キャラ弁と雪国
謎の研究者を滅殺して次の日。アジトもコロニーの副砲で消し飛ばしておいた。これで研究も消滅。俺たちを追う組織もいないだろう。いつものように部屋でごろごろしている。
「ハヤテ様ー、なんか面白いことないですかー?」
リリーが俺のベッドでうだうだしている。携帯ゲームしているので、完全に暇ではないのだろう。俺も適当に返す。
「そのままゲームしてなさい。シオンは?」
「料理してる」
「お前も料理覚えたらどうだ?」
「んー、できはするんでしょうけど、食べるほうが好きですねえ。ノイジーのごはんおいしいし」
確かに毎回うまい。朝は焼鮭定食だったが、塩加減までちゃんと調整されていた。あれが出てくるなら、趣味以外でやる気もしないだろう。
「少し様子でも見てくるか」
「んじゃ一緒に行きますよ」
てなわけで厨房へ。エプロン姿のシオンが何かをせっせと作っている。
「あらハヤテ様。まだできていませんよ?」
「様子見にな。包丁とか危ないだろ」
「ありがとうございます。でも大丈夫ですよ。もう慣れてきました」
台所を見ると、弁当が並んでいた。まだ完成していないのか、半分くらい食材と一緒に置いてある。
「このカラフルで顔っぽいのは……キャラ弁?」
「はい、キュアラブです」
「日曜朝にやってるあれか?」
「そうなんです。公式配信で作り方動画があったので、作ってみました」
日曜にやっているアニメで、女の子が変身して戦うあれだ。妙に気に入っているらしい。年齢考えりゃ無理もないか。
「かわいくできてんじゃ~ん。やるねえシオン。こっちはハヤテ様かな?」
「そうよ。リリーにもわかるのね。これは会心の作よ」
かわいくドヤ顔を決めているシオン。弁当は1個じゃない。なるほど、こっちは俺の顔か。よくできている。
「うまいじゃないか。よくできてるぞシオン」
「ありがとうございます。完成したらみんなで食べましょうね」
「よ~し、わたしが手伝ってあげよう。料理もできるところを見せたるでぇ~」
「俺もやるか。何からやればいい?」
「では野菜を切って、動画のように形を整えてください」
作り方動画がホログラムで流れている。それほど難しい工程はなさそうだ。
「よし任せろ。自炊はしていた方なんでな」
外食は金がかかるし、親以外の誰かが料理を作ってくれた思い出もない。よって料理くらいちゃんとできるのだ。
「私はのりを切りますね」
「じゃあわたしハンバーグ見とくね」
こうして3人でキャラ弁を作る。誰かと料理という経験はなかったので、こういうのはとても新鮮だな。楽しいぞ。料理下手くそというか、意味不明な行動を取るやつがいないので、しっかり順調に進む。そしてついに完成。
「できました! 冷めないうちにどうぞ」
「やったね!」
もう昼飯時だ。腹も減ったし、早速いただくとしよう。
「おお、うまいじゃないか」
彩りもいいし、栄養バランスも考えられている。最近のキャラ弁は高性能だな。
「おいしぃー! シオンがんばったじゃん!」
「かなりうまいぞ。よくできたな」
「ありがとうございます。でもみんなで作ったからですよ」
実際かなりうまい。味付けも濃すぎず薄すぎず、飽きないように作られている。それをしっかり実行できるくらい、料理に慣れてきたのだなあ。
「次はわたしやシオンの顔も作ってみようよ!」
「いいな。やってみるか」
「そのときはもっとおいしく作れるようになりますね」
そんな感じでゆったりと時間は過ぎていく。充実した生活だ。これぞ楽園。食後のアイスティーをのんびり飲んでいると、シリウスアリーナのバトル中継が流れる。
「再放送だって。なんでだろ?」
「選手はもういなくならないのに……そうか、滅んだことを知らないのか」
俺たちは隠密行動が常だ。誘拐犯が丸ごと消えたとは誰も思っていないのだろう。しばらくはランカーの保護が優先か。
「まあ俺たちは初見だからいいけどな」
「ですねぇ。おお、画面が白いぜぃ」
「あれが雪……冷たいのですよね?」
雪フィールドでロボが戦っている。そうか、本物の雪を見たことがないんだな。おそらくこのコロニーなら作れるだろう。だが本物を見せるのも悪くない。正直寒いし歩くのしんどそうだが……こいつらの教育にはいいだろう。
「雪国行ってみるか?」
「いいんですか? やったー!」
「興味はありますが、こちらの希望でハヤテ様を動かしては……」
「気にするな。俺もこの世界の地球に興味がある」
「冬のスポーツとかしましょうね!」
「あまり期待しないでくれ」
そんなわけでコロニーごと地球圏へ移動開始して数日後。目立たないようにシャトルを使い、ステルスモードにして地球に突入した。
「うっひゃー冷たい! 寒い! これが雪国かー!」
スキー場に来てみた。リリーが雪を踏みしめて遊んでいる。シオンも雪を触って感触と冷たさを楽しんでいるようだ。
