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第11話

「お疲れ様でした〜」

ライブの終わりはアイリの一言で締められることがいつしか毎回のパターンになっていた。

「お疲れ」

「お疲れ様でした。アイリさんの演奏良かった〜」

「ううん。そんなことないよ。3人の時は私が脚を引っ張ってたし⋯」

正直ウズウズしていた。反省会もそこそこにして、アイツに会いに行こうとしていた。

「この後反省会も兼ねて何処か行きません?」

やばい。流れ的にこのままだと反省会をする流れだ。

そう思っているとアイリと目が合った。

「行ってもいいよ」

こういう時だけは中々鋭い。

「え? 本当ですか!?」

キョーコが自分の何処か行きませんかの答えだと思って喜んだ。

「あっ、そういうことじゃなくてヴァンが行っていいって」

「え? なんか予定あんの?」

相変わらずこいつは俺への当たりが強い。

「ごめん。今日人招待してた」

「アイリさんも知り合い?」

「知り合いって程じゃないけど、知ってる子だよ」

「知ってる子ってことは、また女の子か」

「なんだ。またって」

「貴方の周りって女の子しかいないでしょ」

「男の知り合いだっているよ。ちゃんと2、3人程いる」

「逆に女の子知り合い一体何人いるか言ってみなさいよ!」

ただ、興味もないのか一瞥して言った。

「まあ、好きにしなよ」

「ていうかお前も知り合い来てただろ。いいのかよ」

「あっ、そうだった。連絡来てた! え? ご飯行かないかって言われたんですけど、アッシュなんて放っておいてアイリさんも一緒にどうですか?」

「⋯⋯今日は良いかな」

薄っすら思っているが、こいつはこいつでアイリへの接し方を間違ってる。まあ、ムカつくので言わないが。

「そうですか。じゃあ、次の機会に是非!」

「うん」

「その時は俺も誘えよ」

実際誘われても行かないが、困らせる為にキョーコに言ってみる。実際、俺が行くとなればアイリも付いてくる。だが俺だから付いてくる訳じゃない。キョーコの残念な所はずっと俺がいる場所にアイリも付いていくと勘違いしている所だ。

「⋯⋯」

「何故黙る?」

「女なら何でも良いんでしょ」

「勘違いするな。人の金で食う飯が上手いだけだ」

「そっちも最低だよ! ヒモ野郎。アイリさんの家から出てけ!」

「ははっ、いいんだぞ。こっちは野宿しても。ただしライブには凄い臭いで出てくるからな」

「何でお前が強気なんだよ!」

「まあまあ」

アイリが宥めるとどうせキョーコは諦める。

「アイリさんはヴァンに甘過ぎます」

「しょうがないよ。ヴァンには一生分の恩があるし」

「キー! 一体どんな弱みを握ったのよ」

キー!って言う奴初めて見た。

「弱みを誰かれ構わず話す訳ないだろ」

「あんた! 本当にアイリさんを!」

キョーコはノリが良すぎて弄って楽しすぎるから困る。

「はいはい、二人ともそれくらいにして。アッシュは待たせてるんでしょ」

「うん。多分」

そう言えば何も言ってない。でも、あっちも話したいと思ってくれているとは思う。

「多分って———あんた携帯も持ってないでしょ。連絡手段あんの?」

「大丈夫。行動範囲が狭いし、先に帰って無ければわかるよ」

そう言って2人と別れた。

しかし、ライブハウスにもいなかった。

「おねーさん、小っちゃい女の子見なかった? ライブ初心者っぽい子」

しょうがないのでスタッフらしき人に声を掛けた。こんな適当な質問でわかるとは思わなかったが、意外にも話が帰ってきた。

「あんたのライブ見たら帰ったよ」

「まじか」

「マジだ」

「ありがとね」

「あんたのギターよかったよ〜」

お姉さんと和やかに別れ、手を振りながらライブハウスを出ると都会の喧騒が身を包んだ。

こんな群衆の中何処にいるか分かるはずがない。

まあ、普通の人間ならだけど。

【血制約定】

小指を立てるとマーキングした対象と直線を結ぶことができる。便利ではないが、ある程度助かる能力だ。概念的な糸なので、俺以外に見えないし、建物も貫通してしまうので、相当開けていないと探し辛いのだが、方角は分かる。

取り敢えず駅まで走った。

駅まで走ると線があり得ない方に向いていることに気付いた。

「どう考えても家に帰ってるじゃん」

普通、帰るか?

