ジョナサンを影から守る
雪国2日目の昼。ゆっくり起きて筋肉痛がないことを確認した俺たちは、ホテルの昼食を取っていた。なかなか質がよくて満足だ。
「なんか戦闘機がいますねえ」
窓の外に飛んでいるのは戦闘機か。ちょっと前にも飛んでいたな。この地に何かあるのだろうか。今は観光モードなんで、戦闘はやめて欲しい。
「領地的には地球連合の場所なんですよね」
「ああ、しばらく衝突は起きていないらしいから、ここに決めたんだが」
「基地は遠く、戦略的な意味でもここを狙う意味は薄いはずですわ」
「ノイジー、わかるか?」
「連合の友軍が別の場所で敗戦し、この領土に逃げ込んでくるようです。追撃部隊も出ているとのことで、早く見つけようと焦っているのでしょう」
なるほどねえ。でもスキー場横断とかするか? 目立ちまくるだろ。それほど追い詰められているのだろうか。
「こちらに来る可能性は低いでしょう。しかし、だからこそ裏をかくこともできます。ご注意を」
「パラドクスは転送できるか?」
「準備完了しています。シャトルもすぐ飛ばせるよう待機しています」
「よし、じゃあ中級者コース行くか」
結論として、まだ雪国を満喫することにした。何も起きなければそれでいいのだ。
「いやっほ~い!」
「ふふっ、楽しいです」
リリーとシオンは完全にスキーをものにしている。中級者コースでも問題なく滑っていた。俺は少し拙いが、なんとか滑ることはできる。無理しなければいけるな。
「どうだ、まだまだなんとかなるんだぞ」
「わ~すご~い。腰やっちゃわないように気をつけてくださいね」
「あとでマッサージいたします」
「すまんな」
そして3時間ほど滑り、軽く休憩していると、ノイジーから通信が来る。
「山を超えた地点で戦闘発生。地球連合軍が撤退中に雪山に逃げ込みました」
「邪魔だな。雪崩とか起きるだろ」
「うーん、戻ります?」
「民間人が多い場所に来るとは思えんが、一応ホテルで荷物をまとめるか」
「せっかくの雪国ですのに、迷惑な軍人さんですわね」
渋々撤収。マジで面倒なら殺そう。部屋で普段着に着替えて、ホログラムで戦闘を見よう。映像は偵察ドローンから来る。
「撤退戦は初めて見るな」
白いバトルフレーム部隊がホバー移動で逃げている。足パーツにはホバーもあるのか。多彩だな。雪を舞い上げながら、木々の隙間をすり抜けていく。パイロットの腕もいいようだ。
「なんかもたついてる気がしますねぇ」
「地の利があるわけではないのかもしれませんわ。連合軍とはいえ、別の場所から逃げて来たのですから」
「なるほど。コスモクラフトがずっと飛んでいるのもきついな」
同盟軍はブーストフェザーのおかげか、空中からの追撃が迅速だ。重力下での運用もうまくいっているらしく、連合軍は頭上からの攻撃を避けて逃げなければならない。かなりきつい戦いだろう。
「待ち伏せや罠を仕掛けようにも、追われ続けていて時間がないな。これはこっちに来るかもしれん」
「ではチェックアウトを早めましょうか」
「待って、じゃあジョナサンはどうなるの?」
「しまった……そこまで考えていなかった」
人間なんざどれだけ死のうが構わんが、ジョナサンが死ぬのは見たくない。なんとか安全に生きて欲しいという方向で、3人の意見が一致した。
「だがどうする? ホテルは人が多すぎる。俺たちの機体を見られるわけにはいかないから、戦闘はできんぞ」
「今から行って両方ぶっ飛ばす! とかどうです?」
「下手に壊滅させると捜索隊を出されるかもしれないわ。それじゃあジョナサンが危険よ」
「むぅ~……こっちが知られちゃいけないってめんどくさいよぉ~」
こうしている間にも撤退戦は続く。バトルフレームの装甲は、マシンガンとバズーカで削れてきている。直撃すれば終わりだ。全滅すればこいつらが撤退するという保証もない。
「連合に撤退している部隊の位置を教えて、こっそり同盟の邪魔をするか? 撤退完了しちまえば深追いはしないだろうし、よっぽどアホじゃない限り、民間人のいる場所は通らなくなる」
「それだ! それでいきましょう、はいいきましょう、すぐいきましょう」
