リゾートで遊びつくそう
リゾートコロニーに行くだけの資金が溜まったので、エゴサンクチュアリで付近まで移動。シオンと一緒にシャトルに乗り込んで入国しよう。
「今回は西洋風の顔立ちです。身分証も合わせて作りました。小金持ちの夫婦としてバカンスをお楽しみください」
俺とシオンはいつものマスクで、金髪碧眼の20代へと顔を変えている。
「まあ、夫婦だなんて。光栄です」
「悪くはないな。行こう」
コロニーの中は贅沢という言葉の語源でも目指しているのだろうか。そこはまるで絵画のように鮮やかだった。人工の青い海と白いビーチ、高層ビルがきらめく光景。レース場とレストランに土産物屋。明らかに一般居住用ではない施設で構成されている。マジでどっから金が出るんだこれ。
「こんなに騒がしくて人の多い場所は初めてです」
「俺もだ。漫画レベルだろこれは」
超でかい高級ホテルの70階に到着。エレベーターからすぐの広い部屋に入ると、大きなガラス窓から外が見渡せる。
「わあ……とてもきれいです! 凄いですよハヤテ様!」
「ほう、こいつはいい」
子供のようにはしゃぐシオンの横で景色を眺める。俺もその様子に釣られて笑みがこぼれた。人工のビーチと自然公園が見渡せる。少し遠くには遊園地の観覧車も見えた。数日かけて遊びつくそうじゃないか。
「ビーチ……観覧車……私、ぜひ行ってみたいです!」
「順番にやっていこう。とりあえず荷物は置いてな」
部屋も清潔で豪華だ。成金趣味とは違う、気品のある豪華さだな。テーブルにはホログラムで観光地の案内が出ている。これで調べていけるだろう。ベッドもふかふかで広い。
「なるほどな。高級ホテルってのはこういうもんか」
実際に泊まってみるとわかる高級さ。そしていかにエゴサンクチュアリがやばいのか理解した。全然引けを取らないというか、俺が住みやすい設計なだけ勝っている箇所もある。あのコロニーは異常だ。
「ハヤテ様?」
「なんでもない。人前でハヤテ様は厳禁だぞ? 俺は確か……ロック?」
「ロック・ノルンと、その妻エリザベート・ノルンという設定です。お気をつけて」
「了解。ノイジー、ホテルのセキュリティはどうだ?」
一応俺達が違和感なく溶け込めているか、ホテルが安全かどうか聞いてみる。浮かれすぎてミスしないように、慎重にな。
「問題ありません。ホテルのシステムに軽くアクセスしましたが、監視カメラも個人情報も完璧にカバー済みです。コンシェルジュ主任の浮気現場と、警備員がサメ映画を見てサボっている程度の異常しか見られません」
「ナイスだ。シオン、まずはどこ行く?」
「遊園地に行きたいです! 観覧車と、ジェットコースターも乗ってみたいです!」
シオンの声が弾む。決まりだな。ホテルのプライベートエレベーターで1階まで降り、専用で遊園地へ向かう。コロニーの人工重力は完璧で、地球と変わらない感覚で歩ける。入り口はホログラムで飾られた巨大なゲートで、家族連れやカップルで賑わっていた。
「ハヤテ様、あれ、あれに乗りたいです!」
ジェットコースターに1発目から行くか。いいだろう。俺も遊園地ってほぼ来たことないから楽しみだ。乗り込んで座っていると、やがてゆっくりと動き出す。隣でシオンがとても楽しそうにしている。
「なるほど、こんな感じか……うおっ」
「きゃあ!」
猛スピードで回る景色と向かい風が俺を試してくる。シオンは楽しそうだが、これは何回も回ったらきついぞ。それでもなんとか最後まで耐えきった。ちょっとつかれたがスリルとはこういうものなんだろう。結構楽しかった。
「すごく速くて揺れましたね!」
「パラドクスより揺れたぞ……」
「そんなにですか!?」
それからも様々なアトラクションを楽しみ、フードコートでキャラもののプレートとハンバーガー食ったりした。少し落ち着くために観覧車へ。ゴンドラに乗り込むと、ゆっくりと上昇しながらコロニーの全景が見えてきた。人工ビーチの波がきらめき、遠くのカジノタワーが夕暮れの光を反射している。
「ロック様、この景色、まるで夢のようです。こんな素敵な場所に来られて、私本当に幸せです」
シオンがゴンドラの窓に頬を寄せ、しみじみと言う。人工の夕日とはいえ、照らされるシオンは美しかった。
「俺もさ。人生でここまで充実した日はなかったよ」
