金あるダメフリーターだよ。さっきは先輩ヅラしてすみません。」
「…えーそうだったんですか。まあなんかそんな感じしてました」
え…うそ。俺そんな社会不適合感あったかな。
「だってキョロキョロしてるしギンギンでモニター見てるし怖かったですもん」
やばすぎる、そう見えているのか。
「…よくそんな奴に話しかけたな」
「だからこそなんか当たる馬教えてくれそうだと思って。でも正解でしたね。私、運いいんですよ」
「それはなによりで」
「300万ですかぁ。どうしよっかなぁ…」
流石に考えてるな…まあそうだろう。
「本当に困ってて。俺本当にガス止まったときは電気ケトルでお湯沸かしで体拭いたりしてるんだよ」
「それ言われてなんていえばいいのかわからないですよ…」
やばい引いてる
「うーんでもそうだなぁまあ元々なかったお金ですしお兄さんがいなければ当てられなかったのは事実ですからねぇ。」
「お願いします!」
後部座席だが、可能な限り土下座っぽく頭を下げた」
「…なんか可哀想になってきちゃいました。年下の女の子にこんなに鮮やかに頭下げるなんて」
「それくらい本気で言ってるだけだよ」
「…わかりました。いいですよ。助けてあげてます。」
「ありがとう!!」
思わずそのまま膝の上に置かれていた彼女の手を握ってしまった。慌てて離したがこっちを見てくる。
「急にやめて下さいよ…びっくりしたよもう…」
「いや実は利息やら滞納やらで生活できてないんだよ!マジでたすかる!」
「凄い爽やかにクズ人間宣言ですね…。でもあなたお金返すって返せるんですか?300万」
「いやぁ…それは何とか適当に働き口みつけて…」
「私就活してますけどそんな簡単にダメ人間が就職できると思えないけどなぁ」
まずい、不信感が芽生え始めてる!やばい、借りれなくなっちゃう!
「すみません。300万貸しますけど条件つけていいですか。」
え…なになに、やめて下さいよ…
「私就活してますが、正直会社員とか無理です。お兄さんと同じで根本私もめんどくさがり屋のダメ人間ですから。だからお兄さんに貸して残りの余ったお金で…会社作ります。」
え?会社つくる?どうした??
「だって社長になったらあんまり働かなくても従業員が頑張ればいいじゃないですか?社長室でネトフリ見ながらドライフルーツ食べてるだけで大金持ちですから。だから、貸しますけど…一緒に会社作ってそこで働いて下さい。もちろん給料は出しますからその範囲で返済して下さい。」
おいおい。とんでもなく変な提案してきやがったこの女。素直に貸してくれよ。
「いや、でも会社なんて…君なんかできるの?」
「私はなーんにも、できないです!」
「高らかに言うな」
「せいぜい応援と運がいいくらいです。だからお兄さんにできることに合わせて会社の内容決めます」
「俺基準かよ!」
「はい!お兄さんが私の分まで稼いでくれればいいですからね。私はなーにもしません!てかできません!ネトフリ見てます!」
正直胡散臭過ぎる話だが、実際今日の俺の時点でほとんど詰んでる。だとしたら…失うものは特にないのだ。
「あ、でも嫌ならいいですよ。頑張って300万競馬で当てればいいんですもんね頑張って下さい。」
こ、こいつ…地味に性格歪んでるな!確かに目先の45000円すら用意できない俺に拒否権はない。
「わかったよ。それでいい。」
借りる立場でその言い方はイマイチですねぇ」
ぐぬ…
「すみません。300万貸して下さい。あと、働かせて下さい。お願いします。」
「うふふ、はい。これからよろしくお願いします!」イタズラっぽく笑ってこっちを見つめる。
「お客さんこの交差点で良いかな?」
会話に夢中で気づかなかったがもう目的地周辺のようだ。
「はい、ここで大丈夫です!」
「1500円です。現金?キャッシュレス?」
「あ、これで、お釣りはいらないです!」
1万円封筒から出して運転手へ渡した。うそだろ俺にくれよ。
「ありがとう嬢ちゃん。でもいいよ。いくら大金当てたとはいえそんな使い方してたらすぐに無くなっちまうよ。大きなお世話かもしれんが、考えて使いな。そこのお兄さんみたいになっちまうよ」
最後の言葉いる?
「…はい!分かりました。ありがとうございました。」8500円のお釣りを受け取りタクシーから降りた。
「この交差点から北にすぐです。」
「歩くのか?」
「路地なので、タクシーは入れなくて。少しだけ」
「持つよそれ。」
「そのまま走って逃げないで下さいね」
「しないよバカ」
「バカって言わないでくださいよ。あれ…そういえばお名前聞いてなかったですね。」
「そうだな…俺は有栖川宗」
「ダメ人間なのにかっこいい名前ですね」
「生まれたときはダメ人間じゃなかったからな君は?」
「胡桃沢雛といきます。有栖川さんお金ないのに、300万貸して貰えて、女子大生の部下になれて今日はとってもついてますね」
「部下って…ついてるのかそれ。」
「女子大生の部下ですよ!よかったじゃないですか!何でもいうこと聞いて下さいね。」
「ただの奴隷じゃないかそれ」生憎俺はM属性は少ししかない。少ししか。
「あ…ここです。」
古いながらも、しっかりとしたつくりのマンションだ。これをみるに一人暮らしらしい。
「色々決めることありますから、一回家上がってって下さい。作戦会議しましょう!」
「うん、まあそうだな。マジでやるなら一回方針決めよう」
「あ、ごめんなさい。有栖川さんといえども流石に部屋片付けしたいので目の前のスーパーで適当にお菓子買ってきてくれますか?これお金です。あ!お酒もお願いします!」
早速封筒から1万円渡された。
有栖川さんといえども…?
なんか暴露してから明らかに舐められるような気がするな。
「…俺がいうのもアレだがテンション上がりすぎでは?」
「だって1000万当たって、しかも就活しなくて働かなくて良くなったんですよ?有栖川さん!」
うーん…大丈夫かこの展開。
俺も100円買っておけばよかった。
そしたら1000万手にして、こんなことせず借金返せていたのに。でも後悔しても仕方ない。
人生詰み切ってる俺は、この強運な女の子、胡桃沢に乗るしかないのだから。
悩んだ穴馬馬券は少額でも買っておけ、次に競馬するとき肝に銘じようとしみじみ思った。
初めての投稿です。
強運彼女と共に借金返済を目指す話。
どんな感想でも待ってます!!




