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「好き、なんだけどさ……付き合ってとか、俺が言って良いのかな」
告白はそんな弱気に満ちたものだった。
顔を上げると、彼の悩みである吹き出物の潰れたおうとつのある肌が見えて、脂肪に窪んだ眼差しが暗く俺を見つめている。長く伸びっぱなしの前髪の奥の双眸が、酷く怯えて震えているのが見えて、俺は思わず彼の右手を握りしめた。脂肪で赤ちゃんみたいにふっくらした指や手のひらは柔らかく、俺はその手を心底好きだと思う。
視線を彼から不意に逸らし、カーブミラーに映る、少し湾曲した自分たちを見つめた。縦にも横にも幅がある彼の後姿。ぼさぼさで手入れを知らない伸びっぱなしの黒髪。――正直に言って、彼の見た目は良くない。
街で誰かとすれ違えば、一日に何回かはその容貌に対し、嘲笑を投げつけられてしまう事も少なくない。
――でも、俺は知っている。
小学生の頃から、自身に対しては無頓着で無関心ではあるけれど、動物には優しいし、自分を悪く言う相手にも、分け隔てなく心遣いができる。手先が器用で、プラモデルを作る事や、絵を描くことが上手で、俺がリクエストすれば自分の中に持ちえる全ての技術を捻り出して、全力で答えてくれる。優しくて、笑う事は少ないけれど、ふとした瞬間に綻ぶ口元が、俺は好きだと思っていた。
中学に上がって、学校は離れてしまったけれど、相変わらず、自分の軸を揺るがす事のない彼が好きだった。
周りを気にし出す時期だというのに、彼はずっと小学校から同じ空気で、同じペースで、それらを他人に乱される事もなく、ただ優しく俺の隣に存在してくれていた。
外見じゃない。
俺はそんな彼が好きだった。
「うん、俺もずっと匠が好きだった!」
彼の申し出に断る理由なんて一つもなかった。何をそんなに怯えながら言うのかと、責めたくなるくらいには、嬉しかった。
「あ、ありがとう……!」
少し潤んだ黒い眼差しが、冬の夕陽の光を吸い込んで、柔らかく蕩けたその笑顔を、俺は本当に好きだと思った。
また違う形で彼の隣に居られると思うと、嬉しくて堪らなかった。繋いだ手を握り締めれば、同じ力で握り返してくれる優しが、胸の奥を優しく締め上げてくる。
――それなのに、俺達の付き合いはその三か月後には自然消滅を迎え、それ以降連絡を取らなくなってしまった。