海賊狩りと今後の目標
海賊のコスモクラフトを倒すべく、パラドクスはステルスを解除し、戦闘態勢に入った。残った敵はノーマルタイプのコスモクラフト3機と、火力重視の隊長機1機のみ。ノーマルタイプは両手にビームライフルと盾を握り、肩に小型ミサイルポッドを装備。機動性を重視した軽量な作りだ。対する隊長機は一回り大きく、肩にビームランチャー、腰にミサイルポッド、両手に高出力のビームライフルを構えている。
「掃除は得意分野だ。もう一匹駆除してやる!」
『なんだこいつ!? どっから……ぐびゃあ!?』
ザコが振り返る前に、パラドクスの手から放たれたビームがノーマルタイプのコクピットを貫いた。機体を瞬時に溶かし、爆炎が広がっていく。その場から移動すると、敵の赤いビームが通り過ぎていった。
『うろたえるんじゃないよ! 敵なら殺す! アタシに続きな!』
『姐さん! お前ら姐さんに続け!!』
隊長機から響く声は、歳を重ねた女のものだ。リーダーが女とは意外だな。
「クズのうえに女か。殺していいやつでありがたい」
メスブタの号令で残る2機のノーマルタイプが一斉に射撃を開始。ビームライフルとミサイルポッドから発射される小型ミサイルが弧を描いて迫る。ミサイルは誘導性能が低く簡単に振り切れる。所詮は海賊の武装か。ノーマルタイプは互いに連携しながら左右に展開し、俺を挟み撃ちにしようとしている。
『海賊の誇りを見せてやりな!!』
「誇りがあるやつは海賊なんてみっともない真似しないんだよ間抜けが」
「そんなこともわからないから海賊だと推測されます」
「ごもっとも」
パラドクスの全方位ディスプレイに映る敵の動きを観察し、武器性能を把握する。敵が弱いうちに知っておくべきだ。ザコのビームガンとミサイルは威力も速度も連射も微妙。楽勝で対処できる。
隊長機のビームランチャーは着弾時に爆発するエネルギー弾を放つ。腰のミサイルポッドは、広範囲にばらまく迎撃用の小型ミサイルだ。両手のビームライフルは中距離での連射用だな。
「しばらく回避の練習でもするか」
ビームは吸収できるが、手の内を明かす必要はない。パラドクスの機動力は圧倒的だ。普通に移動するだけで、ノーマルタイプのビームライフルを軽やかに回避。ミサイルはこちらの射撃練習用の的にした。敵を見失わないように、ディスプレイに映る軌跡を目で追うことも忘れない。
『速い! こいつコロニー同盟の新型か!!』
「パラドクスはコロニー側に見えるんだな」
「ここが宇宙であること。バトルフレームとは造形が違いすぎることが理由でしょう。コロニー同盟軍は特別な機体も作られています」
「せいぜい勘違いしてもらおうじゃないか」
隊長機がライフルを連射しながら距離を詰めてくる。射程距離に入ったのか、肩のビームランチャーを構え、赤いエネルギー弾を発射した。
『チョロチョロ飛び回るんじゃないよ!!』
「ギャーギャー騒ぐんじゃないよアホ。そのビーム、返してやるぜ!」
オーバーヘッドキックでビームランチャーの弾を跳ね返す。弾は追尾してきたノーマルタイプに直撃した。
『なんぎゃ、ばべえ!?』
着弾と同時に爆発。ノーマルタイプの機体は粉微塵に吹き飛び、装甲の破片がキラキラと宇宙に散らばる。
『なにっ!? こいつ今何をした!?』
「ノイジー、あのランチャー真似できるか?」
「ビームを好きなタイミングで曲げ、ここぞという時に爆裂させることも可能です」
「そんじゃあいってみよう!」
両手の指先にビームエネルギーを収束。逃げるノーマルタイプを追っていく。敵機は必死にブーストを噴かし、ミサイルポッドから迎撃用の小型ミサイルを乱射。俺のビームを防ごうとするが、パラドクスのビームはミサイルくらいじゃ貫通して追っていく。敵機のコクピットを正確に貫いた。
「ほれほれ死にたくなければあがけ。結局死ぬけどな」
『なんで曲がっ!? うわあああああ!?』
ビームがコクピットを貫いた瞬間、爆裂させた。機体は内部から爆発し、装甲が四散。これでノーマルタイプは全滅。残るは隊長機だけだ。
『なんなんだいあんたは!!』
「なんだろうねえ。不思議だな。地獄でじっくり考えろ」
隊長機が怒号と共に攻撃を仕掛けてくる。肩のビームランチャーが連続で赤いエネルギー弾を放ち、ミサイルポッドから数十発が一斉に発射される。両手のビームライフルも休むことなく連射し、パラドクスを追い続ける。だがこちらの機動性にはまるで追いつけない。隊長機の攻撃は派手だが、無駄が多い。
「手数で上回るつもりか。無駄だぜ。そろそろくたばれババア!」
「自分の年齢を棚に上げた発言による士気向上を確認。スキャンによると敵は30歳前後と推測されます」
「不都合な真実は消すに限るぜ!!」
パラドクスのビームフィールドを展開し、ミサイルを全て防ぐ。ビームライフルもランチャーも全身で吸収し、エネルギーに変換しながら直進する。
『そんなバカな!?』
吸収しながら直進してくるとは思っていなかったのだろう。動きが止まった。
「強化モードを試すいい機会です。発動して両手を前に突き出し、ビームの刃を作って加速してみてください」
