水星の乱、決着
水星軍とライトオブグローリーの戦闘を見ている。ソファーに寝転び、シオンに膝枕してもらう。リリーは俺の横で寝ながらクッキー食っていた。
「さーて、どっちが勝つかな」
「どっちもがんばれー」
「水星軍が勝たないと、観光できないわよ?」
「うえー、それはやだ。がんばれ水星軍!」
水星軍はレッドフェニックスに乗るヴィクターと、コスモクラフト・マーキュリーのプロトタイプに乗るエイデン。ライトオブグローリーは、トレイターに乗るアデルがエースだろう。引き続き通信映像を傍受してモニターに出していく。
『落ちろアデル! その野望とともに!』
フェニックスの足に鉤爪のようなビームクローが出現した。翼からのビームで威嚇しながら、キックで致命傷を狙う動きが実に鳥っぽい。
だがトレイターは巨体の割に素早い。適度に距離を離しながら、ビームの連射で近づけさせないように動く。
『消えろヴィクター。新国家に貴様のような軟弱な王は不要だ』
トレイターがビームで牽制すると、背後から部下がやってきて弾幕を形成する。
『アデル少将を援護しろ!』
『消えろ、水星の主権は我々のものだ!』
『ちいっ、水星を守るためだ、死は覚悟してもらうぞ』
トレイターの隙をついてザコを落としていく。その間にトレイターが逃げ、追い詰めようとするとザコが群がる。以下繰り返し。つまらん。
「長くなりそうだな。もっとスーパーロボットのぶつかり合いが見たいんだよ」
「なんか飽きちゃいますね」
「ノイジー、ライトオブグローリーの後方の戦艦いくつか落とせ。バレないように頼むぞ」
「了解。ホーミングレーザー砲起動。距離3万キロ。発射」
きれいな光の群れが飛ぶ。超長距離からの狙撃など予測できないのか、戦艦6個が爆炎にまみれて消えていった。周辺の機体もしっかりお掃除完了。
『後方に敵だと!? ええい何をやっている! さっさと迎え撃て!』
『敵影なし! 長距離からの狙撃と思われます!』
『おのれ水星軍、まだ隠し玉があるのか!』
敵陣大混乱である。これでかなりの数が減った。戦いが膠着状態だと見ている方はつまらんのだ。もっと派手にやりあってくれ。
『どうやら我々に味方する何者かがいるようだな。このチャンス、ありがたくいただこう』
『僕も加勢します!』
こうしてヴィクターとエイデン対アデルの戦いが本格化した。
『貴様らを葬れば、水星軍は終わりだ。消えるがいい!』
『やらせはせんさ。我々は民の命を背負っているのだ!』
トレイターのビームの列が飛ぶ。レッドフェニックスは隙間を抜けるようにしてかわし、反撃のビームガンを撃つ。だがトレイターのビーム湾曲フィールドによって、わずかに塗装を焦がす程度にとどまった。
『無駄だ無駄だ。そんな消えそうな火で何ができる』
『ならば直接浴びせるのみだ』
不死鳥が翻り、一気に距離を詰める。ビームソード二刀流で斬りかかるが、トレイターの大型ビームソード2本が阻む。鍔迫り合いは一瞬。トレイターの右足からビームソードが飛び出し、避けきれなかったフェニックスの右肩を深くえぐる。
『落ちろ不死鳥!』
『ただではやられん!』
赤い機体が大きくのけぞり、縦に回転して足のビームクローを叩き込む。トレイターの緑のボディに傷がつき、蹴られた左手首が爆散した。
『ぬう! おのれヴィクター!』
お互いに腕一本が使い物にならなくなった。だがそれ以外のパーツは生きている。再び距離を取ると、次はマーキュリーがビームライフルを構えた。フルチャージした一撃は、トレイターの足に当たって爆発。今度は装甲をふっ飛ばした。
『いける、僕が落とす!』
『その前に貴様が落ちろ!』
ここからビームの雨を降らせるトレイターと、的確に狙撃しながら逃げ回るマーキュリーの撃ち合いになる。
「いいぞいいぞ、盛り上がってきた」
「やれやれー、さっさとおとせー」
「勝った方が水星の覇者ですわね」
ようやく楽しく見られる展開である。ロボットのガチバトルをリアルで見られるというのは、こんなにも面白いものか。煌めくビーム、飛び散る火花、腕や足がぶっ壊れても動く機体。いやあ熱いね。
「さてどう攻略するのかな」
「鳥と青いやつは、直撃したら終わりですねえ」
「トレイターはバリアがありますから、倒すには相応の火力が必要ですわ」
