所属不明機の戦闘を見る
黒服の宇宙船を尾行すること2日。ちょっと飽き始めた俺たちは、楽園のプールでだらだらしていた。浮き輪に乗って背を預け、ぷかぷか浮いてぼーっとする。これはこれでリラックスできてよい。
「のんびりしてないで遊んでくださいよ。ほれほれまずはリリーちゃんを褒めろ~。水着だぞ~。かわいさ炸裂してるでしょ~」
リリーが浮き輪を揺らしてくる。落ちそうになるからやめろ。
「はい褒めましょう。今褒めましょう」
「はいはい、かわいいかわいい」
「かわいいのは知ってます~。もっと溢れ出る思いをぶちまけるべし」
「あー……なんだろ? すごい……すごく……あれだよな、ファンタスティック? じゃねえな」
「急に語彙力が死にましたね」
「経験なさすぎてエミュができんのよ」
褒めることも褒められることも無い人生だったから、他人を褒めるという行為がよくわからん。やろうとしてもエミュができん。
「まずは部分的に褒めてはいかがでしょう? 水着から始めては?」
シオンが浮き輪で揺れながらアシストしてくれる。言われてちゃんと見てみると、白と水色で爽やかっぽい。はずだ。多分。
「爽やかで似合ってる?」
「疑問に思わないでくださいよ~」
「ハヤテ様、そこは自信を持っていいところですよ」
「リリーによく似合っているよ」
できる限り穏やかな口調で言ってみる。それで少しは満足してくれたみたいで、なんとも嬉しそうに笑っている。
「シオンも……きれいだな」
パレオ付きの淡い緑の水着だ。清楚なお嬢様っぽさが出ている。
「ふふっ、ありがとうございます。無理に褒めようとしなくてもいいんですよ」
「きれいなのは事実なんだが、そういうものを褒める機会がなかったもんでなあ」
「報告。黒服軍団が大型宇宙船に入りました」
ノイジーからの報告だ。同時に空中にホログラムが投影される。宇宙船はなんのマークもない。軍艦っぽくもない。カモフラージュだろうか。
「端的に申し上げて、バトルフレームの制作会社ですね」
「えー、ライバル企業とかそういうオチ?」
「つまらん。内部事情とか探れるか?」
「もう終わっています。中学生に作らせたのかと勘違いするファイアウォールでしたが、フェイクの可能性6%。目的はパイロットをコアとした生体部品の製作です」
ほほう、ちょっと面白そうになってきたぞ。
「ランキング入りするほど優秀なパイロットを生体ユニットとし、脳波や空間認識能力および機体制御のアシストAIのように使用する実験を行っている模様」
「また大胆というか無茶な計画だな」
「よく露呈していませんね……」
「5位なんて上位が行方不明になったら、計画続行が難しくならね?」
「もみ消せる自信でもあるのでしょう。もしくは企業そのものがフェイクと推測します。こちらも偽企業を作りましたから、切り捨てるにはいいのかと」
なるほどねえ。いざとなれば企業なんてありませんで逃げる計画か。それも苦しくない? 俺たちみたいに完全なステルスできてないよね。
「小型艇が発進しました。生体ユニットのテストでしょう」
「新型機かな? 見たい見たーい!」
「追うぞ」
そして追っていったらデブリの多い宙域だ。ほぼコロニーの残骸らしい。数年前にあった戦闘から放置されているんだとさ。そこに宇宙船から白いバトルフレームが出撃していく。
「1機だけ? ノイジー、アップで頼む」
「了解。全身白いバトルフレームですね。右手のビームガンと、左手のビームソードが主武器でしょう。特殊武装は不明です」
白い機体が向かう先には、地球連合の部隊がいる。残骸から何かを探しているのだろうか。5機の青いバトルフレームがデブリをかき分けている。
「バトルの予感。楽しみですなあ」
白い機体はすれ違いざまに連合の機体を切り裂いた。爆散する機体に気づき、ようやく敵襲だと理解したようだ。やつらの通信を聞いてみよう。
