守護神カイザーネクサス登場
コロニーネクサスの観光と捜査は続く。夜のような風景が人工の空に出現し、通りは商人や観光客が夕飯を決めようとごった返している。俺は観光客を装い、レストランに先回りして手元のスマホ型端末をいじる。
「解析完了。あと数分で取引が行われます。堂々と話すことで怪しまれないようにする、小賢しい手口ですね」
「まったくだ。ほほう、これうまいな」
待っている間にハンバーグオムライスセットを食う。実にいい腕の料理人がいるようだ。風味からして違う。ふんわり玉子と厚めだがしっかり火が通っているハンバーグがとてもいい。
「取引相手が来たようです。監視カメラが店内外に10台、周辺の通りにも20台以上。すでにハッキング可能です。映像と音声をリアルタイムで録画中。取引相手の顔も特定しますか?」
「録画をしっかり。音声もな。解析はできたらでいい」
「了解。カメラの映像を端末に転送します。今まで通りマスクからナノマシン通信にて音声を流します」
端末の画面にカフェの店内が映し出される。ガラス張りのモダンな内装、革張りのソファ、テーブルには高級そうなコーヒーカップ。客はスーツ姿のサラリーマン風の連中や、観光客っぽい家族連れで平和そのものだ。だが、奥の個室に怪しい動きがある。ノイジーがズームして音声を拾う。
『例のコスモクラフト、予定通り小惑星帯で引き渡しだ。ネクサスには絶対持ち込むなよ。貴族の目が光ってる』
『わかってる。だが報酬は弾んでくれよ。地球連合のルートから流すのはリスクが高いんだ』
会話は男2人。片方は海賊側の人間だろう。もう1人は商人か、工業プラントの関係者だろう。ノイジーが音声解析を進め、場所の詳細を特定する。
「取引の引き渡し地点特定完了。機体はコスモクラフト・ノーマル5機と、改良型のビームキャノン、ミサイルポッド、ガトリングガン。海賊側は現金と電子データで支払い予定。録画データは保存済みです」
「上出来だ。このデータをネクサスを牛耳ってる貴族とその令嬢に匿名で送る。反応を見て人間性とコロニーの治安をチェックするぞ」
「かしこまりました。ネクサスを支配する貴族はエドワイス・クロフォード卿、48歳。穏健派として知られ、コロニーの治安と中立を維持する方針です。令嬢は一人娘。頭脳明晰、運動神経抜群、美形。父と同じ穏健派で、和平を唱えています。クローン作成のDNAサンプルに最適かと。匿名送信の準備をしますか?」
「頼む。裏切り者はわかるか?」
「工業地区に所属する者です。何度かパーツごとに別の荷物に混ぜて引き渡しているようです」
「貴族と令嬢に同時に送れ。バレないように偽装も完璧にな」
まだ俺たちのことは話すべきじゃない。焦ってはいけない。焦りと信用は思考を曇らせる。俺達の存在を知るものは超少数であるべきだ。
「了解。暗号化を施します。メッセージ内容は?」
「シンプルに『海賊とコロニー内の裏切り者がコスモクラフトを取引』でいい。座標と映像を同時に送れ」
「送信しました。エゴ・サンクチュアリに戻りますか?」
「いいや、しばらくはネクサスで動きを見て方針を決める。貴族が清廉潔白ならそれでよし。悪人ならかかわりたくない」
料理を食べ終わり、一息ついてから立ち上がる。会計を済ませて頭の中で次の行動を考える。ノイジーのハッキング能力のおかげで、コロニーの裏側を覗くのは簡単だ。
「貴族の家は覗けるか?」
「カメラがある場所には入れるかと。そんな場所で秘密の話はしないでしょうね」
「無闇に侵入するのも危険か。シャトルで寝る。何か動きがあれば報告しろ」
「了解しました」
シャトルに戻り、仮眠用の簡易ベッドに横になる。なかなか快適だ。貴族のエドワイスがどう動くか、それが楽しみだ。清廉潔白なら計画は進む。悪人か無能なら次の候補へ行く。
「小惑星帯、座標特定済み。コロニーネクサスからシャトルで30分。商品はコスモクラフト・ノーマル5機と改良型武装。引き渡しは今夜0時。監視カメラはなく、記録妨害フィールドを展開可能です」
「シャトルで出入りし続けると怪しまれる。コロニーからドローン飛ばせるか?」
「可能です」
シャトルからドローンの映像を監視する。小惑星帯は暗黒の宇宙と漂う岩石で視界が悪い。隠れるにはいいだろう。人工の光がない分、星々がやたら鮮やかに見える。
「取引現場まであと5分。ステルスモード維持。記録妨害フィールド展開準備完了」
「カメラとセンサーで取引を全部録画。貴族の動きも監視だ」
「了解。ネクサスのコスモクラフト部隊に動きがあれば報告します」
取引現場は大きな小惑星の影だ。ノイジーがカメラでズームし、画面に海賊の小型船と、コロニー側の輸送船が映る。海賊船は民間船に偽装しているらしい。コスモクラフト5機が格納庫から姿を現した。白い布で覆われているが、あれが改良型のビームキャノンやガトリングガンだろう。
