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交渉開始、そして新たな戦場へ

 ソフィアお嬢様と、プライベートガーデンで紅茶を飲みながら対話する。優雅な状況に見えなくもないが、俺の計画はこの交渉にかかっている。


「こちらをどうぞ。まずは残り2ルートのうちの1つです」


 新品のタブレットを渡す。ホログラムが浮き出し、正確な座標と機体数を出した。頭脳明晰なだけあって、情報の価値を即座に理解したようだ。


「地球連合……まさか中立コロニーに攻めてくるなんて……」


「バトルフレーム・セイバー、アーチャー、アサシン計20機。さらに隊長機とみられる機体が1機。軍艦1隻。工業地区と発表会会場を同時に狙う。目的は新技術の破壊と要人暗殺でしょう」


 ソフィアの表情が硬くなる。和平派とはいえ、ネクサスの危機には敏感だ。彼女が立ち上がり、庭園の池を見つめる。考える時間を与えるため、俺は黙って待つ。


「彼女の動きを監視中。武器はなし。心拍数はさらに上昇。警備員への連絡はなし。本当に対話のために来たようです」


 いいね、これが作戦なら、ソフィアはかなりの頭脳だ。警戒させないようにする技術がある。彼女が振り返り、静かに言う。


「ネオ様、この情報はネクサスの存亡に関わります。なぜ私に? 父や軍に直接伝えなかった理由は?」


「私は目立ちたくない。貴族のトップに話すと、私の存在がバレるおそれがあります。ソフィア様、あなたなら秘密を守れると思いました。それに私の目的はあなたにしか達成できません」


「私は平和を願っています。無駄な争いは望みません。ネクサスの安全は私の責務です。情報を父に伝えず、軍に直接指示を出すことも可能です。ネオ様の秘密は守ります。2人で話したいとおっしゃるのでしたら、何か対価を要求するおつもりでしょう? 父ではなく私ということは、貴族の地位や金銭ではないはずです」


「本当に賢いお方だ。では直球でお答えします。あなたの体の詳細なデータと、DNAサンプル。髪の毛を一房ほどいただきたい」


 ソフィアが一瞬止まる。まあ年頃の女が身体データとか言われりゃキモいよな。嫌悪感は当然だ。怒ることじゃない。


「DNA? 何のために?」


「あなたのクローンを作るかもしれない。その権利が欲しいのです。ですが1体だけです。その後全情報を抹消すると誓います。髪と目の色は変えます。スタイルも多少変更するかもしれません。ですが絶対に迷惑はかけません」


 彼女の顔が一瞬凍る。だが、すぐに笑みを浮かべる。作り笑いとはいえ見事な演技だが、指先がわずかに震えているな。ソフィアが黙考する。和平派でも、プライドは高い。簡単には折れないだろう。


「面白いご提案ですね。ですが簡単に渡せるものではありません。代わりに、別の報酬を提案します。ネクサスの技術データベースへのアクセス権はいかがですか? ネクサスのデータベースに加え、貴族のコネクションを提供します。コロニー同盟との交渉を有利に進められますよ」


「一切興味がありません」


 即答したことでまたソフィアが止まる。こちらの意図が読めないのだろう。それでも気丈に振る舞い、俺に悟られまいと動くのは見上げたものだ。


「なぜこのお話を私に? 失礼ですが、発表会で私の髪の毛をこっそり拾えば達成できるのではありませんか?」


「それでは余計なトラブルを呼びます。許可なく作ったクローンなど疑心暗鬼の材料。ましてコロニーを統治する一族のクローン。危険極まりない。なのでトップにだけ知らせておくのです。権力を行使できる人間かつ本人であることが望ましい。同意があったという事実も必要です」


「そのためだけに……クローンではなく私を手に入れようとは思わないのですか?」


「失礼を承知で申し上げます。あなたではダメだ。あなたを連れ去れば国が揺れる。私を恨むものが出る。王座も権力も家族や友人や今まで生きてきた歴史もある。私にとってそれは弱点。敵からすれば奴隷の鎖と同じ。邪魔なんですよ、まっさらでない人間なんて」


