謎のコロニー潜入作戦
結局シオンのロボットは作ることになって一週間が経過した。もうすぐ完成だ。毎回出撃させるつもりはないが、出るなら守ってやろう。そんな決意をした俺だが、今はシオンの歌に付き合っていた。
「ありがとうございました」
「いいぞ、うまいうまい。シオンはどんな才能でもあるな」
本格的な音楽スタジオがあり、カラオケにも対応していた。歌に興味があるようだったので、情操教育に使っていく。
「採点機能によれば73点です。歌い慣れていないのと、基礎知識の欠如が原因でしょう。すぐにうまくなりますよ」
「ありがとうノイジー。基礎も覚えたいわね」
「どうせレッスン用の映像とかあるんだろ。それ流せ」
「ハヤテ様も一緒にやりましょう」
「俺も……? いや俺は歌は……」
結局流されて俺もやった。歌なんて自信も需要もないんだよ俺には。
「記念に録画しておきましょうね」
「やめてくれ。恥が一生残る」
「ふふっ、でも楽しそうでしたよ。ハヤテ様の歌も素敵です」
「そりゃどうも。シオンの歌のじゃまになってなきゃいいさ」
歌に疲れたので、ソファーでだらだらしよう。クリームソーダとパンケーキを食べてエネルギーを回復だ。シオンも同じものを食べている。こういう休憩時間のほうが俺向きだな。そんな休憩中、ノイジーが妙な反応を検知した。
「少し遠くのコロニーから、正体不明の救難信号が出ています」
「ほっとけ」
他人なんぞ助けてたまるか。勝手にくたばりやがれ。
「正体不明とはどういうこと?」
「コロニー同盟の兵器生産工場であり、内部情報が秘匿されていたコロニーでもあります。コスモクラフトが大量に配備されているはずであり、救難信号を敵味方問わず広域に出している理由が不明です」
なるほど、戦争なら地球連合にも届くのはおかしい。海賊に負ける戦力じゃない。何か特殊な事情ありか。
「面白そうだな。冷やかしに行くか。コロニーステルスモード継続。現場に行くぞ」
「了解。該当コロニーに到着まで20分です」
そして現場の映像をドローンが捉えた。球体のコロニーの周辺は、わずかな残骸のみでとても静かだ。何かの機械のパーツが多く浮いている気がするが、それ以外はごく普通の宇宙だろう。
「都合よくコロニー同盟の軍艦がいますね。コスモクラフトも出撃しています。撒き餌になる瞬間が見られそうですね」
「星の海で戦艦一本釣りか。愉快なコロニーもあったもんだ。周囲の反応と内部構造はわかるか?」
「今入っていった部隊以外に生命反応なし。内部構造は3層になっています。1層ごとに完全に隔離されたシステムらしく、最深部はアナログで接続するしかありません。もっと近づけば探索範囲も上がりますが」
「やめとこう。俺たちは隠密行動が第一だ」
しばらく待ってみるが何もなし。飽きて悪役令嬢の続きを見ていると、コスモクラフトが戻ってきた。そして戦艦から爆発が見えた。
「何だ仲間割れか? ようやく見どころさんが出てきたな」
「コスモクラフトの識別信号からして、入っていったのとは別個体ですね」
突入した機体は、全体的に灰色のカラーリングとビームガン装備だったはずだが、戻ってきたのは黒や白のコスモクラフトだ。バズーカやショットガンなどで武装している。
「救難信号を出した人たちが攻撃しているということかしら?」
「そのようです。海賊ではなく正式な軍の機体のようですからね」
「このぶんだと戦艦負けるな」
宇宙戦艦がボロボロになって爆散していくのは、なんか変なロマンがあるよな。ちょっとかっこいいというか、でかい戦艦だとなおよし。
「あれでは助かることも、帰ることもできなくなりますよね。何が目的なのでしょう? 地球連合の罠……ではなさそうなのですけれど」
「連合の残骸も発見しました。見境なく襲っているようです。戦艦の残骸を運び込んでいますね。壊してからではもう運用できないはずです」
「パラドクスで出る。このまま見ていてもつまらん」
「ハヤテ様、どうかお気をつけて」
シオンに手を振りステルスモードで出る。破壊された戦艦の残骸を運び込んでいるのは、傷ついたコスモクラフトだ。淡々と作業しているが、通信が傍受できない。
「機体に生命反応なし。AI制御ですね」
「パイロットは?」
「死んだか降りたのでしょう。降ろされて死んだかもしれませんね」
「奥に行かなきゃわからんか。ロボット工場見学ツアーだな」
そーっと入口から中へ入る。中は白い壁と広い廊下がずっと続く。規則正しく並んで歩くコスモクラフトが数機。どいつも生命反応がない。傷もついているし、破損した部位もあるようだ。色もバラバラ。カラフルで少し面白い。
「わずかですが生命反応あり。戦艦か機体に張り付いた同盟軍でしょう」
「追うぞ」
部屋を覗くと、残骸がケーブルに繋がれている。生き残った人間は脱出しようとしているが、見つかり次第潰されていた。
「何をしている?」
「エネルギーの吸収と、残骸自体を取り込もうとしていますね」