そりゃあライブ終わった後、集まろうとは言ってない、あれ言ってなかったけ? 言ってた気がする。

「あんのコミュ障チキンカス」

その場から走り出した。人気が少ない場所に入ると軽く足に力を込める。300メートル程飛び上がると糸の方向に向かって空を跳んだ。諸事情があって今は空を飛べない。もっと早く移動する術はあるのだが、環境にあまり良くないので使いたくはない。途中、走る電車を見てその上に音も立てずに飛び乗った。

「この電車アイツん家に行くんじゃね?」

電車で移動するのは少し遅いが、確実だ。人に見られるのは避けたいため、あまり目立つ移動は出来ない。

どうしよっかな。

電車から降りて走った方が早い。

「でも、どうせ家で寝てんだろ」

アキラの行動範囲は狭い。学校と家とTSUTAYAで完結してる。家に行けば恐らくは会えるのだ。

「まあ、鈍足運行で移動しますかね」

結局は疲れたくないので、電車で移動することに決めた。


 アキラの最寄り駅着くと不思議なことがあった。糸が駅の先に続いている様に見えた。もしかして電車で遠くまで?

「そんな訳ないか」

足早にアキラの家に向かった。文字通りひとっ跳びで着いた。

「は?」

しかし、おかしなことにどう考えてもアキラの家には糸が伸びていない。

じゃあ、あの公園は?

あの散歩道?

自販機?

自販機の裏?

持ち上げてもそこにはいなかった。

あの行動範囲激狭女子が?

「⋯⋯」

軽く500メートル程、上空を跳び上がる。最初からこうすればよかった。自分との角度を考えると、糸の先はどう考えても遥か彼方にある。

方角がわかっているので、そっちの方に進んでいけばそのうち見つかるだろう。それに数学的に考えて、この角度が45度になるように上空へと飛べば、同じくらいの距離を移動したことがわかる。それをできるだけの能力もある。

でも面倒くさい。

それにアイツを探す為に滅茶苦茶時間を掛けたみたいじゃないか。

「もっとシンプルに行こうぜ」

45度になる様に探すなんて何回トライしないといけない?

それにそんなことやったら必死さが滲み出る。 

90度で探せば一発だ。アキラを探し出して、そのまま空中から落っこちればいい。頭上の月が何のために存在しているか知ってるか?


 血制約定を発動させる。

【血制約定 一次元上のアリア】

俺の能力はとっても地味で分かりづらい能力だ。

足に思いっきり力を込め、空高く飛んだ。地球から月までの距離は 役384,400 km。だが、単純に飛べば良い訳じゃない。ロケットが大気圏を突破する為に推進機構を切り離しながら飛ぶ。普通の加速機構だったら、工夫しないと大気圏を突破できないのだ。でも、俺にロケットの機構はついていない。ついていないってことはロケットと同じ方法で飛べるわけじゃないってことだ。最初の地面から飛び上がる力だけで、成層圏を突破しなければならない。そんなこと普通できるかって? でも、俺は普通じゃない。

地上からの勢いだけで成層圏まで突破しようとする。当然膨大な力が必要となるが、俺自体が膨大な力なので、何も問題ない。

膝を屈伸させて、手の力を使って飛び上がる。

飛び上がった直後、作用反作用の法則で周囲に巨大な衝撃波を生んだ。飛んだ衝撃波が巨大な風圧を生み出し、地面に根を張る木さえも地面ごと吹き飛んだ。後ろを振り返ることはしないが、俺が飛んだ跡地を中心として隕石が落ちたかのようなクレーターが出来ていることだろう。でも、一体どんな被害を起こしたかは振り返らない。でも、どうせ関係ない。

