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コロニー令嬢との会談直前

 シャトル内の簡易ベッドに寝転がり、計画を進めよう。発表会まで2日。まずはネクサス貴族の令嬢と会う約束を取り付ける。まだガイルが捕まったことは報道されていないはず。いち早く連絡しよう。


「ノイジー、ネクサス令嬢にのみメッセージを送れ。内容は『ガイル確保おめでとうございます。私の情報が役立ったようで何よりです。海賊の航路と当日の襲撃計画を教える代わりに、直接お会いできませんか? 2人きりで会える場所を希望します。この件は他言無用にて。ネオ』と書いて返信を待て。今後令嬢たちとやり取りするときだけ、俺はネオを名乗る」


「了解しました」


 ここからの令嬢の反応と、発表会までのコロニー同盟の動きが鍵だ。地球連合の過激派によるネクサス襲撃計画などの情報を餌に令嬢を食いつかせる。襲撃の情報は最低でも前日までに手に入れなければ、警備の変更に支障をきたす。短期決戦だ。


「お嬢様について知っておこうか」


「名前はソフィア。穏健派で知られ、和平を唱えるおしとやかなお嬢様です。射撃の大会で優勝経験があり、頭脳明晰で運動神経も抜群。クローン作成のDNAサンプルに最適な候補ですね」


「つまりバカじゃない。いきなりのメッセージは疑うだろう。だが2日しかない。迷ってる暇はないぞ。ノイジー、こちらもコロニー襲撃計画の全容を掴む」


「了解。ネクサス本部のデータと海賊の取引記録の解析終了。コロニー同盟の艦隊は12時間後に到着予定。地球連合の過激派は、3ルートから襲撃予定。ガイルの端末に入っていたルートは2個。足りませんね。しかも1個はカイザーをおびき出す囮です。敵もない知恵を絞っていますね。海賊は捨て駒なのでしょう」


 アイスティーで頭を冷やし、最高の結果を模索する。情報は生命線だ。こちらを敵のスパイだと思う可能性もある。うまく使わなければ戦闘になるだろう。できれば穏便に済ませたい。令嬢たちに恨みなどないし、殺さなくてもいい有名人は殺さない。


「ならなるべく秘密にして会おう。そこからは俺が交渉する。何かあれば会談の場所にパラドクスを転送できるか?」


「可能です。いつでも送り込めますので、衝撃で尻もちなどつかないようにしてください。威厳が保てなければ交渉もうまくいきませんよ」


「りょーかい。ちゃんと送れるようにしておいてくれ。あと返事の裏とりも頼む。俺は女の言うことを信用しない。上流階級のトークとか一般人だった俺には無理。なんか台本ぽいの作るぞ」


「了解。猿でもできるシリーズとマンガでわかるシリーズがありますが」


「マンガでわかるシリーズすげえ興味あるわ」


 そして夜。シャトル内で仮眠から目覚め、ノイジーの報告を聞く。


「ソフィア・クロフォードから返信です。『ネオ様、ご助力に感謝いたします。襲撃計画の情報はネクサスの平和にとって重要です。貴族地区のプライベートガーデンでお会いしましょう。警備は最小限にしますが、信頼の証として、事前に一部の情報を開示していただけますか?』以上です」


「まあ信用されないよな。俺もソフィアの立場なら信じない。事前に情報開示しろってのは、罠の可能性を試してるんだろう。ノイジー、プライベートガーデンの監視カメラや警備システムをハックできるか?」


「可能です。通信記録を監視中。現時点でエドワイス卿への報告は確認されていません。無駄なことに彼女の書斎端末にメッセージの追跡を試みた形跡があります。失敗に終わっていますが」


 ちゃんと裏とりをする行動力は認めよう。報告はせず、禁止していない追跡で手がかりを得ようとするのも賢い。気に入った。


「まだ囮ルートだけでいい。残り2ルートは会談で交渉材料だ。メッセージは『信頼の証として、襲撃の1ルートを教えます。海賊のコスモクラフト8機が潜伏中。これ以上の詳細は会談で。ネオ』でいこう」


「送信完了。情報は発表会前日までが食べ頃です。機を逃すようならパラドクスで敵を倒してしまうのも手段かと」


「考えておく。腹減ったし、少し早い昼飯食いに行こう。コロニー名物の何かがいいな。候補は?」


「ネクサスの限定料理、スターロードグリルはいかがですか? コロニー産の人工海で育ったエビ・貝・鮭を、スパイスとソースで仕上げた一品です。この時間ならまだ昼食の客は少ないでしょう」


「それでいい。でかけよう。あと仮面作ってくれ。あの美容パックみたいなのじゃなくて、顔前面を隠す仮面だ。礼儀と秘密のギリギリのラインがそこだ」


「了解。すぐ準備します」


 そしてレストランへ。具材のうまみとスパイスの刺激が最高だ。食感からいい素材なのがわかる。食べる手が止まらない。


「うまいな、これ。コロニーの食い物はレベル高いぜ」


「ご一緒に襲撃ルートの解析結果はいかがですか?」


「ポテトみたいにすすめやがって。端末に出してくれ」


 ノイジーが端末に襲撃計画の詳細を表示する。3ルートの襲撃は、発表会当日に重役が揃うと同時に仕掛けられる。新技術の破壊と要人暗殺が目的だろう。

 1ルートはカイザーネクサスを誘い出す囮で、海賊のコスモクラフトが動く。残り2ルートは、地球連合の過激派がネクサスの工業地区と会場を狙う。機体はバトルフレーム・セイバーとアーチャーとアサシン計20機程度。そして軍艦1か。こっちは本職の軍人だな。