ちなみに今回は3人とも金髪のアメリカ人風である。顔をしっかり変えておくことで、なんか安心するようになってきたぜ。
「冷たくてさらさらしていて、とても不思議です。これが空から降ってくるなんて」
「よく考えりゃ変かもな。俺もここまで降っているのを見るのは久しぶりだ」
2人は子供のような純粋な笑顔である。曇らせないようにがんばろう。
「よーし遊びましょう! スキーってどうやるんですか?」
「いや知らんぞ」
「えっ」
「スキーなんてガキの頃の修学旅行っぽいやつでやっただけだ」
スキーなんて頻繁にやるもんじゃないし、遠出するの嫌いだったからな。こういうのとはほぼ無縁だ。よって教えることもできん。
「全員で初心者コースに行きましょうか」
「それでいこう」
そしてゆっくり滑る。何度かこけるが、なんとなく移動するくらいはできるようになった。結構全身の筋肉を使うことが発覚。おっさんにやらせるスポーツではない気がするよこれ。
「なるほどねぇ~。こうかな?」
「あっ、できました。曲がれましたよ!」
2人は習得が早い。才能も運動能力も人類トップクラスなため、1回やってしまえばどんどん覚えていく。
「ふふ~ん、どうですかどうですか? 天才リリーちゃんが特別に教えてあげましょうか?」
リリーが寄ってきてうざ絡みしてくる。俺に抱きつきながらドヤ顔である。ほっぺをむにむにしてやりながら答えてやる。
「甘いな。普通に滑れるくらいにはなったぜ」
「ぬわぁー。そんなばかにゃ……」
別に運動神経自体は普通にあるのだ。ただインドア派だったり年齢的にあれだったりするだけで、やればできる子、やればできるおっさんなのだ。多分。
「私もできるようになりました。一緒ですね、ふふっ」
シオンは純粋に嬉しそうだ。かわいいので撫でてあげよう。
「よしよし、すごいぞー」
「ふふふっ、ありがとうございます。一緒に滑れますね」
照れくさそうにはにかむので、つい撫でたくなる。
「よしよーし、いい子いい子だぞー。わたしも撫でてやろー」
「もう、あなたまで……でもありがとう」
リリーが撫でても文句が出ない。始めてのスキーでテンション上がってるな?
「3人で並んで滑ってみましょうよー」
「いいな、やってみるか」
「はい!」
2人に並行して滑る。風が寒いけど楽しい。もちろん転んでもいいくらいに距離は取っているが、2人がいることはすぐ感じ取れる。
「ふはははは! いいぞまだ動ける! まだ完全な老いは来ていないんだ!」
「切ないなあ……」
「今のままでも素敵ですよ」
初心者コースならしっかり自由に滑れる所まで来た。疲れたが楽しかったぞ。けれどもう夕方だ。夜になると危険だし、ホテルに戻ろう。
結構豪華なホテルなのだが、偉そうな感じがしなくていいぞ。ロビーを歩いていると、リリーがふらふらと歩いていく。
「おおぉぉ……白いのが、なんか白いのがいます!」
白くて大きい犬がいる。誰かが連れてきたのだろうか。他の客も見ているやつがいるな。犬は見ちゃうよね。俺も動物好き。
「犬、あれがリアル犬……おおぉぉ……」
「こっちを見ていますわ。舌が出ていますわ。手を振ってみましょうか?」
「あれ撫でていいのかな?」
「他人の犬に勝手に触ったりしちゃダメだぞ?」
「大丈夫ですよ、お客様。当ホテルの看板犬のジョナサンでございます。優しく撫でてあげてください」
ホテル関係者っぽい老紳士が教えてくれた。シオンとリリーがゆっくり近づいていく。始めての人間以外の生き物に少し戸惑いつつ、興味があるようだ。
「撫でるぞ~……無でるぞ~?」
「わふ、へっへっへっへ」
撫でられると理解しているのだろう。おとなしくリリーの手を待っている。
「なでなで……お、おお、もふっとして、さらっとしておられる……」
「いい子……いい子だからね……あ、きれいな毛並みね……いい子よ」
そっと撫でている2人。ジョナサンが手を舐めると、2人が一瞬驚いて手を引っ込めた。すると笑顔から普通の顔に戻るジョナサン。そして前足でシオンに触れる。
「わふ、わふ」
「これはお手というものかしら?」
「前足でちょいちょいっとするのは撫でて欲しいときだぞ。よしよし」
俺も撫でたいので撫でる。毛の手入れがいいのか、とても撫で心地がいい。犬と戯れると癒やされるよね。しっぽを振って嬉しそうにしている犬には、とてつもないヒーリング効果がある。アニマルセラピーというやつだろうか。
「あったか~い。本当に生きてるんだねぇ」
「ふふっ、大人しくて賢いのね。あらしっぽが、しっぽが揺れていますよ」
「喜んでいるのさ」
ひとしきり撫でて大満足したら部屋へ。俺たちの雪国スキー旅行は、初日から大成功となった。
「明日は中級者コース行きましょうね!」
「楽しみにしています」
「筋肉痛がなければな」
頼むぜ俺の体。




