敵の計画潰すの気持ちよすぎだろ!
俺の部屋に戻ってアデルの動きを観察しよう。ドローンはノイジーだけでなく、俺がコントローラーで操作することもできる。
「なんか面白いことしてくんないかな」
「今のとこ普通に革命家ですねー」
3人でごろごろしながらモニターを眺める。普通にニュースとか見てんじゃないよ。なんかやってくれないと、潜入した意味なくなるだろ。
「お疲れでしたら私が見ておきますよ」
「いや、これは俺がやる。おっ、動いたぞ」
アデルが風呂に行くみたいだ。ドローンを追尾させよう。ここまで面白みがないから、なんか変なクセでも出てこい。
「とりあえずお前らは見なくていい」
「あんま見たくもないですなあ」
「では紅茶をいれてきますね」
というわけでしっかり撮影しながら、動画編集者の目線で考える。使いやすい素材とは何か。全身図があったほうがいいな。アップも必要だ。表情パターンは多いほうが便利だな。色々と考えつつ撮影していく。
「おっさんの入浴シーン観察するのきついな……俺は何をやっているんだ」
「そこで正気に戻っちゃいます?」
「素材編集するやつって凄いんだな」
今まで動画作ったりはしてきたが、素材から作るのは初めてだ。こんな苦労をしているやつが複数いるのか。これ苦行やん凄いわ。アデルは右腕から洗うタイプなんだなーとかクソみたいな知識が増えていく。つらい。
「もう水星についてコメントしてる部分だけでよくないですか? ハヤテ様が辛くなっちゃ意味ないですよ?」
確かに会議のシーンで水星の人を蔑ろにしたり、単純な労働力として計算していたり、問題になりそうなシーンはあった。金塊の使い道が新国家だし、人々の反発を煽るには十分だろう。だが違う。根本的に違うのだ。
「俺はアデルとライトオブグローリーを告発したいわけじゃない。大義とか正義とか、水星の人間とか、世界平和とか、そんなもんどうでもいい。ただネットミームにして笑いものにしたいんだ」
「邪悪な決意が凄い」
「ふふっ、それでこそハヤテ様です」
シオンが3人分の紅茶を運んできてくれる。飲んで一息入れてまた監視に戻る。
「シオン、それもう罵倒じゃない?」
「いいや、これが俺だ」
「いいんだ……」
こうして素材化は進んでいく。シオンには見せないように。リリーは面白がって動画タイトルとか一緒に考えてくれた。
「気になっていたんだが、ライトオブグローリーが新国家を作ると宣言しても、水星軍が許可するとは思えない。そのへんどうなんだ?」
「水星は古くから移住した一族と、比較的新しい貴族の2派に分かれています。どちらも地球の搾取と態度に恨みを持ちますが、貴族派は今回の件で新国家の重鎮になろうとしているようですね」
「内側に賛同者がいるということかしら。けれど一気に乗っ取るのは難しい気がするのだけれど」
「当日の出撃予定人員を検索したところ、反対派および穏健派は、軒並み宇宙へ出撃命令が下っています。名目としては連合・同盟の牽制と水星の守護ですが、水星から締め出す予定なのでしょう」
小賢しい真似を。だが水星の革命が続くと観光できなくなる。対処が必要だ。
「そいつらも消さないと、水星に入れないよな」
「ですねー。けど逆に、まとめてやっちゃうチャンスですよ」
「でしたら、裏切り者がはっきりしてから捕まえる必要がありますわね」
「そっちの計画も練るか」
そして数日後。会議で入手した情報通りに、ライトオブグローリーの放送が始まる。全宇宙に流れる独立宣言だ。
「ノイジー、割り込む準備はできたな?」
「いつでも別映像を流せます」
「いい子だ。最高のタイミングで流すぞ」
そして演説が始まった。アデルの背後にはライトオブグローリーの旗がある。本人は緊張はしていないようだが、3割増でいかつい顔になっている。その顔がどう変化するか見ものだな。
『全宇宙の同胞たちよ。私はアデル・ガルシア、ライトオブグローリーの指導者として、ここに宣言する。地球連合の支配は長きにわたり、宇宙の民を苦しめてきた。愚かにも宇宙の支配者を気取り、コロニーを便利な植民地としか認識していない。奴らは資源を独占し、われわれの血と汗を搾り取り、自由を踏みにじってきた』
まずは地球連合を敵にするか。妥当だな。水星も地球の連中から軽く見られていた。そこにきて金塊で仲良くしようと言われても無理というものだ。
『だがコロニー同盟もまた地に落ちた。保身に走り、いつまでも地球との戦争を続けたことで民を疲弊させている。今となっては、得をするのは上層部だけである。積極的に連合潰すべしと唱えた私たちを、同盟軍は眠らせた。何故か! 腐敗した同盟軍には、自らの既得権益のみが優先されるからだ! 戦地へ向かおうとすらしない軍に、勝利などない!』
うまい演説だ。身振り手振りもそうだし、声の大きさ、抑揚の付け方、まったく迷いがない。少なくとも、騙される人間が出ることは不思議じゃない。さらに連合と同盟の腐敗具合がモニターに出される。あれはちょっとだけ俺も情報提供した。
「こういうの乗っちゃう人って、やっぱ現状に不満とかあるんでしょうね」
「でなきゃ武力で独立なんてしないだろうしな」
冷えたソーダを飲んで考える。昔の俺ならどうしたか。俺なら100%乗らない。結局搾取される対象が変わるだけだ。どっちもクソ。耐えるか去るか殺すか。それ以外の決着など、こういう問題には存在しない。動けば動くだけ苦労が増える。
