リゾートビーチとロブスター
今朝はシオンと一緒にホテルのバイキングを食べ、ビーチにやってきた。白い砂浜と青く澄んだ海。高級ホテルの専用ビーチだからか、手入れがされていて清潔で美しい。最高だな。
「お待たせいたしました。あの、似合っていますか?」
シオンは清楚で露出が少ない、パレオ付きの水着だ。清純派のイメージを崩さないようにしよう。下品でエッチな水着は論外だ。
「ああ、よく似合っているよ。清楚な印象でシオンにぴったりだ」
周囲に人がいないので呼び方を戻している。人が少ないのはありがたいね。
「ありがとうございます。初めて着ましたが、少し恥ずかしいですね。ハヤテ様もよくお似合いです」
俺はシンプルな短パン型の水着に、上着を羽織っている。男の水着なんてこんなもんでいいだろう。
「よし、あまり遠くに行くなよ。見える範囲で遊んでくれ」
「はい、わかっています。これが海……水が揺れて動いていますね」
「人工だが波を再現しているんだろう」
シオンは波に手を触れたり、足首まで浸かって感覚を楽しんでいる。やがて浮き輪を持って腰まで海に入っていった。
「浮き輪で寝るなよ。マジで遠くまで飛ばされるからな」
「はーい」
一応俺も横についているし、まあリゾートコロニーならなんとかなるだろう。久しぶりに軽く泳いでみる。まだ感覚を忘れてはいないようだ。
「泳げるのですね」
「日本人は大抵そうだよ。シオンは泳ぎの知識はあるんだっけ?」
「学習機能は働いていますが、まだ実践したことはありません」
「なら浅い場所で実験だ。浮き輪で泳いでみな」
「はい。こうですか?」
きれいにバタ足で泳いでいく。水を怖がっていないな。リゾートの楽しい雰囲気も抵抗感を消してくれているのだろう。
「よし、次は浮き輪無しで、俺の手を握りながらゆっくり泳げ。補助してやる」
「ありがとうございます。がんばりますね」
飲み込みが早い。これならすぐに泳げるだろう。真面目に頑張るシオンと、穏やかで明るいリゾートが、なんとなく合わなくて面白い。こうしてしばらくレッスンは続き、今は椅子に座ってゆっくりドリンクを飲んでいる。トロピカルな味でうまい。
「ハヤテ様、ちゃんと泳げています!」
「すごいぞー。気をつけろよー」
「はーい」
シオンは楽しそうにはしゃいでいる。好きにさせてあげよう。さらに水鉄砲での撃ち合いをしてみる。
「それそれ!」
「射撃精度がエグい」
水鉄砲で完璧に当ててくる。波に足を取られることもない。才能が開花しまくっているようだ。
「シオン、あの遠くに浮いている丸いやつに当てられるか?」
「こうですか?」
普通に当てやがった。海に浮いている、ここまでですよっていう丸いやつの名前がわからん。わからんけど当てた。結構な距離があるし、波で揺れているってのに。
「やりおるわい」
「ふふっ、なぜか得意みたいです」
「長所は伸ばしていくスタイルだ。しばらく遊ぶぞ」
「はい!」
でもって俺は休憩に入る。少ししんどくなってきた。
「さては体力切れですね、オーナー」
「おっさんには全力で海で遊ぶ体力なんてないからな」
パラソルがあるし、そもそも人工太陽だしで日焼けの心配もないだろう。このままうだうだしているのも、充実していてとてもよい。高級ビーチだから人混みもナンパもなくて最高だ。
「わかるかノイジー、あれこそが究極の美しさだ。人間ごときでは到達できない、生まれと育ちが邪魔をし、社会が腐らせる人類との差だよ」
