謎のボスと司令塔
白い機体を作っている研究者たちを尾行している。どうやら基地があるらしく、秘密基地という響きが気に入った。何があるか楽しみにしよう。
「そろそろだな。面白い展開を期待する」
戦闘が終わってから数時間。敵の宇宙船は予定通り基地へ帰還した。宇宙船がドッキングする巨大な基地は、小惑星の中らしい。岩の一部が開き、宇宙船が入っていく。ちょっと好きなギミックだ。ノイジーのハッキングとドローンの活躍で、内部の様子はリアルタイムでモニターに映っている。俺たちはベッドでくつろぎながら、適当に次の展開を待つだけだ。
「帰ってきたね~。なんか疲れてる感じ?」
研究者たちは慌ただしく動いている。顔に披露が見え、何か神経質な雰囲気だ。そんなにボスは厳しいのだろうか。
「ドローンはどうだ?」
「良好です。ナノドローン散布完了。よりクリアにお届けできるはずです」
「いい仕事だ」
研究者3人組は会議室のような場所に入る。中央のホログラムモニターを見つめ、神妙な面持ちである。雑談もせず無言で裁きを待っているように見えた。
『報告を』
画面から女の声が聞こえる。顔は映っていない。冷静で突き放すような声だ。
『今回の実験は成功です。76位、82位、105位の3名をユニット化し、3機同時運用に成功。地球連合軍の戦艦を殲滅いたしました。詳しいデータはこちらに』
モニターに戦闘ログとユニットの生体データが次々と表示される。複数回の試運転で、それなりに打撃を与えているらしい。まんざら失敗ではないのかもしれない。
『……3機中1機が戦闘中にユニット死亡。残り2機は帰還時に機能停止寸前。生存時間は平均で戦闘開始から約42分……短すぎる』
声にわずかな苛立ちが混じる。研究者たちはその声に怯えているようだ。
『研究を急げ。できなければ別の方法を考えろ』
『ユニットの生存時間を延ばすためには、より高品質なパイロットが必要です。現状ではランキング100位以内でも、脳の耐久力が足りません』
『つまり……上位ランカーかそれ相当のパイロットが必要だということか』
『はい……あるいは10位以内のパイロットであれば、生存時間を2倍以上に引き上げられる可能性が……』
『5位はすでに逃げられた。なんだあの失態は』
女の声が低くなる。さっきよりもさらなる怒りの感情が読み取れる。
『誰がアクション映画を撮れと言った。あの場にいた工作員の半数が死んだのだぞ。しかも公衆の面前に姿を晒したのだ。ふざけるなよ。おかげで警備が硬くなった。拉致するのも簡単ではないのだ』
『あ、あれは完全に想定外でして……黒服の勇み足です。あのような行動を取れと指示などしておりません。我々は研究者。やりかたは工作員に任せています。すべてはあの正体不明の介入者がいたせいで……』
『あの連中か……忌々しい。何者なのだ』
俺たちのことか。顔も名前も完全に偽物だが、どの程度追えているのか知りたいね。それによっちゃこいつらも消すか。
『消息は掴めていないのですか?』
『工作員を使っているが、手がかりすら存在しない。監視カメラのデータが消され、撮影していたもののデータすら消えていたらしい』
工作は完璧だ。顔も髪色も目の色も違う。服も体格が出にくいものを着ている。そしてノイジーが完璧にコロクを抹消する。追跡は不可能である。
『関係者通路で5位を守ったということは、入れる権限を持ったものでは?』
『特徴と会う人間が誰もいない。セキュリティを突破した形跡も、カード登録履歴すらも完全に存在しない。こんなことはシリウスアリーナのシステムを掌握できなければ不可能だ』
『そんなバカな……一体どんな組織ならそんなことが、まさか連合に気づかれたのでは。やつらが連合の工作員ならばあるいは』
『だが連合は何も仕掛けてこない。この計画が連合に漏れているとも考えにくい。誰が何の目的で動いているのかあまりにも不明だ。不気味さすらある』
まだ何の手がかりもないようだ。ならもう少し遊べるな。
『最悪ランカーの補充無しで完成させろ。次に予算の話だ』
科学者が額に汗を浮かべながら答える。
『今回の実験で、すでに予算の7割を使い切っております。薬物、脳波インターフェース、生体維持装置、特にユニットの安定化に予想以上の費用が……』
『言い訳はいい。アリーナとランカーのガードが硬くなってしまった以上、今まで通りには続けられんだろう。まずは生体ユニットを完成させ、パイロットとの相乗効果を示せ。効果が見られれば改めて予算を出そう』
画面に表示されている予算を見てみた。あんまり多いとは思えない金額だな。科学者的には少ないらしい。少し動揺している。
『これでは100%の性能で運用することは難しくなります』
『一番強い機体は残っているのだろう? 出し惜しみしている場合ではあるまい。テストを開始しろ。私に嘘は通用しない。隠してあるものを全部使って成果を出せ』
『はっ、了解しました……』
そして通信は切れた。そうかまだ隠し玉があったか。そいつは何より。このまま終わったんじゃ消化不良だ。
『次だ。次で証明する。最終段階に入るぞ! あの機体を使う!』