「射撃型装備のアーチャーと、探索偵察用のアサシンですね。特殊装備の機体もいると思われます」


「そっちのデータも見ておかないとな」


 あとは返信待ちだ。昼飯も食い終わったし、適当にふらふらしようかな。


「返信が届きました。『ネオ様、ご助力に感謝申し上げます。海賊のルート情報は非常に貴重です。詳細を伺うため、本日の16時、または22時に貴族地区のプライベートガーデンにてお待ちしております。警備は最小限にいたしますが、ネクサスの平和のため、ご理解ください。ソフィア・クロフォード』以上です」


「本当に行動が早いな……俺はパラドクスなしじゃ厳しいが、まあ作戦でも練るか。よし、16時に行くと伝えておけ。あっちは迅速に動くタイプらしい。合わせてやるとしよう」


 女と会話なんてしたくないが、目的のためには仕方あるまい。ここは我慢だ。


「了解。ソフィアが単独で動いている保証はありません。プライベートガーデンの警備システムをハック済み。カメラ10台、センサー8基、警備ドローン4機を確認。全てこちらで制御可能です」


「罠の可能性は捨てない。ガーデンのレイアウトと脱出ルートを頭に入れとく。パラドクスの転送準備も完璧にな」


「ガーデンの3Dマップを端末に送信しました。パラドクス転送可能です」


 ソフィアが和平派で優しいお嬢様でも、信用はしない。人間は裏切るもんだ。というわけでシャトルに帰還。準備はしっかりしよう。


「そろそろ出発時間です。仮面の準備はできています」


 会談に遅れるわけにはいかない。顔全体と頭を覆う白い仮面をつける。目元と口元だけが開き、ナノマシンで声も変調される。ノイジーの声も俺にだけ聞こえるという超技術だ。怪しまれにくいが、威厳も保てるだろう。別人の顔を投影できる。今回は欧米人の30代男性でいく。


「ソフィアが人目につかない順路を指定しているはずだな」


「音声でナビをします。順路にカメラあり。映像は切り替えてあります」


「いい仕事だ。ソフィアが和平派でも、身内が怪しんで敵対する可能性がある。貴族に取り入ろうとするアホとかな」


 貴族地区を歩く。きれいに整備されていて、一段階上の世界って雰囲気だ。人通りも少なめだし、監視の目はないっぽい。


「誰か来ているか?」


「いいえ、約束を守る姿勢は得意のようです。乗って差し上げるべきかと」


「だな。あったぞ、この扉にコードを入れて……さて、ここからどうなるか」


 プライベートガーデンは、本当に貴族の庭園のイメージそのままだ。絵画からそのまま移したと言われても違和感がないほど、整っていて美しい。人工の池と花壇、木々が配置された静かな空間。俺が庭園を作るなら参考にしよう。

 男性の顔を消し、仮面のまま用意された白いテーブルと椅子へと歩く。


「ネオ様ですね? お待ちしておりました」


 ソフィアが物陰から現れた。絵に描いたような貴族の令嬢だ。本来穏やかで優しい人なのだろう。白いドレスに身を包み、長い金髪を緩く結い、赤い瞳が静かな光を放つ。だが、その穏やかな微笑みの裏に、鋭い観察力を隠しているのが分かる。油断すれば足元をすくわれるタイプだ。


「お招きありがとうございます。私がネオです」


 いよいよ交渉開始だ。一般人の俺には荷が重いが、博士の技術とノイジーの協力があれば何とかなるはず。


「ようこそ。どうぞお座りください」


 ソフィアが白いテーブルを指す。俺は仮面のまま、ゆっくり椅子に腰を下ろす。腰にはビームピストルを隠している。どんなスキャンでも検知されないが、使うつもりはない。ソフィアが先に攻撃しない限り、俺も動かない。交渉開始だ。


「単刀直入にいきましょう。海賊のルート情報は役に立ちましたか?」


「はい、大変感謝しております。ガイルの裏切りも迅速に処理できました。ネオ様の情報がなければ、ネクサスの平和は脅かされていたでしょう」


 丁寧な口調だが、探るような視線。信用していないのはお互い様だ。ノイジーの声がマスク越しに響く。


「ガーデンの警備ドローン4機、待機中。カメラ7、センサー8基は少し離れた位置です。撮影するつもりはないのかもしれません。ドローンに武装なし。外したようです。ですが警備が遠くから監視していますね。まあ許容範囲でしょう。令嬢を完全に孤立させる間抜けはいません」


 ほほう、見上げた根性だ。ソフィアが紅茶を注ぎ、俺に勧める。毒は入っていないだろうし、仮面の口の部分を開けて飲む。いい茶葉を使っているな。


「襲撃計画の詳細を話す前に、他言無用でお願いしたい。 私という存在を、なるべく誰にも知られたくないのです」


「ご安心ください。父にも話していません。この会談は私だけで決めました。ネクサスの平和のため、信頼を築きたいのです。ネオ様の情報が本物なら、私は誠意を示します。襲撃計画の詳細を、ぜひお聞かせください」


 誠意ね。油断はしないが、お嬢様は秘密を守るタイプだろう。こちらも誠実に話す方が効率はよさそうだな。

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