こうしてシオンを眺めてしみじみ思う。いい子が生まれてくれた。これで俺とシオンの人生が素晴らしいものになればよい。
「数値上シオンが上回っていることは理解できます。感覚としてそこまで違うものですか?」
「当然だ。愛されるように計算され尽くし、科学の限りを尽くして生まれてくるクローンと、性欲に負けて腰振ってりゃ生まれてくる猿もどきが同列なわけ無いだろ。圧倒的にクローンが上だ」
無論、人類にも優秀な個体がいるのは理解している。だが優良個体など超少数であり、参考にするべきではないのだ。
「数撃ちゃ当たるの典型例だからな人類って。もっと優秀なやつ掛け合わせるとかすりゃいいのに」
「人道は首を絞めていますね」
「ただの縛りプレイだよな。アホやん」
結局倫理だの人道だのは人の進化も妨げる。人間のことを考えすぎると、せっかくのリゾート気分が台無しになる。どうせなら楽しいことを考えよう。
「昼飯どうすっかな」
「いいロブスターを出す店をピックアップしておきました」
「素晴らしい。香草の使い方もよさそうだ。シオンも喜ぶぞ」
「お昼の相談ですか?」
シオンが戻ってきた。満足そうな表情で大変微笑ましい。
「ああ、ロブスターとチキンの店だ」
「おいしそうです! ぜひ行きましょう!」
シオンは結構食うタイプだ。何を食べても初めての味、というのが楽しいのだろう。家でもお菓子とか紅茶をよく試している。
「よし、決まりだな」
ビーチでの楽しい時間を終え、シオンと一緒に飯屋に向かった。コロニーのメインストリートにある店は、白と金を基調とした高級感あふれる外観で、人工海が見えるいい位置にあった。
「ロブスターの特別な食べ方、すごく楽しみです」
「なんでも炙り焼きをタレで食べるらしい。俺もよくわかんなくて楽しみだ」
注文した料理が運ばれてくると、それはもう最高の香りがする。
「まあ、なんて素敵な香り!」
「いいぞ期待できる。最高だ」
食べてみると鮮烈だが繊細な味が口に広がる。濃厚なのにいくらでも食えそうだ。これほど上質な素材と調理が味わえるとは。
「うまいな」
「はい、とても! 夢のようですわ!」
そんな幸せな時間を楽しんでいると、突然、店内に響く銃声。静まり返る店内に、男の太い声が響く。
「騒ぐな! これはショーではない。大人しくしろ! 大人しくしていれば殺しはしない!」
武装した集団が客に銃を向けている。イベントなのか不明だし、ビームバリアがあるので食事を続けながら見ていよう。
「ロブスターにしたけど、別の料理もうまそうだ。また今度来よう」
「はい、次はお肉にしてみたいです」
「いいね。調べておくか」
食事中にも客が地面に伏せていく。本物っぽいな。まあ従う義理がないし、邪魔するなら殺そう。
「地球連合高官だな。我々の捕虜となっていただく」
「コロニー同盟か。リゾートコロニで騒ぎを起こすとは、堕ちるところまで堕ちたな。民間人を巻き込んで、それでも軍隊か」
「我々は命令をこなすだけだ。貴様らのようにハイパーバスターキャノンの発射に失敗したりせずにな」
10人を超える兵士たちがうっすら笑っている。完全にミーム化しとるやん。
「おい、さっさと床に伏せろ。これはショーでも脅しでもない。従わなければ撃つ」
なんか軍人がこっちに来た。邪魔だよ。勝手にそいつ連れて出ていけって。いつまでも現場にとどまるなよ。二流か?