 ぶっちゃけコロニーの運営とかだるい。他人ごときなんて死んでいい連中に労力使いたくない。貴族って交流とかありそうで絶対にお断りだ。


「まっさらとは?」


「人間は生まれながらにして罪があるというアホがいます。だが製造元の許可を取り、誰よりも強く、誰よりも優秀であり、誰も悲しまず、誰とも繋がりのないまっさらな人間。これこそ罪のない清浄なる生物。その程度の浄化はしなければ、私の楽園に踏み入る権利は与えません」


「……なぜ私なのですか? 他にも優秀な人間はたくさんいます」


「もちろん候補はあなただけではない。だがあなたは優秀なスペックをお持ちだ。頭脳明晰、運動神経もいい。容姿も申し分ない。声もいい。素体として最高です。こちらが設計図です。顔以外は多少似ている程度でしょう。これならまずあなたとは思われない」


 タブレットから立体的な設計図が飛び出す。結構キャラクリ頑張ったけど、素の状態がいいのだから素材の味を活かす方向にした。


「目・鼻・口・輪郭など顔のパーツは、少しでもいじると崩壊してしまいそうなので、色だけ変えようと思います。不細工に生んでしまってはかわいそうだ。しっかりと人生を楽しめるスペックで生まれて欲しいですからね」


「こんな……正気とは思えません」


「人ごときの倫理には飽きました。人の理屈は私を幸せにはしない。必要なのはあなたの許可だけだ。無論、遺産相続も認知も必要ない。繋がりは邪魔です。誰にも迷惑をかけず、私と選ばれたものだけが、楽園で一生楽しく暮らす。人間ごときが踏み入れることも、我々を認識することも許さない。あなたの前に姿を現したのは、オリジナルへの私なりの敬意です」


 理解できないといった顔だな。俺だけじゃない。俺の背後に何があるかまで考えているのだろう。俺の異常性を理解しつつ、ネクサスの安全を優先する葛藤が彼女の顔に浮かぶ。


「クローンを作るなんて……私のクローンを量産して犯罪を犯す、もしくは人体実験に使われるかもしれません。あなたの組織と最終目的をお聞きしても?」


「組織などありません。私は個人です。国家でも貴族でも企業でもテロ組織でも軍人でも研究機関でもない。完全な個人です。個人として選んだ者と楽園で生きる。それ以外の目的はありません」


「そんな、そんなはずが……」


 ソフィアの瞳が揺れる。平和を守る責務と、俺の異常な提案への恐怖が交錯しているのが分かる。彼女には信じられないのだろうが、俺は本気だ。ここからは誠意と信頼という、俺が大嫌いな言葉が鍵だろう。ゆえにやりかたがわからない。俺にそんな事をした人間は、両親くらいしかいないのだ。


「なんなら1ルートを私が潰しに行ってもいい。証拠として隊長機の首でも差し上げましょう。さらに付近の海賊の交易ルートもつけます」


「それだけの情報をどうやって……?」


「それは秘密です。敵のスパイだと疑うのも無理はありません。こればかりは証明できません」


「発表会が終わるまで……身体データと髪の毛は考えさせてください。都合のいい話だとは思いますが……」


 まあ妥当だろう。断られたら別の女に行けばいい。気が変わるまでコロニー同盟の姫でも調べればいいしな。


「構いませんよ。気色悪い話をしている自覚はあります。裏切らなければ報復はしません。そのタブレットにすべてのルートと必要な情報を入れてあります。お父上にでも報告すれば、こっそり敵に悟られず警備を変えられるはずです」