『水星の大地が新たな希望を灯した。水星は無所属の星。地球連合もコロニー同盟も、手を出す資格などない。奴らは甘言を弄し、水星を属国化しようと画策している。今こそ新国家を樹立し、金塊と我々の武力で平和を守る。地球連合の侵略を粉砕するのだ! これは戦争ではない。正義の闘いだ。同胞たちよ、立ち上がれ! この闘いは、自治と繁栄のための聖戦だ! 全宇宙の同胞よ、共に闘おう!』
「結局は水星の金塊と権力が欲しいだけなのに、ここまで口が回るのはすごいわね」
シオンは呆れ半分、感心半分といった表情だ。俺以外の人間の生態が珍しいのかもしれない。アデルは人間の中でも珍しい部類だと思うが。
「金塊が手に入るんだ、いくらでも喋るさ。人間ってのはそういうもんだ。大抵の人間の命は金より軽い」
ここで画面を変えたいが我慢だ。まだ水星内部の裏切り者が決起していない。それでは水星観光中に暴れ出す危険がある。やるなら完璧にやろう。
『水星を守る力があると示すため、水星を狙う地球連合を殲滅する!』
まだ水星を狙い、周辺宙域に待機している連合軍がいる。やつらは交渉のために水星に上陸しているやつらもいるので、全戦力をいきなり出すことはできない。というか内部のやつも死んでるだろこれ。
「おー、やる気だねえ。ねーねーノイジー、戦力差どんなもん?」
リリーがベッドで足をぱたぱたさせながら、楽しそうに質問している。おっさんの演説よりバトルシーンの方が楽しそうだもんな。
「単純な数だけで約5倍です。スーパーロボット・トレイターのことも考慮すれば、勝利は確実です」
『見よ! 我らが圧倒する瞬間を!』
モニターにはアデルとは別に、宇宙での戦闘が映し出されていた。数と武装で有利を取るアデル軍は、たいした損害もなく圧倒していく。
「そろそろだな。映像準備」
「了解。たった今、水星本部が貴族派に占拠されました。計画は順調ですね」
「もうすぐ瓦解するけどな」
映像が格納庫っぽい場所に入る。服装がアデルと似たタイプだし、ライトオブグローリーのどこかだろう。奥にトレイターが見える。あれを象徴として使うつもりか。ロイヤルタイガーやカイザーネクサスもそうだったし、こっちじゃ割と取られる手段なのかもしれない。
『これぞ栄光の道! 独立国家水星軍万歳! さらに旧水星軍は、我々の指揮下に入ることが決まった! そしてこれが新たなる水星の守護者の姿だ!』
「今だ」
トレイターをズームする瞬間、アデルのシャワーシーンを差し込む。アデル本人が映る映像以外のすべてが切り替わり、全放送が完全にジャックされる。ちなみに股間はアデルの顔で隠してあるので、家族で見ても安心だ。
『これが我々の象徴である! こんっ……』
振り返って硬直している。目を見開き、口が開いたままになり、そのままぴたりと止まった。
「ふはははははは!!」
「うははは! こんって言いましたよこんって! ふへへへへ!」
「ふふふ、ふふっ、完璧に決まりましたね」
「うわはははは! シオン、こんなときくらい笑ってもいいんだよー?」
「だってはしたない、あははは!」
シオンとリリーも大ウケである。いやあ、がんばったかいがあったよ。映像はアデルのBB素材各種を紹介して、最後にデカデカと『使用例』と出してアデルを主役にした音MADが始まる。
『多少の犠牲は気にするな! これも武力の賜物だな……言葉を慎むがいい連合! 闘争の日々気持ちよすぎだろ!!』
『このような下劣な工作に屈することはない! 品のない者の負け惜しみだ! 我々に勝てないからこそ、こういった下劣な映像で評判を落とすしかないのだ!』
おお、なんとか取り繕う姿勢を見せた。復活も早いな。だが戦場は大混乱だ。この映像は周辺宙域のあらゆる戦艦から1機体に至るまで、全員に大画面大音量で流されている。コクピットはアデルの映像で半分以上が埋め尽くされるのだ。
「現場のパイロットの混乱が見たい。そっちの通信も見せろ」
「了解。地球連合とライトオブグローリー両者の機体へ接続完了」
『なんだこれは!? ライトオブグローリーの工作か!』
『いや待て、やつらの動きもおかしい。あっちにも流れているんだ!』
『なんで!? じゃあ誰がやってんだよ!』
『知らねえよ! くそ、映像が切れねえ!』
地球連合さん大混乱の巻。そりゃ敵大将の入浴や音MAD流されながら死ぬのすっげえ嫌だよな。次はライトオブグローリーの連中だ。
『敵の下劣な工作だ、怯むな!』
『でもこれいやにリアルというか……本物? だとしたら身内に犯人がいるんじゃ……』
『おい、滅多なこと言うもんじゃないぞ。どうせフェイクだろ』
疑心暗鬼ここに極まる。連合の作った偽物説が出るが、動画は兵士たちが食堂で楽しそうにランチしているシーンになる。そして全裸のアデルが突入する流れだ。
『おいこれオレ映ってるぞ!?』
『オレもだ!? 内部映像がリアルすぎる。本物だぞこれ!』
『兵の士気を高めるため、私自らが出よう! 聖戦気持ちよすぎだろ! 気持ちよすぎだろ!!』
『ああもううるせえ! 誰か止めてくれ!』
映像が本物であることに気づき始めたな。だがまだまだこれからだ。もっともっと混乱してもらうぞ。




