ネクサス戦決着とハルカ・ステラヴィス
エゴ・サンクチュアリでカイザーネクサスの戦いを見る。当然冷えたコーラとポップコーンは忘れない。戦闘は相変わらずロボットアニメみたいで面白いな。
『貴様らにネクサスは傷つけさせない! このコロニーで生きるみんなのためにも、オレは戦う! カイザーバースト!』
胸から太い熱光線を出して、バトルフレームを次々と蒸発させていく。必殺技っぽい装備多くていいな。
「勝てそうだな」
「情報戦で既に敗北していますからね。ネクサスの優位は揺らぎません」
「哀れな地球連合。俺の目的の邪魔になったばっかりに」
カイザーにも破損が見られる。流石に無傷で倒すことはできないらしい。
『ネクサスに告ぐ。今すぐ武装解除して投降せよ。こちらにはハイパーバスターキャノンの準備がある』
公開通信が宙域に響く。ネクサス周辺宙域に流れているようだが、旗色が悪いと見て脅しにかかったか。
「おっ、茶番が始まったぞ」
「一番の見所ですね」
逆流して爆発するとも知らずに、偉そうにしている軍服を着たおじさん。これはシュールな笑いだな。
『抵抗するならネクサスに向けて撃つ』
『おのれ卑怯な! 罪のないコロニーの住民まで巻き込むんじゃない!!』
『既にチャージは開始されている。止められるものなら止めてみるがいい』
映像では大砲に光が集まっていくのがわかる。あれが自滅の光であることを知っているのは俺たちだけだ。いやあ愉快だね。
「なんでわざわざ大砲を見せるんだ?」
「どのみちエネルギーの収束で位置は特定されます。ならば脅しの道具にしようというわけですね。苦肉の策でしょう」
『カイザーネクサスは、そんなものに負けはしない! コロニーに生きるものの盾となる!!』
猛スピードで宇宙空間を駆けるカイザーネクサスだが、大砲までの距離は遠い。いかにスーパーなロボといえど、発射に間に合うはずがない。だから盾になろうとしているのだ。立派だねえ。
『バカめ! カイザーネクサスさえ破壊してしまえば終わりよ! 撃て!』
『オレは負けない! 守護神カイザーネクサスよ! 力をおおおぉぉ!』
「はい爆破」
「了解」
大砲のエネルギーが逆流して大爆発を起こす。瞬間、おじさんとネクサスのパイロットが止まる。
「ぶっはっはっはっは!!」
呆然と口を開けたまま動かない。何が起きたのか理解できていないのだろう。ただじっと画面を見つめて止まっている。くっそ面白い。
「はははははは!! 完全に止まってるぞ! めっちゃかっこいいセリフ言っといてアホみたいな顔してやがる!」
「しっかり録画しております」
「ナイスだ!」
なんならMADにしよう。最高のAIによる動画とか面白くね?
