第2のクローン誕生
海賊船を潰した結果、水星のニュースをゲットした。ノイジーの検索によると、水星で大量の金が発掘されたらしい。水星人はゴールドラッシュに沸き立つが、コロニー同盟でも地球連合でもない無所属の星であるため、同盟も連合もこれを機に水星を取り込んで自分のものにしようとする。そこに海賊やらが入り込んでめちゃくちゃになっているらしい。
「欲に溺れておる。もとが貴族や企業だからかねえ」
「浅ましいですわ。金が出たから急に取り込もうなんて……水星の人がかわいそう」
「金山の場所を複数特定しました。マップに出します」
どうやら金山は水星全域に散らばっているようだな。どの軍がどこを狙うかは不明だが、まだおおっぴらに動いてはいないようだ。あくまで水星が自軍に組み込まれるように説得している段階なのだろう。
「様子見だな。まだ誰も大きな動きがない。金は少し欲しいが、今動くと目立つ。だから別のことを進める」
「クローンですわね」
「そういうこと。今どんな状態だ?」
「今夜には目覚めると思います。オーナーのカスタマイズにほぼ100%適合しています。完璧ですね」
「なら見に行こう。新しい命の誕生だ」
クローンルームには培養槽に浮かぶ新たな命がある。
肩まで届く美しい銀髪で、身長はシオンよりほんの少し小さい。胸は大きめ。目は閉じているが、透き通るようなきれいな赤色のはずだ。染みひとつないパーフェクトな体をしている。最高だ。楽園の住人にふさわしい。
「準備はできた。いつでもいいぞ」
「全肯定確認。作業開始します」
シオンのときと同じく、アームが丁寧に体を掴み、培養槽の水が抜けていく。水が抜けきって開閉装置が開ききるまで、俺たちは黙って見届ける。
「よし、タオルだ」
「はい」
一度やった工程だ。すぐさま受け止めてタオルで体を拭いてやる。今回はシオンも手伝ってくれるので、作業が早く進んでいく。俺の体に全体重を預けて眠るクローンの軽さに驚くのも2回目だな。
「あ……う……」
ゆっくりと目が開き、きょろきょろと周囲を見回している。
「大丈夫か? どこか痛いところはないか?」
異常があってはいけない。ここまで美しく完璧に生まれたのだ、健やかに幸せに生きて欲しい。やがて意識が覚醒したのか、言葉を発し始める。
「わたし……ここは……」
「ここはお前の家だ。俺はオーナーのハヤテ。こっちはシオン」
「私たちがわかる? ゆっくりでいいのよ?」
「わかる……だいじょぶ……たぶん」
体を拭いてあげて、服を渡す。シオンが着るのを手伝い、髪をドライヤーで乾かしてあげている。
「ふい~……気持ちいい……」
ソファーが上等なものだし、シオンの髪のとかし方もうまいのだろう。リラックスしてくれているようだ。目を閉じて背もたれに体を預けている。
「自分のことはわかるか?」
「ばっちりわかりますよ~。無事完璧美少女のわたしがここに誕生したってわけですよ。かわいさ爆発でしょー……おや?」
何か首を傾げている。自己評価高いなこいつ。実際めっちゃ美少女に生まれているのでわざわざ否定したりはしないが。
「さてさて、わたしはこうして生まれたわけですが、ハヤテ様、わたしはなんて名乗ればいいですか?」
そっちから聞いてくるとはノリがいいな。今回もちゃんと考えてある。
「そうだな……いくつか候補があるが、リリーってどうだ? 白百合の花みたいなイメージで考えた」
「素敵なお名前ですわ」
「おお~かわいいじゃないですか! 白百合のリリー!」
「異名みたいになったな」
「咲き誇る白百合のリリー」
「もうバトル漫画なんよ」
「普通のリリーでいいです。結構気にいったので。というわけで、今日からよろしくお願いしまーす!」
こうして新しくリリーが仲間になった。これで楽園に3人だ。しばらくこのまま増やさずにいこう。あんまり大人数でも邪魔だからな。
「んじゃ施設を案内していこう。歩けるか?」
「んーっと、よし。おっけーでーす」
リリーは笑いながら俺たちの手を取って歩き出す。カジュアルな服装と気安い感じがよく似合っている。きょろきょろする姿も愛らしい。
「おおー、ひろーい。そして豪華だー。きらきらしてる」
「はしゃぎすぎると危ないわよリリー」
「気をつけまーす」
温泉やプール、音楽スタジオと娯楽室などを中心に見ていく。すべてが珍しいのか、興味深そうに見ていた。なかでもリリーの才能が発覚したのは戦闘シミュレーターだった。
