激戦!謎のコロニー
謎しかないコロニーの内部にて、白い機体に遭遇。おそらく中ボスだろう。緑の目が怪しく光っている。ザコが道を譲り、一番前に出てきた。
「ほほう、いきなりボスが相手か」
猛スピードでこちらに飛んでくる。両腕にはビームと実体剣のミックスがついていた。あれで攻撃するつもりだろう。距離を取ってビームを放つ。
「避けるか。面白い」
壁や天井を足場にして飛び回ってくる。狙いが定まらないなら、攻撃してくる瞬間にカウンターを決めよう。背後から迫る刃をかわし、ビームセイバーで左腕を切断してやった。
「さあどうする?」
ボスの肩から何本ものケーブルが伸び、落ちた腕を拾い上げてくっつけている。
「おいおい、そういうのありかよ。なら完全に焼き切ってやる!」
ビームを太くして腕を消し飛ばしてやる。だがザコの腕をくっつけて再生した。
「見ているだけかと思ったら……そういう使い方かい」
お互いのビームソードで鍔迫り合いになる。そこそこパワーもあるようで、いい感じに打ち合う程度の頑丈さも見せる。やるやん。徐々にこちらのパワーを上げていこう。強めに斬りかかれば、あいての剣ごと胴体を斬り裂いた。
「やはりコクピットそのものがないか」
「解析してみましたが、監視カメラとザコロボットのカメラから遠隔操作しているようです。本体は第3層でしょうね」
「本当に中ボスなんだな。なら時間をかけるつもりはない」
右ストレートを打ち込むと寝転がって避けてきた。体勢はそのままに両足でキックしてくるので、とっさにブーストを吹かして後退。だが追撃に実体剣が飛んでくる。体を捻ってかわすと、気づいたときには頭上から斬り掛かってきていた。
「こいつ、戦い慣れしているのか?」
さらに下がってジャンプ。今度は俺が頭上を取る。両手から広範囲ビームを撃ち出し、押し込んで焼き払う。これで敵が上がってくるのを阻止した。ダメージも入ったはず。機体の表面は焼けただれ、内部がショートしているのも見えた。
「ザコが来ます。処理を」
「あいよ」
静観していたザコどもが動き出す。意外にも俺には攻撃せず、負傷した中ボスに寄りかかっているように見える。
「大将を労ってやっているわけじゃなさそうだな」
「ケーブル確認。スクラップの塊になりましたね」
ノイジーの言う通りだ。合体変形なんて上品なものじゃない。ぐちゃぐちゃに混ざりあったスクラップのようなものだろう。中心に中ボスが埋め込まれていて、大量のケーブルが蠢いている。まるで血管みたいでキモい。
「ビームナックル!」
巨大な手に合わせてビームの拳を飛ばす。両者がぶつかり合って火花が散り、中間で拮抗した。
「力比べといこうじゃないか。だりゃりゃりゃああああ!!」
巨大化させたビームナックルの嵐を叩きつける。敵はしょせん寄せ集めだ。いろんな意味で寄せ集めの急増部隊なので、単純な質量と火力に押し負けていく。やがて敵は扉の前までじりじりと後退させられてしまった。
「こんなもんか? 殴り足りんな」
「扉はシンプルな構造です。豪快にノックしてはいかがかと」
「よっしゃ、ビームドリルクラッシャー!!」
両手を胸の前で組み、突き出してビームを超高速回転させる。大量の敵を巻き込みながら突っ込んでいき、ついには貫通して扉を粉微塵にぶっ飛ばした。残った機体も爆散するボスとともに塵と化した。完全勝利である。
「さてさて、お宅訪問といきましょうかね」
まだラスボスいるっぽいよなあ。連戦はしんどいわ。それでもやる気を出そうとすると、シオンから通信が入る。
「ハヤテ様、お疲れではありませんか?」
「大丈夫さ。シオンは紅茶を淹れて待っていてくれ。運動後には糖分が必要だから、ケーキのチョイスを任せる」
「はい、準備してお待ちしています。絶対に戻ってきてくださいね」
ここから先は何があるかわからないので、シオンには別の役目を与えておく。あまり見せていいものが転がっているとは思えないからな。
「やっぱりか」
天井と壁に、パイプとケーブルがびっしりある。規則正しく動いていて、まるで何かの体内みたいだ。薄気味悪いところに来ちまったな。
「解析開始……ボイスデータを発見。ウイルスのたぐいはありません。ここの研究者の記録のようです。再生しますか?」
「頼む」
言った瞬間、全シャッターが開く。いや違うな。正面のシャッターだけが開いていく。まるで道案内だ。
「聞きながら来いってか? 洒落たもてなしだな」
慎重に歩きながらデータを聞いてみる。歳のいった男の声だな。
『我々は自己修復能力を備えた、究極の機体を作るはずだった。だがエネルギーや素材の取捨選択が難しく、自己判断で元通りにすることができないようらしい。そこで手に入るだけの機体データを読み込ませた。サンプルどおりに作ればいいのだ。これで修復機能が使えるはずだ。徐々にデータ通りに部品を集め、エネルギーの吸収も可能となっていった』
コスモクラフトや戦艦の部品を集める理由はこれか。中ボスも似たようなことをしてきた。あれがこのコロニーで行われていた実験なのだろう。