「はいはい。わかったわかった」
「あらあら、なんだかドラマのようですね」
渋々言うことを聞いてやる。騒いでロブスターに埃が入って欲しくない。そしてどうでもいいおっさんのトークを聞かされる。
「このコロニーは地球連合もコロニー同盟も関係ない。中立の場所で私を捕まえることが、どれだけの反発を呼ぶかわからんのか?」
「安心しろ。本日をもってこのコロニーは同盟軍の管轄となる」
「ただのテロ行為だな」
「おしゃべりはここまでだ。ついてこないなら客を殺す」
ロブスター冷めるから早く終われボケ。死ね。
「立て。実際に民間人が死ななければわからないか? そっちの連中を連れてこい! 数人でいい!」
なんか周囲の民間人が集められている。もういいじゃん。茶番長いよ。こっち来んなようざいな。本当に殺すぞ。
「お前たちも来い」
「俺たちのことは気にするな。ここで大人しくしているから、そっちはそっちで仕事を片付けろ」
男はアサルトライフルで俺とシオンの料理をふっ飛ばした。客が騒ぎ出す。
「もう一度言う。一緒に来い。その料理のようになりたくはないだろう?」
「うるせえな指図すんなよクソゴミ。殺すぞ」
店内が静かになる。
「なんだと? 今なんて言った?」
「他人の料理台無しにするカスの分際で命令してんじゃねえよ」
うるさいクズの足を撃ち抜いてやった。
「うがっ!?」
「ぺっ! 虫けらが。調子に乗んなよ」
顔につばを吐きかけて踏みつけてやる。少しは気分が晴れたぜ。
「動くな! 貴様何をしている!!」
蛆虫共が一斉に銃を向けてくる。俺は椅子に寄りかかり、思いつく罵倒を重ねていった。
「ファックユー。マザーファッカー。キルユー。あとなんかある?」
「スペースダスト、が一番効果的です」
「ファックユー、スペースダスト」
しっかりと中指を立ててへらへら笑ってやる。何人かが俺に向けて発砲するが、ビームバリアが弾いてくれる。シオンにもバリアを持たせてあるから安心だ。
「はい残念、効かないんだなあ」
ビームピストルを連射モードにして、半分以上残っていたロブスターを撃った連中をお掃除していく。
「ぐはあ!」
「あぐっ、撃たれました! うぼあ!」
「うああああ!」
「騒げ! 喚け! 泣き叫べ! これは殺戮ショーである!」
「全員あいつを撃て! 殺せ!」
テーブルや柱の陰に隠れる軍人ども。小賢しい。追尾モードに変えて、曲がるビームで確殺していこう。
「曲がった!? うがあ!」
「避けられません! 隊長指示を! ぎゃあぁ!?」
「ふっふっふ、無駄だ無駄だ」
「楽しそうですね。私の料理の敵討ちもお願いします」
「任せろ。俺たちの昼飯をふっ飛ばした罪、地獄で詫び続けな!」
そして殺し続けていると、ノイジーから通信が入る。
「オーナー、全兵士の身元特定が完了しました」
「ナイスだ。全員店から出るな! 出れば殺す! お前らの家族もだ!」
俺が叫ぶと静かになる。これ気持ちいいな。
「我々ははったりには屈しない!」
「そうかいそうかい、生まれたばかりのネイサンくんが死んでもいいんだな? ハンク隊長?」
「なっ!?」
隊長さんの顔が驚愕に染まる。うーわ超気持ちいい。
「かわいそうになあ。お前がド低脳丸出しのアホだったせいでガキが死ぬ。まあお前ごときのガキだ、生きていてもろくな大人には育たないさ。殺処分してやるから感謝しろ。ありがとうございますと言ってみろクソカス」
隊長が俺に向けて発砲する。当然ビームバリアが消してくれるわけだ。
「学習能力なし、と。こんなやつの遺伝子が混じったガキなんて欠陥品だな。まずは親から死ね」
「ぼばっ!?」
隊長の頭を弾き飛ばした。これで軍人は全滅だ。なんか近づいてくるやつがいる。
「よくやった。だが助け方が雑だ。騒ぎを起こしてどうする。もっとスマートに助けられんのかね? 君はどこの所属だ?」
ついでに地球連合の高官とやらの膝も撃ち抜いておく。
「あうっ!? なっ、なぜだ!?」
「偉そうなことを言うな。お前のせいで俺のロブスターが消えた。今のはその罰だ。俺たちの分も会計を済ませておけ」
「こ、こんなことをして許されると思うなよ! 私が電話一本入れるだけで、貴様などいくらでも殺せるんだ!」
「なら今殺しておかないと面倒だな」
「ばびゅっ!?」
結局このヒゲジジイも殺しておいた。今が一番殺しやすいタイミングだと思ったからだ。
「俺たちのことを喋ったやつは殺す。軍人同士の相打ちということにしろ。行くぞ」
「では失礼いたします」
腹八分目どころか四分目くらいで店を出る。クソが。人工の空を見上げると、各所で煙が上がっていた。
「ノイジー、説明しろ」
「どうやら地球連合とコロニー同盟が、同じ日に制圧作戦を開始したようです。今の店も作戦の一環でしょう。コロニー外周にて、敵の作戦に気づいた両軍が戦闘を始めました」
「そうか。皆殺しだ」
今回は両軍とも殺してやる。一切の手加減無く暴れてやるから、地獄でロブスターに詫びろゴミども。