「だがお互いエネルギーを消耗している。ここからどう動くかで決まるぜ」
マーキュリーがチャージショットを撃つたびに、少しずつだがトレイターが削られていく。逆にトレイターのビーム連射は当たらない。機動力だけの問題じゃないなこれは。
『ええい、なぜ当たらん!』
『僕にも見える。あなたの意思が。暗い邪気が。そこだ!』
トレイターの両肩にあるビーム装置が破壊された。これで手数が減る。
「なんかポエミーな言い回しですねえ」
「特殊脳波を検知。空間把握能力の拡張および、他者の思念の流れを読み取っているようです。つまり超能力ですね」
「うーわ、ますます主人公だな。ずるくね? あいつだけ死なねえかな」
嫌だねえ持って生まれた才能ってやつは。あらゆるガチャ大成功かよ。あいつどっかで敵対してくれないかな。この手で殺したい。
『アデルさえ仕留めれば終わりだ!』
トレイターの背中からミサイルが飛び出し、爆風で視界を遮断する。その隙に大砲をチャージし、そのままレッドフェニックスに突っ込む。近距離で撃つつもりか。
『させるか!』
マーキュリーが横からライフルを連射する。しかしフルチャージしないとダメージは薄い。無視してレッドフェニックスに肉薄していく。
『やらせない!』
ビームソードを抜き放ち、マーキュリーがトップスピードで進む。だが死を覚悟した部下たちに阻まれ、ヴィクターのいる場所までは届かない。
『この距離なら外さんぞ!』
接近したトレイターの胴体から、2本の隠し腕が伸びてワイヤーで不死鳥を絡め取る。ビームで焼き切る時間はない。大砲が胴体を捉えた。
『終わりだヴィクター!』
『それはどうかな!』
腰のグレネードを掴んだ不死鳥の腕が大砲に突っ込まれた。そこで両者止まる。
『撃ちたければ撃ってみろ。貴様も死ぬぞ』
『正気か!』
『私は正気さ。これでも水星を背負う身でね。勝ち筋は見逃さん』
マーキュリーのビームが一閃。トレイターの背中を通り過ぎていった。そして大砲が大爆発を起こす。
『なんだとお!?』
『よくやった、エイデン。やはり君は優秀な戦士だ』
ワイヤーを焼き切り振りほどいたレッドフェニックスは、そのまま翼のエネルギーをチャージしだす。トレイターはもうボロボロで動けないようだ。
『なぜだ、いったい何が起きた!』
『私の役目はお前を数秒止めることだった。あとはエイデンがフルチャージした一撃を撃ち込むだけだ』
『大砲とバックパックだけを狙ったというのか。だが直撃すれば貴様も巻き込まれるはずだ!』
『ああそうだ。だから貴様の機体に直撃させるのではなく、大砲とバックパックのみ破壊できるギリギリまで近づけて、貫通させたんだ。彼にはそれができる』
『ありえん! この距離で、失敗すれば貴様も巻き添えになるというのに!』
不死鳥が羽ばたき、そのエネルギーすべてが放出される。トレイターは動くこともできず、バリアも剥がれ、ただその光に飲み込まれることしかできない。
『これが信頼だ。殺すことでしか生きられない貴様には理解できまい。さらばだ、アデル・ガルシア』
『ありえん! 私の国家が……こんなことでえええぇぇ!!』
今日一番の大爆発を起こして、トレイターはその野望とともに散った。
『やりましたね!』
『ああ、水星の勝利だ』
水星軍は、ライトオブグローリーに投降を呼びかけた。応じたものは捕虜として扱い、最後まで戦いを選んだものは殲滅する。こうして水星の乱は終結となった。
「ふぅ……見応えあったな」
「射撃の参考になりましたわ」
「マーキュリーの射撃やばいよね。あれ参考にできる?」
「どうかしら……あれは技術より直感が大切な気がするのだけれど」
「超能力は反則だからな、あのレベルは求めないよ」
全員大満足である。この世界のエース同士の戦いは参考になる。ああいうレベルを想定しておかなければいけないわけだ。それはそれとして、アデルの最後の瞬間も録画してあるので、あとで素材にしよう。
「じゃあ後はのーんびりしてたら水星も入れるようになりますかね?」
「だろうな。それまで動画作ったりして過ごすか」
「うえー、不健康だ」
「そして不健全だぞ」
「たまには運動もしましょうね。私も一緒にやりますから」
こうして水星の港が再開するまで、俺達はのんびり休日を過ごすことになった。ぶっちゃけいつも休日だけどな。