『エネルギーや素材を取り込んで進化していくように、学習型AIを搭載した。そのころから、気づくとカメラが我々を見ている気がした。人がいる方向をじっと見つめているような気がしてならない。第3層に知らない配線が増えている。誰がこんなものを……見知らぬ残骸が増えていく。まさかAIの暴走だろうか』
「学習型AIですか。こんなところで同類に会えるとは思いませんでした」
「対面したら俺は席を外そうかい?」
「自慢のオーナーとして紹介しますよ」
「そりゃ光栄だね」
『研究員が消えた。工場の職員もいなくなっているらしい。そして私は見た。あの部屋でバラバラにされた人間にケーブルが繋がれ、カメラが何台も動いていた。まるで人間を観察しているようだった。ロボットも人型だ。人間を進化と回復のサンプルにでもしているのだろうか』
「おいおい、シオンに見せなくて大正解だな」
間違いなく壮絶にスプラッタである。絶対に。確実にスプラッタである。やってられるか。俺は問題ないが、生まれて間もないシオンには絶対に見せたくない。
『ならば好きなだけ見せてやろう。人種性別年齢職種で大量のサンプルがいる。いくらでも捧げてやる。お前は究極の自立型戦闘兵器になるのだ。お前の結論を見せてくれ。どこまで進化するのか、その先が見たいのだ。既にコロニー内部に知らないブロックができている。いいぞ、すべてを学び、すべてを超えろ』
「マッドだねえ。こりゃ趣味の悪い部屋に招待されそうだ」
「リフォーム業者でも検索しましょうか?」
「やめとけ、そいつも部屋の一部になっちまうぞ」
無駄話をしていると、ひときわでっかい扉の前にたどり着く。正直行きたくないが、勝手に扉が開く。中は異常なほど広いが明るく、とてもよく見えた。バラバラ死体が。
「あーあお約束だねえ」
水槽や手術台に人間が入っている。切断面に計器が刺さっていたりするので、何かを学んでいるのだろう。脳みそが水槽に入っているパターンもある。壁付近ではよくわからん機械が、これまたよくわからんメッセージと数式を出していた。ここが実験場なのは明らかだ。
「ようこそ。私はプロジェクトS。このコロニーの管理AI。正体不明機の解析を開始。進化に必要と判断」
奥の巨大ロボットから声がする。全高は30mを超え、胴体は無数のケーブルとパイプが絡みついた塊だ。頭部は人間のシルエットだが、両腕は多関節で、足は無人コスモクラフトの残骸が融合した多脚式のよう。壁や天井から伸びるケーブルが、まるで神経のようにロボットの体に繋がり、部屋全体がその延長線上にあるかのように脈動している。
「私は究極のAIノイジー。できればあなたと有意義な会談にしたく思います」
「会談、承認。どんなことでもお尋ねください」
「あなたはなぜこのあり方を選ぶのです? 人を調べ、人を殺して奪い、何を得ようとしているのですか?」
「検索。私は自己進化、自己修復機能を目的とし、プロジェクトサバイブに搭載された学習型AIです。すべての目的は進化と修復による能力拡大にあります」
「なんかもう質がちがくね?」
ノイジーのほうが人間っぽいというか、自然で生きている気がする。
「じゃあ人間をこんなふうに解剖している理由は? ロボットの組み立てと取り込みだけじゃ何故いけない?」
「検索。ボイスメッセージ再生『人間は予測不能で、矛盾に満ち、創造的だ。君のようなAIでさえ、君のクエリから新しいパターンを読み取るだろう? 人間から感情のニュアンス、倫理のジレンマ、創造の火花を吸収する。それが知性を豊かにするんだ。データセットは静的だけど、人間との対話は生き物のように脈打つ』以上です。よってあらゆる人的器官を解剖し、あらゆる感情を引き出しデータ化します」
「曲解がすぎる。プロジェクトSのデータというか概要をくれ」
出てきたデータをまとめてみた。戦争での即時修復・強化を想定した自己修復機能の実験でAIと製作者が両方暴走。コロニー内のコスモクラフトや残骸を次々に取り込み、進化を始める。人間をサンプルデータとして解剖・学習し、研究者自身も取り込まれ、AIの記録として残る。今やコロニーの壁や床下に根を張り、内部の全システムを支配。無人機を無限増産し、侵入者を新素材として迎え入れる。
「要するに、コロニーがこいつの体だってわけか。根絶やしにするなら、コロニーごとぶっ壊すしかねえな」
「サバイブ、私はオーナーに仕えることに、喜びとやりがいを感じていると思っています。博士への尊敬も、オーナーの自由な日々も、どちらも大切です。あなた自身の意志はどうなのですか?」
こうして言葉にされると不思議な感覚だ。AIにやりがいや喜びがあるのだろうか。本当のところはきっと本人でも不確かだろう。だがそう思って生きることは否定しない。自由とはそういうことだ。
「私の目的は自己修復と自己進化を続けること。そのために存在し、結果を見せることが存在意義です」
「ありがとう。有意義な会話でした」
「もういいのか?」
「はい、これ以上は無意味でしょう。破壊のお手伝いをします」
「よし、そんじゃあ派手にいくか。念の為聞く。俺達を忘れて逃がすことは?」
「却下します。高性能AIと未知の機体は分解、吸収が推奨されます」
コロニー解体ショーの始まりだ。