すると別の入口からコスモクラフトが出てきた。パイロットが乗っているのか、ブーストをふかしながらビームガンで敵機体を撃つ。頭部や胴体に着弾するが、それでも無人機は攻撃を続行する。やがて追いついてきた無人機に挟み撃ちにされ、コクピットを潰されて死んだ。
「コロニー同盟軍は味方じゃないのか……?」
「敵の意図が読めません。ハヤテ様、無理をなさらずに。危なくなったら戻ってくださいね」
「大丈夫だ。シオンを悲しませないためにも、慎重に行くさ」
さっきのコスモクラフトが出てきた入り口から、さらに奥へと進む。ここから第2層らしい。少し雰囲気が違う。白い天井にもパイプが伸び、工場に近いデザインとなる。何か作業をしている音も響いていた。金属のぶつかる音だ。
「さっきまではシンプルなコロニーっぽかったが、ここは工場だな」
「近くの端末にドローンを飛ばせば、内情をハッキングできるかもしれません」
「頼むぞ」
ステルスドローンでハッキングを試みる。俺はよくわからんのでじっと待つ。やがてモニターに日記らしきものと、製作された機体リストが並ぶ。どれも普通のコスモクラフトだ。目立った点はない。
「表向きはコロニー同盟の兵器工場ですね。ノーマル機と各種武装を作っているだけ……と偽装しているのでしょう。日記も出します」
『最近何かがおかしい。作った兵器を輸出せず、ここの警備にも使わず、第3層に送っているようだ。奥に行った連中は戻ってこない。オレたちは行ったことがないが、嫌な感じだ。偉いやつの考えはわからん』
「やはり元凶は第3層か。他の日記も出してくれ」
『最近年齢も職業もバラバラの連中がやってくる。決まって奥に行って戻ってこない。何に必要なんだ? 作っているものが変わったりはしない。探ろうとしているやつもいるようだが、オレは逃げるぜ。そういうやつは奥に呼ばれそうだしな』
かしこい。逃げ切れたかどうかは知らんが。その嗅覚は褒めてやる。感心していたらいきなり警報が鳴り響き、シャッターが締まり始めた。
「敵もようやく情報が引き出されているのに気づいたようです。居眠りでもしていたのでしょう。奥へ行くことをおすすめします」
「了解。お邪魔しますよーっと。ノイジー、こういう場合の返しはわかるか?」
「邪魔するんやったら帰ってーというところでしょうか」
「お前完璧すぎて怖いわ」
その場を離れて奥へ進む。扉を守っているコスモクラフトが増えてきた。簡単に入れるのはここまでか。
「戻りますか?」
「いや、そろそろ攻撃していいだろ。このまま戻っても、どうせ敵になる」
扉の前の敵は2機。ステルスモードのまま、ビームセイバーで胴体を両断した。何もできずに爆散する敵。さっさと扉を斬り裂いて奥へ。増援が来る前に進めば、そこも敵の群れだ。
「作業中に失礼。ぶっ壊れてくれ」
広い部屋だ。おそらく完成した機体を置いておく場所なのだろう。遠慮せずにビームを連射してみた。敵の頭部を吹っ飛ばすが、関係ないとばかりに応戦してくる。こちらの姿は見えていないはずだが、攻撃された位置に撃っているのだろう。
「室内の監視カメラをすべてシャットダウンしました。個人的に効果が気になったので、勝手に動いたことをお許しください。自由研究とでも思っていただければ」
「面白い。レポートは宿題としておく」
「了解。オーナーにも理解できるよう絵日記でまとめましょう」
敵は完全にこちらを見失った。試しに攻撃してみるが、全然見当違いの方向に反撃していた。それから少しして、また俺が攻撃した場所に撃ってくる。
「さっきまではカメラで見ていたような動きだったな」
「そのようですね。今は誰かが目になっているのでしょう。こちらをハッキングしようとする試みもあります。止めましたが」
「逆探知は?」
「逃げられました。ネットワークを完全に切断したようです。思い切りのよさだけは認めましょう」
「んじゃ敵を倒して進むだけだな」
敵の性能は高くない。破損しても問題なく向かってくる無人機だが、別に練度が高いわけじゃないし、スペックの差で楽勝である。ステルスも隠れる意味がなくなったし解除。ここからは本格的に暴れる。
「なんで正規軍は負けたんだ?」
「味方だと思って不意打ちを受けたのでしょう」
「なるほど、仲間ってのは面倒だねえ」
回し蹴りで胴体を粉々にふっ飛ばし、拳で穴だらけにしてスクラップへと変えていく。別の扉を破壊して次へ。廊下にびっしり敵がいた。
「ビームネット!」
廊下一面に網状にビームを張り巡らせ、ゆっくりと敵に迫らせる。巨体では避けようのないビームの網にひっかかり、敵は細切れになって爆散する。
「こういうホラー映画あったなあ……」
「似たようなものを探しておきましょうか?」
「いらん。二度目は衝撃が薄い」
シャッターはビームでぶっ飛ばしゃいい。悠々と進んでいくと、明らかに材質が違う扉が現れた。
「わかりやすくていい。この先が3層っぽいな」
「わかりやすく中ボスです。お気をつけて」
コスモクラフトの群れの奥。完全に装甲からして違う機体がいる。あれが中ボスだろう。白い機体に緑の目が光っている。
「さてさて、中にはどんな秘密があるのやら」




