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エゴ・サンクチュアリとAIノイジー

 コロニーに帰還した俺は、オーナールームと呼ばれる自室でくつろいでいた。部屋は広大で、まるで超高級ホテルのロイヤルスイートだ。柔らかな光を放つシャンデリア、足元に沈むような絨毯、キングサイズのベッド、そして最新鋭のテレビやパソコンまで、すべてが豪華絢爛である。風呂もトイレも広く清潔で、快適そのものだ。これほどの贅沢ができる人間はそうはいないだろう。ベッドに腰を下ろし、冷えたグラスからアイスティーを飲む。超究極AIノイジーがホログラムで施設の説明を始めてくれた。


「立体映像に触れるとズームします。同時に設備のスペックも表示されますので、参考にしてください。私からの解説は必要ですか?」


「その都度頼む。自分が住むところくらい、しっかり把握したい」


「了解しました」


 立体ホログラムで説明される設備はどれも超一流で、自動管理される食料プラントは豊富な食材を供給し、高級ホテル並みのキッチンにはあらゆる調味料と巨大な冷蔵庫が揃っている。武器保管庫には膨大な武装が並び、水と食料は無尽蔵と言えるほど。博士の科学力で200年先の技術が確立された医務室には、薬や包帯から各種医療器具も豊富だ。娯楽施設もゲーセンや音楽スタジオからトレーニングルームやプールまである。収容人数10人だからこそ、コロニーの半分以上をこんな贅沢な施設として使えるのだ。


「やはり人間は増えると邪魔にしかならないことが証明されたな」


 心の底からそう思った。俺の理想のためには、慎重に目立たないように行動しよう。気づかれてはいけない。他人ごときが知れば奪おうとする。所詮人間とはそういう存在だ。


「懸命な判断です。博士はあなたと同じ発想をしました」


「博士はもうこの世界にはいないんだよな? これを残すのはもったいなくないか?」


「博士は同タイプのコロニーをさらに自分好みにして別世界に行きました。あなたと同じく人間の命に価値を感じず、誰にも愛されず1人で生きてきた。コロニーはそんな博士からの唯一の贈り物です」


 なるほど、自分用を作っていたか。天才は抜け目がないね。俺はグラスを傾け、ニヤリと笑った。


「この世界は地球とコロニーで戦争をしています。混乱に乗じて隠密に物事をなそうとするには最適ですね」


「戦争に加担するつもりも、人助けするつもりもない。正義も大義も知ったことか。この最高の設備で遊び尽くしてやる。まずはこの世界のお姫様をリストアップし、1体の最高級クローンを作りたい。できるか?」


「すでに大貴族やコロニーの姫の容姿、運動能力、頭脳まで、データは揃っています。ですが本人からより詳細なデータを取り、髪の毛か何かを貰うことでより正確に作れるでしょう」


 完全にリストアップが済んでいるようだ。博士と俺は本当に同志なんだな。

 肝心の髪の毛だが、これは本人と交渉する。クローン作成の許可を取り、きちんと報告するつもりだ。ノイジーは不思議そうだが、ここは当日説明しよう。


「黒髪黒目に変更できるか?」


「可能です。キャラクリ画面を出しますので、お好きにいじってみてください。体型も多少の変更が可能です」


「素晴らしい。身長は160に満たないくらいで、胸は巨乳に近い大きめで……キャラクリって長時間やっちゃうよな」


「迷い悩むことが人間の特権ですよ」


「深いやん」


 とりあえず大まかにメモる程度でいいや。クローンの遺伝子は混ぜない方が安定するらしいので、俺の船に乗せるに相応しい優れた素体の女を探そう。


「近くから行こう。金ってどうすればいい?」


「蓄えはありますが、合法的な金策でしたら海賊狩りがおすすめです。パラドクスの練習にもなりますね」


「いいね、じゃあ近場の中立コロニーに行こうぜ。そこまでに俺の射撃訓練がしたい。ロボがなくても簡単に人が殺せる手段が欲しい」


「かしこまりました。射撃練習場へ転送します」


 そしてハンドガン・リボルバー・ショットガン・マシンガン・ライフル・ビームピストルなど基本的なものから、ロケットランチャーやスタンロッドにナイフまでありとあらゆる武器を試した。銃口から放たれる感触、反動、重量。それぞれがとても新鮮かつリアルでテンションが上がる。


「はじめての銃火器の感想をどうぞ」


「ビームピストルが一番楽だ。反動がなくて軽め。すぐ取り出せて連射ができて威力があればいいけど、全部は無理だな」


 普通の銃は反動がしんどい。ずっと持ち運ぶには重い。ビームピストルだと威力は確保できる。反動もほぼない。まっすぐ素直に飛ぶ。便利でいいや。初心者はこれだとノイジーからおすすめされた。素直に従っておこう。


