博士の論文と研究者たちの過ち
白い機体の正体を探るため、小型ドローンを敵艦に忍び込ませた。そして博士の研究を悪用して生体ユニットを作っていることが発覚。引き続き調査を続行しよう。
『早速こいつも機体に組み込むんだ。研究対象は多いほうがいい』
『パイロットはどうします?』
『今いる連中にやらせろ。補充は上に打診しておく』
これから別の頭部に埋め込まれるのだろう、あれもランカーかな。やはり効率が悪そうというか、いまいち目的が見えない。
「ノイジー、あいつらの研究にアクセスできるか?」
「直接ケーブルを繋げれば可能です。その場合、研究者たちから離れます」
「構わん。偶然話すのを待つのはだるい」
ドローンがさらに奥を探索し、研究室の端末にケーブルを繋げる。しばらくして解析が完了した。
「端的に言ってしまえば、お粗末な解釈違いですね」
「んじゃ説明よろしく。まず博士の研究って何だ?」
いつものホログラム解説のお時間だ。3人でベッドに寝転がり、楽な姿勢でノイジーの話を聞こう。
「人間をAIの道具にすることで、最低限使える存在にしようとするものです。大抵の人間は愚かで醜いので、そのままでは道具にすらなりません。感情的なバイアスや社会的制約によって歪められるため、道具としてさえ機能しないと考えます」
「人間は感情を優先し、正解も選べない。そして命令通りに動かない。無駄に群れる。道具としちゃ不便だな」
「なので人間の直感と空間認識能力、想像力や適応力など長所だけを切り出し、感情・矛盾・非合理性をカット。完全にAIの道具にすることで、優秀なAIをより高性能にする研究です。無論、私よりも数段落ちる低レベルなAIですが」
AIの効率性と人間の柔軟性や野生を融合させるのが目的らしい。そこまでしないと使えない人間って不便だな。これは欠陥品をせめてAIの道具として利用できないかという適当な思いつきなんだとさ。
「ちなみに実践はされていません。研究用とはいえ他人を研究室に入れることを嫌ったため、論文にして適当に放逐しただけです。博士は自分のテリトリーに人間がいるのを好みませんし、AIの道具にしたら人間馬鹿にして遊べるんじゃね? という雑な思いつきですから」
「あくまで主役はAIであり、人間は組み込むだけの道具というわけね。けれど、あの研究者たちは違うような気がするのだけれど」
「正解です。彼らは論文を8割しか入手できておらず、雑な理解で進めています。まず天才として圧倒的な差があり、さらに人類を嫌う博士の思想を何も理解していないのです」
自分とAIだけで生きてきた人嫌いが、人間を使う研究をメインにするとは思えん。まあ納得だな。問題は研究者たちの勘違いだ。
「彼らの解釈は、AIの力を借りて人類の限界を超越し、野生を発現させて人間をAIを超えた兵士に昇華させるというものです。しかし、これは博士のコンセプトを根本的に誤解しています」
「誤解っていうか真逆? 全然ダメじゃん」
リリーの言うように、よりによって完全に逆の発想で突き進んでいる。よく生体ユニット完成したな。
「パイロットの脳波や空間認識能力を抽出・強化する。機体が獣のような動きをするのは、ユニットが生物の闘争本能を極限まで発揮するように設計したためです。つまりせっかくの高性能AIを、人間を強化するためのパーツとして使っているのです。もったいないですね」
「頭と胴体にパイロットがいるのは?」
「生体ユニットをパイロットの補佐として使うつもりなのでしょう。あくまで優れたパイロットを作る研究だと思っているようです。生体ユニットとパイロットを何かしらの方法で繋ぎ、ダイレクトに操作感を伝えられるようにしている模様。原因として、博士からすれば書く必要のない前提の部分が、研究者たちには想像できないブラックボックスになってしまっているのです。数学で途中式を飛ばしているイメージです」
なるほどな。これで敵の目的ははっきりした。けれどこいつら結局どこから生えてきたんだ。
「んで、このおじさんたちはどこの誰なんですかね~?」
「コロニー同盟軍の秘密機関です。パイロットはすべて同盟軍。生体ユニットにランカーを使うのは、地球連合の弱体化と、同胞を傷つけさせる行為が面白いからでしょう。そこそこ趣味がいいですね」
「わからんでもない。連合軍の戦艦を狙っていたのもそれでか」
となると次の相手もまた連合だろう。そうやってテストを続けて、完成したらどうするんだろうか。コロニーの技術になるんかな? 片方だけ強くなっても面白くないな。戦争終わったらロボットの活躍が減るやん。
「どうやらさっきの男で3機目のようです。3人1チームでの運用を想定しているようですね。105位、82位、76位のランカーが使われています」
「本領発揮か、面白い」
「その性能っていうのを見せてもらいましょ~」
「ではまた出陣まで待機ですね。お茶を淹れてきますわ」