「ありがとうございます。情報は必ず活かします」


「では失礼。よき会談でした。紅茶を淹れるのもお上手だ」


 一礼してガーデンを出る。ソフィアがネクサスの安全を優先するのは当然。俺は攻撃しない。彼女が先に仕掛けない限り、正当防衛以外で動くつもりはない。


「カメラ改変完了。顔を戻して大丈夫です」


「はー……無理。こういう交渉は経験がなくてなあ……ストレスが貯まるわ」


 一般人の俺に、貴族と交渉とか無理なんよ。扉を閉めて欧米人の顔に戻って、ようやく一息ついた。こういうの無理。これ何回もやんの? きっついわあ。


「堂々としていて立派でしたよ」


「そりゃどうも。ソフィアはちゃんと話ができたな。女なのにヒステリーも起こさないし、論理的に話ができるとか超レアキャラだ」


「生まれ育ちのよさが奇跡を生んだのかもしれません。クローンの教育に反映しましょう」


 基礎教育プログラムというので簡単に学べるらしい。博士はなんでも作れるな。


「よし、さっさとエゴ・サンクチュアリに戻る。明日までゆっくりしよう。まだこの世界に来て数日。思わぬ疲れが溜まっているかもしれない」


「素晴らしい判断です。大浴場でリフレッシュされてはいかがですか?」


「そうする。動きがあれば教えろ」


 そして大浴場で疲れを落とす。ジャグジーとか数えるほどしか入ったことなかったぜ。パジャマで部屋に戻ってくると、冷えたコーラを置いてある。喉を潤してベッドに寝ると、心地よさか疲れかすぐに眠気がやってくる。

 俺は朝まで熟睡して回復した。これでどんな敵が来ても大丈夫だ。


「おはようございます。コロニー同盟の軍艦がネクサスに到着。あと2時間で発表会が始まります。なんと盟主の娘が来ていますよ。チャンス到来ですね」


「ほほう、そいつはいい」


「ハルカ・ステラヴィス。コロニー同盟の盟主の次女。優雅で柔らかい雰囲気の16歳。飛び級で大学を卒業し、コスモクラフト研究で才能を発揮している天才です。黒髪ロングで、身長160cm以下。胸が大きくスタイルよし。清楚な雰囲気ながらパイロット能力もあります。クローン候補筆頭ですね」


「前にデータを見るた限り最高だったな。こいつもなんとかいただこう」


 素の見た目からして悪くない。パイロットにするつもりはなかったが、才能があって困ることはないだろう。クローンとしても最上級品だ。


「各ポイントのバトルフレームが20機以上増えました。軍艦も確認。本気でネクサスごと潰すつもりかもしれません」


「そいつは困るな。エゴ・サンクチュアリ移動開始。俺もパラドクスで出る」


「了解。一番近くの地球連合軍に向けて移動します」


 そして辿り着いた宙域には、なんかでかい大砲のような不思議なものがある。何機ものバトルフレームが警備と発射準備をしていた。


「ソフィアに渡した情報通り、ハイパーバスターキャノンが輸送中ですね」


「なんだあれ?」


「コロニーと違い地球は1個しかないため、廃コロニーなどを落とされても、大気圏突入前に消滅させる必要があります。そこで超火力の大砲を生み出しました」


「前に聞いたな」


「極端な話、大砲とエネルギー炉と移動する台座があればいいわけですね。あの大砲がついているだけの巨大な台座がその答えです」


「にしてもでかすぎんだろ」


 戦艦を3個突っ込んでも余裕の砲口だ。バカでかいな。本当に極端な思考で作られている。


「それだけ地球が大切であるということでしょう。ですがチャージに時間がかかること。そのチャージエネルギーと自身の巨大さから、ほぼ確実に発射前に見つかることが問題です。そのための護衛に隊長機が2機いますね」


「待て、あれコロニーに使うつもりなのか?」


「おそらくは。崩壊確率55%。カイザーネクサスを犠牲にしても、半壊は免れませんね」


「しょうがない……死なれても困るしな。少し暴れてやろうじゃないか」


 どうせなら面白くしてやろう。引っ掻き回して遊んでやるよ、悪の地

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