全員が格納庫へ向かう。するとそこには巨大な黒い機体と、10機以上の白い機体があった。
「おお~……なんかすっごい大きいのがいる!」
「まだこんなにあったのかよ」
ストックの全部と見ていいだろう。これが全部ランカーなら、結構拉致られてんじゃないか。警備ザルだなあ。
『近くの連合戦艦を狙う』
『しかしまだ調整が……』
『現地に向かいながらやる。我々は予想以上に後が無いようだ。生体ユニットのタイムラグを0にできるかどうか、現場で試すしかあるまい』
何かを決意したような表情だ。そこからは科学者たちが準備して、宇宙船2個で機体を運搬。連合の戦艦の近くまでやってきた。俺たちは引き続き尾行しながら情報を集める。
「移動時間が長いな。アニメ1クール見終わったぞ」
「もっと全力で飛ばして欲しいもんですねえ。こっちは待ってるんだぞ~」
「落ち着いてリリー。もうそろそろ始まるわよ」
戦艦から黒い機体が発進。続いて白い機体15機が並んで飛び立った。
『そのまま右旋回して加速。次のポイントで急停止だ』
白い機体は命令通りにピタリと止まる。あまりにも統率が取れすぎているな。これAIなのかパイロットの腕なのかわからん。
『いいぞ、そのまま連合の戦艦を沈めろ。命令を聞き逃すな』
引き続き黒い機体のパイロットが命令を出す。完璧に応えているように見えるが、戦闘ではどうなるかな。
「連合戦艦2。バトルフレームの数およそ40」
「大所帯だな。さてどうなる」
白い機体が3機1チームとなって突っ込んでいく。敵もそれを補足したのか、散開して迎撃体制を取った。
「変ですね。チームとはいえ、あまりにも動きが同じ、まとまりすぎていますわ。まるで同じ人間が操作しているかのよう」
全チーム挙動が似すぎている。数で負けているはずなのに、確実かつ素早く敵を減らしていく手腕は褒めよう。
「特殊な信号と脳波を検知。あの黒い機体が原因です。名前はジェネラル」
黒い機体は動かずに命令だけ出しているようだが、武装だけはしっかりしていた。両腕のビームガン。両肩のキャノンからして遠距離重装備型だろう。
「あからさまに司令塔だな」
「当然生体ユニット搭載済みです。あの機体の役割は正確に、タイムラグなく命令を送り、忠実に再現させることにあります」
「タイムラグ? 確かにぴったり同じ動きのように見えるのだけれど」
3機が1機の頭と胴体を正確に撃ち抜いている。ほぼ同じ箇所に当たっているようにさえ見えた。
「いかに優秀でも、命令を聞き、実行に移す過程でタイムラグができるのが人間です。情報を受け取り、反応して実行する。そのラグを全機で限りなく0に近づけるために、パイロットの空間認識能力と直感を高め、生体ユニットを通して全機で共有するのです」
よくわからんが、そうすると相乗効果で命令をほぼ同時に全機でこなせるらしい。詳しい原理など俺には理解できんのだ。
「ただし、これはあくまで理想。実際にはラグもパイロットやユニットへの負担もあります。博士の研究からは外れていますね」
「だが全員がこれを使えれば、確かに強いかもな」
攻撃だけじゃなく回避にも応用できるみたいだ。ビームを避けてもすぐ隊列が戻る。機械を相手にしているようなもんだな。
「ユニットに使う人間が足りなくなりそうだね」
「非人道的で公にできない技術だと思います。これは味方からも非難されるのではないかしら?」
「だからこっそり研究しているんだろうな。そして拉致れずに予算縮小と」
敵のバトルフレームを10機ほど倒したところで、全機目に青い光が灯った。
「おっ、見どころさんが来たで来たで~」
加速しながらも統率が乱れない。獣の群れが敵に飛びかかり、ビームブレードで解体してコクピットを破壊していく。肘打ちや膝蹴りなど人間のような動きも混ざる。見ていて楽しいが、どういう理屈でそうなるのか気になるな。
『隊列を崩すな。強化モードを制するのだ』
今までとは少し違う。動きは荒いが被弾が少ない。司令塔のおかげで状況の共有ができているのだろう。さくさく敵が落ちていく。
『回避行動を取れ。いいぞ、訓練通りだ』
戦艦の主砲もしっかり避ける。その隙をジェネラルが砲撃で帳消しにしていく。ビームキャノンの射撃はとても正確で、戦艦の主砲副砲を破壊していった。
『あとは戦艦のみだ。集中砲火!』
完全勝利だ。敵の戦艦も爆破して、残存敵機は0。白い機体チームの勝ちで終わり。こいつらの実力がわかった。
『殲滅完了。全機帰投する』
「損害無しで敵はほぼ全滅か。やるじゃないか」
「さてさて、このまま終わってアニメでも見ます? そんなわけないですよね~?」
「そうだな。そろそろ悪の科学者を潰してみるか」
技術はほぼ見終わった。あとは邪魔な連中を排除するだけだ。シリウスアリーナは見応えがあって面白いので、ランカー上位が消えるとつまらん。ならこいつらに消えてもらえばいいのだ。
「格納庫に行くぞ。リリーの機体も見せてやる」
「やったー!」
「では参りましょう」
3人で転送されると、パラドクスとピュアセレナーデの隣にピンクの機体がある。
「こいつがリリー専用機だ」
あいつら相手にお披露目といこう。