『どうなっている! ネクサスの介入か!!』
先に正気に戻ったのは、地球連合のおじさんだった。年季の差だろうか、それでも予想外の事態に戸惑っている。
続いてカイザーネクサスのパイロットも正気を取り戻す。
『慢心して整備を怠るとは、地球連合軍の恥さらしめ! このまま一気に成敗してくれるわ!』
『くっ、くそ! 撤退! 全軍撤退だ!』
「地球連合軍の残存兵力、撤退していきます」
こうしてネクサス側の被害は最小限に抑えられた。だが足りない。しっかりと後始末までしておこう。
「宙域を離れ次第狙撃しろ。あのおじさんが乗っている船だけでいい。あいつは生きていると邪魔だ」
「狙撃完了。戦艦爆殺。他はどうしますか?」
「無視で。匿名で今までのルートの隊長機の頭部画像と、大砲の爆破シーンをソフィアに送れ。これで諦めつくだろ。できればハルカに会いたいと書いておけ」
「了解」
大浴場でジャグジーに浸かりながら、俺は次の計画を考える。ハルカ・ステラヴィス、コロニー同盟の盟主の次女。こいつもターゲットだ。発表会にいる今なら接触も可能だろう。このチャンスを逃すとアポを取ることすら困難だ。絶対にDNAサンプルを手に入れたい。
「オーナー、ソフィア様から通信です」
「ほう、早いな。つないでくれ」
探知されない特殊通信を教えておいた。ディスプレイにソフィアの顔が映る。今回はネクサスの執務室らしい。背後の壁にコロニーの紋章が飾られている。相変わらず美人だが、目は真剣だ。
「ネオ様、地球連合の襲撃に関する情報、確かに役立ちました。ネクサスの被害は最小限に抑えられ、住民の安全も確保できました。感謝いたします」
「いえいえ、カイザーネクサスの活躍が素晴らしかったのです」
「あなたが送った映像……隊長機の残骸と、ハイパーバスターキャノンの爆破シーン。確認中ですが、指定された場所で残骸報告があります。あれはあなたが?」
「さてなんのことやら」
「髪の毛とデータはお渡しします。ですが、ハルカ様への交渉は私にはできません」
まあそうだろう。あっちの方が身分は上だろうし、知り合いで呼び止められるだけでも大したもんだよ。
「損害と安全の確認はあちらにも必要でしょう。時間はあるはずです。ハルカ嬢に会わせてくれれば結構です。そちらの屋敷で保護していることは知っています」
襲撃された以上、素早く安全確認して逃げる可能性もある。特に盟主の娘だ。外に出したくはないだろう。ハルカがソフィアの屋敷に逃げ込んでいたのは運がよかった。これはチャンスだ。
「わかりました。以前と同じプライベートガーデンでお待ちしています」
「了解。すぐ向かいます」
そして仮面をつけて夜の庭へ。お忍びでお嬢様の屋敷へ行くというとロマンを感じる層もいるだろうが、俺は女が好きじゃない。無論男も嫌いだ。だから俺が認めた存在だけのコロニーを作るのだ。
「仮面は問題ないな?」
「万全です。いつでもかっこいい仮面と平凡なオーナーを切り替えられます」
「そいつはなにより」
前に見たテーブルと椅子がある。紅茶とクッキーも3人分用意されていた。ソフィアが先に現れ、落ち着いた笑みを浮かべる。彼女の金髪が夜風に揺れる。相変わらず品格があるな。
「ネオ様、ようこそおいでくださいました。改めて、今回のご助力に感謝申し上げます。ネクサスの危機を未然に防げたのは、あなたの情報のおかげです」
ソフィアが一礼し、テーブルの上に小さいが豪華でしっかりしたケースを置く。透明な蓋越しに、金色の髪の毛が丁寧に収められているのが見える。
「約束通り私の髪の毛と、身体データの入ったチップです」
「ありがとうございます。ソフィア様の誠意、確かに受け取りました」
俺はケースを手に取り、ノイジーにスキャンを指示。データに異常がないことを確認し、丁寧に収納する。ソフィアの目は真剣だが、どこか安堵の色も浮かんでいる。彼女の役割はこれで終わりだ。あとはハルカとの交渉だ。
「ハルカ様は間もなくおいでになります。どうぞお待ちください」
