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中立コロニー ネクサス

 目が覚めると、夢よりも夢のような光景だった。ベッドの質がいいからか、今まで経験したことがないくらい熟睡できた。


「お目覚めですか? 二度寝もできますよ」


「いいや、起きるよ」


 テーブルに置いておいた紅茶のペットボトルを開け、ゆっくり飲みながら今日の予定を考える。別に焦る必要はない。このコロニーは俺の遊び場だ。じっくりと確実に楽しめばいい。


「暇でしたら各種ゲーム機やシアターモードも搭載しています。お好みのゲームでもどうぞ」


「あとでやる。今はこの世界がゲームみたいなもんだしな」


「なるほど。では新しいステージをご堪能ください」


 立体映像が目的地のコロニーを映し出す。中立コロニーネクサス。人口80万の商業都市だ。


「中立コロニーネクサスは、コロニーの貴族派と呼ばれる地球の貴族が、いち早く移り住んだコロニーですね。商業も盛んであり、中立を保つためにかなりのコスモクラフトが配備されています」


「中立ってことは、地球もコロニーも両方を武力で倒せないといけないからな」


「その通りです。さらに統治者は地球出身の貴族ですが、穏健派であるためコロニーの住人からの反発も少ないようです」


「そういや地球とコロニーは結局どっちが悪いんだ?」


 どちらが悪さしてこの状況になっているのか知らないな。今のうちに情勢でも軽く調べておくべきだ。


「地球の圧政が理由でしょうが、それに乗じてコロニーが支配権を狙っています。まずおよそ150年以上前、地球人類が宇宙資源獲得のためコロニーを作り、やがて植民地として圧政を敷いていきます」


「テンプレだねえ」


「ですが、宇宙資源獲得が思いのほか容易かつ大量であることに気付いた貴族、企業が現れます。彼らは私財と権力を使いコロニー制作を支援。安全な実験施設を手に入れたのです」


 目ざとい連中はいつの時代もいるらしい。商売人や権力者というのは、そういうスキルが必須なのかもな。


「実験は地球じゃできないってことか?」


「コロニーは地球圏から少し離れた宇宙空間に存在します。出入り口さえ閉じてしまえば、内部で何を実験・開発していようが気づかれません。物理的な距離と手間の関係で不可能でした。よって一部のコロニーには独自の特殊機体が開発されます。焦った地球連合軍は、この開発を危険視して管理を試みました」


「悪手だな」


「はい、コロニー側はその好機を待っていました。地球圏に自分たちの財産・権利まで奪われると扇動して同盟軍設立。ですがその中には、地球の権力者を潰し、統一支配を目論む貴族や企業の利権争いがあったと推察されます」


「そうか、コロニーの貴族派や企業派も地球のえらいさんだったんだよな」


「そういうことです。銭ゲバの権力争いですね」


 人類が増えると権力者が出る。あとは同じことの繰り返し。学習しろって。


「どうして同じパターンになるのでしょうね。当時のAIも予測のしがいがなくて食傷気味だったでしょう。そこから地球圏はコロニーの監視を強め、大砲を搭載した人工衛星を多数建造。圧倒的な物量と生産性のバトルフレームを制作して、隕石などを落とされることを警戒。量産と換装の容易さを重視し、最速での戦争終結を狙って対抗します」


「つまりゲーム的に言うと、コロニー側がスーパーなロボットで」


「地球側がリアル系統のロボットですね」


 なんとなく逆のイメージだった。だが地球はコロニーと違って移動もできないし、物を落とされるだけでも辛い。よって地球の守護こそが重要となり、焦りは個性よりも大至急武装を整えることへ向かったんだとさ。


「コロニーでも特殊機体なんてポンポン作れるものじゃないだろ?」


「その通りです。なので特殊機体をコロニー全域で補助するため、どのコロニーでも生産できる共通の低コスト量産機として、コスモクラフト・ノーマルが誕生します」


「なるほど。エース機のサポート用に汎用機ができたんだな」


「もちろん海賊の隊長機のように、スーパーな技術がコスモクラフトにも転用されます。ですが誕生の順序は逆なのです」


「面白い。勉強になったよ」


 こういう話を聞くのは結構好きだ。ロボットアニメの設定とか見るの楽しいだろ。無論好きなアニメに限るけど。


「コロニーネクサスには大量のコスモクラフトと、守護神カイザーネクサスがいます。後継機のハイパー・カイザーネクサスが開発中であり近日登場するとの噂です」


 映し出された機体は、赤と白を基調としたカラーリングのロボットだ。ロケットパンチや両目からのビーム。素早く敵に突っ込んでの槍さばきなど見どころが多い。パイロットが熟練者なのか、無駄なく正確な動きだ。