「生まれてからずっと、楽しい思い出が積み重なっていきます。これもすべて、ロック様のおかげです」
「俺もそうさ。エリザベートがいてこそ楽しくなる。まだまだ楽しんでいくぞ」
「はい!」
そこからも順調に楽しんでいき、遊園地の最後だ。ラストにシオンが気になっていたシューティングゲームのアトラクションで締めた。レーザーガンで的を撃つ単純なゲームだが、シオンは驚くほど正確に当て、景品のぬいぐるみをもらっていた。この遊園地のマスコットらしい。
「お部屋に飾ります。今日の記念ですね」
シオンが白い虎のようなぬいぐるみを抱きしめながら言う。微笑ましいとはこういうことだろうか。
「どんどんシオンの部屋になっていくな。いいことだ」
「ホテルに置いたらディナーですね。何が出てくるのか楽しみです」
ホテルに戻ってディナーに行こう。ホテルの最上階にあるレストランは、ガラス張りの壁からコロニーの夜景が見渡せる豪華な空間だ。ゆったりとした生演奏が流れ、キャンドルの灯りが揺れている。シオンはノイジーが用意したエレガントなドレスに着替え、俺もタキシード姿でそれっぽくした。
「着慣れんな」
「素敵ですよ」
「そうかね? シオンはよく似合うな」
「ありがとうございます」
メニューは地球産の食材と、宇宙コロニーならではの技術を融合させたコース料理だ。新鮮なロブスターやステーキと、トリュフを添えた魚のグリル。ステーキはナイフがスッと入る柔らかさだ。こういう高級な味も悪くない。
「全部うまいな」
「とてもおいしいです。味が何回も変わって、会場の雰囲気も素敵です」
デザートは、シオンの大好きなベリーを使ったタルトと、チョコレートムース。シオンはスプーンを手に、幸せそうに一口ずつ味わう。俺は夜景を見ながらグラスを傾ける。
「いい思い出になったよエリザ」
「私も今日一日、本当に楽しかったです。こんな素敵な思い出、ずっと忘れません」
こうして1日満喫して部屋に帰る。窮屈な服はさっさと脱いでパジャマに着替えた。テレビではこのコロニーのニュースと、ネクサスの一件が報道されていた。
「まだニュースになってんのか」
「それだけの愚行だったということですね。検索しましたが、地球連合軍への非難の声が、各地のコロニーで吹き上がっています。もうしばらく報道されるでしょう」
「ハヤテ様がいなければどうなっていたか……素晴らしいご活躍です」
「俺は俺の目的を果たしただけだ」
逆にウィルダネスのことは一切報道されていない。完全に闇に葬られたのだろう。あんなもん表舞台に出すべきじゃないしな。
「ハヤテ様、あれはなんでしょう?」
窓の外には、長方形の空飛ぶ車が走っていた。旅行中にも数回見たはずだ。
「あれは治安維持部隊のみが使用できる特別車両です。混雑を避けるため、一般人の利用は禁止されています」
「なるほど、しっかり仕事しているわけだ」
車からパワードスーツを来た連中が飛び降りている。地面は見えないが結構な高さから飛び降りているように見える。
「足にジェットでもついてんのか?」
「正解です。ついでに言えばサイボーグ部隊なので、強化骨格でしょう。あの程度の高さならば問題ありません」
「そうか、サイボーグとかいるのか」
「あまり一般に流通している技術ではありません。人体を機械化することへの忌避感もありますから、このコロニー限定で発達したものですね」
特別な治安維持部隊のみが人体を改造しているらしい。コスモクラフトのパイロットも兼ねているんだとか。
「強化スーツのままコクピットに乗ることで、ダイレクトに自分をロボットに接続できる効果もあります」
「どんな副作用があるかわかったもんじゃないな」
話しているうちに車は飛び去っていった。任務を終えたのだろう。迅速だな。
「まあいいさ。厄介事に首さえ突っ込まなけりゃ、あいつらと戦うことはない」
「そうですね。ゆっくりとリゾートを楽しみましょう」
「そうそう、それが目的だ。こんな所まで来て殺し合いなんぞしても意味がない」
無駄なことは考えず、リラックスしていこう。大理石の豪華な風呂に入り、ふかふかのでかいベッドに横になる。
「明日はビーチだな」
「はい、きっと楽しい思い出になります」
「そうしてみせるさ。おやすみ」
シオンと並んで目を閉じた。明日も最高の思い出を始めよう。