「うりゃうりゃうりゃ~」
掛け声はあれだが、操縦テクニックそのものは異常なほどうまい。すぐにコツを掴み、ハイスコアを叩き出す。戦闘訓練用のものなのに、しっかり適応している。これはクローン製造元の才能を引き継いでいるのだろうか。
「ハヤテ様とシオンもやりましょー」
「いいだろう。パラドクスとピュアセレナーデのデータもあるぞ」
というわけで模擬戦やってみりゃわかる。こいつ尋常じゃない。状況や空間把握能力と操作技術が1秒毎に上がっていくようだ。
「ぎゅーんっと、いくよー!」
「ビーム連射だ! 避けてみな!」
「援護いたします!」
いくら経験の浅い俺でも、簡単に負けたりはしない。だがリリーは、間合いの管理と思い切りのよさがいい。ゲーム感覚で自由に動き、一気に距離を詰めてくる。
「うおっと!? あっぶねえ」
接近戦は危険だ。ビームセイバーでの鍔迫り合いを、手首を捻る要領でかわして懐に入ってくる。遠距離でどこまで反応できるか試し、限界ギリギリに射撃をする。
「ぬわー、ちょっと容赦なさすぎるでしょー。手加減しろー」
「ふははは! 強いやつには手加減などいらんのだ!」
「ハヤテ様が楽しそうでなによりです」
「味方がいないー!」
なんとか勝った。ゲーム的センスで勝利をもぎ取ったんだと思う。油断できんな。というわけで遊び疲れたので終了。
「わたしも専用機欲しいです! かわいくて強いやつ!」
「考えておこう。いや一緒に考えようか」
「わーい、やったぜ。強くてずばばーっと切れるやつがいいです!」
リリーだけ専用機がないのもかわいそうだからな。しっかり考えて、安全なやつを渡してあげたい。やはり過保護なのだろうか。
「こ、これは……」
何かに気づいたように立ち止まるリリー。つられて俺たちも止まる。少し連れ回しすぎただろうか。
「どうした? 調子悪いか?」
「なるほどなるほど。これはお腹が空いたってやつですね」
「あれだけはしゃげば、お腹も減るわね」
そうか空腹も初体験か。ちょうどいい。食事の準備もさせている。
「よし、じゃあリビングへ行くぞ。スープとパスタを用意してある。最初だから、あまりきついものは食わないように調整してみたぞ」
「わーい、ありがとうございます。ハヤテ様は親切でいい人だー」
ミートソースパスタとコーンスープにサラダ。飲み物は紅茶。シンプルだが味は最高である。3人でテーブルを囲むと、住人が増えた実感が来る。悪くないな。
「おいしーい! んむ、食事は大切。わたしの脳に刻まれました」
「ほらリリー、口にソースが付いているわ。拭いてあげるからじっとして」
「うむ、よきにはからえー」
シオンとリリーの仲もよさそうでよかった。ずっと暮らしていくのに面倒事は避けたいからな。
「おかわりもあるぞー。食い過ぎはNGだけどな」
「わーい、ハヤテ様さいこー」
楽しく食事が終わり。全員パジャマに着替えて俺の部屋へ。なんとなくベッドでごろごろする時間になった。
「ふあ~……ベッドがふかふかだあ~」
「いいだろう。お前の部屋もそうなってるぞ」
「ありがてえでございます」
とてもリラックスしたごきげんな様子を見せる。ここまで不調もないようだ。心配しなくても大丈夫っぽいな。
「リリーの言語機能は大丈夫なのかしら?」
「へーきへーき、こういうのが楽なんだよね」
「好きにしろ。自由に生きていけ」
「やったー。ハヤテ様優しい」
適当に撫でてやると嬉しそうに微笑む。素直でいい子だねえ。髪の毛サラサラだな。撫でていて飽きない。
「ハヤテ様、シオンが寂しそうですぜ」
「別に寂しいわけではないのだけれど……」
「はいはい、シオンも来い」
シオンの頭も優しくゆっくり撫でる。少し照れているようだが、喜んでいるのは理解している。
「すみません、わがままを言ってしまって」
「気にするな。お前ももっと自由でいい。アニメの続きでも見るか」
「はい、続きが気になります」
「あーずるいぞー。2人だけのそういうのずるいと思いまーす!」
「なら最初から見ましょうか。ハヤテ様もいいですか?」
「ああ、それでいい。飲み物も用意しよう」
こうして3人だけの楽園生活は始まった。なんか忘れている気がするが、大切なものは全部ここにある。まあ明日からもなんとかなるだろう。今はアニメ見てだらだらしておくことにした。




