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お互いそんな子どもでもないし、すぐにケロリと元に戻るだろうなんて、何処かで安直に考えていた。
でも、現実は違った。
あの日以来、匠の周りに人は集まらない。
元ネタとなる投稿はアカウントごと凍結を食らったようではあったので、それ以上の被害はないものの、実害が出ている。
匠含めて五人のグループである彼らは、安井以外が遠巻きに匠を気にしているようではあるが、仲違いをしている安井は、一切匠を視界の中に入れようとはしない頑固さを見せた。女子二人が気にして匠に話しかけるような場面もあったが、元々笑顔を振りまくようなタイプでもなければ、話を長引かせるような努力をするタイプでもない。彼との続かない会話に諦めて、二人は匠の席をそっと後にしていた。
見ている限り、全てが悪循環に働いている。俺は一人でぼんやりとしている匠の背中を見つめる。もちろん、振り返ったりはしてこない。あれ以来目も合わないから挨拶もしてない。
「御子柴、大丈夫か?」
不意に瀬尾に問われて、俺は返事を迷った。大丈夫、とは言い難いけれど、当人がどうしたいのかも何を考えているのかも、はっきりしたところは分からない。大丈夫か? と問えば、きっと「別に何でもない」と返事が返ってくるのは目に見えている。
なんとかしてやりたい。せめて、彼が考えていることを、直接聞きたい。
俺は待ってばかりだった中学二年の頃を思い出して、
「大丈夫って、言うと思う」
と、瀬尾に返してから席を立った。
眺めているだけでは変わらない。
動かなければ変わらないのは、俺も匠も一緒だ。
俺は匠の席の前の、空白の椅子を引いた。俯いていた匠が、耳からワイヤレスのイヤホンを外しながら顔を上げる。目の前の俺を見ると、どこか強張っていた表情が解けるような、淡い変化が見て取れた。
「匠、江ノ島行かない?」
「へ?」
予想外だったらしい俺の誘いに、匠が首を傾げる。
それはそうだろう、突然話しかけてきたと思えば、いきなり江の島に行かない? という誘いである。戸惑うように視線をさ迷わせてから、匠は今一度、俺の真意を確かめるように、じっくりとこちらを見つめ返してから、
「行く」
と、小さく頷いた。