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「ストリートスナップの雑誌に、御子柴が載ったんだって」
一日遅れで入ってきた情報を、千葉から仕入れた翌朝。匠のグループではもうその話題は過ぎ去っており、いつも通り騒がしいことには変わりないが、昨日のような彼を持ち上げる騒ぎは起こっていない。
俺は千葉に向けられたスマートフォンを覗き込んだ。
そこには間違いなく匠が映っていた。撮影地は表参道となっており――いかにも匠が苦手そうな爽やかな大通りで、ハイブランドの店舗が、匠の背後に映っている。
私服は白と黒を交互に着ていることが多く、サイズも脂肪を隠す為か大きめのものばかりが多かった匠からは、とても想像できない大きな柄の入ったシャツに一瞬驚きが勝ってしまう。こんなの着るんだ、そして難なく似合ってるのもすごい。
すらりと白く細いけれど、筋肉のついた腕。ブルーのワイドテーパードジーンズを緩めに履いているのがさまになっている。
「ビジュ良すぎ。同い年の同じ生物じゃねえだろ」
瀬尾が真顔で覗き込んで呟いた。
「な、やべーよ。芸能人レベルじゃん。顔ちっさ。こども用の茶碗くらいじゃね?」
二人の会話を流し訊きしながら、俺は画面の中にいる匠を見つめた。
外見にコンプレックスがないと言えば、きっと嘘だろう。そんな匠が外見をがらりと変えた努力は本当にすごいと思う。こういう雑誌に載る事も、きっとあまり得意じゃないだろうから、恐らく流されたか断るのが面倒になったに違いない。けれど、彼の努力の結果がこうして他人の目から見てもすごいと褒められているみたいで、これはこれとして、何だか嬉しくなってくる。
「すごいなぁ……」
ダイエットも頑張っただろうし、肌のケアも、服装だって変わろうと、今も頑張っているなんてすごい。俺が知らない所で、匠はずっと頑張っていたのか……。
俺はどこか尊敬に近い感覚で、その画像を眺め続ける。
「授業始めるぞー」
教室の前扉ががらりと開き、教師が入ってくる。固まっていた生徒たちが散り散りとなり、自席へと戻ってく。俺は斜め前の方にいる匠の背中を眺めた。
彼の少し眠たげな丸い背中が、愛おしく目に映った。