それよりも気になるのは風圧。

俺はロケットの機構を備えていないので、最初の加速以外にスピードを上げる手段がない。だからこそ空気の層こそが強敵であった。

壁にずっと叩きつけられるみたいな感覚がする上に、正直俺でもちょっと痛い。月に辿り着くまで特別なことはない。ただ痛みに耐えるのみだ。だが、大気圏を抜けると一気に楽になった。そのまま成層圏を越えて月まで真っ直ぐ向かう。途中のデブリも空気の壁に比べてみれば痛くも痒くもない。

 そのまま等速直線運動で月まで着くと爆発が起こった。着地の余波で大きなクレーターができてしまった。下手したら地球から見えるかもしれない。

まあ、いいか。

どうせ関係ない。

関係無くなる。

【血制約定 一次元上のアリア】

時間というのは一本の線で想像されることが多いが、実際は粒状の一本の線だ。粒状だからこそ我々は時間の存在を認識できる。粒の間隔を数えることで未来の予測ができるし、粒の一つを眺める事で時間停止という想像が出来るようになり、現在から粒を取りに行くことで過去を回想できる。脳みその記憶がどうとか認知がどうとかの話じゃない。世界を粒自体が記録しているのだ。

 一次元上のアリアはその粒を取り出し、一次元上に引き伸ばす事ができる。引き伸ばした時間は普通の時間と変わらない。普通の時間をAとした時、一次元上のアリアで引き伸ばした時間をA´とすることができる。このA´時間は平行線上にあるため、決してAとは交わらない。つまりA´時間において地球を壊そうが、何をしようがAには反映されないサンドボックスを作ることができる。ただし俺と俺が選んだ物を反映することができるが、そんなのは些事でしかない。

つまりA´の時間軸で地球と月を壊しながら移動した後、俺が月に辿り着いた結果のみをA時間軸に持ち帰れば、地球も月も一切破壊せずに月にいることができるのだ。

 ああ、ここまで読んで何を言っているのかわからなかったって? 

大丈夫。話の本筋には関係ないから。


 月から垂らされた赤い糸を見るとアキラは全然別の場所にいた。日本にいないなんてことはなかったけど、アキラの家から遠く離れた海の側だ。

まあ、そことアキラの家なんて月と地球ほどには離れてないんだけど。

全く何処にいるんだ。お前は。

ライブ帰りに海なんて行くかよ。普通。

めっちゃロックじゃん。生意気なことしやがって。

お前はないかもしれないけど、俺はお前に話したいことがあるんだよ。


 再度月から飛んで地球に向かった。月は大気圏がないので、地球から飛び立つよりは力が必要ない。糸に沿って真っすぐ跳んで、後は地球の重力に沿って落ちていくだけで辿り着く。ちょっとズレるだけであり得ないくらい移動してしまうので、丁寧に糸に沿って移動する。大気圏に入ってしまうと途端に熱くなる。さっきと同じだ。摩擦熱によって膨大な熱量を生んでしまう。これがあるお陰で隕石なんか降ってこないで済んでいるらしい。また、痛みを無心で痛みに耐えるのみだ。

雲間を抜けると途端に広い海岸が見えてきた。そこで座っている少女がいる。

一体何をしてるんだ。

「あっ」

やばい。ぶつかる。

どう止まるか考えてなかった。

【血制約定 一次元上のアリア】

海岸で起きたことをなかったことにして目の前の少女の前に立った。

「よお。元気してたか?」

「今、隕石落ちて来なかった?」

「⋯俺は見てないな」

「そうなんだ。まあ、いいや」

「俺は」「僕は」

2つの声が重なった。

「いいぞ。先言って大した用じゃない」

大した内容でもない。

ただ会いたかったぞと言うつもりだっただけだ。

「じゃあ、言わせて貰うけど」

わざわざ会いたかったなんて、畏まって言う内容でもない。聞かれたら誤魔化せばいい。

「僕は君に会いたくなかったよ」


は?


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