「こうか?」
言われた通りの体勢を取ると、パラドクスの全身から紫のオーラが溢れ出す。両手、両足、肩、背中、頭部などから圧倒的なエネルギーが機体を包み込む。そして揺れを感じた瞬間、目の前の敵が消えた。
「敵はどこだ?」
「500km後方です。振り返れば爆散の瞬間は見られると思います」
振り返ってズームすると、宇宙に小さな光が灯っていた。圧倒的な速度で通り過ぎたらしい。本当に瞬きすらしていない一瞬で500kmを通り過ぎたということか。
「強化モード解除。エネルギーを大量に消費するため、3分以上の継続は推奨できません。こちらで強制的にモードオフします」
「頼む。まだ扱いきれそうにない」
あまりにも強化されすぎる。初心者の俺が無理に使うべきではないだろう。今でも圧倒的なスペックなので、フルに活かせるように練習すべき。
「戦闘終了。全機撃破。被害ゼロ。オーナーの戦闘センスあってこその結果です」
「ノイジー、ドローンで基地を捜索。金と情報、全部回収しろ」
「了解。ドローンを展開。資金とデータの回収を開始します」
ドローンは金目の物を回収するはずだった。だがその結果はというと。
「今回の儲けは50万ですね」
「すっくねえ!?」
「どうやらあの隊長機を買うのに財産を使っていたようです。取引記録もあります。こちらの方がお金になるかもしれません」
データ端末からは、海賊の取引記録を吸い上げたらしい。ノイジーのハッキング能力は相変わらず規格外だねえ。
「データは中立コロニーでの取り引きと、海賊の交易ルートに関するものです。詳細な解析は後ほど」
「十分だ。さて、締めといくか。完全に消そう」
「ホーミングレーザー砲はお見せしましたから、今回はコロニーの副砲を使います。威力は小惑星ごと消滅するレベルに設定します」
「それでいこう。派手にやれ」
「了解。副砲1門起動。ロックオン完了。発射」
コロニーの側面から放たれた青白いレーザーが小惑星を直撃。光が岩盤を飲み込み、海賊基地ごと小惑星が宇宙から消え去った。
「小惑星及び基地、完全破壊。痕跡は残りません」
「いい仕事だ。さっさと帰るぞ。ステルスモードオン」
帰還して格納庫でドローンが拾ったものを物色する。ほとんどがデータと現金だ。現金は50万と少なめだが、データは中立コロニーとの取り引きや、海賊の交易ルートに関する貴重な情報だ。隊長機の取引記録には、コロニー同盟軍の機体がどう海賊に流れたかのヒントもあった。どうやら裏で誰かが武器を横流ししているらしい。
「人間が増えるとクズが生まれる。当然の摂理だな」
「人は群れるべきではないのかもしれませんね」
格納庫からオーナールームに戻り、冷蔵庫から炭酸飲料を取り出す。シュワっとした刺激が喉を通り、戦闘の興奮を落ち着かせる。ベッドに沈み込み、ホログラムパネルで戦闘の記録を再生する。パラドクスの動き、ビームの軌跡、敵の爆散する瞬間。自分の戦闘を見返すのは面白いし発見もある。ノイジーが隣で解説を始めた。
「今回の戦闘データから、オーナーの反応速度は平均より上です。強化モードの扱いに慣れれば、さらに圧倒的な戦果を上げられるでしょう」
「まだゲーム感覚でやってるだけだ。次はもっと効率よく動けるように訓練しよう」
「了解しました。中立コロニー到着まであと5時間。次の行動をどうぞ」
「クローン作成の準備を進めたい。コロニーの交易ルートのデータを使って、金策のプランを立ててくれ。海賊狩りもいいが、もっと効率的な方法があるだろ?」
「かしこまりました。クローン作成のキャラクリ画面を準備し、交易ルートの解析結果を基に金策プランを提示します。まずはお姫様のリストから選びますか?」
「最終的なクローンは黒髪黒目、身長160cm未満、胸は大きめが理想だが、DNAサンプルを取る相手は同じ容姿じゃなくていい。どうせ変更はする。よって美形で頭脳明晰、運動神経抜群であることを重視しよう。データだけじゃなく、本人の髪の毛とかで精度を上げる。中立コロニーにはどんなやつがいる?」
「ターゲットはコロニー貴族の令嬢です。よいサンプルになるかと」
「コロニーに貴族?」
「地球の貴族がいち早く移り住んだため、主権を握っているコロニーが存在します。各コロニーの様相も様々ですが、目的の中立コロニーネクサスは貴族派です」
血筋はいいらしい。なら優秀な遺伝子であってもおかしくない。ターゲットとして見極めるにはちょうどいいだろう。
「よし、交渉は俺がやる。大前提としてこのコロニーとパラドクスのデータは絶対に見せない。これからも交渉のカードとしては使わない。軽く戦闘に介入するかもしれんが、データは渡すな」
「了解。偽装データなら即座に作成可能です」
「いい仕事だ。中立コロニーに着くまで寝る」
「了解。仮眠中の警戒は私が担当します。よい夢を。環境音などBGMをかけますか?」
「やめとく」
ベッドに倒れ込む。キングサイズの柔らかいマットレスが体を包み、戦闘の疲れを癒やしていく。博士が残したこの楽園、存分に堪能してやるさ。