こうして研究者たちとコロニー同盟のことも調べつつ、戦闘シーンまで尾行した。ちなみに調べても特に面白い情報はなかった。単純にコロニー同盟に雇われた連中だ。研究資金と部隊を与えられて、白い機体を作っていただけ。
「連合の中型戦艦を発見。数2。20機以上のバトルフレームが予想されます」
「ようやくか」
宇宙船から白い機体が飛び出し、3本の光の線を引いていく。結構速いな。パイロットの負担でかそう。
「これさ、強いパイロット作る前に死ぬだろ」
「厳しい訓練に耐えたものを、薬物投与で強化しているようです。戦闘で致命傷を負わない限りは平気でしょうね。接敵するようです。コーラとポップコーンは準備できていますよ」
「ナイスだ。さあ性能を見せてみろ」
いつものように通信を傍受してみよう。
『訓練通りに行くぞ』
『了解』
3機が並んで突っ込んでいく。敵は10機以上。普通に戦えば負けるだろうが、予想に反してシンプルに進む。単純に敵の攻撃を避け、的確に射撃を繰り返し、少し前に出た機体が格闘戦で沈めて隊列を戻す。チーム戦がしっかりできている。
「普通すぎてつまんないですね」
「まだ敵か味方かの判断ができていない段階だろう。ここからさ」
同じバトルフレームに攻撃されると、識別信号で判断するしか無い。そして急襲されれば判断は鈍る。だがそれも正規の軍人相手では、長くは続かないようだ。
『散開して包囲しろ! 数ではこちらが上だ!』
「数で包囲され始めたな。普通に負けるのだけはやめろよ?」
『くはははは! いいぞ! いい気分だ!』
『これだ……これが力だ!』
3機とも青い光が目に灯る。さらに加速して敵を破壊していく。肉食獣が獲物に群がって食い尽くすような動きだ。武装で手足を引きちぎり、切り捨て、ズタボロに破壊していく。
『なんだこの動きは!?』
『やめろ! 来るな! うわああ!』
3機で常に動いているので、破壊スピードが速い。必ず違う箇所を示し合わせたように攻撃するのも、即破壊できる理由だろう。戸惑っているうちに食われていく。
『死ね! さっさと食われちまえ!』
「口調が荒くなっていますわね」
「調子出てきたかな~?」
「あれが本来の力なら、確かに脅威かもしれませんわ」
敵戦艦に取り付き、ビームソードを突き立てて走り回っている。ガンガン突き刺していくと、やがて爆散して中からバトルフレーム部隊が出てきた。そいつらにも飛びかかり、頭部に剣を突き立てて首を引きちぎる。パワーもあるようだ。
『落ちろ落ちろ落ちろ!』
『無駄だ無駄だあ!』
「射撃もそれなりにできるようです」
「変な飛び回り方するから、敵は当てるのが難しいんだねえ。マシンガンで数撃つか、バズーカの爆風で削るかじゃない?」
「ライフル当てるのは結構きついな。ベテランじゃないと止められなさそうだ」
肘や膝に短いビームソードがついているので、威力のある攻撃を小刻みかつ不意打ちで打てるのが厄介だ。あれを初見でさばくのはほぼ無理だろう。
『撃て! 撃ちまくれ! やつらを近づけさせるな!』
「敵戦力半分まで減少。白い機体損傷率15%」
「無敵というわけにはいかないか」
連合は物量で押す作戦らしい。全機で距離を取り、ひたすら弾幕を張る。こうなると近づこうにも被弾は覚悟しなきゃいけないわけだ。けれど敵戦艦は1個沈めたし、10機以上の機体は破壊した。成果としては上々だろう。
「敵を盾にしていますね。野蛮な戦い方ですが、少人数で勝つためなら合理的なのかしら」
敵の胴体を掴み、盾にして突っ込んでいく。当然だがためらう。そこに付け込んで接近しては沈めていく。野生って割には計算もできているな。
「これはAIとパイロットどっちの判断なんだ?」
「どちらの可能性もあります。生存本能が刺激された結果でも、プログラムの合理的な判断でも可能でしょう」
やがて敵の数は減っていき、勝てるかと思ったその時。白い機体の1機が止まる。完全に停止した。そこを狙われて撃墜。あれではユニットもパイロットも死んだな。
『ちっ、エネルギー切れかあ? 運のねえやつだ』
『2人でも殺しきれるだろ。やっちまおうぜ!』
「どういうことかしら?」
「生体ユニットを酷使しすぎたのでしょう。長時間の使用で中の人間が死亡。AI任せにしていた部分がすべてシャットダウンしたのです」
「最悪やん」
弱点が多すぎる。これじゃ実践投入しても有効かは微妙だな。
それでもボロボロになりながら残りの2機で殲滅。宇宙船に帰還した。
「まだ実験段階なのかもしれんが、欠点が多すぎるな。予算の無駄使いだろ」
「無駄な予算を確保するために、連合の部隊を落として人気取りをしているのでしょう。それでも限界はあります。どうやら交渉のために一度基地に帰還するようですね。尾行しますか?」
「する。こうなったら基地を暴いて、飽きたらぶっ壊そう」
「悪の科学者を粉砕ですね! 楽しみ!」
「リリーの機体がもうすぐ完成するわ。デビューにいいかもしれないわね」
「マジ? やった~!」
楽しみが増えたな。次できっちり決着をつけたい。じゃないとそろそろ退屈だ。




