クリスマス
三題噺もどき―ななひゃくきゅうじゅうはち。
外は雨が降り始めた。
これが雪にでもなれば、ホワイトクリスマスになったのだが。
そう簡単に事は進まないという事だろう。何でもかんでも思い通りにはいかないのだ。
「……」
雪が降れば、景色は真っ白に染まり、白地図を広げているような気分になるだろう。
歩いた後には足跡が残る。雪を固めて何かを形作ったり、洞穴を作ったり。
今朝がた―正確には夕方だが―いつもと変わらずはしゃいでいた子供たちは、それ以上にはしゃぐだろうに。
「……」
そういえば、今日は平日にも関わらず、制服ではなかったが……もう冬休みに入ったのだろうか。ランドセルも背負っていなかったようだし、そうかもしれないな。
クリスマス当日に、冬休みを迎えると言うのも、いいのか悪いのか。
気分的には、いいかもな。クリスマスプレゼントをもらって浮かれたまま、その気分のままちょっとした休みに入れるのだから。それでも、宿題はあるのだろうけど。
「……」
しかし、彼らのところにサンタクロースは来たのだろうか。
赤い帽子に赤い服で赤いブーツを履いて。真っ白な髭を蓄えた少し丸いサンタクロースが。
まぁ、きっと。彼らはいい子だろうから。
生憎、願い通りにとはいかないかもしれないけれど。そこは大人の事情だろう。
「……、」
ぽたぽたと窓を叩く雨音を聞きながら、静かな雪に変わればいいのにと少し思う。
冷えるのは目に見えているが、今は、その雨音が少しうるさい。
今日はせっかくのクリスマスなのに。
我が家にはサンタは来ない。
「……」
今日には忘れると思っていた。
今日には元に戻ると思っていた。
今日にはいつも通りになると思っていた。
「……」
もちろん、それなりに、今まで通りに戻って入る。
起きてベランダに出て、街を眺めた。
仕事をして、昼食を摂って、家の従者と一緒に散歩に行った。
帰宅して、仕事をして、休憩時間にはいつもより少し豪華なショートケーキを食べて。
「……」
そして、仕事をして。
ぼうっと意識が逸れてくると。
雨音が響くのと同じように、昨日の事が思いだされて。
「……」
訳が分からないほどに、何かが抜け落ちたような感覚になった。
「……」
アレにされたことを思い出してみても、そんな気分になるような関係でもないはずなのに。
どうしてこうも、惜しいと思ってしまうのだろう。
ただの、悪友のような奴でしかなかったのに。私の記憶を逆撫でするようなことをしてきたのに。おかげで、家の従者にも、唯一の家族にも、いらぬ心配をかけてしまったのに。
「……」
何でこんな気分になるのだろう。
あの真っ白な亡霊が、どうしてこんなにも引っかかるのだろう。
挨拶だなんて言ったくせに、それらしい挨拶もせずに消えたあの亡霊が。
「……」
訳が分からないな。
やはり、何でもかんでも思い通りにはいかないらしい。
―目の敵のようにしか思っていなかった、アレが消えたことが、こんなにも引っかかっているのだから。
「……」
そのうち、忘れるだろう。
もう何度歳を重ねたのかも分からないほどに生きているのだ。
忘れる記憶なんてたくさんある。忘れられないのは、二人で生きてきた記憶くらいだ。
「……ご主人」
「……」
声のした方を見れば、記憶に残る大人の姿ではない、小柄な青年が立っていた。どちらも本人なのだけど、身長が変わるだけでこうも印象が変わるかと思ってしまう。成長というのは恐ろしいものだな。
「……お風呂、溜まりましたよ」
「……あぁ、」
もう、そんな時間になっていたのか。
今日はなんだか、いつも以上にあっという間に終わってしまうような気がする。
「……クリスマスですからね」
「……そうかもな」
昨日の事は、少し忘れて。
ほんの少し豪華な食事をして。
クリスマスらしい雰囲気を楽しむとしよう。
「……また大量に」
「興が乗りました」
「……まぁ、食べきるからいいが」
「はい。どうぞ召し上がれ」
お題:白地図・ショートケーキ・ブーツ