「カスタマイズはいくらでも出来ます。超高機能工房にてお好みに改造しましょう。色は紫ですか?」


「悩むな……色で個性つけると正体に繋がりそうだし、一番メジャーな商品に偽装できるか? 中身はカスタマイズで」


「とてもいい提案です。中立コロニーまでに間に合わせておきます」


「助かるよ。さてもう少しやるか」


 明日筋肉痛にならない程度に射撃練習をする。反動はごくわずかだが、音と光に慣れておこう。射撃の腕は必ず必要になる。ずっとロボットに乗りっぱなしってわけにもいかない。早いうちに危険は取り除くのだ。しばらく熱中してから部屋に戻った。


「お疲れ様です。ゆっくりお休みになってください」


「そうだな、んじゃ何か飲み物でも……すげえ種類だな」


 部屋のでっかい冷蔵庫を開けると、飲み物が山ほど入っている。オーナーが誰になるか分からないから、種類を増やしたんだろう。気の利いた配慮だ。


「紅茶がお好きですか? 飲み物の指定があれば補充いたします」


「紅茶と炭酸飲料が好き。酒は嫌いだからパス。水もあるといい」


「かしこまりました。おっと、海賊もとい金づるの拠点がありますね。パラドクスの練習をしますか?」


「やっておこう。ザコ戦はいい訓練になる」


 モニターに映るのは、宇宙の岩場に潜む敵宇宙船。大きな岩に張り付いている。あれは小惑星でいいのか? 隕石? なんて呼ぶんだ?


「あの岩ってなんて呼べばいい?」


「小惑星が適切かつ伝わりやすいかと」


「なら小惑星でいい。宇宙のゴミ掃除だ」


 中立コロニーへの道に海賊がいたら邪魔だろうが。軍はちゃんと掃除しておけよ。

 ここで少しコロニーの武装に興味が湧いた。実際に見て正確に知っておこう。


「ノイジー、拠点相手にどれだけ隠密に攻撃できるかやってみてくれ」


「了解。敵拠点スキャン開始。内部カメラハッキング完了。全機体把握」


 恐ろしい早さだ。海賊だからろくなセキュリティじゃないのかもしれんが、ノイジーだけで全部賄えるのって超便利だな。


「セキュリティ突破の感想は?」


「これを作ったのが小学5年生なら褒めて伸ばすべきかと。ステルス維持。ビームフィールドの記録妨害範囲を5000kmまで拡張。主砲オフ。ホーミングレーザー砲30門まで起動。敵機体及び司令部ロック完了。距離10万km。発射」


 美しいビームが宇宙に彩りを与えていく。そのきれいな光は俺を童心に帰らせた。


「全弾命中確認。隊長機を残し全機体爆散。司令部及び脱出口も破壊しました。このまま接近しますか?」


「頼む。パラドクスで出るまでに隊長以外を少なめにしてくれ。見たことない機体との戦闘に慣れたい。金を奪うから拠点を消し飛ばさないように」


 会話中もレーザーが飛んでいく。何をどう狙っているのか知らないけれど、俺に不利にならないなら歓迎しよう。


「もう終わりました。あとは敵機体を倒してください。その間にドローンで資金集めをいたします」


「了解。格納庫へ転送してくれ」


 パラドクスで発進して、ステルスモードでゆっくり進む。振り返るとコロニーの全体が見える。円筒形じゃなく宇宙船に近いデザインだ。最悪民間船ですで通せる……かは難しいところだが、かっこいいデザインで好き。宇宙で目立たないように全体が黒いのもシンプルだが悪くない。


「そろそろ見えてきます。敵はザコ4機と隊長機1の合計5機です」


「了解。あれは……バトルフレームじゃない?」


「コロニー同盟軍のコスモクラフトですね。宇宙戦での高速機動とエネルギーの効率運用を可能とした機体です。隊長機は射撃と火力重視。ほかは汎用タイプですね」


 バトルフレームはもっと量産型っぽい、シンプルで無骨な見た目だと思う。こいつらはもっとスッキリしていて流線型のフォルムだ。大きさは地球軍もコロニー軍も同じくらいだな。


「コスモクラフト・ノーマルはあらゆる局面で一定の力が出せるように作られています。全局面においてエース機、隊長機などの特殊機体をサポートできるようにというコンセプトもあります」


「なるほど、でもって隊長機は特殊タイプと」


「隊長機は高火力高射程の爆撃カスタム。肩のビームランチャーは着弾で爆発するビームです。腰にミサイルポッド。両手にはライフル型のビームガン。機動力はそこそこですね。海賊風情がどこで手に入れたのか非常に興味深いですが、消してしまいましょう」


「了解。ステルス継続。敵の背後に行く」


 一番後ろの機体に忍び寄り、右腕にビームブレードを展開。頭から一刀両断した。


「あばよ犯罪者のクソゴミ1号」


『どうした!? 応答しろ!!』


「クソゴミ2号から5号が混乱中です」


「ステルス解除」


 戦闘開始だ。ここで基礎をマスターしてやるぜ。

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