ノイジーに匿名で通信を送らせて、自動操縦でシャトルを発進させた。ステルスモードで上空を飛ばし、しっかり妨害できるように待機させる。
「付近の戦闘機が進路変更。友軍に気づくでしょう」
「よし、そのまま合流しちまえ」
まだスキー場には来ない。徐々に進路を変えてくれればいい。できれば遠くに行ってくれ。祈りが通じたのか、戦闘機が到着して援護射撃を開始する。
「これで完全に位置は掴んだはず。あとは撤退してくれれば……」
そこまで都合よくはいかないようだ。コスモクラフトはノーマルといえどロボット。戦闘機が少し増えただけじゃ撃墜されていく。
「あちゃ~……戦力差があるわけか。こいつはきついぜ」
「けど通信は通じたはずです。バトルフレームが来てくれれば変わります。ジョナサンも巻き込まれなくてすみますわ」
「やばいよ! 今の戦闘で進路がずれた! こっちに傾いてきた!!」
蛇行運転なんてもんじゃない。味方が来てくれることを信じて、とにかく猛スピードで突き進んでいる。これじゃこっちにミサイルが飛んだら終わりだ。
「シャトルの武装で追い返せるか?」
「やってみます」
「撃墜はするな。撤退させないと捜索部隊が来る」
「了解。機械の正確さをお見せしましょう」
シャトルにはレーザー砲とバルカンとミサイルが積んである。同盟軍は援軍が来たことでペースを落としているから、ここに追加で邪魔が入れば大きく遅れるはずだ。
「これでなんとかなるだろ」
狙撃されたことで露骨に追撃が止まる。周囲を警戒しつつ、飛び回るのを避けようとしていた。森に隠れるつもりだろうか。
「まあ目立つよな。遮蔽物ない空を飛ぶんだから」
「これで先行している連合軍が有利になるかも」
「連合軍、救援部隊と合流します」
「よし、あとは同盟軍が帰れば終わりだ」
同盟軍撤退開始。いいぞ、引き際をわきまえている。だが連合軍が同盟軍を追いかけ始めた。
「なんでだよやめろバカ!」
「スキー場方面に逃げていますね」
「ほらもうこうなっちゃうだろ!」
余計な欲を出すんじゃないよ。民間人を巻き込まないようにするくらいできないのか。無駄な悩みが増えた。とりあえず狙撃させるか。
「連合軍を狙撃して足止めしろ。同盟軍が逃げ切れば終わるはずだ」
「了解」
「苦労しますねぇ」
「皆殺しにできないのはストレスがたまるな」
正体不明の狙撃っていうのは怖いよなあ。しっかり足止めの効果が出て、無事に終息した。マジでよかった。もう面倒事はごめんだ。
「悪いニュースです。連合の戦艦が大気圏外から不時着しようとしています」
「なんでだよバカ!!」
「このままいくと付近の山か、スキー場に不時着コースですね」
「最悪!」
「追撃の同盟軍の戦艦もいます」
「いけませんわね。本当に最悪ですわ」
時間がない。瞬時に決断をくださなくては。とにかくここへ不時着はさせられない。対策を練ろう。
「私がやります」
「シオン?」
「ノイジー、ピュアセレナーデの狙撃で、戦艦の軌道を変えられないかしら?」
「左舷を集中して狙えば可能性はあります。狙撃ポイントを抽出。3個所当てることができれば、別大陸の平原へ誘導できるかと」
「それだ!」
急いでチェックアウトして、ジョナサンを撫でてからシャトルで宇宙へ。3機ともロボットを転送して乗り込む。ここからはシオンに期待しよう。
「今回は実弾です。推進力を片方だけ失わせましょう。追撃の戦艦は放置で構いません。どうせ追っていくでしょう」
「もしものときは、俺とリリーが戦艦を消し飛ばす」
「リラックスだよシオン。フォローはしてあげるからねー」
「ありがとう。やってみるわね」
そして左舷先端にまず一発。大気圏内でも正確な狙撃だ。戦艦が少し揺れる。
「あと2発!」
左側中腹に直撃。さらに大きく揺れ、進路が傾き始めた。
「これで……終わりです!」
後方に弾丸がヒット。左側から煙が出始める。ゆっくりと進路を変え、スキー場のある大陸からは大きくそれていった。追撃する戦艦もそれを追っていく。
「ナイスだシオン!」
「やったね!」
「ふう……なんとかできました!」
こうして面倒事を解決してジョナサンを守りきった。心の疲労を回復するため、俺たちはコロニーへと帰還する。しばらく旅行はやめとくか。