『なんだこいつ!? 味方じゃないのか!』
『撃て! 周囲の警戒も怠るな!』
『ちくしょうなめやがって!』
1機が接近戦を挑むが、ひらりとかわされて逆にコクピットを貫かれる。
『うっがあああ!?』
『ふふふ、はっはっはっは、はーっはっはっは!』
白い方の機体は高笑いが止まらないようだ。青年男性の声だな。調子こいてどんどん切り込んでいる。
『ちっ、これ以上やらせるか!』
『無駄だよ! 今のオレに追いつけるものか! そのまま死ねい!』
白い機体の目が青く光る。目に見えて速度が上がり、無茶な直角移動しだした。
「あれパイロット死にませんかね?」
「こっちみたいな技術もないだろうし、まあ死ぬよな」
「機体に振り回されているような気がします」
体が頑丈だったりするんだろうか。まさかそれも軽減できるシステムか。
『散るがいい!』
白い方の射撃の腕はそこそこだな。牽制に使ってソードで切るスタイルなのだろう。さらに2機撃破していく。
『いいぞ! これはいい! 乗っているだけで勝てる! 他者を蹂躙できるというのは最高の気分だ!』
「わかる」
「わかるんですか」
「パラドクスに乗ってる俺も似たようなもんだし。まあ気分いいよな」
客観視するとこんな感じなのね。だって超強いロボもらったらテンション上がるじゃん。人殺しに罪悪感とか葛藤はない。だって人命が尊いと思えるほど、俺を大切に扱ったやつが存在しないから。因果応報自己責任である。
『消えろ消えろ!』
そして5機殲滅。だが連合の戦艦から追加で3機やってくる。戦艦のミサイルや主砲も飛んでくるので、難易度はこちらが上だろう。
『謎の機体は接近戦が主体らしい。なら近づかなければいいだけだ』
3機はマシンガンとバズーカで射撃戦に持ち込む。距離を詰めようとすると、必ず2機が牽制に入り、接近戦役は防御に徹するという戦法だ。
『おのれちょこまかと! そんなにオレが怖いか!』
『撃ちまくれ。装甲はそれほど硬くはない。バトルフレームの範疇だ』
『全機掃射続行!』
激しい弾幕により多少被弾するも、さらに1機撃破。だがその爆発により視界が塞がれた。そこが生死の分かれ目だった。
『そんな、そんなああああ!?』
連合2機のバズーカにより、白い機体の胴体が大きくえぐれる。間違いなくコクピットごと破壊されたな。
『やったぞ!』
『これにて任務完了。残骸の捜索に……なんだ?』
白い機体の目に、再び青い光が灯る。さらに速くなった機体は、二刀流で一気に敵機体を切り捨てる。
『ばかな!? ぬああ!?』
『こいつなんで動け……うがああ!?』
無防備になった敵艦に迫り、無茶苦茶にビームソードを突き立てまくる。獣が暴れているかのようだ。そのままブリッジに剣を突き刺して爆破し、敵艦が完全に爆散するまで切り刻んでいた。
「完全に動きが違います。あれが生体ユニットの性能でしょうか?」
「だとしたら凄くない? パイロット死んじゃってもあんなに強いんだよ!」
「だが1部隊にやられかけている。コスパ悪くないか?」
もっと絶対的な強さならまだわかるが、ある程度知名度のある人間を誘拐してまでやる計画には思えない。まだ何か狙いがあるのだろうか。
考えている間に白い機体は、自分の宇宙船へと消えた。
「自力で帰還もできると。AIでよくね?」
「誰もが私のようなスーパーAIの助けを得られるとは限らない、ということでしょう。もしくは使用用途が違うのか、ですね」
「やっぱ気になる。あの宇宙船、もっと追いかけてみましょうよ~」
「そうだな。このまま終わったんじゃ気になるし。ノイジー、いつものように頼む」
「了解。何かあれば報告します」
謎は深まるばかりだが、それが暇潰しにちょうどいい。ぜひ俺好みの展開になってくれ。そう祈りながら尾行を開始させた。