「本当にロボットアニメみたいだな」


「アニメも放送されていますよ」


「ちょっと気になるなおい。ついでに買ってお布施してやるか」


「とても健全で素晴らしいお考えかと。さて鏡の前にあるマスクを装着してください。目と鼻の部分が空いた、薄い美容パックのようなものです」


 俺はベッド脇の鏡の前に立つ。テーブルの上に置かれたマスクを手に取る。軽くて柔らかい。


「これか?」


 顔に貼ると、ひんやりとした感触。鏡に映る顔が一瞬ぼやけ、別人に変わる。


「装着完了。同調開始。今回は欧州系の20代男性にしてみました。鏡でご確認ください」


「髪と目の色まで完全に別人だな。これどうやってる?」


「ナノマシンと超薄型映像で偽物の顔を投影しています。次は横の装置に両手を乗せてください」


「はいよー。光りだしたけど、これは何をしてる?」


「隠密用ナノマシンの塗布です。付着する指紋をリアルタイムで変更する、見えない手袋とお考えください」


「最高だ。顔も含めて見破られる可能性は?」


「ありません。この世界では確立できていない技術ですから、想像できる人間すら限られるかと」


 今回も博士が異常なパターンだな。心の中で礼を言いながら、コロニーという未知の場所へ行くことが楽しみだった。


「マスクはデバイスの代わりも務めていますので、私との会話も可能です。不審者に間違われたくないなら、お渡しした小型端末に話しかけるふりをすることを推奨します」


「了解。気をつけるよ。どうやって怪しまれずコロニーに入る?」


「移動用のシャトルがあります。民間船として登録してあるので、そのまま着艦できます。手続きはこちらでやります」


「頼む。今後のために見て覚えたい」


「かしこまりました。シャトルは70m。パラドクスは全長30mですから、横にすれば搭載できます。しませんよね?」


「おう。怪しまれないように行くぞ」


 格納庫でシャトルに乗り、操縦席に座る。目の前のコンソールはシンプルで、ノイジーの音声に従えば難しくはない。今後俺だけで乗ることもあるだろうし、ここで覚えよう。ネクサスまでゆっくりと飛行する。


「近くで見るとでっかいなー……」


 ネクサスは全長40kmという大きさで、うちのコロニーみたいに黒くない。しっかり宇宙で存在をアピールしている。ところどころに光るドックやアンテナが点在し、内部エリアは遠くからでも緑の木々やビルが見える。まさに宇宙に浮かぶ都市だ。本格的なコロニーをこの目で見るのは初めてで、なんか感動した。


「俺はただの観光客で、滞在は3日の予定と」


「はい、身分の偽造は終わっていますので、どこでも使えます」


 着艦はナビに従ってオートでできた。書類審査もパスしてコロニーへ。警備はかなり厳重のようだが、技術力の差で通過。


「人口密度は地球の都市より低め。貴族派の贅沢な設計です。治安も大変よいコロニーですね。さすがは穏健派。和平を唱える中立コロニーならではの景色でしょう」


 人工の空は青く、空気も澄んでいる気がする。通りには商人や観光客が混在し、活気が溢れていた。屋台から香るスパイスの匂いや、看板に映る派手な広告が目に入る。


「賑やかだな。地球の繁華街みたいだ」


「商業都市ですから。交易ルートのデータによると、このコロニーは食料と娯楽の需要が高い。観光客がいても不思議はありません」


「なにか食べながら観光しよう。令嬢の家はまだ行かない」


 キッチンカーでネクサスドックを買う。ケチャップと白くて甘辛いソースがうまい。ホースラディッシュというやつだろうか。野菜とソーセージもしっかり味がある。ミルクティーも買ってベンチでのんびり。


「うまい……コロニー飯ってこういう感じか」


「ネクサスは食品も豊富ですから、レベルの低いコロニーについては察してください。一度食べてみるのも経験かもしれませんが」


「覚えておく。それはそれで体験だ」


 ビルのモニターでカイザーネクサスのアニメが流れている。子どもがはしゃぎながら指さしているし、大人も笑顔だ。マジで守護神なのだろう。


「海賊の取引はコロニー内で?」


「会談はコロニー内ですが、機体の引き渡しは小惑星帯ですね。流石にコロニーへ運ぶことは不可能だったのでしょう」


「なぜそこで取り引きしない?」


「アジトを公表したくないのでしょう。海賊に横流ししているのはネクサス貴族ではありません。清廉潔白な貴族のせいで、商売がうまくいかない商人と工業プラントに犯人がいると予想します」


「絶対妨害するよりまともに商売した方が儲かるだろ」


「独占したいのでしょう。思い通りに動かない人間ほど邪魔なものもないでしょう?」


「確かに。家に他人がいたら殺したいな。取引現場の近くへ行くぞ。カメラがありそうな場所をハッキングしろ」


「了解」


 さてこっそり現場を見てみるとするか。

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