「海賊側、5機確認。輸送船から降りたのは工業プラントの技術者風の男。現金の入ったケースを持っています」
「裏切り者はその男か」
「99%の確率で一致。工業プラントの幹部クラス、ガイル。コロニーの機体開発に関与。脱税・帳簿改変などの疑惑あり」
「優良企業で何やってんだか。クズは欲深いねえ」
画面越しに会話が聞こえる。海賊のリーダーらしき男が、しゃがれた声で喋る。
『機体は約束通り持ってきた。武装は新品、軍にしか配備されない代物だ』
『わかった。こいつで暴れりゃいいんだな?』
『同盟が来るタイミングでな』
ガイルがケースを渡し、コスモクラフトが海賊船に引き渡される瞬間、ノイジーが割り込む。
「ネクサスのコスモクラフト部隊、動きあり。10機、高速で接近中。カイザーネクサスも確認」
「来たか。フットワーク軽いな」
「我々の匿名送信が効いたようです。部隊の通信を傍受します」
ノイジーがネクサスの部隊通信をハッキングする。パイロットの男の凛々しい声が聞こえてくる。
『目標を確認! 海賊と裏切り者は生け捕りだ。無駄な殺生は避けろ』
画面に赤と白のカイザーネクサスが映る。前見たアニメの動きそのものだ。
『カイザアアァァ! パアアンチ!』
ロケットパンチが海賊船のエンジンを正確に破壊し、部隊のコスモクラフト・ノーマルが一斉に展開。海賊の機体が慌てて迎撃態勢に入るが、動きがまるで追いつかない。根本的なスペックも技量も違う。
『何!? ネクサスの部隊!? どうしてここが!?』
『ネクサスの平和は守ってみせる! カイザーランス!』
『ちくしょう! 死にやがれ!』
海賊のリーダーが叫ぶが、カイザーネクサスの槍が一閃。海賊のコスモクラフトの腕を切り落とし、ビームで無力化していく。
『抵抗は無意味だ! 正義は屈しないぞ! ダブルニーミサイル!!』
両膝からでっかいミサイルが飛んでいき、大爆発を起こして小惑星を破壊する。海賊の隠れ場所をすべて消す目的らしい。皆殺しのために使わないあたり、任務に忠実だな。疑問を持たない兵士かどうかはまだ不明だが、優秀だ。
『くっそおお! 火力が違いすぎる!!』
『カイザーランスフラッシュ!!』
槍からエネルギーが吹き出し、突きのラッシュで敵機体の四肢が飛んでいく。かなりの速さだ。やはり事前に見ておくのは正解だったな。初見で戸惑うことがなくなる。ネクサスの部隊が残りの敵機体を包囲し、ガイルを拘束。戦闘は10分もかからず終了した。
『任務完了! カイザーネクサス、帰還する! 隊は捜索を開始!』
「鮮やかだな。一般兵士も海賊とは練度が違う」
「カイザーネクサスのパイロットは熟練の操縦技術。部隊の連携も完璧。海賊とガイルは全員生け捕りです。コロニーの治安維持に対する本気度が伺えますね。録画データは保存済み。次の指示を」
「ネクサスの動きをもう少し見る。問題はここからだ」
ドローンを帰還させて、カイザーネクサスの戦闘をリプレイで見返す。アニメさながらの動きだが、実際の戦場では重厚感が段違いだ。
「ノイジー、ネクサスの治安システムはどうなってる?」
「穏健派貴族の統治により、監視カメラとAIが街全体をカバー。依然として高いままです」
「貴族がちゃんと仕事してるってことか。泳がせて一網打尽ってのは賢い。おおっぴらにして敵が逃げるのは愚策だ」
「今回の件で工業プラントの不正も一掃されるでしょう」
「それと同盟が来るとか言っていたな」
まだネクサスでイベントが起こるのかもしれない。引き続き海賊の拠点でも潰すか、もしくは恩を売るか。案外チャンスは短そうだ。
「ネクサス本部のデータにアクセスしたところ、コロニーで軍や企業の公開技術発表会が行われます。ネクサスは同盟軍に入れという再三の要求を突っぱねていますから、そこで強引な策に出るかもしれませんね」
「海賊はどう関与している?」
「ネクサスを制圧したい地球連合軍の工作のようですが、まだ情報が足りません。そんな中で朗報です。ガイルの持っていた端末と、小惑星帯の機能が爆破され、ネクサス側は情報を引き出せません」
「最高だ。こっちは?」
「すべてダウンロード済みです。さらにコロニー同盟の盟主一族が乗っている艦隊が来る模様。宇宙の姫が乗っている可能性85%」
数人リストアップされて画像が出る。俺が狙っていたやつもいるじゃないか。
「こいつは好都合だ。こいつらのサンプルが手に入れば、あとは地球の大富豪の娘さえなんとかすれば、俺のクローン候補は揃う」
「同時に複数人作るのですか?」
「いいや、作るのは1人だ。まだ候補を1人に絞れていない。とりあえず複数から手に入れておくのさ」
「了解。じっくり選んでください」
地球の女を1人。ネクサスで1人。コロニー同盟の姫で1人はサンプルを確保したい。だが慎重に、隠密に進めよう。
「大富豪の娘は箱入りです。地球圏から出す可能性は低いかと」
「ならまずは宇宙の2人を調べるか」
さて、そろそろ本腰入れてもいいかもな。