そしてメインイベントがやってきた。ハルカ・ステラヴィス、コロニー同盟の盟主の次女だ。銀髪が夜風に揺れ、光を浴びて絹のように輝く。どちらかといえば小柄な体型だが、清楚なドレスが彼女の柔らかい雰囲気を引き立てる。これでコスモクラフトのパイロットとしても活躍する運動神経と、飛び級で大学を卒業した天才的な頭脳があるわけだ。データベースでクローン候補の筆頭に挙がるのも納得だな。
「ネオ様、初めまして。ハルカ・ステラヴィスです。ソフィア様からお話を伺いました。ネクサスと艦を救ってくれて、ありがとうございます」
ハルカの声は透き通っていて、どこか無垢な響きがある。ソフィアのような警戒心は感じられないが、好奇心旺盛な目で俺を見つめる。技術オタクの片鱗が見えるな。
「ハルカ様、お初にお目にかかります。ネオと申します。ネクサスの危機を防ぐ一助になれたなら幸いです」
俺は仮面の下で丁寧に言葉を選ぶ。普段の口調は封印だ。ハルカのような相手には、誠意と礼儀で接するのが得策だ。正当防衛の言い訳にもなる。3人でテーブルに着く。ソフィアが淹れた紅茶は、相変わらずうまいな。
「ネオ様の技術、興味深いです。ハイパーバスターキャノンの爆破シーンを見ましたが、あの規模のエネルギー逆流をどうやって?」
ハルカが身を乗り出して尋ねる。彼女の瞳がキラキラと輝く。コスモクラフト研究に没頭する天才らしい反応だ。ソフィアは静かに微笑むが、俺の答えを待っている。
「技術は秘密ということで。それに技術と言うならあなたの技術も素晴らしい。発表会で見たブーストフェザー。そしてスーパーロボット。全体の基礎能力を上げながら、象徴も作る。いい判断です」
ブーストフェザーはコスモクラフトノーマルにつける装置だ。背中に羽のような形の装置をつけることで、宇宙でも地上でも高機動状態を維持できる。結構な発明だ。
「ありがとうございます。ノーマル機は一番作られていますから、機動力が上がるだけで生存率も上がります。劇的な強化ではありませんが、それでも必要な強化であると信じています。あのロボットも……」
ハルカの声が弾む。警戒心が薄い分、技術への純粋な興味が前面に出ている。熱心に話し過ぎたのに気づいたのだろう。ハルカが軽く咳払いし、話を戻す。
「失礼しました。ご要件についてはソフィア様に聞いております」
「それはありがたい。ハルカ様、時間がないので単刀直入に申し上げます。あなたの身体データとDNAサンプルをいただきたい。私の目的は、優秀な素体を基にしたクローンを1体だけ作成し、共に暮らすことです。データは厳重に管理し、決して迷惑はかけません」
ハルカの瞳が一瞬揺れるが、すぐに好奇心が勝る。ソフィアほど警戒していないのがわかる。それでも迷いと抵抗は浮かんでいるけど。可能性は0じゃないな。
「クローン……面白い発想ですね。私のDNAで何を作るつもですか?コスモクラフトのパイロットとか?」
「いえ、戦闘目的ではありません。無論自己防衛できるようにするつもりですが、私の楽園で、自由で純粋な存在として生きるためです。ハルカ様の知性、運動神経、容姿、才能は理想的です。1体だけで十分。データは作成後に抹消します」
ハルカがクッキーを手に取り、考え込む。彼女の仕草は優雅で、どこか無邪気だ。ソフィアが静かに口を開く。
「今は地球もコロニーも戦争中。平和で安全な場所などありません。どちらにつくにせよ、戦火を避け続けるのは難しいのでは?」
「私は地球側でもコロニー側でもありません。付け加えるなら、正義のヒーローでも人類の味方でもありません。それに安全な場所は確保してあります」
「興味深い提案です、ネオ様」
ハルカがクッキーを口に運びながら、じっと俺を見つめる。彼女の目は好奇心とわずかな警戒心が混ざった複雑な光を放っている。
「ですが、私のDNAと身体データをお渡しするには、それ相応の理由と信頼が必要です。あなたには感謝しています。でも、私の遺伝子はコロニー同盟の未来にも関わるものです。条件を出させてください」
「ハルカ様のご意向、承りました。どのような条件でしょうか?」
さてどんな要求が来るか。楽園やパラドクス関係なら拒否しなければならないが、まだ性格を掴みきれていない。慎重にいこう。